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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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雨夜-レイニーナイト-part1/盗まれたウルトラゼロアイ

サイトにとって演劇とは、ハルケギニアの存在ほど遠い存在ではなかったが、それでも違う世界のことのように思える。時々演劇部の活動をちらっと見る程度のものだった。ルイズたちにもいえることだが、まさか自分がやることになるとは思いもしなかった。
当日から血の出るような特訓が始まった。歩き方の練習に発音練習。それらを行う際、当然のようにルイズたちからの文句が飛び交った。
「なんで大げさに身振り手振りをしないといけないの!」
ルイズたち学院の生徒たちは、魔法学院の制服ではなく、動きやすい稽古用の服に着替えて稽古に参加していた。
「ルイズ、落ち着いて。この会場って広いじゃない?そのせいで遠くのお客さんには見え辛いの。だからわざと大げさに手振り身振りをして、遠くの人たちにも見えるようにしないといけないの。舞台衣装も化粧も派手なのも同じなの」
だが、今回演劇に参加するのはサイトたちだけじゃない。サイトたちが参加する前にウェザリーの頼みでスカロンが連れて来た妖精さんたちも参加しており、稽古の意味に疑問を抱いたり躓いたりしたメンバーにアドバイスをよこしてくれた。ちなみに今、アドバイスをくれたのは、スカロンの娘でもあるジェシカである。
「やけに詳しいのね。ジェシカ、あなたもあくまで協力者なんでしょ?」
「劇を見たことがないわけじゃないし、この手の仕事を生業としてる人とも縁があるから、自然と詳しくなっただけよ」
「そうねぇ…確かに小さいと遠めではわからないわね、ルイズ」
「キュルケ!ど、どこを見て言ってるの!!」
ルイズの稽古着の下に広がる平原を、馬鹿にするように見ながら見下ろすキュルケに、ルイズは食って掛かる勢いで喚いた。
「ほら喧嘩しない!あたしが教えてあげるから、練習練習!」
一触即発になりかける二人を見かね、ジェシカは両手を叩いて落ち着くように呼びかけた。
「な、なんで平民なんかのために…」
「ま、全くだ…」
マリコルヌとギーシュが膝を突いてかなり疲れきった様子を露にしている。特にマリコルヌは体格の関係でかなり汗びっしょりだ。あれだけモテモテになろう、だなんて意気込んでいたくせに、ウェザリーの厳しい稽古ですっかりモチベーションが下がったらしい。
「おやおや、せっかく女の子と触れ合う機会なのにも根を上げるのかい?」
そんな彼らを見かね、どこか挑発しているようにも聞こえる台詞をはくジュリオ。マリコルヌとギーシュは顔を上げてジロッと、目の前の憎たらしいイケメンを睨む。
「ねぇねぇ!あなた、稽古の方は大丈夫?」
そのジュリオの周囲には、魅惑の妖精亭の妖精さんたちが集まっている。彼の美貌に、流石の彼女たちもイチコロになった者が続出している。稽古に付き合うという名目でお近づきになりたいとでも考えているのだろう。
「あぁ、そのことなんだけど、ちょっと今困ってるんだ。何せ舞台の上に立つなんて初めてだからね。教えてもらえるかな?」
「…はい…」
少女の一人の顎を掴み、じっと目を合わせるジュリオの甘い言葉と眼差しに当てられ、妖精さんの一人は陥落してしまう。
「あぁ!ずるいよ!あたしも彼に指導してあげたいのにぃ!!」
「あぁ、魅惑の妖精亭の妖精さんって、スカロンさんの言っていた通り素敵な子達だらけじゃないか。今度暇をつれたら是非行かなくっちゃな!」
「是非来てくださいね!みんなでおもてなししちゃいますから!」
「ちょっとぉジュリオ!この微熱のキュルケも忘れないでもらえるかしら?」
他の女子たちもそれを見て我こそはとジュリオと稽古したいと名乗り出るようになる。無論、男相手に燃え上がりやすいキュルケも貴族という立場もかなぐり捨ててしまいかねないほどの勢いで参加するのだった。
「ぐぅぅ…負けられん!あんなロマリアの色ボケ神官なんかに負けられるか!行くぞマリコルヌ!彼女たちに僕らの魅力に気づいてもらうぞ!」
「了解!うおおおおお!!」
嫉妬心が動機とはいえ、二人は稽古へのモチベーションを取り戻し、励んでいくのだった。しかし突っ込みたくなった人もいるだろう。『色惚けた男』という点では、ギーシュも似たようなものであると…。
「じ、ジュリオさんすごい人気だね…」
女の子たちに囲まれるジュリオに、ハルナは傍にいるサイトにそう呟く。
「んなにいいのかよ、あんなキザ野郎が」
サイトもあの男がモテモテであるのが、奴自身のキャラの怪しさもあって気に食わないままだった。ゴモラを操り、サイトの正体さえも見破りながら見逃した男。…もっとも、サイトからすればそれらを差し引いても気に入らない奴だった。
「どっかの犬よりはね。そんなにモテたいわけ?」
モテたい男の気持ちなんて理解できるともしたいとも思わないルイズは冷たい視線を向ける。
「…別に。お前こそあいつが気になってんじゃねえの?」
「な、なななんでそうなるよ!?」
逆に言い返されたルイズはうろたえる。やはりイケメンには体勢がないのだ。
「うーん、確かにジュリオさんはかっこいいと思うな…」
(やっぱりハルナもそうなのか…)
ルイズに続いてハルナもそう思っている。サイトは心なしか、二人があのキザ野郎に目を奪われていると思い、傷ついた。ルイズもジュリオに相手にされたときは何かとドギマギした様子で顔を赤くしていたくらいだし、ハルナがそうなってもおかしくない。なんか男としてジュリオに対する妬みの気持ちが嫌というほどこみ上げてくる。
「でも…私はただかっこいいだけの人よりも………平賀君の方が…」
しかし、ハルナは小さい声で、ちらっとサイトの方を見ながら何か呟きだした。
「え?なんか言った?」
「う、ううん!!なんでもないの!!さ、さぁ!稽古を続けよう!?ね?」
「あ…うん…」
ハルナが急に慌てた様子を見せて、稽古に戻っていった。去り際の横顔が熱でもあるかのように赤かったのは気のせいだろうか。
(やっぱ女の子ってああいうのがいいのかなぁ…ゼロ)
『俺に聞くなっての』
去り際の彼女の赤面顔が、まさかジュリオよりサイトの方がいいと口にしたことへの気恥ずかしさであることに、鈍感なサイトとゼロは気づくことはなかった。
そして、ルイズがサイトの後ろを見て、『馬鹿犬』…と小さい声で呟きながら嫉妬を孕んだ顔を浮かべていた。


しばらくの稽古の後、休憩時間に差し掛かる時間となった。
「では、休憩に入る前に、舞台の演目についてのおさらいをしておくわね」
みんなが集まったところで、ウェザリーの口から今回の舞台の演目についての話が始まった。

今回の演目は『双月天女』。
ある日、国内の権力争いで一人の王家の血を引く少女が、忠臣の手で密かに敵国の領内へと逃がされた。その少女はそのときのショックで記憶を失い、路頭に迷うも、その領内の老貴族夫婦に拾われる。夫婦には子供が居なかったため、彼女は…ノエルは本当の娘のようにかわいがられ、10年の月日が流れた。
そんなノエルだが、毎晩空に浮かぶ二つの月を見てため息をつき始めた。自分に関われば不幸が降りかかる。失った記憶を取り戻したノエルは、求婚者たちに無理難題を言って求婚を断り続けた。そして噂を聞きつけた賢君ケイン王子との出会いをきっかけに、物語は悲劇の終末へと一直線に向かうこととなる。
ケイン王子と、元は敵国の王族の隠し子であるノエル。その二人が恋に落ちてしまった。
二人の恋がケイン王子の求婚にまで進展した頃、ノエルの故郷である敵国で疫病が発生、王族が全て倒れるという事件が発生した。後継者がどこかにいないかを捜索したところ、ノエルを見つけた敵国はノエルを引き渡すように要求する。また臣下や国王たちも、ノエルと王子の結婚を認めなかった。
ケイン王子と王国は頑なにノエルの返還を拒み続けた。王国としては、人質として利用できるノエル、ケインにとってノエルは愛する人。どちらにせよ渡せるものじゃなかった。怒った敵国は遂に蜂起し、ノエルを取り戻すべく国に攻めてきた。
圧倒的軍事力を持つ敵国を前に、ケインの国は成すすべなく、ついに王城も落とされてしまう。
殺到する敵兵を食い止めながら、王国への謳歌を歌いながら騎士たちは死んでいった。
戦いで傷ついたケインはノエルをつれて城の一番高い塔へ登った。そこで最期にケインは城から出てノエルに生き延びるように言う。
しかし、ノエルはそれを拒んだ。そして、今まで答え切れなかった、ケインへの想いを告げる。
いつかどこかで、今度こそ結ばれることを夢見ながら…

二人は塔から身を投げてしまう……

二人が落ちた場所には、後に美しい白い花が二つ咲くようになった。


いわゆる、バッドエンドものだ。
(改めて思うけど、こんなのやっぱり不謹慎だわ…)
ルイズはこの話そのものは決して悪いものだとは思わないが、貴族たちの視点から見てあまりよい印象を与えられるものだとは思わなかった。
「さて、配役だけど…サイト、あなたには今回の演目の主人公であるノエルの相手…ケイン王子の役を任せるわ」
「え!?」
主人公の恋人役、それほどの大役を任されたことにサイトは耳を疑った。
「す、すごい!平賀君が王子役だなんて!」
「やるじゃないサイト。ま、私の使い魔なんだから当然ね」
ハルナは驚きと夜転びを混じらせ、ルイズは誇らしげだ。…使い魔は関係ないが。
「な、なぜサイトなんだい!?僕という逸材がいるだろうに!」
ギーシュはというと、自分こそがと思っていたらしいので、サイト本人に不満があるわけではないが、自分が選ばれなかったことが信じられないようだ。
「…君はいらない動きが目立ちすぎなんだよ」
「言えてる。ギーシュって露骨に目立とうとしてるじゃないか」
しかしその選択は当然だと、レイナールが後ろから声をかけてくる。マリコルヌまで同意した。彼の言うとおり、ギーシュは無駄に大げさでキザな動きをとったり、台本の台詞よりも明らかにくさ過ぎる台詞に変えている姿が度々見られていたのである。二人の友から言葉で滅多打ちにされたギーシュは肩を落とした。
「どうせ僕なんて…」
「ま、まぁまぁ…」
流石に不憫だったのか、モンモランシーはギーシュを慰めるのだった。しかし彼女も、彼が寧ろケイン王子役でなくてよかったと思った。本番でも練習のときと同じ、あの動きをされては見ている側が恥ずかしすぎると思っていた。
「え~、私はジュリオ様が選ばれると思ってたのに」
「そうよ、あんなにかっこいいのに…」
妖精亭の妖精さんの一人はギーシュの主張は愚か、存在を無視して、一番の美男子であるジュリオが選ばれると考えていた。しかし、そんな彼女たちの意見をウェザリーは一蹴した。
「顔だけで全てを判断するのは人間として見る目がないことと同じよ。私はサイトの中に、物語の主人公としての強い素質を感じたからこそ彼を選んだの」
「そうだね、僕もサイト君の一件見ただけでは感じられない、男としての魅力に寧ろあこがれさえ感じるよ」
一方でジュリオは自分ではなくサイトが選ばれたことに不満はなく、寧ろ満悦そうだ。どの口が言いやがる…とサイトは心の中でジュリオに毒ついた。
「サイトちゃん、ウェザリーちゃんの人を見る目は本物よん。それほどの彼女があなたを選んだということは、それだけの価値があなたにあるということ。自信を持つのよん」
「パパの言う通りよ。サイト、選ばれたんだからしゃんとしないと。あたしもこう見えて、あんたを見込んでるんだからね」
スカロンとジェシカも励ましの言葉を送る。
「そ、そうは言われても…」
しかし、サイトはこうも思った。自分に主人公としての素質?あるとは思えなかった。ましてや素人である自分からそれを感じるなんて、芝居を本業としているウェザリーがそんなアバウトさを感じる選択をするのだろうか。
「じゃあ、ヒロインのノエル王女の役は?あたしかしら?」
「あんたであってたまるもんですか。当然私に決まってるでしょ」
主役がサイトならばこの席を譲れない。キュルケが真っ先に自分がヒロインにふさわしいことを遠まわしに言ったが、ルイズがそれに反発して自分だと主張する。
「ノエル王女のことなんだけど…ハルナ、あなたよ」
「え、ええええ!!?私ですか!?」
それは彼女にとって、まさかの名指しだった。自分が選ばれるとは思わなかったハルナは思わず声を上げてしまう。
「ハルナがヒロインですって!?」
ルイズは驚きを露わにする。自分も以前の魅惑の妖精亭で培ってきた経験をもとに頑張ったから、自分が選ばれる自信がある方だった。
「え~、せっかくヒロインを射止めて、ルイズに地団駄を踏ませようと思ってたのに」
キュルケは選ばれたなかったことに対して残念そうにしている。自分が選ばれたなら、その分だけルイズをからかってやれたのだが。
「でも、ハルナで大丈夫なの?」
モンモランシーが心配の念を口にすると、ハルナはかなり緊張しきっていた。
「私がヒロイン…私がヒロイン…」
きっと失敗したらどうしようという悪い予感を募らせていることだろう。
「心配…」とタバサがハルナを見てようやく口を開いた。しかしウェザリーは言った。
「不安に思っているみたいだけどハルナはよく頑張ってくれたわ。その一生懸命さを糧にヒロインとしての立ち振る舞いが、私のインスピレーションをうまくマッチしていたからね」
「そうだね。彼女はよく頑張っていたよ」
ジュリオも素直にハルナのヒロイン抜擢を祝福している。
「まぁ、頑張っている理由は一つしか思い当たらないけどね」
彼の付け加えてきた一言に、全員が「あ~」と声を漏らして納得した。それを聞いたハルナは「え、え?」と、周囲の皆の顔を見る。なんか悟ったような穏やかな顔にも見える。自分がノエルのポジションに立てるようにっ頑張った理由をみんなが察していたのだと気づき、少し顔が赤くなって俯いた。サイトはその意図を全くくみ取れておらず、首をかしげている。
「せっかくだから私がやろうと思ったのに…」
頑張ったのにヒロインに選ばれなかったことについてルイズは密かにブー垂れていた。当初貴族のプライドを理由に舞台に立つことを渋っていたのだが、だからこそその分だけ稽古に力を入れていた。
「大丈夫さ。現実と舞台は別物さ。サイト君を振り向かせたいのなら現実で頑張ればいいさ」
そんな彼女を見かね、ジュリオがこそっと、ルイズの耳元でささやく。明らかにからかっている。それを聞いてルイズは顔をボッと赤くする。
「な、なななな何言ってるのよあなたは!?」
わかりやすいその態度に、ジュリオだけでなく、他の皆もルイズの気持ちを察してくすくすと笑った。キュルケも当然加わっており、ものすごく恥ずかしい思いをさせられたルイズだった。
(ハルナが、俺の相手役になるのか…)
一方で、サイトはノエル役の候補に選ばれたハルナを見る。
『よかったんじゃねえか?』
『な、なんでだよ…ゼロ』
急にゼロが脳内でサイトに話しかけてくる。
『ん?なんだ、ルイズの方がよかったか?』
『だから何を言い出してんだよ。意味わかんねぇぞ』
話のタイミングとその内容からして、なんだか茶化してきているような気がした。
しかし最後にウェザリーは全員に警告するように呼びかける。
「けど、当日になって体調不良になる場合もあるから、各配役には別の候補を立てるつもりよ。後半から登場するケイン王子もだけど、それ以上に物語の主役であるノエルは外せないからね。
では各自、稽古を怠らないように。解散」
なるほど、万が一役者に何かしらの支障が起きた場合に備えて、予備の役者も立てる魂胆のようだ。


仲間たちが一旦舞台から降りたところで、サイトの下にレイナールが近づいてきた。
「なあ、サイト…だったかい?」
「あ、ああ…お前は確か、レイナールって言ってたな?」
「そうだ。覚えててくれたのか。まぁそれはそうと…」
「どうしたんだよ?」
「いや、どうしたんだよって…僕たち、いつまでここにいればいいんだ?」
「それは、数日後の舞台の本番までだろ?」
「それはいいとして、本来僕らが女王陛下から黒いウルトラマンについての情報を集めなくちゃいけないだろ。なのに、皆芝居のことで頭一杯だから、趣旨が変わってないか不安なんだ」
レイナールとしては、本来の路線から外れた物としか思えない、今回の舞台に立つという行為は、途中で女王からの任務を放棄した物としか思えず、同時に仲間たちが稽古に励みすぎていることに関して不安を募らせていたのだ。
「それはないと思うけどな…。ルイズに関しては特にそうだし」
だが、あのルイズがアンリエッタからの依頼を忘れているとは思えない。ずっと一緒だったサイトにはそれが分かる。
「それはよかったんだけど…」
いいのだろうか…そんな不安を募らせていくレイナールであった。
「む…?そこにいるはサイトか?」
「え?」
サイトは急に名前を呼ばれ、後ろを振り返る。できれば今の…芝居稽古の練習直後というタイミングでは会いたくなかった人物がそこにいた。
「み、ミシェルさん!?」
よりによって、銃士隊の副長でもある女性、ミシェルだった。


現在からしばらく前…サイトたちがウェザリーの劇場で尾鷲になることが決まったと同時刻の頃…。
「獅子身中の虫とはまさにこのことですね」
城の執務室にて、アニエスから数枚の束となった報告書を見たアンリエッタは苦い顔を浮かべていた。
そこに書き込まれていた情報は、アニエスがアンリエッタによって登用されてから今まで集めてきた、トリステイン貴族でありながら自らのふるさとを己の権力と財産で食い潰している者たちの悪行をまとめたものだった。その中には、アンリエッタ自身もできれば信じたくない情報が山ほどもあった。また、他にも先日のボーグ・ゴドラ・ケムールの三星人たちが行っていた、奴隷・モルモット入手目的の誘拐事件の、取引先となっている貴族や星人たちの情報もある。それが実際の数と比べてどの程度なのかは分からないが、明かされた分だけはなんとしても解決しておかなければならない。
「早速逮捕し、お裁きになりますか?」
目の前でひざまづいているアニエスは顔を上げてアンリエッタにどうするかを問うと、彼女は窓ガラスからトリスタニアの景色を見ながら答える。
「いえ、情報を提示しただけでは、『彼』は己の権力で罪を軽くするだけのアリバイを捏造することも考えられます。この手の相手を確実に裁くには、やはり例の計画を進めましょう」
「しかし、それでは陛下の御身に万が一のことがございます!」
どうもアンリエッタが考えた計画というものは、発案者である彼女自身が身の危険にさらされることを前提としたもののようだ。自分の主がそうなってしまうのは、臣下としてはとめなければならないと思い、アニエスはやめるべきだと申告する。
「私はここで倒れるつもりはありません。いつか、あの人が私の元に帰ってくるその日までは決して…。それに、私自身も命をかけてこの国を正しくあるべき方へ立て直さねばなりません。
それが、愚かな私を救ってくれたウルトラマンたちへの、償いと恩返しなのです」
だが、振り返ったアンリエッタの目は、強い決断力に満ちたものだった。
「アニエス、これは私とあなただけの秘密です。無論、あなたの片腕である彼女にも」
「…わかっています。すでにあいつが何者だったのか、調べをつけておきましたので。隠蔽されていた痕跡がありましたので、少し手間取ってしまいましたが」
「まさか、そのようなところまであの者の手が伸びていたとは…いえ、アルビオンから怪獣を購入した徴税官の、裏取引の中継役を担うような男です。隠蔽工作も奴の常套手段…」
「ええ…」
その『男』への怒りからなのか、アニエスはひざまづいたまま拳を握っていた。憎悪の炎を必死で抑えているかのように。
すると、ここで二人の耳に、コンコン、とドアを叩く音が聞こえてきた。
「あら、ついに来てくれたようですわ。ではアニエス、例の彼を…」
「はっ」



「ちょっとサイト!何時まで寝てるの!?」
「平賀君、起きて」
「うぅん…」
ルイズとハルナに体をゆすられ、サイトは目を覚ました。
「ん、あれ…?ルイズ、ハルナ?」
サイトは体を起こした二人を見る。ルイズはサイトに対して膨れっ面を見せている。休みすぎたサイトがだらしなく見えたのが嫌だったのだ。
「もう、いつまで寝ぼけてるの。もう今日の稽古は終わったわよ」
「すごくぐっすり眠ってたけど、大丈夫?疲れてた?」
「あ、うん。そうみたいだ。ごめん、二人とも」
頭の後ろを書きながら、サイトは二人に謝った。
「もういいよ。そろそろ宿に戻って今日は休もうよ」
「そうね。二人とも、一度戻りましょう」
稽古の時間が終わった以上、この場に留まる理由はない。サイトたちは劇場を後にすることにした。ルイズたち女性陣が女子用の更衣室に戻り、サイトも男子更衣室へ荷物を取りに向かう。
「サイト君。ずいぶん長い休憩だったけど、もしかしてサボっていたのかい?」
更衣室で着替えていると、ジュリオがいつものような笑みを向けながらサイトを冷やかしてきた。この男に爽やかな笑顔でサボっていたのか?なんて言われ、サイトはムッとする。
「疲れて寝ていただけだよ。サボりたかったわけじゃねぇっての」
「おいおい、しっかりしてくれよ。僕たちだって慣れないことで大分疲れていたんだぞ」
ギーシュも休みすぎたサイトにやれやれと言った様子で呆れた。
「ごめん…」
他にもマリコルヌやレイナールからもなじられ、サイトは今後このようなことがないように気をつけることにした。
『劇か、思ってみれば、光の国じゃ見かけない類だな』
着替え中、ゼロはサイトの中で思い起こしながら呟いた。
『そうなのか?』
サイトが意外に思う。光の国の娯楽がどんなものかは知らないが、いざ聞いてみると意外なことに聞こえてしまう。
『最も、俺自身劇に興味なんてなかったからな。故郷に居た頃は、ただ強くなることしか頭になかった』
親を知らず、一人ぼっちだったあの頃。強くなってみんなから認めてもらうために、自分の有り余る才能を暴走させていた。そんなことばかり続けていたから、あまり楽しい思い出が自分の中になかったことに気づかされたのだ。
『でも、悪くないきっかけかもな。今まで娯楽に触れたことなんてなかったからな』
『そっか、なら俺を通して体感してみろよ。きっと楽しいと思うぜ』
同じ体を共有する仲間が、人間の娯楽に興味を持ってくれているというのはなんだか嬉しいものだ。サイトは是非やってみてくれと勧めた。
『いざとなったら、お前の体を借りて参加しちまうか?』
『それはできれば勘弁してくれ…』
しかし体の自由だけはあまり譲りたくないので、その辺りは勘弁した。
(ん…あれ?)
ふと、最後にいつも羽織っているパーカーを手に取ったところで、サイトは何か妙な違和感を覚えた。いつもはそこにあるはずのものがそこにはいない、奇妙な喪失感を覚えた。
その意味を、すぐに理解した。
パーカーの内側の胸ポケットを上から手で当ててみるサイト。
「!!!?」


ない……



ウルトラゼロアイがない!!?


 
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