ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第二十四話 おれの名は―――
現在の時刻は正午。日が高く昇り、陽光がまぶしく世界を照らしている。そんな中、ソレイユは広大な自然フィールドにある森の中を疾風の如き速さで駆けていた。その途中で出くわすMobや定冠詞のついたボス級のMobもいたが、このフィールドで戦いなれているソレイユが今更後れを取るわけでもなく、危なげなくエンカウントしたMobたちは屠らえれていく。
そんなこんなで駆けていると、目的の場所が見えてきたこの広大な自然フィールド内で唯一と言ってもいい人工物である威厳に満ちている、天高く聳え立つ古塔だ。明確な集合場所は決めていなかったが、それでもシリウスとベガが入り口と思われる扉の前で待っているだろう、と勝手に予想し、そこに向かっていく。案の定、二人は扉の前で待っていた。
「おっ、やっと来たか」
「私たちもさっき来たばかりでしょ」
ソレイユの姿を見たシリウスが長い時間待っていたかのような口調で言うが、ベガによってそれが台無しにされる。
「悪いな、準備運動を少し過剰にやりすぎた」
「大丈夫よ。時間的にはぴったりだから・・・。それよりも、今回はそれでいくのかしら?」
「ああ、そのつもりだよ」
ベガの言うそれとはソレイユの腰に差さっている二刀の刀のことであった。片や長刀、片や刀。間合いの違う武器を携えている。しかし、ベガが疑問に思っているのはそこではない。かつてのソレイユとシリウスの決闘を見てたので、ソレイユの本気の剣術がどのようなものなのかを知っているからである。
「ソードスキルを使わないつもり?」
通常、両手に武器を持ってソードスキルを発動しようとすると、イレギュラー装備状態とみなされソードスキルが発動しなくなる。例外がキリトのユニークスキル≪二刀流≫であり、そのスキルを持たないソレイユはソードスキルが使えない、というのがベガの考えであった。それに対してソレイユは気にする様子もなくさらっとした口調で意外な真実を暴露した。
「いや、≪剣聖≫スキルの恩恵でさ、両手に武器を装備していてもイレギュラー次装備状態とはみなされないらしいんだよ。だから、ソードスキルの発動は問題なくできるよ」
「・・・ずいぶん万能ね、≪剣聖≫って。なら何で今まで一刀しか装備してなかったのよ?」
「文句なら製作者に言ってくれ・・・。それはあれだ、なんとなく」
「ふぅ~ん」
≪剣聖≫スキルの性能を聞いて、その内容に呆れるようにぼやくベガ。そのぼやきを聞いたソレイユは肩を竦めながら言い、ベガの問いには言葉を濁す。しかし、ソレイユと付き合いが長いベガはそのことに何かしらの意味があると考えていた。
「まっ、ソレイユも本気ってことだな。それより、準備はいいか?」
「ええ」
「ああ」
気を取り直すようなシリウスの言葉に頷くベガとソレイユ。それを聞いたシリウスは一度頷くと扉に向きなおり、押し開ける。扉をくぐり、中に入っていくとお約束のごとく背後で扉がゆっくりと閉じていく。
中を見渡すと、円状のフロアから壁に沿って螺旋階段が上に向かって続いている。吹き抜けている中央部分から上を見上げると、所々にある小窓から日差しが差しているのがわかるが、あまりにも高いのでどこまで続いているのかわからない。
「・・・・・これ、一体何段あるんだ?」
「数えてみれば?」
「・・・いや、遠慮しとく」
そんな馬鹿なやり取りをしながら三人は階段を登っていく。
◆
螺旋階段を上がっている途中にMobとエンカウントすることはなく、特に問題もなく進んでいた。
しかし、三人はぐたりした様子で階段を登っている。
「なぁ、あとどれくらいだ?」
「おれに聞くな。わかるわけないだろ」
「ベガは?」
「ソレイユに同意」
「・・・・・だよなぁ」
そんなやり取りをしている最中でも足は止めずに登っていくが、シリウスの雰囲気がさらに下がった。その気持ちはわからなくもないソレイユとベガだが、あからさまに雰囲気を下げられると精神的に来るものがある。そんな雰囲気をどうにかするためにソレイユはシリウスに向かって口を開いた。
「そんなに気になるんだったら、吹き抜けから上を見てみれば?」
ソレイユの言葉に頷き、吹き抜けた中央部分に身を乗り出して確認してみると、下からでは見えなかった螺旋階段の終わりがかすかにだが見えた。下を見てみると円状のフロアが点のように見える。
「だいたい三分の二まで登ってきたっぽいぜ・・・」
上と下を見比べて出した結論をソレイユとベガに伝える。それを聞いたソレイユは思わず気になっていたことを口から漏らした。
「・・・・・製作者の、意図は、なんだ?」
「「・・・さぁ?」」
◆
約一時間後、全体でおよそ二時間半もかけて登ってきた螺旋階段は終わりを告げ、登りきった場所は入り口があった場所と同じように円状のフロアとなっていた。壁は古く所々ぼろぼろになっている。そんな中、ひときわ濃いプレッシャーを放っている重厚な扉があった。その扉は十メートルほどあり、レリーフらしきものが描かれていた。それは七つの頭と十本の角を持つ竜が十本の角と七つの頭を持つ獣に鉄の杖らしきものを与えているものだった。
「何の絵だ、これ?」
「さぁ、私にはわからないわ。ソレイユは?」
「・・・・・・・・・・・ん、ああ。これのことか?」
シリウスの疑問にベガが首を横に振りながら答える。話を回されたソレイユは絵に描かれている赤い竜を鋭い視線で睨みつけていたが、ベガから話が回されると睨めつけるのをやめ絵の説明に入っていく。
「これはヨハネの黙示録に描かれている赤い竜と獣だ。割と有名だと思うんだがな、黙示録の赤い竜は」
「すまん、全然知らん」
「右に同じ」
首を横に振るシリウスとベガ。そんな二人を見てソレイユは一つの疑問を投げかけてみた。
「説明した方がいいか?」
今度は首を縦に振って返答する二人。そんな返答を受けたソレイユは重厚な扉を見上げながらレリーフに描かれている絵について語り始めた。
「有名な『ヨハネの黙示録』。その中の十二章及び十三章に記されている竜なんだ。この竜と隣の獣が象徴するのはキリスト教を迫害するローマとローマ軍だ。「十本の角と七つの頭がある獣」は七つの丘や七人のローマ皇帝を指しているんだ。因みにいえば、七つの丘とはローマの七丘と呼ばれるあれだ。ローマ皇帝の話しはあとで自分で調べてくれ。説明がめんどくさい」
一度言葉を区切るソレイユ。一息つくと再び話し始める。
「黙示文学っていうのは実際に起きたことを示すのではなく、あくまで象徴としてカモフラージュして取り上げる文学のことを言うんだ。当時のキリスト教は迫害され、地下墳地で教会活動を行っていた。表だってローマ皇帝への批判などできるはずもなかった。豆知識として言っとけば、サタンとはローマやローマ皇帝のことを指しているんだ。黙示録とは・・・」
「ちょっと待って」
「ん?どうした?」
ソレイユが説明を続けようとしたとき、ベガが待ったをかけた。何事かといったようにソレイユはベガの方を振り向いた。
「そのサタンってどこから出てきたのよ?説明を聞いている限りじゃ出てきてないわよ?」
「・・・・・ああ、すまん。忘れてた」
少し考えた後、思い出したかのように言うソレイユにベガは溜息をつくと、説明するように促す。
「説明、してもらえるかしら」
「ああ、もちろん。なぜ、サタンと言われているのか。それは黙示録の赤い竜の英名が関係してある。この英名とは、Great red dragon that old serpent , called the Devil , and Satanっていうものなんだ。では、なぜそう呼ばれているのか。それはエデンの園の蛇の化身であり、サタンが竜になった姿であり、サタンの化身とも言われている姿だからだ。有名だろ?エデンの園で善悪を知る知識の木の実、それを蛇にそそのかされて食べてしまうイヴの話は。その時に、蛇の後ろには悪魔がいる、とされたんだ」
「「なるほど」」
「続けるぞ。黙示録とは読むべき人が読めば理解できるように記されている。代表的なものがゲマトリアで記された獣の数字である666。これの説明はめんどくさいから、また今度化自分で調べてくれ。
「七つの頭と十本の角を持つ赤い竜」と「十本の角と七つの頭を持つ獣」は紛らわしいが言ってることは一緒なんだ。同じ頭数で同じ本数だからな。象徴する意味も一緒だ。ただし、赤い竜とはエデンの園で禁断の果実を食べさせるようそそのかしたサタンであるとしたことから、邪悪そのものといったほうがいいかもしれん。そして、その邪悪そのものから権威と支配を「鉄の杖」でもって獣、すなわちローマ帝国に与えられたんだ。鉄の杖とは世界を支配する象徴であり予言の象徴でもある。故に、偽預言者という記述がこれ以降に登場することとなる。偽預言者とは獣、つまるところローマ皇帝を指している。わかったか?」
「「まぁ、大体は・・・」」
頷くシリウスとベガ。しかし、ふとベガが気になったことを呟いていた。
「なら、すべての竜は邪悪な存在ってことかしら?」
「いいところに気が付いたな。実はそうではない。竜、すなわちサタン側はミカエルとその使いたちが挑んだ戦いによって敗れた。そして、その使いたちとともに地上に投げ落とされるんだ。古き悪しき蛇とはエデンの園でそそのかした蛇のことである、という記述があるため、西洋世界ではドラゴンを邪悪な化身にしてしまいがちになってしまったんだ。神話でよく書かれるだろ、竜と勇者の戦い。大概の竜は邪悪と考えられた。だが、だからと言って、すべてのドラゴンがサタンや悪魔という訳ではない。あくまで黙示録の竜はサタンが化けたにすぎないということであり、この竜=ローマが失楽園の蛇と結び付けられたんだ」
「つまり、良い竜もいるってことか?」
「大半は語り継がれてないだろうけど、その代表的な竜は中国の四神かな。あれは守り神として祭られているからな。まぁ、地方によって語り継がれるものは違うということさ。で、どうするんだ?」
「何が?」
「行くのかいかないのか、ってこと」
「そんなの決まってんだろ」
「まっ、だろうな」
そういってシリウスが右側(獣が描かれている)の扉に手をかけ、ソレイユが左側(赤い竜が描かれている)の扉に手をかける。一度顔を見合わせ頷くと、扉を開いていく。
その扉をくぐると、そこは塔の頂上と思われるところだった。何もなく、ただ塔の古い床があるのみ。天井も壁も何もない。唯一の扉はいつの間にか消えていた。周りを見ても何もなく、変化があるとすれば、快晴だった空がドス黒い雲に覆われているということだった。
不意にその雲を見上げながらソレイユが誰に対してわからないが呟いた。
「さっきも言った通り、黙示録っていうのは読むべき人が読めば理解できるように記されている、と。なるほど、そう言うことか」
「「・・・・・?」」
ソレイユの呟きを聞いたシリウスとベガだが、言っている意味が解らなかった。そんな二人に意味を説明しようとしたとき、辺り一帯に誰かの言葉が響いた。聞き覚えのない声が突然響いてきたため臨戦態勢になって周りの気配を探るシリウスとベガ。そんな二人をよそにソレイユは空を見上げた。
その時、空に変化が訪れた。
“また、別のしるしが空に現れた”
その声の意味を再現するかのように空に謎の光の球体らしきものが現れた。
“見よ、火のように大きな赤い竜である”
その球体は徐々に竜の形に変化していく。
“七つの頭と十本の角があり、その頭には”
竜らしきものの体から七つの頭が生え、そこから角が十本のびていく。
“七つの冠をかぶっていた”
そして、仕上げと言わんばかりに七つの頭に冠が出現する。
扉のレリーフに描かれていた絵と同じ姿の赤い竜は空に出現したと同時に七つある口からとんでもない音量の咆哮をあげた。もはや、声とは言えず一種の衝撃波だった。必死に踏ん張るソレイユとベガとシリウス。そんな三人のもとへ赤い竜が下りてきた。塔を揺らしながら着地する。空にいるときはわからなかったが、全長は百メートルほどあった。着地した竜は七つの頭にある十四の瞳でソレイユたちのことを見据える。並みのプレイヤーならば、それだけで萎縮してしまい戦うこともままならない。そんな威圧感を与えていた。
萎縮することはなかったシリウスとベガだが感じたことのない威圧感に襲われていた。目の前の竜にシリウスがカーソルを合わせてみるとそこには竜の名が示されていた。
≪The Apocalypse≫
アポカリプスと言う名の竜は威圧感を収めることなく未だに三人のことを見据えている。どうするか迷っているシリウスとベガ。そんな二人をよそにソレイユはアポカリプスに話しかけた。
「ずいぶんと久しぶりじゃないか、アポカリプス」
〝あの時の小僧か。大敗を決しておいて再び我の前に立ちはだかるとは、愚かなものだ〟
返答するアポカリプスに驚くシリウスとベガだが、思えば≪The Sky Blast≫や≪The Ground zero≫も独自に会話をしていたことを思い出す。おそらく自律思考型のAIだろうと勝手に結論づけ、ソレイユとアポカリプスのやり取りに目を向ける。
呆れたように言うアポカリプスだが、ソレイユは気にする様子もなく、かつて口にした言葉をアポカリプスに伝える。
「言ったはずだぞ。おれはもう一度お前の前に立ちはだかる、と。・・・なぁ、アポカリプス。おれの名は、覚えているか?」
〝ふん、弱き者の名など覚えているはずなかろう〟
ソレイユの問いに関してアポカリプスの返答はノーだった。それだけではなく、その返答の中には侮蔑ともいえる言葉が含まれていた。それに対してソレイユは憤慨することもなく、不敵に笑いながらアポカリプスへ挑発とも取れる言葉を投げかけていく。
「だろうな。なら、その覚えの悪い頭でも覚えられるようにもう一度名乗ってやるよ。ありがたくおもえよ、アポカリプス?」
〝・・・・・くっくっくっくっ、くははははははははは。おもしろい、面白すぎるぞ。ならば、名乗ってみろ!小僧っ!!!!!〟
七つの口で大笑いするアポカリプス。そのアポカリプスの言葉を受けたソレイユは再び不敵に笑いながら長刀と刀を抜き、長刀の切っ先をアポカリプスに突き付けながら高らかに、盛大に自分の名を叫んだ。
「今度は忘れるなよ!!俺の名はソレイユ!!!≪剣聖≫ソレイユだ!!!!」
後書き
フラグ回収(?)でいいのかな?
ソレイユ「さぁて、な・・・」
そんなことより、プロローグで出てきた赤い竜がやっとここで登場!
ソレイユ「あの時は手痛い思いをしたからな、リベンジマッチだ!」
いつになく燃えてるソレイユ君・・・はたして、次回はどうなるのか楽しみですね!
では、あんまり長々と書いてもあれ何で・・・これで失礼します
感想、ご意見などお待ちしております!
―――収録後―――
そういえばさ、ソレイユ・・・最近ちょっとしたアイデアを出してみたんだ。
ソレイユ「アイデア?」
そう、君ってさ・・・原作キャラとの接点がいまいちでしょ?
ソレイユ「まぁ、からかうとかそんくらいのことしかしないけど・・・」
そこで考えてみたんだ。原作キャラと接点を持たせるためにはどうしたらいいのかって。
ソレイユ「いやな予感しかしないが・・・その結論は?」
よくぞ聞いてくれた!その結論とは・・・原作キャラを含めたハーレムにしたらどうかと・・・
ソレイユ「・・・リクヤ君みたいに?」
いや、あそこまで多くしないでいいでしょ・・・あと一人くらいいれば・・・
ソレイユ「・・・ちなみにきくが、入れると言ったら誰を入れるんだ?」
うぅ~ん・・・第一候補としてはユウキかアルゴ。
ソレイユ「・・・・・・理由は?」
私のお気に入り原作キャラだから!(ドヤッ
まぁ、まだ実装すると決まったわけじゃないし、ただのアイデアの一つだよ。
だから、刀を抜きなさんなって!今、不死属性ついてないんだよ!!
ソレイユ「知るか」
ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?
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