ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第二十二話 悲しき別れと再会の予兆
悠然と歩くソレイユの姿を捉えた死神は、ターゲットをソレイユとして攻撃を開始していく。横薙を繰り出すために大きく振りかぶる死神の鎌には血のような赤いライトエフェクトが纏わりついている。しかし、そんなことお構いなしと言いたげにソレイユは死神が構えたと同時に地面を強く蹴り、死神との距離を詰めていく。死神の大鎌が薙ぎ払われるがソレイユには当たらず、死神は懐に入ることを許してしまう。
「・・・!」
「・・・・・」
最上位槍技 ≪ストライク・ファランクス≫
懐に入ったソレイユは蒼いライトエフェクトを刀に纏わせ、鋭い八連撃の突きを繰り出した。なすすべもなくその八連突きを食らう死神であったが、連撃がやむと即座に距離を取り体勢を立て直そうとする。しかし、そんなことをソレイユが許すはずもなかった。
「・・・・・!!」
「あまいなぁ」
死神に体勢を立て直す隙さえ与えずに瞬時に距離を詰める。体勢がたてなおってない死神は迎撃することもかなわず、再び懐に入られる。そこからは、ソレイユの最上位のソードスキルによる激しいインファイトが繰り広げられていく。
最上位片手剣技 ≪レイジング・インフェルノ≫
赤い斬撃の軌跡を描きながら四方八方から放たれる十二連撃のソードスキルは死神にクリティカルダメージを与えながら、そのHPを徐々に減らしていく。最後の一撃が決まると、ソレイユの刀は黄色のライトエフェクトを纏い、その最後の一撃からつなげられたソードスキルが、次なる連撃を放っていく。
最上位短剣技 ≪ライトニング・テンペスト≫
「・・・っ!!?」
休む暇もなく放たれた十連撃のソードスキルは本来、間合いが短い短剣のソードスキルである。しかし、ソレイユの刀は長刀と言えるほどの長さがあるので、そうやすやすと間合いから逃れることはできない。黄色の軌跡を描き、十連撃がやむと今度こそ、距離を置くために後退しようとするが、死神が動くより先に、次なるソードスキルが見舞われる。
最上位戦斧技 ≪グラウンド・スパイカー≫
「・・・っ!!」
緑色のライトエフェクトを纏いながら上段から振り下される刃は死神を切り伏せるとともに地面に叩きつける。そこへすかさず、追い打ちをかけるが如く刀を上段に構える。その刀には赤褐色のライトエフェクトを纏っている。
最上位鎚技 ≪グラビトン・クエイカー≫
「―――!!」
上段に構えていた刀を倒れている死神に向かって、叩きつけるように攻撃を放つと、叩きつけられた場所を中心にして、広範囲に地響きと衝撃が広がった。ダメージを食らいつつも立ち上がる死神だったが、目の前には紫色のライトエフェクトを纏った刀が迫っていた。
最上位大剣技 ≪ジェノサイド・パニッシャー≫
「っ!!?」
大剣から繰り出された五連撃は死神をノックバックさせながらダメージを与えていく。その連撃が終わりを告げると、もう好き勝手させまいと死神は大鎌を振りかぶり横薙に薙ぎ払うが、刃が当たる直前にソレイユは彗星のように光の尾を引きながら死神に向かって突っ込んでいく。
最上位細剣技 ≪フラッシング・ペネトレイター≫
「・・・っ!?」
「残念だったな」
刃が当たる前にソードスキルを発動し突進していったため、死神の刃はソレイユにあたることはなく空を切り、死神は≪フラッシング・ペネトレイター≫のダメージを食らってしまう。ソレイユは長い滑走を経ながら体制を整える。
死神のHPはイエローゾーンの中ほどにまで達し、このままいけば死神を倒せるのだが、そこへ一つの小さな影が歩いてきた。その陰の正体は、安全地帯にいるはずのユイだった。
ユイはソレイユの前に立つと、恐れなど微塵もない視線で死神をまっすぐ見据えている。
「・・・ユイ?」
「大丈夫だよ、にぃに」
ユイの行動を訝しげに見ているソレイユ。そんなソレイユに一声かけ前に立つと、ユイの体はふわりと宙に浮いた。
「・・・・・・・」
異様と言える光景にソレイユの後ろでアスナたちが驚いていたが、そんなことは無視してソレイユはユイの姿を冷静に驚くことなく見据えている。
死神は突然現れたユイにもユイが浮いていることにもお構いなしに、無情にもユイに向かって大鎌を振り下す。しかし、それがユイに届くことはなかった。紫の障壁がその攻撃を阻んだのだ。その障壁にはこう書かれていた。
【Immortal Object】
不死存在と書かれたその障壁は、通常のSAOプレイヤーにはないものである。その直後にさらにありえないことが起こった。ユイの右手から紅蓮の炎が巻き起こり、一本の剣を形作った。アスナが着せたであろう冬服も一瞬で燃え落ち、白い質疎なワンピースを着ていた。そして、自身の身の丈を超える大剣を死神に向かって一振りすると、その死神は断末魔のような叫びを上げながら、燃え散っていく。
「ユイ・・・ちゃん・・・」
掠れた声でユイの名前を呼ぶアスナ。先ほどの光景がいまだに信じられない様子であった。それはアスナだけではなく、ルナもキリトも同じような状態だった。しかし、ソレイユはほかの三人とは違い、動揺することなく驚くほど冷静な瞳でユイを見据えていた。
アスナの掠れた呼びかけに応じるようにユイはふり向くと、微笑みながら、しかし、瞳に涙をためながら静かに言った。
「パパ・・・ママ・・・にぃに・・・ねぇね・・・。ぜんぶ、思い出したよ」
◆
「うそ・・・だろ・・・っ!?」
「そんなの・・・」
ユイの説明を聞いたキリトとアスナはそう呟き、いまだにユイの言葉が信じられないようである。ソレイユは目を瞑り特に反応を見せていないが、ルナはキリトたち同じような反応を見せていた。
ユイの言ったことをまとめると、巨大なシステム≪カーディナル≫が自らの判断で≪ソードアート・オンライン≫を何もかも制御していること。≪カーディナル≫の開発者たちは、プレイヤーのケアもシステム任せにしようとし、そのために生まれたのが≪メンタルヘルス・カウンセリングプログラム≫の試作一号、コードネーム≪ユイ≫つまりは自分であるということだった。
「正式なサービスが始まった時、プレイヤーのほとんどが負の感情に常時支配されていました。そんな中、ある日モニターを続けていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ複数のプレイヤーに気づきました。喜び、安らぎ・・・、でもそれだけじゃない不思議な感情・・・。それがなにか知りたくて、その人たちのモニターを始めたんです」
「そうだったのか・・・。ところで、一つだけ聞きたいんだけど・・・、具体的にどのへんからモニタリングしてたんだ?」
「それは・・・、アスナさんの『はい、キリト君。あーんして♡』のところからです」
「み、みないでぇぇぇぇ~~~~」
ソレイユの疑問にユイがにやけながら答えると、アスナが顔を真っ赤にして叫んでいる。キリトもキリトで顔を赤くして眼を泳がせている。ソレイユとルナはあまり反応を見せてはいないが、その顔はどこか納得しているようだった。
「アスナがやりそうなことだよね~」
「まったくだな」
付き合いの深い二人からそう言われてアスナは顔を手で覆ってしまう。そんなとき、キリトは何に気が付いたのか、ハッとして大量の汗をかきながらユイに問い掛けた。
「ひょっとして、その晩のことも・・・・・・?」
「はい。・・・・とてもお楽しみでしたね♡」
「うおーーーーーっ、殺せっ。いっそ殺してくれーーーーーーっ!!!」
ふひひ、とニヤけるユイと頭を抱えながら絶叫しているキリト。アスナに至ってはしくしくと泣いている。そんな光景を見て、ルナはキリトの言うその晩のことを聞いてみることにした。
「ねぇ、ユイちゃん。なにがあったの?」
「それはですね・・・・・」
◆
「なぁ、アスナ。この装備ってなんだ?」
「そ、それはリズに無理やり押し付けられて・・・」
「へぇ~。なぁ、一回着てみてくれよ」
「やっ、やーよ!なんでそんな・・・」
「アスナのかわいい姿を見てみたいからに決まってるじゃないか!」
「・・・・・そ、そんなに言うなら・・・」
キリトの言葉に顔を赤らめながら、了承するアスナ。恥ずかしげに件の装備を装備していく。そして・・・。
「こ、これでいい?」
にゃにゃにゃにゃーーーん、という擬音が聞こえたような気がした。
件の装備を装備したアスナが手をネコっぽくして恥ずかしそうにしている。それを見たキリトは一瞬だけ硬直した後、
「うおおーーーーー、アスにゃーーん!!!」
といって某怪盗よろしくアスナに向かってダイブしていった。
◆
「・・・・・ということです」
「「「「・・・・・・・・」」」」
ユイの説明が終わるとキリトとアスナは顔を真っ赤にしてそれを両手で覆ってしまう。キリトとアスナの知られざる日常を聞いたルナは、あまりに予想外な内容だったのでどう反応していいのかわからなかった。ソレイユが多少なりとも白い目で見てしまうのは仕方ないものだろう。
「それから、私はその人たちの近くにいたくて、プレイヤーホームから一番近いコンソールで実体化して彷徨っていました・・・」
「それで、そのさなかにキリトたちに拾われた、と」
「はい。おかしいですよね。こんな、こんな事、思えるはずないのに・・・。わたし、ただの、プログラムなのに・・・」
先ほどまでとは雰囲気を一転して語るユイは瞳に涙があふれさせていた。アスナとルナは言葉にできない感情に打たれ、両腕を前でぎゅっと握り囁くようアスナが言った。
「ユイちゃん・・・あなたは、ほんとうのAIなのね。本物の知性を持っているんだね」
「わたしには・・・解りません・・・。わたしが・・・どうなってしまったのか・・・」
アスナの言葉に首をかしげながら答えるユイ。そんなユイにソレイユは言い聞かせるように言った。
「ユイ、自らの在り方を決めるのは自分自身だ。お前は、どうしたいんだ?」
「そうだよ。ユイの望みはなんだい?」
「わたしは・・・わたしは・・・」
ソレイユの言葉をキリトが引き継ぎ柔らかい口調で話し掛ける。それを聞いたユイは細い腕をソレイユたち四人に伸ばしながら言った。
「ずっと、一緒にいたいです・・・パパ・・・ママ・・・にぃに・・・ねぇね・・・」
「うん、ずっと一緒だよ、ユイちゃん」
ユイの言葉を受けたアスナがユイを抱きしめる。少し遅れてキリトの腕もユイを抱きしめる。このままいけばハッピーエンドに終わりそうだが、そうは問屋が卸さないのが世の中というものである。
「一緒に帰ろう。それで、ずっと一緒に暮らそう・・・いつまでも・・・」
ユイを包み込みながら言うキリトだったが、ユイは首を横に振っていた。
「もう・・・遅いんです・・・」
「どういう、意味だよ・・・遅いって・・・」
ユイの言葉に疑問と戸惑いを浮かべるキリトたち。ユイは部屋の中央に視線を向け、そこに鎮座している黒い立方体を指さしながら言った。
「私が記憶を取り戻したのも、先ほどのモンスターを消した大剣≪オブジェクトイレイサー」≫を使えたのもあの石に触れたせいなんです。あの石は装飾用のオブジェクトではなく、GMが緊急にアクセスするためのコンソールだったんです」
ユイの言葉に驚きを見せるキリト、アスナ、ルナの三人。そんな三人に構わずユイは話を続ける。
「あの石に接触したことで、今まで放置されていたわたしにカーディナルが注目したはずです。今、コアシステムが走査して、すぐにわたしは異物という結論が出され消去されてしまいます。もう・・・あまい時間がありません・・・」
「そんな・・・そんなの・・・」
「なんとかならないのかよ!この場所から離れれば・・・」
「無理だろうよ。ソードアート・オンラインはカーディナルよって統制されている。このゲームの中にいる限り逃げ場がない」
「くそっ!!」
冷静に語るソレイユの言葉を受け、キリトは悪態をつく。ユイは微笑みながら涙を流している。そんなユイの体をかすかな光が包み始める。それを見てアスナ、ルナがユイを抱きしめ、キリトがユイの手を握っている。
「あなたたちのそばにいると、みんなが笑顔になれた・・・。わたし、それがとてもうれしかった。おねがいです・・・私の代わりに、みんなに笑顔を・・・喜びを分けてください・・・」
ユイの体が朝露のように儚い光の粒子となって消えていく。アスナとルナが涙を流し、キリトは何もできない無力な自分を嘆くかのような表情をしている。だが、ソレイユは特に何をするわけでもなく、平然とした様子で黒い石のオブジェクトに近寄り手をかざす。そうすると、コンソールらしきものが現れ、それを確認したソレイユは高速で叩いていく。そうしている間にも、ユイの体は透き通り、消えていく。最後に消える寸前の手がアスナとルナの頬を撫でた。その後、ひときわ眩い光となって完全に消滅した。泣き崩れるアスナとルナ。キリトは拳を強く握っていたが、何かしているソレイユの姿をあらためて認識した。
「なに、やってんだよ。ソレイユ・・・」
「ん?ああ。さっきも言った通り、このゲームがカーディナルによって統制されている限り、ユイに逃げ場はないわけだ。今、姿は消えたから、もうすぐ完全に消去されるだろうな」
「だから、なんだっていうんだよ!」
「つまり、だ。ここじゃないところに避難させればカーディナルによってユイが消される心配はないということになる」
「「「!?」」」
コンソールを叩きながら語るソレイユの行動の真意をつかんだキリト、アスナ、ルナ。それと同時にソレイユのもとに一つのクリスタルが実体化した。そのクリスタルの中央ではとくん、とくんと白い光が瞬いている。実体化したクリスタルを確認すると、アスナの方に向かって放り投げた。慌ててキャッチするアスナにソレイユが告げた。
「それが、ユイの心だ。キリト君のナーヴァギアのローカルメモリに保存されるようになってるから」
ソレイユから受け取ったクリスタルを両手で包み込むと、再びとめどなく涙があふれさながら涙声で呟いた。
「ユイちゃん・・・そこに、いるんだね・・・。わたしの・・・ユイちゃん・・・」
アスナのつぶやきに答えるようにクリスタルは脈打った。
◆
二十二層 ソレイユの隠れ家
「なんか、久しぶりに戻ってきたっていうか、そんな感じがしちゃうな・・・・・」
「まぁ、濃い数日だったしな」
そんなことをベッドの中で話しているルナとソレイユ。あの後、教会でささやかなガーデンパーティーが催された。食材を調達したのは、もちろんというべきか、ソレイユだった。ほかのみんなが会場の準備をしているときにふらっと出て行き、帰ってきたときにはどこで手に入れたのかと言いたいほどの食材があり、パーティー参加者の度肝を抜いた。なかにはS級食材があったとか、なかったとか・・・。
そして、パーティーが終えた後、別れを惜しむサーシャやユリエール、シンカーや子供たちと別れ、さらにはキリトやアスナたちとも別れ今に至る。
「最前線に戻ろう、か?」
「え?」
難しい顔で考え事をしているルナにソレイユは愛しみに満ちた表情でルナの心内を言い当てた。そのことに驚くルナだったが、ソレイユはルナの頬を撫でながら
「お前の考えてることならある程度分かるよ・・・だって・・・」
その時、聞くものを恐怖させるも、どこか懐かしい唸り声が聞こえた気がした。ソレイユは勢いよく身を起こし、窓の外を鋭くにらみつけるが、そこには何もなく月の光が差し込んでいるだけである。幻聴かもしれないそれを聞いたソレイユは虚空を見上げると、誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
「―――――――――」
それは隣で目をパチクリさせていたルナにさえ聞こえなかった。
後書き
という訳で、ユイちゃんがいなくなっちゃった・・・orz
ソレイユ「自分で書いておいてよく言う・・・それより、今回は一気にソードスキルが出てきたな、オリジナルの」
まぁ、そこは、ねぇ・・・とりあえず、全ソードスキルをマスターしたとうたっているわけじゃないですか・・・だから、やっぱりいろいろ出した方がいいのかなぁって・・・
ソレイユ「だからって一気に出しすぎだと思うがな・・・」
うっ・・・反省しております・・・orz
それはさておき、感想などございましたらお待ちしておりますっ!!
今年も今日を残すのみとなりました・・・来年もこの小説を楽しく読んでいただければ幸いです!
ソードスキルの説明
・最上位槍技 ≪ストライク・ファランクス≫
相手を穿つかのごとく放たれる鋭い八連撃の槍の最上位剣技。クリティカルヒットが出しやすく、貫通力に優れている。
・最上位片手剣技 ≪レイジング・インフェルノ≫
片手剣から激しい勢いで繰り出される十二連撃の最上剣技。取り回しがよく、割とどの部位だろうと狙うことができる。
・最上位短剣技 ≪ライトニング・テンペスト≫
稲妻の如き速度で襲い掛かる十連続の最上位の短剣技。短剣のソードスキルのため、インファイトに近い形で放たれることとなる。
・最上位戦斧技 ≪グラウンド・スパイカー≫
食らった相手を一時的にスタン状態にする効果を持つ戦斧の最上位剣技。敵の重さにより、スタン状態の継続時間が違い、軽い敵ほど長く、重い敵ほど短くなる。
・最上位鎚技 ≪グラビトン・クエイカー≫
鎚を地面に思いっきり叩きつける鎚の最上剣技。ついが叩きつけられた場所を中心に広範囲に地響きが立ち、一定以上の重さがないものは転倒する(味方にも適用)。
・最上位大剣技 ≪ジェノサイド・パニッシャー≫
相手をノックバックさせながら五連撃を繰り出す大剣の最上位の剣技。ノックバックの大きさは当たった個所によって異なる。
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