鵺
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3部分:第三章
第三章
「だからここはね」
「まあ作業や研究は手伝いますから」
「動物は私で勝手に考えろってことね」
「ええ、そういうことで」
こう話してであった。ユウキは亜実の助手に徹するのであった。何だかんだでこのマッドサイエンティストの手助けをするのであった。
そして亜実はだ。こんな生き物を考えだしたのだった。
「鹿の頭に馬の脚に翼を持ったね」
「その生き物の名前は?」
「ペリュトンよ。人の影を持っているけれど」
「それ、人殺しますよね」
ユウキはその異形の生き物のことを知っていた。
「カルタゴを攻める時に船でそこに向かっていたローマ軍を襲ったあれですよね」
「そうよ。それで東京ドームをね」
「人殺したら確実に捕まりますよ」
今でこそ捕まらないのが不思議だというのに、というのだ。
「それでもいいんですか」
「むっ、刑務所の中に入ったら」
「研究どころじゃありませんよ」
「そうね。それは困るわね」
「じゃあそれはなしってことで」
「仕方ないわね。考えてみたら人を殺すのは私の流儀じゃないわ」
そうしたことは好きではないのだ。ただ好き嫌いの問題でしかないがそれでもだ。
「じゃあこれは没ね」
「そういうことで御願いします」
「じゃあ何にしようかしら」
あらためて考える亜実だった。
「ここは」
「人を殺さない動物にすべきですね」
「そういうことね。あくまで建物だけを破壊する」
そうしてだった。ここで出した生き物は。
「身長は血十メートルで口から放射火炎を出す黒い巨大な怪獣」
「何処かのプロダクションに訴えられますよ」
「じゃあ光の巨人は」
「同じですよ」
「くっ、裁判上等よ」
「そんなことで無駄にお金と時間使ってどうするんですか」
何処までも常識人のユウキであった。そんな彼がマッドサイエンティスト亜実と一緒にいるのだから世の中というものは実に不思議だ。
「そんな暇があったら研究されるべきでは」
「そうね。じゃあそれもなしね」
「その方がいいかと」
「それじゃあ」
ここで、だった。また言う亜実だった。
「あれにするわ」
「あれとは?」
「鵺よ」
結局これに行き着くのであった。
「鵺の声に特殊音波を入れてね」
「特殊音波ですか」80
「それでドームを破壊するのよ」
「成程、じゃあそれをですか」
「早速開発するわ。それじゃあね」
こうしてだった。亜実はユウキの協力を得てその鵺を生み出すのであった。
顔は猿、身体は狸、手足は虎、そして尾は蛇である。古典にそのまま出て来る異形の獣が姿を現したのであった。
研究室で目を覚ましたその獣を見てだ。亜実は会心の笑みを浮かべた。
「これでいいわ」
「何かあっという間に誕生しましたね」
「天才の研究は迅速なのよ」
自信に満ちた笑みでの言葉だった。
「そういうことよ」
「じゃあ早速ですか」
「ええ、東京ドームに向かわせるわ。けれど」
「けれど?」
「その前にチェックをしないとね」
それは忘れないというのである。科学者の基本は守っていた。
「実際にどれだけの威力があるのかをね」
「声で建物を破壊するそれですね」
「さて、どんなものかしら」
まずはそれを確かめるというのであった。
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