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真田十勇士

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巻ノ三十三 追撃その一

                 巻ノ三十三  追撃
 鳥居は自身が率いる軍勢の主力を門に向かわせた、門を破りそのうえで二の丸に押し入ろうというのだ。だが。
 その彼等を見てだ、穴山は二の丸の櫓の中で鉄砲を構えつつ笑って共にいる霧隠に言った。
「さて、いよいよな」
「御主の腕の見せどころじゃな」
「うむ、腕が鳴るわ」
 確かな笑みで言うのだった。
「次から次に撃つぞ」
「そうか、しかしな」
「御主が霧を出してもか」
「敵に当てられるか」
「いらぬ心配じゃ」
 穴山は彼等に笑って返した。
「それはな」
「そう言うか」
「そうじゃ、わしの鉄砲の腕は知っていよう」
「百発百中じゃな」
「しかも一発撃ってもな」
 さらにというのだ。
「すぐに撃てるわ」
「他の者は大体三十秒かかるがな」 
 鉄砲を撃ち次に撃つ為に弾を入れることにだ、それに慣れた者でもそれだけの時間がかかるものなのだ。
 しかしだ、穴山はというと。
「十五秒じゃ、しかもな」
「今弾を込めるのはな」
「あの者達がしてくれておる」
 見れば三人の足軽達が櫓の鉄砲に次から次とだ、弾を込めている。穴山はその彼等を見つつ言うのだった。
「一発撃ってな」
「すぐにか」
「もう一発撃てる」
「それを繰り返せるか」
「だから心配はいらぬわ」
 こう言うのだった。
「ここはわし一人で充分じゃ」
「ではわしは霧を出した後はか」
「外に出て暴れて来るのじゃ」
「実はそうしたいと思っておった」
 霧隠はその整った顔を笑みにさせて言った。
「では行って来るぞ」
「それではな」
 こう話してだった、霧隠が霧を出した。すると。
 門の辺りが一面深い霧に覆われた、その霧はもう手を伸ばせばその手首が見えないまでだった。そこまで深く。
 徳川の兵達は突如として出て来たその霧にだ、戸惑い足を止めた。
「霧!?」
「霧だと」
「先程まで全くなかったというのに」
「いきなり出て来たぞ」
「術か」
 兵の一人が言った。
「まさか」
「真田の術か」
「真田の忍の術か」
 彼等は戸惑いつつこう言いだった、そのうえで。
 まずは身構えた、しかし。
 ここでだ、櫓からだった。
 次から次にだ、穴山は鉄砲を放った。深い霧なので彼にも敵は見えないが。
 一発、また一発とだった。敵の頭に心臓を撃ち抜いてだ。具足をものともせず容赦なく撃ち抜いたのだった。
 その攻撃にもだ、徳川の兵達は驚いて言った。 
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