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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第三話 魔法と少女 後編

 魔法のない世界で、魔法関係の事件が発生した。

 なんて言うのは特に珍しいことじゃない。

 少なくとも俺の人生経験上、年に数回は発生する事例の一つだった。

 魔法がないから発生しないんじゃない。

 今までがたまたま発生しなかっただけで、可能性はあるんだってことを本当は理解してもらいたい。

 平穏なんてのは唐突に終わるものだし、それが特別だなんてことは決してない。

 俺みたいな人間だって、気づけば両親を殺されていた。

 そして今、長期休暇で訪れた世界で休暇に終止符を打たされているのだから。

「高町……なのは?」

「小伊坂さん!?」

 俺と高町は、数時間ぶりに再会した。

 不運にも、喜べるような再会ではなかったのは残念だけど。

「お前、なんで魔導師になってんだよ!?」

 あまりの驚きで俺の口調が悪くなり、叱っているようになってしまう。

 だからか、なのはは少し縮こまった様子で答える。

「そ、それは……その、助けになれると思ったから……」

「助け?」

 誰の? と聞くよりも先に、なのはは地面で倒れかけているフェレットを両手で拾い上げる。

「この子が、私に助けてって言ったから、力になりたかったの」

 そう言って、なのははフェレットの頭を優しくなでる。

 労わる姿を見て、天龍は呆れながらも納得した。

(なるほど……この子は純粋に優しいのか。 しかも純粋過ぎて、優しくすることに躊躇いがないタイプの女の子か)

 そう言う風に彼女を分析できたのは、俺も似たような人間だからだ。

 別に彼女ほど純粋じゃない。

 彼女ほど、躊躇いなく優しくできるようなタイプじゃない。

 けど、そうしたくなる気持ちだけならわかるんだ。

 困ってたら、助けになれるなら、力を貸したいって。

 だから俺はふぅ……とため息を漏らしながらも、小さく笑った。

「なら、自分で決めたことはちゃんと責任もってやらないとな」

 どのみち、後ろには黒い存在がいる。

 俺一人で対処するのもいいけど、それを彼女が許すとも思えない。

 そう言うお節介な人間だと言うことも、分かってしまうから。

「高町が魔導師としてできることは、その(デバイス)が教えてくれる。 俺は俺でアレの相手をするから、高町は指導を受けながら手伝ってくれ」

「う、うん! 分かった!」

 突然の指示に驚きつつも返事をするなのはに、俺は頷いて黒い存在の方を向く。

 まだマントが守っているが、守ってばかりで終われるわけもなく、敵は大きく後ろへ飛んだ。

 防御を終えたマントは俺の左右の肩に戻り、布と同じ柔らかさを取り戻した。

「アマネ、行くぞ」

《了解、マスター!》

 俺は地面を強く蹴り、一直線に駆け出した。

 右腕を伸ばし、銃口を黒き存在の中心に定める。

 様子見を目的とした一発目を放つ。

「ショット!」

 声とともに引き金を引くと、銃口から実弾と同じサイズの魔力弾が放たれる。

 夜に溶けるような黒の弾丸。

 発砲音には気づくも、弾丸が見えない敵は回避することなく俺の狙い通りの位置に直撃した。

 弾丸は液体に飛び込んだような音を立て、そのまま貫通していった。

 ……が、貫通した穴はすぐに塞がった。

「ま、そうだよな」

 これは予想通りの結果だった。

 あんな不安定な形と動きをした存在が、銃弾一発で終われる訳が無い。

 何より適当な位置を狙ったんだ。

 倒せた方がラッキーだろう。

 結果がわかっていながらも銃弾を放ったのは、直撃した後に奴の体がどうなるのか、その変化のメカニズムをアマネに解析してもらうためだった。
 
「アマネ、何か分かった?」

《ええ。 簡潔に言えば、あれはロストロギアの暴走体と言ったものでしょう》

「……ロストロギア、だって?」

 そこは流石に予想外だった。

 いやほんと、小さな敵がはぐれてきちゃったかな~程度に思ってた。

 と言うか、その程度だと思ったから管理局への連絡は避けてたし。

 なんでよりにもよって他世界の危険物が漂流しちゃったかな?

《ロストロギアが原因なのであれば、先ほどの弾丸が効かなかったのは単に威力が低かったからですね》

「様子見だからそりゃそうだろ?」

 様子見で本気出してどうするよ。

《恐らくロストロギアから放出されている魔力なりエネルギーが形を作ったのがアレで、マスターの弾丸で消えないのは、放出されているエネルギーによって修復されているから、でしょうね》

「なるほど……なら、答えは簡単だな」

 どう対処すればいいのか、なんて答えは最初から決まっていて、それに変更はなしだ。

 アマネには、余計な仕事をさせてしまったようだ。

「ゾンビみたいに復活するなら、復活が追いつかない攻撃で殲滅――――行くぞ?」

《了解、マスター》

 答えが決まった俺は、再度走り出した。

 二度も同じ手は喰らわないと言わんばかり、黒い存在の全身から無数の触手が生え、叩きつけるように放たれた。

 俺は先ほどよりも多めの魔力を込めた弾丸を放ち、触手の一本一本を丁寧に撃ち落としていく。

 もちろんそれはゆっくりではなく、多少は残像がでるような速度でだ。

 触手の先端から突き抜けるように弾丸は直撃し、俺は左右に避けることなく接近する。

 あくまで一直線にこだわるのは、相手の視線を俺から離させないため。

 後ろで色々と準備している新米魔導師が狙われないため。

「ここだ!」

 触手と俺の距離に間ができた。

 それは一瞬。

 だけど、銃弾を放つ速度ならば一瞬あれば十分だった。

 俺は急ブレーキをかけ、さらに勢いよく後ろに飛び、銃を握る右手を左手で支えるように構える。

 右腕を伸ばし、左腕を曲げる基本的な握り方/ウェーバー。

 低空ながらも体は安定し、触手とも一定の距離をとれた。

 その状態で俺は銃口に自らの魔力を収束させる。

 すると銃口の周りを魔力増大効果の魔法陣、加速効果の魔法陣が取り巻く。

 銃口の中から黒い光が発光し、今か今かと発射の瞬間を待っているかのようになっていた。

 俺は狙いを定め、迷うことなく引き金を引いた。

 これは俺が得意とする、直射砲撃魔法。

 その名は、

「ディバイン・バスター!」

 銃口から膨大な魔力がレーザーのように発射され、流星のように真っすぐな軌道を描いて黒い存在に直撃する。

 黒い存在は先ほど以上の攻撃に驚き、そして激痛からか言葉にならない悲鳴を上げる。

 着弾している部分は貫通する勢いで削られていき、最初の一発目のように再生を行う。

 …が、今だなお放たれ続ける砲撃に、再生が追いつかない。
 
 砲撃の威力、範囲、熱量。

 どれを並べても奴の再生能力では対応しきれないものだったのだろう。

 このままなら倒せる。

 そう思いかけたと同時に、黒い存在に変化が起こった。

 着弾している部分を中心に、体が左右2つに分かれて俺から逃げるように二手に分かれた。

 大きさは半分になったが、その分身軽になって速度が上がってる。

 建物の屋上まで一飛びし、屋根伝えに逃げたそれを見て、俺は少しだけ後悔する。

「これは……ちょっと難易度上げちゃったみたいだな」

 苦笑し、左手で後頭部を掻く。

《そうですね。 初心者にはもう少し動きが鈍い相手を狙った方がいいですからね》

 アマネも俺と同じ苦笑が混じった声で答え、俺は頷く。

 俺とアマネは黒い存在を追わず、分離の際に残された蒼い宝石の回収を担当することにした。

 なぜなら俺たちの頭上を、桜色の砲撃が二発、駆け抜けていったから。

「……あれなら、任せて問題ないみたいだけどな」

《魔法文化がないのが勿体無いと言える才能を、私たちは発掘したようですね》

 俺とアマネは、嬉しそうに笑う。

 そう、俺はあくまで一人で倒すことを目的に戦ってはいない。

 ――――『高町が魔導師としてできることは、その(デバイス)が教えてくれる。 俺は俺でアレの相手をするから、高町は指導を受けながら手伝ってくれ』。

 俺はさっき、彼女にそう言った。

 この世界出身の彼女に魔法の使い方を説明しているとすれば、それなりに時間がかかる。

 ましてや魔法を発動させるとなれば、不慣れな詠唱や術式展開に更に時間を要する。

 だから俺はその邪魔をさせないために回避行動を選ばなかった。

 高町の魔法武器は杖。

 ロングレンジを主体とした魔法を使うだろうから、俺と同じ砲撃を使うのは分かってた。

 管理局でも杖を使う魔導師は多い……と言うか、一番王道の武器とも言えるくらい使う人が多い。

 だからわかることだけど、砲撃の威力や命中精度で言うのであれば、俺が使う拳銃よりも杖を用いた砲撃魔法の方が精度が高い。

 銃口の広さやデバイスのサポート、術式展開の速度、そしてなにより使いやすさ。

 両手で扱えるだけにある程度の姿勢さえ維持できれば百発百中の砲撃になる。

 だから俺は任せた。

 トドメを、彼女に。

 俺の目が節穴でなければ、きっと当てることができる。

 彼女は……高町 なのはは、魔法が存在しない世界出身にして魔法の才能があるのだから――――。

 そして桜色の閃光が二度、大きな爆発音を立てて散ったいくのを見て、俺はぼそっと呟いた。

「……この世界は、俺を退屈にはさせてくれないみたいだな」


 きっと何年か経って、子供から大人になってもこの日のことを思い出すのだろう。

 目の前に光る蒼い宝石/ロストロギア。

 そして夜空に咲く桜色の光を見たこの日、この瞬間を。

 空を飛ぶ才能を持った少女と、全ての悲しみを撃ち抜く魔法との出会いを――――。 
 

 
後書き
という訳で第三話でした。

ギャルゲーやらエロゲーやらだったら最後の一行が終わった瞬間にOPが流れ出すって感じでしょうね(笑)。

なんて思いながら書いていました。

戦闘描写については修正、改善していきたいと思いますのでご意見・ご感想ください。


……ただのシスコンじゃなかったんだね。

黒鐘「そもそもシスコンじゃないからな!?」 
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