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女優の過ち

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1部分:第一章


第一章

                        女優の過ち
 新島奈緒は美人女優として知られている。
 はっきりとした二重の切れ長の目に奇麗な形の鼻、ややホームベース型の顔の肌は奇麗でしかもすらりとしている。見事な黒髪をブローにしている。
 しかも長身で一七四はある。その背でも目立っていた。
 その彼女は最近女優業だけでなくだ。バラエティ番組にもよく出演していた。この時もだ。
 マネージャー、彼女よりは二十センチ以上低い細い赤茶色がかった髪をショートにし唇がやや厚くアーモンド形のきらきらとした目をしている女がだ。こう彼女に話した。
「今度は船よ」
「船?あの万景観号ですか?」
「その船に乗ったら生きて帰れないわよ」
 マネージャーはその高い声で奈緒に告げた。
「乗りたいの?あの国に行ったら否が応でもダイエットできるけれど」
「いえ、遠慮します」
 それはいいという奈緒だった。
「まだまだ美味しいもの食べたいですから」
「その船じゃないから安心してね」 
 そうした甚だいかがわしい船ではないというのだ。
「普通の船よ」
「普通のですか」
「それに乗ってね。魚を釣るのよ」
「鮫でも釣るんですか?」
「シーラカンスよ」
 それだというのだ。南アフリカ沖にいる古代からいる魚だ。所謂生きた化石である。それでよく知られている魚なのである。
「それよ」
「シーラカンスって」
「それを釣りに行くっていう企画だけれど」
「何か面白そうですね」
「受ける?この仕事」
 マネージャーはあらためて奈緒に尋ねた。
「そうする?どうするの?」
「御願いします」
 こう答えた奈緒だった。
「釣りはしたことないですけれど」
「わかったわ。それじゃあね」
「はい、わかりました」
 こうしてだった。彼女はそのシーラカンスを釣る仕事を受けたのだった。とりあえず変わった魚を釣るとしか考えていなかった。
 そのいささか能天気な考えのまま一旦南アフリカに行きレンタルしておいた船に乗って南アフリカ沖に向かった。無論マネージャーも一緒だ。
 船はあまり大きくない。普通のクルーザーである。長身の彼女からしてみればだ。その大きさの船はどうかというとだった。
「何か怖いですね」
「頭ぶつけそうなのね」
「実際にもうぶつけちゃいました」
 こうマネージャーに話すのだった。困った顔で頭を押さえながら。
「さっき。下に降りた時に」
「もうぶつけたの」
「気をつけないといけないですよね」
「気をつけてね。若し落ちたらね」
「危ないですよね」
「シーラカンスを釣る仕事だけれど海で泳ぐ仕事じゃないのよ」
 今はだ。そうした仕事ではないというのである。
「だからね。いいわね」
「わかりました。それなら」
「あんた私と違って大きいから」
 何気に自分が小柄なことを言うマネージャーだった。
「気をつけてね。バランス崩したらね」
「それで終わりですね」
「そうよ。あとは」
「あとは?」
「救命胴衣忘れないでね」
 それもだとだ。忘れるなというのである。
「さもないと。落ちた時にね」
「大変なことになりますよね」
「下手したら死ぬわよ」
 溺れてという意味である。
「そうなりたくなかったらね」
「わかりました。それにしても」
「それにしても?」
「ここって凄い海ですよね」
 周りを見回して言う奈緒だった。見渡す限り濃厚なマリンブルーの海である。宝石の様なその色を見てマネージャーに言ったのである。
 
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