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ロココの真実

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3部分:第三章


第三章

「カールって苦手なのよ」
「殿方でそれだったら淑女は大変じゃないですか?」
「この時代の髪型って大抵それですし」
「もっと凄い髪型もありますしね」
「そうそう。資料を見てびっくりしたけれど」
 どうかとだ。カトリーナはその淑女の髪も描きながら言う。
「何これ。芸人さん?」
「ですよね。髪を一メートル以上あげてそれで頂上に田園の模型ですか」
「お水まで置いて」
「髪の毛の中に仕掛けまでしてって」
「凄い髪型ですよね」
「こんな髪型連合の不良でもしないわよ」
 絶対にしないとだ。カトリーナは言い切った。
「あの馬鹿連中でもね」
「連中モヒカンとか辮髪ですよね」
「それとちょん髷にしてますよね」
「あれ本当に馬鹿ですけれど」
「しかも下品で」
 エウロパの視点から見ればそうだった。連合のそうした不良の髪型は実に愚劣で野蛮なものなのだ。エウロパの不良はパーマやリーゼントといったものだ。
 だがそれでもだ。当時の貴族の髪型は。
「あの連中よりも上って」
「凄いんですけれど」
「よくこんな描きにくい髪型にしてますよね」
「無茶苦茶ですね」
「そうね。人間も描きにくいし」
 化粧を描くのも大変だった。しかも大変なのは人間だけではなかった。
 カトリーナは背景等に出て来る屋敷を描いていた。これが実にだった。
「うう、格闘漫画ってキャラクター重視で背景とかはあまり描いてないから」
「背景慣れてなかったんですね」
「そういえばそうでしたよね」
「そうよ。私背景苦手なのよ」
 描きながらの言葉だった。しかもだ。
 今彼女が描いているのはベルサイユ宮殿だ。他ならぬルイ十四世が築いた。
 その窓やカーテン、装飾や家具を描きながらだ。カトリーナは言う。
「拷問ね」
「ですよね。こんな細々としてるなんて」
「無茶苦茶ですよ」
 またこの言葉が出た。
「締め切り間に合いますかね、ウェブフランソワーズに載せる」
「明日までですけれどこの連載の締め切り」
「このままいけば落ちるかも知れませんよ」
「まずいかも」
「連載は落とさないわ」
 それは絶対だった。
「漫画化が連載を落とす、若しくは下書きを載せることはね」
「絶対にやってはいけないことですね」
「先生がいつも仰っていますね」
「そうよ。だからそれはないわ」
 絶対にだとだ。カトリーナは言い切った。
 そしてそのうえでだ。トーンを削りながら言うのだった。
「何日徹夜してもそれでもよ」
「描きますか、絶対に」
「例え何があっても」
「締め切り厳守ですね」
「描くからには落とさない」
 カトリーナの言い切りは続く。断固とした口調だった。
「そして描き終えるのよ」
「それじゃあ暫く本当に徹夜ですね」
「まだまだ今週の分残ってますし」
「暫く徹夜してそのうえで」
「脱稿ですね」
「描くわよ」
 自分に言い聞かせる意味もあってだ。嘉鳥ーナは言った。
「そうするから」
「はい、それにしても本当に」
「貴族の服って描くと難しいですね」
「描き込むところ多いだけじゃなくてデッサンも」
「ちょっと間違えたら狂いそうですよ」
「本当にそう思うわ」
 憮然とした顔で削ったトーンを原稿に貼ってだ。カトリーナは己のアシスタントにまた返した。
 
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