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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第16話 赤き死棘の槍

 少し時間を遡る。
 現地である山の周辺に士郎に遅れて到着していた石蕗和成と吉岡利信は、山を囲むように魔術的な結界を張る作業をしていた。
 吉岡利信は正直ガタイもよく、顔に傷こそ入っていないが強面だ。
 そんな吉岡利信が絶縁を言い渡された理由は割合させて頂くが、以外にも神道を頂く家系だった。
 結界を張れるならスカサハの張った結界も手伝う事が可能なのではないかと思われるが、神道とルーンによる結界では根本的に違いも大きすぎる上、あれほど広範囲なモノにはとても手が出せないと言うのが、本人談である。
 因みに、藤村組本部の藤村邸を囲むように張ってある結界は、吉岡利信が張ったモノだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そうして結界を張り終えた利信は、和成の下に戻った。
 2人の士郎への援護と言うのは、士郎の戦闘に加わり共闘すると言う事では無い。
 騒ぎを聞きつけて集まって来る有象無象や介入者を阻む事だった。
 事実、利信が結界を張る作業をしている間に、和成が集まってきた有象無象達を悉く峰打ちにして気絶させたまま寝転がしていた。
 そして2人はもうすぐ確実に来るであろう、七浜方面の介入者達を警戒して待っていた。

 『来たか』

 2人の前に九鬼極東本部から来た老執事達が現れた。

 「貴様らは・・・」
 「これはこれは、石蕗和成様と吉岡利信様ではありませんか」
 「お久し振りです、ネエロ殿」
 「相変わらず年がら年中威圧的だな、ヒュームの爺さん」

 2人は、老執事達とは関係が悪化するまでは交流があったのだ。

 「フン、相変わらず貴様は目上への礼儀が成っていないな。赤子」
 「ケッ、礼儀を尽くす相手を選んでんだよ。老害」

 ヒュームは利信の口の悪さにさらに威圧度を上げるが、当人は気にせずにいる。
 その事にヒュームが利信目掛けて飛び出そうとするが、クラウディオがそれを制止する。

 「抑えて下さい、ヒューム」
 「利信、お前もいらぬ挑発なぞするんじゃない」

 普段は冷静な旧知の中と腐れ縁から双方制止を受けて、不承不承に引き下がる。

 「漸く話が出来ますが、私とヒュームは先に用があるのです。如何か通してもらえませんか?」
 「それは聞けない相談です。そして御二方には、足を踏み入れる事も禁じます。我々が今立っているラインは藤村組の縄張り中の縄張り、冬木市ですから」

 漸く穏便に話へ移行することが出来ると思いきや、内容は交渉などする気も無い決裂を前面に押し出されたモノだった。

 「貴様ら、そんな事を悠長に言ってる場合か?この先に今、直にでも処理せねばならん爆弾があるのだぞ?」
 「だからよ?それがいらぬ世話だって言ってんだよ。退魔師ならカズがいるし、魔術師なら俺がいるんだぜ?つまり年寄りがこんな時間に出張る必要なんて、欠片も無ぇってこった」
 「であれば尚更です。ここは一つ、危険物処理のために共闘いたしませんか?」
 「それも無用です。ですからこのマープル殿の使い魔もお返しします」

 何所までいっても平行線の上、情報収集のために放たれていたマープルの鳥サイズの使い魔も拘束されたままの形で引き渡された。

 「チッ、融通の利かん奴らだ。時間も惜しい。クラウディオ、強行突破するぞ?――――ジェノサイドチェーンソー!!」

 ヒュームは、パートナーの返事も聞かずに自身最大の必殺技を利信目掛けて仕掛けた。しかし――――。

 「っ!?」
 「オイオイ、ヒュームの爺さんよ。相手の情報無視して勝てる程、俺の神道からなる結界と防禦術は薄っぺらじゃないぜ?」
 「チッ、面倒な」

 ヒュームの必殺技は神道からなる利信の防禦に弾かれた。
 神道は禊による結界そして、近接戦闘を行うとしても基本守りを重視する。
 その為、利信も魔術師としては基本的に守りに回る。
 その代わりと言うワケでは無いが、魔術を一切使わぬ武術では攻撃型になっている。

 「ヒューム、む!」
 「この一帯の結界は利信が基点です。それを既に察していらっしゃる貴方に好き買ってに動いて貰う訳にはいきませんよ?」

 ヒュームの援護で利信へ鋼糸を巻きつかせようと言う所で、和成の斬撃により容易く断ち切られた上に、位置的に別れて戦う事を余儀なくされてしまった。

 「噂通りの速さに斬撃、駿足の太刀の異名は伊達では無いようですね。厄介な」
 「クラウディオ殿の鋼糸を利用した結界こそ、私からしてみれば厄介極まりないのですがね。話の途中にもさり気無く張り続けていましたね?」

 クラウディオは、気付かれていた事に内心で溜息をつく。
 そして時間も惜しいが覚悟も決める。

 「それは自分で確認すればよろしいのでは?」
 「是非も無い・・・・・・と言う事ですか。仕方ない」

 そうして和成は、結界と言う名の罠があると分かった上で自身を投げ込んでいく。
 こうして、人目を憚る強者(つわもの)達の戦闘が始まった。


 -Interlude-


 時間を少しだけ元に戻す。
 士郎は、バーサーカーと対峙していた途中に乱入してきた百代の行動に、呆れを突き抜けて頭を抱えたくなっていた。
 しかしそれが失敗だった。
 このバーサーカーは間違いなくガイアの代理人であり、行動を何かによって支援と援護をされながら強制させられている。
 その上、抹殺対象がノコノコ自分から現れたのだ。
 これでバーサーカーにとっての優先敵対対象が士郎から百代に代わるなんて、何時ものこの男なら気づきそうもあるのだが、生憎と気づけずに終わり、想定通り百代の攻撃はすり抜けた。
 神秘を込められない攻撃や魔力を持たぬ者の攻撃は、どれだけ身体能力や火力が英霊達と勝るとも劣らない川神百代だとしても魔力を纏っていない以上、当てることが出来ないのだ。
 逆に、英霊は自身の意思で魔力を纏っていない物や人に触り当たることが出来る。
 ただし、バーサーカー出なければだが。
 このバーサーカー――――エイリーク・ブラッドアックスは、行動を第3者に強制させられているので、すり抜ける事は勿論、攻撃を当てる(・・・・・・)事も出来るのだ。

 「やばい!」

 士郎は即座に投影した黒鍵を投擲する。
 今も直すり抜けている事に、百代は呆然としているので大きな隙が出来ていた。
 それをバーサーカーが逃す筈も無く、殺気が籠った己が宝具を振り降ろす。

 「オォオオオオオオオ!」

 途中、士郎の投擲した黒鍵の切っ先が斧に直撃するが、今のバーサーカーの剛腕による振り下ろしに大した効果はなく、衝突した時の金属音が空しく鳴り響くだけに終わった。
 そんな士郎に心配されている百代と言えば、確かに眼前に斧が迫ってきているが自分の身体能力の最高速度を出せば躱せるのだが、彼女は興味心を優先した。
 自分の周囲や目の前のコスプレイヤーからは、依然感じていた未知をハッキリと感じ取れていた。
 それに、瞬間回復を二十八回も使える自分だ。
 一回くらい喰らっても大丈夫(・・・)だと高を括り、未知の力を自分の肌で感じ取りたいと言う好奇心を抑えられなかった。
 そして――――。

 「ぐ、がぁああああ――――!!?」
 (こ、これは何だ?体の内側から侵されるような痛みは!?)

 バーサーカーの斧は、見事に百代の右からから振り下ろす様に鳩尾部分まで引き裂いた。
 興味半分で受けた百代は、今まで感じた事も無い別種の激痛に耐えかねて、意識のブレーカーを手放してこと切れたように倒れ込んだ。

 「血ガ足ラナイゾォオオオオオオオオ!!」

 しかし、まだ殺しきっていない事に不満なのかバーサーカーは倒れている百代目掛けて再度宝具である斧を振り降ろす。
 勿論、そんな事をこの男が許す筈も無かった。
 縮地により、瞬間的に倒れた百代を抱える様にバーサーカーの目の前に現れた士郎は、斧を躱した上でバーサーカーの顔面に蹴りを入れた。

 「らっ!」
 「ゴ、オォオオオオオオオオ!!」

 バーサーカーの方は蹴りを入れられたくらいで怯む筈も無く、自分の顔面を蹴ったついでに距離を取った士郎に追撃しようと突っ込もうとする。
 だがそこでバーサーカー――――では無く、エイリークをガイアによって強制させられているグンヒルドが気が付いた。
 何時の間にかバーサーカーの周りには、無数の剣が浮かんでいた事に。
 そして――――。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)
 「ゴァアアアアアアアアアアァアアアア!!?」

 士郎の詠唱により、バーサーカーの周りに浮かんでいた無銘の剣たちは一斉に爆発した。
 勿論バーサーカーはモロに喰らう羽目になった。


 -Interlude-


 士郎は今バーサーカーから離れて、茂みに隠れていた。
 勿論理由は百代の容態を視るためだ。

 (予断は許されないが、最悪は回避されたか)

 百代の傷跡は本来であれば致命傷だが、重症程度の怪我の範疇で収まっていた。
 百代は無意識的に瞬間回復を二十八回(・・・・)瞬間的に連続で行い、自らの命をつなぎとめたのだ。
 しかし百代には神秘・魔術耐性が無く、瞬間回復をすべて使い切ったにも拘らず重症と言う傷に留まっていた。
 しかも傷は留まるどころか、地味にさらに広がりつつある。
 勿論、魔術使いである士郎には対処可能な領域だ。
 とは言え、背に腹は代えられぬ苦肉の策でもある。主観的には。

 「緊急時とは言え、悪い川神・・・・・・ん」

 自分の唇を噛んで血を出し、百代の唇に押し付けて血を飲ませた。
 苦肉の策と言うのは百代の唇を奪う事に他ならない。
 地を飲ませ口付けする事により、もって約一日程度の簡易的なパスを繋げた。
 これで士郎から百代に魔力を供給する事により、バーサーカーの攻撃により体を蝕んでいる原因を緩やかに排除していく。

 「あとはこれだ」

 投影で造った剣の形をした魔術礼装。
 簡易的な認識阻害・治癒効果を齎すモノだ。
 これを百代の手に握らせることで、彼女にそれらの効果を向ける。
 これで取りあえずは大丈夫だろうと士郎は息をつくも、遠くからバーサーカーの唸り声が聞こえる。

 「やはりか・・・!」

 士郎は爆発させた煙に紛れて離脱する時に見えていたのだ。
 煙の中で障壁らしい青白い光の壁に覆われているバーサーカーを。
 全方位では無いだろうから、最低でも5割はダメージを貰っているはずだ。
 とは言え、緊急だったものだからあの爆発させた剣群はどれもこれもが無銘の剣の中でも最低ランクで、勿論宝具なんて一つも無い。
 特殊な祝福や恩恵の宝具やスキルでもない限り、無事では済まないだろうが同時にアレで倒せるとも期待はしていなかった。

 「っ!?――――遂にしびれを切らしたか・・・!」

 気配を感じずとも気付けた。
 バーサーカーが二度目の宝具を解放し、自分の周囲を焼き払ったのだ。
 アレを続けさせたらこの山の草木が丸坊主になるのは勿論、俺も認識阻害による恩恵と同時進行で治癒し続けている百代も、いずれは見つかるのは確実だ。

 「隠れ続ける気など無い。どの様な恩恵があるか判らないが、終わらせに行こ、うっ!?」

 決意して立ち上がろうとした処で、士郎は立ち眩みを感じた。
 原因は今も意識を失っている百代だ。
 簡易的パスから士郎の魔力を貪欲に吸い取る様に、遠慮容赦なしにしてきたのだ。
 それだけこの武神の生への執着力が強いか、はたまた別の理由かは判らないが、戦闘中にこれだけ奪われて行くのは士郎にとって厄介なモノである。

 「気絶したままなのに・・・・・・容赦ないな、川神」

 寝ている百代に無駄と知りながら皮肉を言う。
 士郎の今の魔力量は以前よりも遥かに超えている。
 理由が何なのかは判らないが、少なくとも魔術の第二の師匠兼戦友であった遠坂凛よりも上である士郎の魔力量をもってしても立ち眩みを覚えさせるほどの貪欲さだと言うのだから、士郎の現在の危機的状況は推して知るべきだろう。
 ステータスはそこまで高くないであろうが敵は英霊。
 そして百代からはどんどん魔力を吸収されて行く現状ではあるが、危機的状況などこの世界に来てからまだ一度も来なかっただけで、追い込まれている事など昔の士郎にとっては日常茶飯事だった。
 随分と久々に現状に士郎は苦笑しながら立ち上がる。
 その一番の原因が百代だと言うのだから、苦々しくとも笑うしかなかった。

 「魔力も減っていく。敵も健在。――――ならば、アイツ自慢の武器に頼ろう。アレなら障壁も突破できるだろう。効くかどうかは賭けだがな・・・・・・投影、開始(トレース・オン)

 投影で右手には赤き魔槍、左手のは三本の黒鍵を造りだす。
 そして瞬時に迂回してからバーサーカーの前にでる。
 迂回しないと、士郎では無く自分が出てきた茂みに行きかねないからだ。

 「血、血、血、血!血血血血血血血血血血、血ヲ寄コ――――」
 「うる、さい!」

 獲物が漸く姿を現したことに興奮したバーサーカーが突進してこようとした処で、三本の黒鍵を投擲する。
 それにグンヒルドは反応して障壁を張る。
 勿論防がれるのは承知の上で爆発させる。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)

 内包されていた神秘の爆発を以て、障壁に叩き付ける。
 これはあくまでも時間稼ぎ、本命は赤き魔槍の投擲と同時の真名解放にある。
 士郎は即座に投擲姿勢を作る。

 「経験憑依」

 何故ならばバーサーカー――――エイリーク・ブラッドアックスは、直にこちらに向かって突進してくるであろうことは読めていたからだ。
 士郎は既に斧を解析して英霊の真名を突き止めていた。
 しかし彼の英霊は綺羅星の如く輝く大英雄と言うほどメジャーでは無い為、文献も少なく、他に宝具があるのかスキルの詳細など含めて分からないから賭けだと称したのだ。
 そして士郎の読み通り、彼の血斧王は自身の象徴たる宝具にどす黒いオーラを纏わせて掲げながら突っ込んできた。

 「ガッァアアアアアアアアアアアア!!」

 士郎の持つ赤い魔槍に警戒したのだろう、それに宝具の真名解放で対抗しようと命令された様だ。
 両者の距離は10メートルと離れていない。
 しかし士郎は躱そうとせずに、宝具の解放に至る。

 「刺し穿つ(ゲイ)――――」
 「血塗れの(血、血、血血血)――――」

 両者の宝具に纏うようなオーラがさらに煌めく、或いは轟く。
 エイリーク・ブラッドアックスは、己が剛腕に任せて士郎を叩き切り殺そうと。
 士郎は、新たな誓い――――この手で届く者だけでも守り切る信念を、そしてそれを阻む敵を貫こうと。
 両者は力を完了させる。

 「――――死棘の槍(ボルク)!!」
 「――――戴冠式(血ヲ寄コセェエエエエエエエ)!!」

 黒赤き力と赫き力が正面から衝突する。
 その衝撃で周りの草は千切れ飛び、大気は悲鳴を上げ、木々は倒れるモノ何とか凌ぐモノと様々だが、中心である両者は微塵も衝撃の煽りなど気にせず今もぶつけ合っていた。
 エイリーク・ブラッドアックスは英霊としてのステータスがあるが士郎は違う。
 しかし今現在の士郎の基礎身体能力はマスタークラス内でも上位であり、さらに気や魔術で強化すれば凌げない筈がなかった。
 その両者を第3者的な立場から見ていたグンヒルドはほくそ笑む。
 何故あの魔術師彼の光の御子の魔槍を持ち、さらには使えるかは知らないが、生前は魔術師だからこそ知っている。
 あの魔槍の本領は、標的の心臓を突き貫くと言う因果律を操作する呪詛染みた概念武装がある。
 であれば、一見両者の力が拮抗していても、エイリーク・ブラッドアックスの心臓は貫かれる定めになる。
 本来であれば夫を殺そうとする敵に憎悪するモノだが、それ以上に自分や夫を駒のように使い強制するガイアからの解放を望んでいる彼女からすれば、あの魔術師こそ救い人と言えた。
 そこへ、忌々しいガイアからの命令で因果律を何とかする様に解呪を迫られて、無理矢理妖術を行使させられるがグンヒルドはガイアを嘲笑う。
 確かに自分が優秀な魔術師である自覚はあるが、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)の因果律の解呪など出来る筈がない。
 アレに対抗するには、最低でもトップクラスの直感や幸運でも無ければ防げないからだ。
 そして事態は結果に至る。

 「ゴォオオオオオ、ガグッ!?」

 相手の魔槍は自分の宝具とぶつかり合っていた筈なのに、何時の間にか自分の心臓に正しく貫かれていた。
 これによりエイリークが消滅するかと思いきや、そうではなかった。

 「・・・・・・()血血血血血血血血(ぢぢぢぢぢぢぢぢ)ィイイイイイイ!!」

 士郎は知らないが、エイリークには戦闘続行のスキルがある。
 霊核を潰されれば消滅は確実だが、戦闘続行のスキルを持つ英霊は消滅間際まで戦えるのだ。
 そしてクラスはバーサーカー。
 痛感覚が無い訳では無いが、敵と認識した或いはされた標的を目の前にして止まる訳がないのだ。
 しかしそれでも士郎の勝利は確定していた。
 未だに投影宝具はエイリークの心臓に突き刺さったままだ。
 ならばそれは当然のように詠唱された。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)!」
 「ルァアアアアアァアアアアア!!?」

 内包された神秘の爆発により、エイリーク・ブラッドアックスは四散する。
 此処に漸く、運命の夜・第2夜における死闘は終結した。 
 

 
後書き
 治癒するのはアヴァロンでも良かったはずなんですけど、そうしないと百代の唇を奪う大義名分が無くなってしまうので、ああしました。 
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