Blue Rose
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第三話 変わらない声その三
「そうなるわ、ソプラノっていっても何種類かあるわね」
「そうなんだ」
「それぞれの声域で細かく区分されてるの」
「どんな感じで?」
「ソプラノは高い順にレッジェーロ、リリコレッジェーロ、リリコ、リリコスピント、リリコドラマティコ、ドラマティコだったかしら。もっと区分出来るかも知れないわ」
「多いね」
「優花の場合は」
その弟に顔を向けてさらに言う。
「多分リリコね」
「結構高い方?」
「そうね、ソプラノの中でも」
「僕の声ってそんなに高いんだ」
「もうテノールの声域じゃないわね」
「男の人の声じゃないんだ」
「私はそう思うわ」
自分の知識からだ、弟に話した。
「私は音楽家じゃないから声域は詳しくないけれど」
「充分詳しいと思うけれど」
「同僚に歌劇好きがいて彼はね」
「もっと詳しいんだ」
「ええ、その彼から聞いた話よ」
「声域のことも」
「そう、だから私はここまでしか言えないわ」
歌声のことはというのだ。
「音楽からはね、けれど医者として見たら」
「僕の声は高いんだね」
「そちらから見てもね」
「どうして僕の声って高いのかな」
首を傾げさせてだ、優花は自分自身のことを言った。
「顔立ちも体格も」
「それはね」
「姉さんもわからないんだ」
「ちょっとね」
声で首を傾げさせての返事だった。
「女性ホルモンの関係と思うけれど」
「僕は女性ホルモン多いのかな」
「そう思うわ、けれどね」
「普通は、だよね」
「男性ホルモンは成長するにつれてね」
「出て来るんだよね」
「そうなる筈なのよ」
やはりだ、優子は声で首を傾げさせていた。ワインを飲みながらそのうえで弟に対して語る。
「本来は」
「そうだよね」
「けれど優花の場合は」
「出ていないんだ」
「それで本来男性には少ない筈のね」
女性ホルモンがというのだ。
「出ているのかしら」
「普通ないよね」
「普通はね、けれどね」
「そうしたこともあるんだね」
「そうよ、人間の身体は不思議なものでね」
「普通じゃないこともなんだね」
「あったりするのよ」
そうしたものだというのだ。
「時としてね」
「じゃあ僕は稀なケースかな」
「そうなるわね、けれどね」
「けれど?」
「安心しなさい、死にはしないわ」
弟にだ、今度は微笑んで言った。
「そうしたことではね」
「別に女の子っぽくなっても」
「それで死んだって話は聞かないわ」
「そうした心配はしなくていいんだね」
「大丈夫よ、死なないし」
それにというのだ。
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