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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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キャリバー編
  第222話 霜巨人の最後

 
前書き
~一言~

な、何とか1話まとめる事が出来ました……更新遅くなってしまいすみません……。この戦いはちょっとオリ分が少ない様な気もします……。増やしたかったのですが、やっぱり難しかったです……。で、でも 暖かい眼で見ていただけたら、と思ってます。

 最後に、この小説を読んでくださって、ありがとうございます。これからも、頑張ります!


   じーくw 

 


 シノンの見事なまでの身のこなし、GGOの世界では防御スキル全切りの狙撃手(スナイパー)として、近接アタッカー型に肉薄されれば、只管逃げなければならない筈なのにも関わらず、あの超級のBOSS、スリュム相手の立ち回りは 舌を巻いてしまう、と言えるだろう。

 シノンの回りを皆が取り巻いてしまうのも頷ける。それ程までのパフォーマンスだったのだから。

「(……GGOで、リュウキと何度か共闘してた、って言ってたし、だからかな? ユイと一緒とは言え、見切る感じがリュウキに凄く似てる……)」

 キリトは、回復ポーションを呷っている間も、そう感じていた。

 そして、前衛にリュウキも上がってきた事で、前衛の攻撃も大分安定すると思えるが、攻撃魔法の使い手が、フレイヤのみになってしまう。だから、魔法による纏まったダメージを与えるのが難しくなる可能性があるのだ。
 それ程までに、フレイヤの魔法とリュウキの魔法は優秀だったから。

 だが、リュウキの言う様に、スリュムのパターンが大幅に変わった。あの隕石魔法も二度通じるとは思えない、と言う点が大きい。

 現にこのスリュムヘイム2層の魔法耐性が高い方の牛も、隕石をあっさりと防いでしまった。その上の存在、最後の大ボスであるスリュムが、2度目も通じるとは思いにくいし、頼りすぎるのも危ないだろう。
 だが、リュウキが前衛に来る事でのメリットの方も大きい。
 前衛が安定する以上、攻撃の効率も良くなってくる可能性も高いのだ。以前にもリュウキが言っていた通り、一撃のダメージ量は確かに劣るかもしれないが、それでもソードスキルを併用した接近戦の方が、邪神モンスターを倒すときは効率が良かったから。何より接近戦での細かな指示を考えたら、リュウキは かなり優秀だから。

「……よし、攻撃用意を」

 キリトは、自分のHPとメンバーのHPを確認。8割以上まで戻ったHPゲージを見て、視線を外した。そして、リュウキをチラリと見る。リュウキも頷き、いざ決戦! と行こうとした時。

「剣士様」

 不意に傍らから声がしたのだ。多少なりとも驚いたが、それを隠しながら、振り返ると、そこに立っていたのは、アスナやレイナの傍にいるであろう、と思っていたフレイヤだった。どうやら、後衛から前に出てきたのは、リュウキだけじゃなかった様だ。

「それに、私の兄上の剣と同種の神の剣をお持ちの剣士様。――……剣士様達と、神の剣で総攻撃をしたとしても……、それだけでは、スリュムを倒すことは叶いません。望みはただ1つ、この部屋のどこかに埋もれている筈の、我が一族の秘宝だけです。あれを取り戻せば、私の真の力もまた、蘇ります。神剣と私の力が合わされば、スリュムをも退けられましょう」

 キリトは、その言葉を訊いて、大いに迷ってしまったのは言うまでもない。

「し、真の力………」

 そう、この局面で、真の力とやらを解放させたフレイヤが自分たちを裏切り、スリュムに加勢して襲いかかってくる可能性も捨てきれないのだ。確かに、今更怖れていても始まらない。切欠はクラインだとしても、結局それも想定した上でのフレイヤとの同行を決めたのだから。
 キリトは反射的に、リュウキを見た。

「最後までこのルート、だろ? ――それに大丈夫だ」
「そうか。……ん?? 大丈夫の根拠は何かあるのか?」
「……今、全部を説明している暇はない」

 リュウキは、視線をスリュムの方へと向けた。
 シノンの放った爆炎。炎の矢の炎による視覚の阻害、追加ダメージ効果も無くなった。炎の追加効果の1つにある攻撃力が低下する弱体化(デバフ)も掛かっているのだが、あれだけの攻撃力を考えたら、焼け石に水だろう。

「そっちは、キリトに任せる。その間は、任せろ」

 リュウキは、そう言うと剣を引き抜いた。
 フレイヤが何度となく言っている神の剣。《レーヴァテイン》だ。

「(もしかしたら、レーヴァテイン(これ)を取ったから、今回のイベントが発生したのかもな)」

 リュウキは、剣の刀身を見ながら、そう思えた。

「あ、ああ! 判った。任せた! クライン、リーファ、リズ、シリカ! 皆も頼む!!」
「おうよ!! キリの字!」
「はいっ!!」
「まっかせろーい!」
「うんっ!」

 キリトの言葉に、皆が頷いた。

 キリトの代わりに、リュウキが入った布陣となっただけで、すべき事は殆ど変わってない。ただ、あの攻撃パターンが判ったから、更に慎重になるかもしれないが。



 その時だった。――スリュムの行動パターンが、更に変わった。


「ぬ、ぅうン! 何処だ……? 王の面に、矢を射た者は…… 無礼、者は……………!!!」


 目の輝きが更に増した。
 明らかに、傍にいる前衛達を見てはない。自分達の身体程ある鋭い眼がぎょろり、と動き、止まった。

「今度は何するつもりだ、手前ェ!」

 明らかに動きが違うスリュムを見て、鋒をスリュムに向けるが、まるで無視をするスリュム。
 鋭い眼光が射止めた先にいるのは、先程見事な戦いを披露した少女(スナイパー)に向けられていた。


「そこにおったかァァァァァ!!! 猫がぁぁぁぁぁ!!!!」

 
 怒りのままに、周囲にいる戦士達はまるで無視して、指先をシノンの方へと向けた。
 
 まるで、先程の炎の矢のお返し、と言わんばかりに、氷の矢、……いや ただの氷とは呼べない。暴風を纏った特大の氷結弾が、撃ち放たれたのだ。

「ぜ、前衛を無視して!? シノンさんっ!!」

 リーファは、驚きながら、シノンの方に振り返った。予想できなかったから、直撃でもしていれば、後衛ポジの為、比較的HPが低めのシノンはひとたまりも無いだろう。

 だが、その心配は杞憂に終わる。

 シノンの前にはいつの間にか、誰かがいたから。

 この場の誰よりも長い剣を携えた剣士。
 唯一の伝説級武器(レジェンダリー)所有者(ホルダー)であるリュウキだ。

「っ……」

 シノン自身も油断していたこともあり、あの弾丸を見て、思わず眼を瞑ってしまったが……眼を開けたら、目の前にリュウキがいたから……。思い返していた。何度も背中を守ってくれた時の事を。

 そしてリュウキは、全てを弾いた後、軽く剣を回し、最後に剣の鋒を、スリュムへと向けた。 

「―――誰を狙ってるんだ」

 その長身を盾として、氷の弾丸を完全に斬り払っていたから。

「次の、お前の相手はこのオレだ。……かかってこいよ。霜巨人の王」
「キサマァァァァァ!!!!!!」

 顔面を射られた事の怒りが完全にリュウキへと向けられた様だ。
 両の手を拳銃の様に構えて、無尽蔵とも思える氷の弾丸を撃ち続けるスリュム。

「シノン。今の内に離脱して、2人と援護を頼む!」

 リュウキは振り返る事なく、氷の弾丸を防ぎ、時には切り裂きながら、シノンへ指示を出す。シノンとしては、守ってもらう心地良さに再び身を悶えさせてしまいかねなかったが、今は皆と戦っている。……そんな無防備な姿を晒す訳には、と言う思いの方が遥かに強かった為。

「了解。あり、……がとね。リュウキ」
「お互い様だ」

 リュウキは、剣で今撃たれた全弾丸弾ききった所で、ソードスキルを発動させた。
 偶然なのか……、或いは必然だったのか、それは判らないが、両手剣スキルには、SAO時代には備わってなかったスキルが存在していたのだ。

 それは、SAO時代にリュウキが好んで使っていた極長剣スキルの1つ。


《クリティカル・ブレード》


 その光の剣は、閃光となりスリュムへと迫る。

「ぬがぁぁぁ!!!」

 両手で、その閃光を弾ききるスリュム。
 残念ながら、ダメージははじかれてしまったから、見込めない。その代わり、更に額には青筋が幾つか出来てしまった様だ。

「おい! 執念深ェヒゲ! 手前ェ、俺らを忘れてんじゃねぇぞ!! こっち向きやがれ!!」

 完全に、リュウキとスリュムの一騎打ちの雰囲気になりそうだったのだが、生憎 そう言う事にはならない。

 時間に余裕があるのであれば、名勝負となる予感がする《巨人の王VS白銀の剣士》を観戦してみたい気持ちも何処かにはあるが、今は悠長に見ている場合では無いのだ。

「うぉぉぉ!!」
「せやぁぁぁっ!!」
「たぁぁぁぁっ!!」
「せぇぇぇいっ!!」

 クラインの言葉と同時に、他の皆も一斉に飛びかかった。

「羽虫共がぁぁぁ!!」

 シノンへの一撃も防がれ、リュウキの挑発も返す事が出来なかったスリュム。
 スリュムは、完全に怒りのままに、狂戦士(バーサーカー)の様に、ただただ暴れ狂うのだった。















 その頃、キリトはフレイヤに言われた《一族の秘宝》とやらを捜索していた。
 
 なんでも、両手を軽く広げたサイズの《黄金の金槌》であるとの事だ。
 それを訊いた当初は、よく判らなかったからキリトはもう一度訊いたが、間違いないとの事。
 そして、急いでその金槌とやらを探したのだが、まるで見つからない。それも当然だった。この部屋の中には、莫大な黄金の山が存在している。こう言う状況でも無ければ、『金山を見つけた~~~』と、踊りだしそうな勢いだが、生憎そんな気分にはならないどころか、『量が多すぎる!』とクレームをつけたい気分だった。

「(くそっ、はやく見つけないと――っ でも、どうやって……!?)」

 この山の中から1つだけを見つけるなんて、超能力染みた力などない。
 こう言う時こそ、《眼》を持つ勇者様、なのだが 生憎と今彼は取り込み中の様子だった。何をそんなに怒っているのか、判らないが最初よりも明らかに怒りの形相のスリュム相手に立ち回っている。そんな中に、ノコノコと入っていって『ちょっと探すの交代だ!』なんて、格好悪い真似はなかなか出来る事では無い。悠長な事を言っている場合じゃないのも確かなのだが、時間的余裕が無いと言う理由もあった。リュウキのいる あちら側にまで、スリュムの攻撃をかいくぐりながら、行くよりは、地道に探す方がまだ効率が良い。

「……ユイ?」

 最後に、縋る様な気持ちで、頭上のユイに声をかけたのだが、帰ってきた答えは首を横に動かす気配だった。

「……ダメです。パパ。マップデータもじゃキーアイテム位置の記述はありません。恐らく、部屋に入った時点でランダム配置されてるのだと思われます。……全てが飾りではなく、貴重アイテム、武器等になってますから、この中から、指定武器だけを見つける……と言うのは、お兄さんの《眼》でも、無理があると思います。……ですから、問題のアイテムかどうかは、フレイヤさんに渡してみないと、判定ができませんっ」
「そうか………」

 どうやら、頭上のユイは、リュウキに頼ろうとしていた心までお見通しだったのだろうか……、或いはユイ自身がリュウキを信頼して、訊いてみようと思い、検証した結果なのか……、後者であれば、キリトにとっては良いのだが、今はその事を考えるのをやめた。
 考えなければならない事があるからだ。少ないヒントを元に、導き出さなければならないのだから。

 そんな時だ。彼方の戦場から奮闘するリュウキが、救いの手を、じゃなく叫びをくれた。

「雷だ! キリト! それ(・・)は、雷に反応する!」
「か、かみ……? なんd「お兄ちゃんっ!」っ……!?」

 何故雷に反応するのかどうかを聞こうとしたら、今度はリーファから。

「良いから、雷系のスキルを使って! はやくっ!!」

 リーファまで同じ事を言った事で、キリトの中である確信が生まれた。
 どうやら、最初に考察していたスリュムと盗まれた宝、について 連想をさせていた事の答えが見つかったのかもしれない。と。

 だから、一瞬唖然としていたのだが、次の刹那にはキリトは右手の剣をおおきく振りかぶって、初歩の幻影魔法しか習得していないキリトが唯一雷属性ダメージを生み出す手段を放った。

「……せあああっ!!」
 
 気合に乗せて、思い切り床を蹴り飛ばす。空中で前方宙返り、同時に逆手に持ち替えた剣を真下に向けて身体事突き下ろす。それは、比較的軽量武器であるゆえに、片手剣カテゴリの中で数少ない重範囲攻撃《ライトニング・フォール》。

 そして、暴れ狂うスリュムとの戦闘の最中、リュウキは 雷光の瞬きを視界の端に捉えた。
 キリトが雷の力を使ったのを確認したリュウキは、ニヤリと笑みを浮かべた。自分自身の考えに間違いがなければ、それが最短にして、最速の方法。《眼》で視る時間が無かったが、それでも確信する事が出来た。




――黄金の金槌は、神の武具。雷を呼び、雷を取り込む。




 キリトは、雷の導きに誘われ、ひと振りの金槌、ハンマーにたどり着いた。 
 数ある黄金の山の中でも、それはどちらかと言えば、囁かなアイテム、と言う印象だったが、それが間違いない、と思えた。だから、直ぐにでもフレイヤの元へと持っていこうと手を伸ばした。

「っ!?」

 細い黄金の柄を握り、持ち上げようとした時だ。此処で囁かな印象とは裏腹に、重量感溢れる。手に伝わる重さが、今までの武器や鉱石等の運搬アイテムとは比べ物にならない程の重量が、その小さな金槌には宿っているみたいだった。キリトのアバターの身体が地面に沈み込んでしまったのだ。
 だが、かろうじて踏ん張ると、気合を入れながら、振り向けざまにキリトは叫んだ。

「フレイヤさん! これをっ!!」

 勢いのまま、オーバースローで遠投してしまってから、軽く焦ってしまう。
 あの超重量武器を、勢いのままに投げてしまったから、アタックフラグが立ってしまうのでは? と思えたのだ。だが、その心配は杞憂となる。

 フレイヤは、そのすらりと細い右手をかざすと、激重の 金槌、ハンマー、トンカチ……etc。 ともあれ、持ち上げるのにもひと苦労だった、重量武器を容易く受け止めてしまったのだ。

 そして、次の瞬間だった。

 フレイヤは、重量に耐え兼ねる様に、身体を丸めた。長い金色の髪が流れ、身体も小刻みに震える。


「…………ぎる…………」


 凡そ、先程までのフレイヤの声とは思えない程の低く重さのある囁き。

 それが、先程キリトが放った雷と連動したのだろうか、周囲に突然雷雲が現れたかの如く、雷が暴れ狂う。

「……なぎる………みなぎるぞ…………」

 その台詞は、フレイヤの姿とは全くを持って、そぐわない。

 正直な感想をいえば、女性陣であっても、この場にいる沢山女性プレイヤー達全員が敵わない。その身体付きまでを含めた全てが上回っている、と思えていた。スリュムが言っていた『九界にまで轟く美貌』と言うのは全くを持って頷ける。
 それ程の美貌を兼ね備えた魔女にはあるまじき台詞だ。空耳であったのか、或いは気のせいか、と一瞬思ったが、それは間違いない事を改めて教えられた。


「みな……ぎる、みなぎるぞ……ぅぅぅぅぅぅぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオ――――ッ!!!!」

 
 今度は大声量。
 地を轟かす勢いで放たれる絶叫は、最早先程まで 或いはこの戦いの前の助けを求めるか弱い声、お礼を言う時の澄み切った声、全てがフレイヤのものではなかった。






「――……漸く、か。――フレイヤ、それに兄の剣(・・・)、か。どうやら当たりだ」

 
 恐らく、この場で数少ないフレイヤの正体を予想していた者の内の1人が、豹変した声と明らかに空気が変わったのを肌で感じ取った。

「スリュム、フレイヤ……、盗まれた宝……。やっぱり!」

 リーファも、沢山読んでいた物語の1つであり、思い出すのにはなかなか時間がかかったが、それでも思い出せそうで、出せないもどかしさから、解放され 笑顔を見せた。
 
 そして、それが自分たちに福音をもたらしてくれる事も、感じ取れたのだ。




 そんな、穏やかな表情さえしている2人とは真逆も真逆。




 もう1人、圧倒的な速度で、フレイヤの変貌を感じ取った男がいたのだ。
 それは、スリュムと対峙していた為、決して眼を逸らしたり出来ない状況だったと言うのにも関わらず、フレイヤの白いドレスが粉々に引きちぎられた瞬間に、()は振り返ったのだ。

 それは、システム外スキルの中でも、難易度が高い、と評価の高い秘奥義《超感覚(ハイパーセンス)》に酷似していた。

 体現した男の名はクライン。

 侍の魂を持つ、火妖精族(サラマンダー)のサムライマスター。
 決して、邪な気持ちがあった訳では無い。それは、表情によく出ていると言える。クラインは、眼を見開き―――……顎が、かくーーん、と落ちていたのだから。 

 
 背後より、大きく、大きく、進化? を繰り返すかつて、フレイヤと呼んでいた美女。

 それはこの天井高く、広大ささえ思える極広の部屋の中が小さく感じる程の変貌であり、場にいた全員、スリュムも例外ではなく、思わず視線を向けたのだ。全身に雷光をまとい、腕や脚は大木の様に逞しくパンプアップ。見る男を魅了する豊満だった胸は、更に大きく、……固そうにガッチリ。隆々と盛り上がっている。スリュムをも上回っている程だ。

 状況を全くわかっていない者達、特に男性陣にとっては本日、いや ここ最近を含めても、最大級の衝撃。……最大最凶のショックを与える現象だ。

 俯けられたままの顔、ごつごつとたくましい頬と顎からは、これまた 逞しい ばさりと金褐色。――その部分だけ、フレイヤの名残が残っているのだが……それは、大きな大きな《ヒゲ》。


「オッ……」「サンじゃん!!」


 まるで、息を合わせたかの様に、セリフを繋げる男2人。大絶叫故に 狙ってたとしても、これ程まで離れた所で 合わせるのは、非常に難しいだろう、とどうでも良い感想を浮かべたリュウキ。

「盗まれた宝を取り戻す為に、単身潜入するのは、フレイヤ―――ではなく、こいつだった、って事だ」

 レーヴァテインが、その雷に反応するかの様に、ぱりっ とスパークしたかと思えば、つい数十秒前までは《Freyja》と記されていた文字列が、変化し《Thor》となった。














 例え、神話伝承、北欧神話等の知識が無かったとしても、《トール》の名は それなりに聞き覚えがあるだろう。

 様々な世界において、その名は広がっており 雷と連想させやすい。その神の持つ武器、或いは必殺技名で《裁きの雷(トール・ハンマー)》ともなれば、かなりメジャーだろう。

 神話によると正式名称は、《雷鎚ミョルニル》。

 北欧神話に於いては、《主神オーディン》や《道化師ロキ》と並んで有名な《雷神トール》。ロキが鍛え上げた剣に、強く反応した理由も、頷けるものだった。


「卑劣な巨人めが! 我が宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!」


 右手に持つ、先程とは比べ物にならない程、巨大化した黄金のハンマーを振りかざした。
 そして、スリュムも負けてはいない。両手を凍らせる勢いで、息吹を吹き込むと、そこには氷の戦斧を生み出していた。

「貴様ァァァ!!! よくも儂を謀ってくれたな!! その髭面、切り離し、アースガルズに送り返してやるゥゥゥ!!」

 その怒りは、恐らく リュウキが神の剣を持っていた事や、シノンに顔面火矢を打ち込まれたそれらに、相乗させているのだろうか、顔面の青筋の本数が増えて、更に凄い事なっている。怒髪天を衝く、とはよく言ったものだ。


 だが――ここでも正直にいえば、スリュムに少なからず同情をしてしまう。


 あのフレイヤ(・・・・・・)が本物の女神である、と信じていたからこそ、婚礼を待ちわびていた訳だ。――だから、少なくとも、怒る権利はあるだろう。

 そんな時だ。トールが、スリュムの戦斧を弾いた後、黄金の金槌、ミョルニルを掲げた。



「我がミョルニルに、呼応せよ!! ―――レーヴァテインッ!」



 その声に、応えるかの様に、リュウキの持つ剣に雷が帯び始めた。
 神話の中では、ミョルニルを超える剣として 鍛え上げたのがロキ。つまりは兄弟剣と言えるだろう。だからこそ、共鳴した様だ。


「巨人の王を、地の底へと還す、手を貸せ! 妖精の剣士達よ!!」

 
 手を借りたい割には、不遜な物言い――と、思えるが カミサマである以上は仕方がないだろう。それに、神との共闘等は、なかなか味わえる事でもない。

「望む所だ。トール」

 リュウキは、呼びかけに応える様に、大きく剣を構えた。通常のライトエフェクトとは違い、雷の金色も含まれたそれは、明らかにパワーアップしている様に見える。時間が決してあるとは言えない状況において、更に心強いと言える。

「よし! 全員で、全力攻撃だ! ソードスキルも遠慮なく使ってくれ!!」

 最大最高の勝機、と見たキリトも全員に叫んだ。




 そんな中暫くの間、『フレイヤ≠おっさん(トール)』 と只管頭の中で願い続けたクライン。 でも、何度見ても、フレイヤの姿は無く、あの巨人の髭が見える。これが現実。


 ―――……仮想世界だけど、現実。



「――フレイヤさん、オッサン、フレイヤ、さん…… お、っさん……、ふれい…………」

 何かの呪文か? と思えるのだが、次にキリトの号令、半ば強引に言った『いくぞ!!』と言う言葉を訊いて、完全にその呪文は掻き消えた。表情は見えないが、覚悟を決めた様だ。

「まずは、ヤツの体勢を崩すぞ! 足に集中攻撃だ!!」
「おう!!」

 いち早く、キリトの二刀と、雷を帯びたリュウキの剣が、スリュムの脚を捉えた。
 睨んだ通り、リュウキの剣は ソードスキルを使わなくとも、雷属性の追加攻撃が付与されるらしく、追加ダメージが更に見込める。

「お、おのれ……!! 小虫がァァァ!!!」

 脚を攻撃されている筈なのに、雷撃が全身を巡る。それゆえに、スリュムはリュウキの一撃一撃を喰らう事に、僅かではあるが、動きを鈍くさせている様だ。

 トールにタゲをとっていたのだが、リュウキの攻撃は ヘイト値を貯める様で、タゲを変えられそうになるのだが、それをさせないのが、トールだ。

「最後の時は、近いぞ! 巨人の王!!」
「ぬかせぇぇ!!」

 トールの一撃が最もダメージが大きいらしく、スリュムはそれを無視する事は無かったのだ。

「レイっ!」
「うんっ!!」

 後衛として、控えていたアスナとレイナだったが、もう前衛に来ていた。
 魔法の杖を、レイピアに持ち替えていた。元々超一流と言える細剣使い(フェンサー)。最大集中攻撃の場面で、後ろで眺めているだけ……なんて、2人にしてみれば、有り得ない事だろう。

「どんな巨人だって、腱を狙えば――!」
「倒せるよっ!!」

 アスナとレイナの高速の突きが、スリュムの脚を捕らえた。重なり合う閃光は、正確にスリュムの脚を穿った。

「へっへー、そして~……!」

 その直ぐ下でメイスを構えているのは、リズだ。
 まるで、メイスを野球のバットの様に構えた。

「脚で、弱点……、て言ったら ココだよねっ! 小指ぃぃぃっ!!!」

 確かに、リズの言う通りだ。角で足の小指をぶつけた時の痛みは、きっと……誰しもが経験ある事だろう。ゲームでいう弱点(ウィークポイント)か? と言われれば YES! では無いが……。

「てぇぇい!!」
「やぁぁっ!!」

 丁度、膝の裏側を狙うのは、リーファとシリカ。
 シリカは、ピナのブレスと共に、シリカは 風の魔法をつなぎ合わせて放つソードスキルを放つ。がくっ! と身体が揺れるスリュム。所謂、膝カックン? 

「雷と神、それに剣か。……ん、雷神剣、って所か。……いや 少々安直か」
「確かにね」
「そこは声に出さないでくれ……」

 剣を構え、攻撃をしながら、安直である事を同意していたシノンに苦言をいうリュウキ。若干 命名しかけたのが恥ずかしく思えた様だ。

 だが、笑える程 余裕があるわけでは無い。


「羽虫共がァァァ!! 調子に乗るなァァァ!!」


 無防備で攻撃を受け続けてくれる程、スリュムは甘くない。
 トールの攻撃を受けつつも、重範囲攻撃である踏み抜き(ストンプ)を撃ち放った。
 攻撃に集中していた事、予備動作が圧倒的に短く見破りにくい事もあり、追加攻撃ナミング・インパクトも発生。

「っっ!?」

 踏み抜きは、回避出来たものの、追加攻撃のナミングは 回避し切れ無かったシノン。丁度、着地の瞬間に、その衝撃波がきたからだ。ダメージと硬直を覚悟したその時。

「シノンさんっ!!」

 レイナが、シノンを抱き抱える様に空中で抱え、そのまま跳躍して回避した。

「ありがとう、レイナ」
「ううんっ、大丈夫! 良かった、無事で」

 レイナは、片眼を瞑って、ウインクして応えた。
 だが、スリュムの攻撃が終わった訳では無い。

「猫がァ!! 共に、潰れるがよいッ!!」

 トールの攻撃や、他の全員の攻撃を受けているのにも関わらず、戦斧を振り上げ、レイナとシノンに目掛けて振り下ろしたのだ。

「っ、逃げッ!」
「ダメっ!? 間に合わない!」

 これまでに無かったパターンの連続攻撃。 初見でなければ回避出来たかもしれなかったが、不運としか言えないだろう。
 だが、レイナとシノンに刃が届く事はなかった。
 守ると誓った2人を狙った事、そして 比較的2人の傍に、彼がいたから、寸前で守る事が出来たのだ。


「………させるかよ!」


 例え、ゲームであったとしても、愛する人に攻撃を当てられる事は、背中を任せ、任されてきた大切な友に攻撃を当てられる事は、好ましくない、と思うのは当然だろう。

 雷が、まるで白銀の身体に纏ったかの様に、その性質まで取り込んだかの様に、スリュムと2人の間に入り、レーヴァテインで 戦斧を受け止めたのだ。

「ぐ、……!!」
「つ、ぶ、れろ……! 潰れろォォォォォ!!!」

 圧倒的に、体躯が違う。
 だが、それでも押し返す気概を持ち続ける。

「リュウキくんっ!」
「リュウキ!」

 庇ってくれているリュウキの姿を見て、直ぐに体勢を立て直そうとするレイナとシノン。

「リュウキ! 今……って」

 加勢に行こうとしたキリトの前に、クラインがいた。仁王立ちをしているかの様に、佇んでいたが、直ぐに動き始める。ゆっくりとした動き、そして、何かオーラの様なものを感じられた。


「(ああ、そうさ。オレは、騙されたとは思ってねぇ……)」


 スリュムのリュウキ達への攻撃を止めさせようとハンマーを振りかぶるトールを見て、クラインは思う。

「(………オレが、勝手に女神(フレイヤ)に惚れた。それだけだ――。今は、今は――仲間達の為に、そして――あんたにも、最後まで力を貸す。それが、武士道、ってもんだ)」

 強い決意を胸に秘めたクラインの眼に、光る何かを見た気がした。

 上段の構えのまま、跳躍し スリュムの右足目掛けて一閃。
 そして、戦闘中の様々な騒音の中に『ちっく、……しょぉぉーー』と言う声も聞こえた気がしたが……。それよりも。


「ぬ、ぐぅ……がぁ!」


 クラインの放った渾身の一撃が、こらえ続けていたスリュムに限界を齎したらしく、完全に片ひざを付く形になった。

 そのおかげで、リュウキへの攻撃もキャンセルされ、無事に3人とも脱出する事が出来た。

「やったっ、スリュムが……、スタンしたよっ!」

 リーファも歓声を上げる。

「へ?」

 クラインは、無我夢中だったからか、気づくのが遅れた様子だ。

「なーいす♪ 上段斬り!」
「助かったよー、クラインさんっ」
「ナイス、ガッツ」
「ああ。見事、だな」

 傍にいたリズが、クラインの肩を盛大に叩き、無事に脱出したレイナとシノン、そしてリュウキが感謝を伝えた。勿論、かばってくれていたリュウキにもレイナとシノンは伝えていた。

 
 そして、再び大ダメージチャンスの到来だ。スタンをして動けないスリュムに、全員掛りでソードスキルを大奮発。ダメージ量が見込める顔面部分にも等しく攻撃を見舞う。キリトとリュウキの2人は、スキルコネクトを繋げた。

「ぬぐああああ!!」

 最大数の攻撃が、スリュムの顔面にヒットして、爆炎に包まれる。

「っしゃぁ!」

 クラインはガッツポーズをするが……。

「いや……」
「まだだ!」

 手応えは確かに感じたが、あの量のHPを全て削りきったとは思えなかったリュウキとキリトが叫んだ。全員は硬直時間が発生し、満足に動けない。それは
スキルコネクトをした2人も同様だった。

「お、おのれぇぇ………、ゆる、ゆるさん、ゆるさんぞぉぉ!!」

 地の底にあと一歩の所まで来たと言うのに、まるで這い上がってくるかの様に、低く重い声が響く。

「この狼藉、万死に値する……、全てを、永遠に、凍りつかせて……!!」

 恐らくスリュム最大の攻撃、あの氷結の息吹が再び来る! と戦慄したその時だ。

 トールが、スリュムの口を強引に捻じ閉じさせた。そのまま、顔面を鷲掴みにし、スリュムを床に叩きつける。

「最後は、貴様は我が手で、引導を下す!! 誰にも譲るつもりは無い!!」
「ぬがぁぁ!! 雷神の小僧が、図に乗るなァァァ!」

 スリュムは、戦斧を構え、トールはミョルニルを振り下ろした。

「地の底に還るがいいッ!!! 巨人の王!!!」

 まさに雷鎚と言える天よりの雷。
 ずぎゃああっ! と言う凄まじい衝撃音が響く。
 その勢いのままに、スリュムの戦斧を叩き砕くと、その頭をも粉砕したのだ。


 流石のスリュムも、あの一撃を頭に受けたら、立つ事も動く事も出来なくなった様だ。その巨体は、大の字で倒れ伏したままになっていたが……、先程までの怒りの感情が消え失せたかと思えば、今度は先程の何倍も不気味と思える笑み、と呟きが部屋の中に響く。


「ぬふっ、ぬ、ふ、ふ、ふ 今は勝ち誇るがよい小虫どもよ……。だがな……、アース神族に気を許すと……、痛い目を見るぞ……」

 
 完全にHPは削りきっているのだが、スリュムは 徐々に凍結していくだけで、まだ身体は存在している。そしてその声も届いている。つまり――これは戦闘終了後のイベントだと言う事だ。


「彼奴らこそが……真の「ぬぅんっ!!!」」


 何かを言いかけたその瞬間、トールの巨大な足が、スリュムの頭を完全に砕ききったのだった。

 
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