真田十勇士
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巻ノ三十二 会見その二
「承りました」
「それは何より」
「では次にお会いする時は」
「はい、お互いにお会いしましょうぞ」
こう挨拶をしてだった、そして。
そのうえでだ、鳥居は二人にあらためて言った。
「ではお茶を如何でしょうか」
「茶ですか」
「はい、お別れする前に一服」
どうかというのだ。
「何でしたら」
「いえ、ご好意は有り難いですが」
丁寧な口調でだ、信之は鳥居に答えた。
「ここはです」
「そうですか」
「はい、その様に」
こう言うのだった、そしてだった。
彼等は別れた、信之達が陣を出るまでだった。
徳川の兵達は信之達に何もしなかった、微動だにせずに。
その彼等についてだ、猿飛は陣を後にしてからそちらの方を振り向いて言った。
「まさに何もであったな」
「うむ、全く動かずな」
由利が猿飛のその言葉に応えた。
「我等に一切手出してこなかった」
「強い目だけを向けておった」
「その強い目がな」
ここで言ったのは海野だった。
「凄かったのう」
「何十人か位では我等が勝てたが」
穴山もだ、陣の方を振り向いて言うのだった。
「軍勢同士の戦ならわからぬな」
「うむ、個々の戦と軍勢の戦はまた違う」
筧が穴山にこう返した。
「徳川殿の軍勢は軍勢の戦で真の強さを出す軍勢か」
「だとすると厄介じゃな」
望月は口をへの字にさせて述べた。
「敵の数の方がずっと多いだけにな」
「うむ、やはり楽な相手ではない」
清海も今回ばかりは楽観していない。
「城での戦は激しいものになるか」
「鳥居殿もです」
伊佐は敵将である彼のことを話した。
「敵である我等に毅然として接されていましたな」
「しかも礼儀正しくな」
ここでこう言ったのは根津だった。
「まさに武士であったな」
「さて、今は無事に終わったが」
霧隠の言葉もだ、楽観はなかった。彼の場合は常であるが。、
「やはり手強い相手か」
「そうであるな、やはり鳥居殿は真の武士」
幸村も言う。
「武士道を知り戦もな」
「強い」
「左様ですな」
「これまでは忍として忍の戦が出来た」
上田城に来るまでのこともだ、幸村は話した。
「だから充分に戦い倒せたが」
「それでもですな」
「武士と武士の戦は違う」
「軍勢と軍勢の戦は」
「左様ですな」
「そうじゃ、拙者もこれまでは忍として戦ったが」
しかしと言うのだった。
「この度は違う」
「武士として、ですか」
「戦われますか」
「軍勢を率いられ」
「そうじゃ、御主達もこれまで通り術を使って戦ってもらうが」
しかしというのだ。
「軍勢と相手にする戦であることはな」
「はい、承知しております」
「そのことは」
「では、ですな」
「この度の戦は」
「武士として軍勢と軍勢の戦をするぞ」
こう己の家臣達に告げた。
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