奈良の妖怪
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
1部分:第一章
第一章
奈良の妖怪
奈良県全域でだ。これ以上はない不気味な噂が広まっていた。
夜中にだ。不気味な、禍々しい角を生やした妖怪が街や村を徘徊して人を取って食うという噂である。実際に襲われただの見ただのいう噂が奈良県中に満ちていた。
こうした噂は中々消えないものだ。実際に今奈良県でこの話を知らない者はなく皆自然と夜の外出を控えるようになっていた。しかし中にはだ。
その妖怪が何なのか是非見てみようという勇敢なのか無鉄砲なのかわからない者もいた。この彼野沢慶彦もその一人である。
彼は自分のいる町でもその正体不明の妖怪か何かわからないものが徘徊していると聞いてだ。早速その正体が何であるのか確かめてやろうと思いたった。それでだ。
真夜中に一人金属バットに桃の木の木刀お札に十字架に大蒜、それに杭とハンマーというどの宗教でどの妖怪を退治しに行くのかわからない格好で町に出てだ。そのうえでだった。
町のあちこちを見回り妖怪を探したのである。真夜中のうえ怪しい噂のせいで人は誰もいない。コンビニの灯りだけが見える。しかもそのコンビニの中にも誰もいない。店員が寂しそうにカウンターにいるのが見えるだけである。実に寂しい有様である。
そのコンビニの中以外は誰も見えはしない無人の町を進んでいく。彼はその中で寂しいもの、怖いものを感じていた。だがそうしたものを何とか振り払い自分自身に怖くはないと言い聞かせながらさらに歩き回っていく。その彼がだ。目の前に見たものとは。
姿は漆黒だ。闇の中なのでその顔は見えない。だがシルエットだけは見える。シルエットは丸く頭が異様に大きな感じだ。その頭には噂通り角がある。
闇の中、月明かりに照らされて見えるその角は二本あり禍々しく曲がり何か蠢く様である。その角を見てだ。彼は確信したのであった。
ページ上へ戻る