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歌集「春雪花」

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 戸を引きて

  見なば朝霧

   立ち込めし

 君なき山里

    隠したりけり



 朝早く、外へ出ようと戸を開けたら、辺りに真っ白な朝霧が掛かっていた。

 隣の家さえまともに見えない程の濃霧…。
 無論…雪に覆われた田畑も遠くの山波も見えない…。

 それはまるで、彼が立ち去ったこの町の全てを隠すかのようで…何だか私を憐れむかのような霧だった…。

 見なければ思い出すこともないだろう…と、そう言われてるような気がしたのだ…。



 時を経て

  来るは君の

   去りし日の

 思へば侘し

     追いし年月



 時間ばかりがあっと言う間に過ぎ去り、もう彼が町を出てから一年が経とうとしている…。

 思い返せば、ずっと恋い焦がれ…ずっと淋しさと戦い…哀しみに耐えてきた侘しい一年であった…。

 時には諦めて誰かを好きになろうとしたが…全く無理だった…。

 心は彼を欲して止まないのだ…。

 だが…そんな彼を追い求める日々は自らの歳さえもとらせるもの…。

 愛されるはずもないこの恋に…いつ、終止符が打たれるのだろうか…。


 いつ…さよならを言わなくてはならないのか…。



 
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