あまごい
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天使と悪魔
悪魔の血を引く篠神 遼 (しのかみ りょう)
天使の血を引く清水 美影 (しみず みかげ)
これは決して相容れるはずのない、二人の高校生の物語。
遼(後ろの席、女の子だよな…。ちょっと話しかけてみよ。)
中学の頃から妄想していた俺の高校デビュー。爽やかに女の子に話しかける動作は500回程シミュレーションしただろう。
遼「ねえねえ、体育館めっちゃ広くなかった?うちの中学の体育館狭くてさ〜」
振り向きざまに自然な感じで話しかける。と、同時に右腕に強烈な痛み。
遼「いっつ…え、なに」
俺の右腕にアイスピックが突き刺さっていた。
遼「は⁉︎えっ、ちょっ…え⁉︎」
美影「あんた…悪魔でしょ? ここ、悪魔が来る場所じゃないから。後で絶対ぶっ殺す。」
そう耳元で囁かれ初めて気づく。
遼(こいつ…天使、か…)
その時ー
ガラガラガラガラ。
ドアが勢い良く開き、30代くらいだろうか、程よく日焼けした彫りの深い顔立ちの男が現れた。
遼(やべ、先生だ。)
俺は反射的にアイスピックを引き抜く。
先生「おーし、全員いるか?まずは入学おめでとう。そして私が君たちの担任、吉田だ。よろしくなーってええええええ‼︎‼︎‼︎‼︎
君、血吹き出してるよ‼︎ それ、血だよね⁉︎ 早く止血‼︎」
先生がティッシュ箱を掴み取りこちらへ駆け寄ってくる。
俺の腕からは勢い良く血が吹き出していた。
遼「あ、大丈夫です‼︎ ぼくもともと血圧が高くて…たまに出るんですよね‼︎」
俺はすぐに保健室へと運ばれた。
それにしてもなぜ突然刺されたのか。
確かに天使と悪魔は仲が良いものではない。天使を食おうとする悪魔が一定数存在してしまうために、争いは絶えないのだが
いきなり刺されたのは初めてだ。 手が滑っちゃったのだろうか?
悪魔なのでかなり頑丈に出来てはいるのだが、まあ痛いものは痛い。
血が止まり教室へ戻ると、黒板がぎっしりと文字で埋められていた。どうやら係り決めをしていたらしい。俺の係りも決まったのだろうか。
右端から探し始めるとすぐに自分の名が目にとまる。
「副委員長…篠神 遼」
いや、なんでだよ。
止血の間に俺はクラス2位の地位を手に入れた。
先生「おー篠神、腕は大丈夫だったか…?」
遼「あ、はい…」
先生「いきなりあんなの見せられて先生びっくりしちゃったぞ〜。がっはっは。あ、それと、すまんが君が副委員長に決まった。がはっ。
まあ委員長のサポートで実質仕事量は少ないし、頼まれてくれ。よろしくな。」
遼「は、はあ…。」
先生「ちなみに委員長は清水だからな。」
は⁉︎
先生「協力してクラスをまとめてくれよ!」
先生の言葉をかき消すかのようにチャイムが鳴る。
先生「清水、すまんが黒板を消してくれ。明日からは日直がやるから今日だけな。」
そう頼まれると清水は黙々と黒板を消し始める。
……
……
全然上届いてねえ‼︎‼︎‼︎
見兼ねた俺は立ち上がり、もう一つの黒板消しを手に取る。
遼「上は俺がやるからいいよ。」
これもシミュレーション済みだ。自然に言えたぜ。
美影「は? あんた悪魔の癖に何良い人ぶってんの? 」
美影の声には確かな怒りが込められていた。そしてポケットから例のアイスピックを取り出し言った。
美影「早く消えて。」
そうでなければまた突き刺すと、その目は語っている。
遼「ちょっ…普通に手伝おうと思っただけだし…」
美影は何も言わず、ただ尖状のものをこちらへ向けて立っているだけであった。
俺は大人しく席へ戻り、彼女の言葉を反芻していた。
「早く消えて。」
その言葉はついに寝床の中に入った後までもおれの頭を悩ませた。
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