| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  赤丸


「サクラぁあああ」

 泣いているいのを真正面から抱きとめ、戸惑った顔でサクラはシカマル、シノ、ネジ、テンテンへと視線を向けた。いのの手は怖いくらいに真っ赤だ。それが返り血であることはわかったけれども、一瞬びっくりした。

「いのは……九人の音忍相手に戦って、そしてそれ全員を殺したのよ」

 木に寄りかかり苦しそうなテンテンと、脂汗を流しながら地面に蹲って休憩を取っているネジが、泣いているいのの代わりに説明した。キバ小隊を追ってきた音忍を巻くために囮となり、トラップと心転身で五人を倒したこと。一度は危機に瀕した彼女を駆けつけたテンテンとネジが救い、残りの四人を捕らえたこと――そして手負いのテンテンとネジ、そしていのだけでは到底彼らを里まで引っ張っていくのは不可能と判断し、いのが残りの四人も手にかけたこと。

「そう……」
「怖かった……わ、わたし、人を殺したの……起爆札で。クナイで。あぁ、あ……!」

 サクラは震えるいのを抱きしめた。ネジやシノによると、キバ小隊は真っ直ぐ我愛羅達を追いかけているのだそうだ。そういうシカマル小隊は慎重も兼ねて少し遠回りなルートを通っている。

「いの。よくやったな」

 数分足らずの話し合いの結果、精神的に戦い続けるのは少し酷であろういの、重傷を負ったネジとテンテンは一旦マナとヒナタ、リーとユヅルのいる日向宗家に引き返すことになった。いのに近づき、シカマルはくしゃりとその頭を撫でる。

「あの時……考えてたの。シカマルや、サクラならどうするかって」

 ぽつり、と彼女のこぼした言葉にシカマルとサクラは息を呑んだ。赤い手袋でもはめたかのように真っ赤な手を握り合わせて、泣きながらもいのは言った。

「お願い……チョウジと、サスケくんを。キバと赤丸を。お願い……!」
「わかったわ」

 サクラが強く頷き、そして言った。

「いの、ありがとう」

 シカマル、シノと共に飛び上がる。友達としていのを励ますのは後でいい。今は忍びとして、木ノ葉を守らなければ。
 彼らは走り出す。里を守るために。仲間を守るために。

 +

「面倒なことに、なりましたねえ……」

 鬼鮫がぼやいた。イタチもそれに同意せざるを得ない。
 鬼灯弦月。角都ほどではないが彼女もかなりの高齢だ。ここまで生きながらえたからには当然それなりの経験も積んであるはずで、そして角都ほどに、もしくは角都以上に彼女は老獪だった(なんというか、なんだかんだ言って逃げ隠れせず正々堂々と戦う上に、手出しをしないと言ったら本当に手出しをしない角都とは違って、彼女は嘘つき且つ狡賢いのである。それが忍びの本質だと彼女は言うしそれはある意味真実なのだが)。
 そんな弦月が刀の群れと共に少しずつ自分たちを移動させているのには気づいていたが――彼女の仲間の、確か千手蓮助とか言う忍びに、薬師カブトというサソリのスパイらしい青年が三忍を二人もこっちに引っ張ってきてくれるとは思わなかった。
 どこかの赤シャツと違って彼らは一発で二人がうちはイタチと干柿鬼鮫であると分析し、蝦蟇と蛞蝓とでこちらに全力で戦闘をぶっかけてきたのである。早くサスケを探し出したい上、木ノ葉の忍びを極力傷つけたくないイタチとしては全く持って迷惑極まりない。その上、奴ら三人は全員いつの間にか消えているのだ。柄にも無く悪罵を吐き出したい気分を抑えながら、イタチは自来也と綱手をあまり傷つけないような理由をひねり出す。

「鬼鮫、あの二人を傷つけるのはやめろ」
「――何故です?」

 訝しげな顔をする鬼鮫に、イタチは淡々と、感情を押し隠して告げる。ポーカーフェイスならお手の物だ。

「第一に、一人ならともかく、二人となると俺たち二人では中々難しい――片方が医療忍者であるなら尚更な。第二に、俺たちが隙を見て二人の前から消えれば、二人の注意は必然的に大蛇丸に向く」
「成る程……大蛇丸の粛清も出来るし同時に木ノ葉も潰せるしで一石二鳥、というわけですね。了解しました。――となったら鮫肌でチャクラを吸うのはあまり得策ではありませんね……」
「鬼鮫、俺が合図をしたら霧隠れの術を発動してくれ」
「わかりました」

 言って、二人同時に飛び上がって距離を取る。綱手の拳が地面を打ち割り、巨大な蝦蟇がこちらに向かって突進してくる。

「霧隠れの術!!」

 鬼鮫が印を組むのと同時に、あたりが霧に包まれた。相手が弦月と舐犢だった場合は完全に意味のない術だったが、相手が自来也と綱手ならばわりと効果はある。イタチと鬼鮫は一時撤退した。

 +

 赤丸は遠くで何かの血腥い臭いを嗅いだ。死の臭いだ。自分も知っている臭いが三つある。赤丸は大好きな兄貴にそのことを伝えた。猪の臭いのする女と、忍具の鉄くさい臭い女と、日向宗家の屋敷の壁に塗られた膠の臭いのする男が、蛇の臭いを漂わせた男を九人倒したと。

「音忍が……倒されたみてえだ!」
「ホント!?」

 兄貴が嬉しそうにそう言えば、蝶の羽についている粉とよく似た臭いの男が顔を輝かせた。赤い血、べったべた。蛇の臭いのやつらはみぃんな死んだと、告げれば兄貴はもっと嬉しそうだ。

「しかも全員死んだみてェだ。それに、……ネジやテンテンとかって女も加勢に来たらしい」
「よかったぁあ……いのが無事で。しかもあの二人が助けにきてくれるなんてなあ」

 兄貴もその仲間もほっとしていることが伝わってきて、赤丸も嬉しくなった。ついでに伝える。鹿の臭いのする男と、蟲の臭いのする男、それからもう一人、汗と土の臭いを漂わせた女がこちらに向かって走ってきていて、あと少しで自分たちと追いつけそうということ。

「シカマル、シノ、それにサクラももう直ぐ追いつけるそうだ……と、言いたいところだが」

 赤丸が警告の言葉を発する。兄貴は頷いた。

「その前にちょっと戦闘になりそうだなッ」

 兄貴がクナイを投擲した。ガキン、と音がしてそれは弾かれる。見るとそこには、いつも重く悲しい臭いをさせている、うちは、という男が立っていた。そしてその前方には砂くさい奴が三人。

「チッ……テマリ、我愛羅は任せるじゃん」

 言いながら砂臭い奴の一人が、背負った人形に手をかけた。

「俺がこの三人の足止めするじゃん……!」

 砂臭い女は頷くと、一番やばい砂臭い奴を抱えて素早く走り出した。追いつくにはあの砂臭い男を倒すしかないみたいだ。うちはとかってやつが目を細める。赤丸は予選であの砂臭い男がぐにゃぐにゃする男にやった仕打ちを思い出して警告したが、兄貴は構わなかった。兄貴は数歩進み出た。

「いーや」

目を見開くほかの奴らと赤丸をよそに、兄貴は笑って言い放った。

「先に行け、サスケ、チョウジ。人形野郎め、テメエの相手はこの俺だ」

 赤丸は仕方ないな、と思った。兄貴がどうしてもやるって言うんなら。自分も従うしかない。
 
 

 
後書き
ここら辺ではまだはっきりとしていませんが、二部あたりになるとサクラやいのの忍びに対する考え方が原作とはちょっと違ってくる予定です。
赤丸視点練習。いずれ紅丸でもやる予定ですが、動物視点って楽しいですね。ぜひ一度蝦蟇視点、九尾視点でもやってみたいものです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧