どんくさいヒーロー
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第二章
「ビリの方で」
「そうだったんだ」
「皆から駄目だ駄目だって言われてきて」
「そうは見えないけれどね」
「自衛隊は出来ない人には厳しい場所ですよね」
「多分他の世界よりもね」
矢田も言う。
「そうかもね」
「はい、ですから」
「三尉もなんだ」
「同期からも色々言われていまして」
「僕もだよ」
矢田は笑って言った。
「曹候補学生の頃からね」
「言われてたんですか」
「同期からもね、何かとね」
「そうでしたか」
「それでね」
さらに言うのだった。
「今もなんだ」
「それでも誰にも八つ当たりとかしないですね」
「そういうことは嫌いだから」
「そうですか、それで部下にも」
「怒ったりしないっていうんだね」
「そうしたことはされないんですね」
「無闇に怒ることもね」
そうしたこともというのだ。
「好きじゃないから」
「だからですか」
「そうしたことはしないんだ」
「そうですか」
「うん、そうだよ」
「確か結婚されてますよね」
「子供もいるよ」
森下にこのことも話した。
「女の子が一人ね」
「娘さんにもですね」
「こんな感じだよ」
「そうですか」
「よく娘からもどんくさいって言われるよ」
職場でもというのだ。
「そんな風だよ」
「ですか」
「うん、けれどね」
それでもとだ、矢田は言った。
「僕は僕のやることをしていくよ」
「そうお考えですか」
「僕の場所でね」
「そうなのですね」
「駄目かな、それで」
「いえ、私もです」
森下も笑顔になり矢田に答えた。
「ずっとそうでしたから」
「防大から」
「そうでした、何も出来ませんでしたけれど」
彼女も所謂要領が悪く出来ない種類に入る、つまり自衛隊においては日陰者となる立場だからというのだ。
「今もですが」
「それでもだね」
「自分のやることをしていく」
「そう考えているんだね」
「はい」
その通りだというのだ。
「そう考えていますから」
「だからだね」
「同じです、私の場所で」
「自分の仕事をしていくんだね」
「それを果たそうと思っています」
「そうだね、そうあるべきだよね」
温和な笑顔でだ、矢田は答えた。
「自衛官、いや人は」
「はい、出来なくても」
「それでもね」
「やっていくしかないですね」
「そういうことだね、じゃあこの書類訂正していくから」
「お願いします」
「それでは」
こう話してだ、そのうえで。
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