FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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罪と犠牲
前書き
第三魔法源使ったシェリアは大人の姿になっていましたが、それを解放しかけたウェンディは子供のままだったような気がする。
もしかしてウェンディはあれで成長しきっているということなのか?はたまた第三魔法源を完全に解放しないと大人の姿にはなれないのか?
個人的に前者な気がする今日この頃。
シリルside
「シリル!!シェリア!!レオン!!」
「ラウもいるよぉ!!」
「ラウルもありがとう」
俺たちの後ろでウェンディが元気な声でそう言う。シェリアに抱かれている彼女は、さっきまでの厳しい表情から一転し、笑顔になっていた。
「ヒュー♪本物のヒーロー登場じゃね?」
一方、よくやく立ち上がったカミューニさんは俺の姿を見て茶化すような口ぶりでそう言う。あの人余裕なんだか無理してんのかわかんないんだよなぁ。茶化すのは恥ずかしいからやめてほしいけど。
「なんでシリルがここにいるの?」
滅竜魔導士である俺がここにいることがどういうことなのかわかっていないウェンディ。俺は彼女に一番分かりやすく説明できるように上空を指さす。
ウェンディは何かな?といった表情で見上げると、そこには二頭のドラゴンが激しくぶつかりあっているのが見えた。
「ナツさんに取られた」
「えぇぇ!?」
今上空で戦っているのは俺が先程まで戦っていたアトラスフレイムとナツさんが俺たちに呼び掛けた時に乗っていたドラゴン。ナツさんはアトラスフレイムの炎を食べるとか言ってたのに、いつの間にか共闘してるよ。一体どうなってるんだ?
「それで、シリルが余ったからウェンディの助けに来たの」
「城だと偉い奴守りながらだから大変かと思ってな」
シェリアとレオンがそう言う。偉い奴って・・・お姫様とかに対して失礼な言い方のような・・・いや、いいんだけど・・・
「ほほぅ。これはこれは・・・」
すると、完全に空気化していたジルコニスが突然現れた俺たちに視線を向けながら、口からヨダレをダラダラと流していた。
「また旨そうな嬢ちゃんらが増えたのぉ」
「・・・」ピクッ
一瞬いつものように突っ込みを入れてしまいそうになった俺は体をピクリと動かしかけて、そこで思い止まった。ジルコニスが言っているのはきっとシェリアのことだ。複数系ぽかったけど、それはラウルやレオンかもしれない。希望は捨てちゃいけない。絶対捨てちゃいけない。
「シリル、また間違えられたな」
「マイドン」
俺の隣に立っているレオンが俺の肩に手を置き、後ろにいるラウルにもそう言われる。
「いやいやいや!、今のはシェリアのことでしょ!?それにもしかしたらレオンやラウルのことかm」
「「「「それはないよ」」」」
俺が哀れみの視線を送ってくる二人に早口で捲し立てていると、レオンとラウルだけでなく、シェリアとウェンディにも突っ込まれてしまった。てかウェンディは俺のことそんな風に見てたのか!?ショック大きいよ!!
「なんじゃ。ずいぶん元気な嬢ちゃんだのぉ」
「嬢ちゃんじゃねぇ!!」
ジルコニスの奴、昔からこんなに口が達者だったのか。というか食べ物と会話するって本当に何なのかな?こいつ。
「もう怒った!!お前は俺が絶対倒す!!」
「やれるものならやってみよ」
俺の言葉に挑発するように返してくるジルコニス。おかげで俺はますます怒りがこみ上げてくる。
「シリル!!落ち着いて!!」
「相手の挑発に乗っちゃダメだよ!!」
今にも突撃しそうな俺に後ろから少女二人が冷静になるように呼び掛ける。そ・・・そうか・・・危うくジルコニスのペースにハマるところだった。
「大丈夫!!わかってるから」
「ダメだ。全然わかってないや」
「目に「殺」って書いてあるもん」
この上ないほど爽やかな笑顔をウェンディとシェリアの方に向け、冷静なことをアピールする。隣にいるレオンたちが何やら言ってるけど、俺には聞こえない。何も聞こえていない。
「んじゃ、とっとと殺っちゃいますか」
「俺・・・今のお前が人生で一番怖いわ」
ウェンディたちからジルコニスへと向きを変える。俺がウェンディにまで女みたいな発言されたのは全部ジルコニスのせいで。二度としゃべれないくらいまでボコボコにしてやる。
そう思い、レオンと一緒にジルコニスに戦いを挑もうとした時、
「きゃあああ!!」
初めて聞く女性の悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
突然の声に驚き、そちらに顔を向ける俺たち。そこには、ミラさんとユキノさんの間を通り抜け、アルカディオスさんと翡翠の色の髪をした女性に向かっていく大量の小型たちが見えた。
「危ない!!」
叫ぶだけで俺は動くことができない。今ここを離れたらウェンディたちに被害が及ぶかもしれないし、とてもじゃないがこの距離であの女の人とアルカディオスさんを助けるのは無理だ。
俺が諦めにも似た感情を抱えていると、彼女たちに飛びかかろうとしていた小型のうち、一頭の胴体に穴が空く。
「氷神・・・永久凍土」
小型の体を貫いたのはレオンだった。俺のすぐ隣に立っていたはずのその少年は、何食わぬ顔で二人のすぐ目の前にやってきていたのだ。そして、彼にやられた小型は、その衝撃で粉々に砕けていく。
「「「「「え・・・?」」」」」
目にも止まらぬ速度で小型を粉砕したレオンを見て、翡翠の女の人とアルカディオスさんにカミューニさん、それに彼の突然の変化を初めて見たウェンディやセシリーたちエクシードたちは、何が起きたのかわからず目を点にしていた。
「大丈夫?」
「は・・・はい・・・」
呆けている女性にいつも通り、飄々とした態度で声をかけるレオン。翡翠の女の人は、それにただ唖然としながら返事をすることしかできない。
「レオン!!まだいっぱい来てるよ!!」
疲れているのか、動きにキレがないミラさんとユキノさんの間を掻い潜り、小型のドラゴンたちが次から次へとレオンたちの方へと向かってくる。
「ミラさん、ユキノさん。コース空けて」
「「!?」」
それをラウルの声で確認したレオンは、頬を膨らましながら体を反転させる。彼に指示されたミラさんとユキノさんは、横へと移動と、レオンのブレスのコースを空ける。
「氷神の怒号!!」
放たれた黒き冷気。その威力は大きく避けていたはずの二人の女性の脇を掠めるほど広範囲に発射され、迫ってきていた小型はおろか、まだお城の前にやってきたばかりのそれらも一緒に消し去ってしまう。
「な・・・」
「バカな・・・」
「すごすぎ!!」
カミューニさんはレオンのパワーに顔をひきつらせ、リリーは自分の知っている彼との力の差に恐怖を感じ、ハッピーは自分の相棒であるナツの何倍ものブレスを放つ少年に目が飛び出るほどに驚いていた。
「おおっ!!ドラゴンと戦うよりこっちの方が断然気持ちいいぞ!!」
大魔闘演武の時は明らかに力を抜いていた・・・というか、抑えざるを得なかったレオンは、どのようにしても全く問題のない小型たちと戦うことで抑えていた力を解放することができているようで、気分が良さそうだった。
「これが・・・レオン様?」
「四日目までとまるで違うじゃない」
「す・・・すごい・・・」
最終日に覚醒を遂げたレオン。その彼を目の当たりにした女性陣は、彼の方を見つめ、動けなくなっていた。
「か・・・」
「ん?」
すると、シャルルが口元に手を置き、レオンの方を見つめながら頬を赤くさせている。
「「「「「かっこいい/////」」」」」
「「えぇ!?」」
その場にいる女性陣全員の声が被った。あれだけの攻撃を放ったにも関わらず、全く疲労しているように見えないレオンを見て、ミラさんやユキノさん、おまけにシャルルとセシリーまで見入っているのだ。
「そ・・・そんな・・・シャルルがかっこいいっていうなんて・・・」
それを聞いたハッピーはガックリと項垂れ、その場にorz状態。ウェンディも一瞬レオンに見惚れていたけど、すぐに頭を振るってこちらの世界に帰ってきてくれたので、俺は辛うじて、膝をつく程度のショックで済んでいた。
「いや・・・大分ショック受けてるように見えるよ?」
「言わないで・・・」
ラウルに肩をポンポンと叩かれる。だって俺、ウェンディにかっこいいなんて言われた記憶ないよ?なんでレオンが言われて俺は言われないんだよ・・・
「だ・・・大丈夫だよシリル!!私はシリル一筋だから!!」
「ウェンディ~!!」
俺の前までやってきたウェンディが可愛らしく微笑みながらそう言うので、彼女の足に泣きつく。ウェンディが戻ってきてくれてよかった・・・本当によかった・・・
「ちょっとレオン!!変なフラグ建てないでよ!!」
「?俺は旗なんか立ててないぞ?」
一方向こうでは、レオンに秘かに想いを寄せているシェリアが彼に慌てたように詰め寄っていた。今ウェンディから聞いたけど、あの翡翠の女の人はどうやらお姫様らしい。そのお姫様を超人的な能力で助け、なおかつ彼の本来の能力を知らない人たちにそれを見せつけたことで、シェリアはレオンが他の女性陣に惚れられるというフラグを建てたと思っているらしい。ただ、レオンはフラグを建てるの意味を知らないようで、とんちんかんなことを言っていた。てか、なんで厨二病とリア充を知っててフラグは知らないんだ?あいつの頭の構造が気になる・・・
「わかった!!あたしとレオンで小型を倒そう!!他の人はみんな疲れてるみたいだし」
「?あぁ。それで構わないけど」
シェリアはレオンには自分がいるのだと思わせるためなのか、そんな提案をしていた。焦りすぎだろ、あいつ。
「みんなはお姫様を守ってて!!小型はあたしたちで全部倒すから!!」
有無を言わさぬ口調でシェリアがミラさんたちに指示を出す。彼女たちはそれを了承し、お姫様のすぐ近くに集まってきていた。
「行くよ!!レオン!!」
「あぁ」
まだまだたくさん地上に放たれている小型。彼女たちは向かってくるそれに対し、いつでも対処できるように構える。
「シリル!!そっちは任せた!!」
「ウェンディもお願い!!」
「「わかった!!」」
小型はレオンたちが、お姫様の護衛はミラさんたちがやってくれる。なら俺たちは・・・
「ジルコニスを倒すぞ!!」
「うん!!」
水竜と天竜。幼い頃からの親友であり、恋人である俺たち。コンビネーションは抜群のはず。この勝負・・・絶対勝てる!!
第三者side
暗い表情で、何やら深く考え込んでいるかのような、そんな感じで項垂れながら歩いている一人の女性。彼女は先程までの態度とは打って変わり、ただ黙って戦場の中を歩いていた。
(世界を元に戻すには・・・ローグを殺すしか・・・)
過去からエクリプスを通じてこの時代にやってきたドラゴン。それらが街を破壊しているこの状況を打破するには、すべて原因である未来から来たローグをなんとかすること。ウルティアはそう考えていた。そして、その一番簡単な方法は、現在のローグを殺め、未来にローグが存在しないようにすること。ウルティアはそれをしようと、現在のローグが戦っている場所まで足を運んだ。だが、
『今のローグには何の罪もねぇだろ。殺す・・・とか、俺たちまで道を間違えるつもりかよ』
城の中でその話をしたとき、そばにいたナツのその言葉を思い出した彼女は、ローグを殺すことをしなかった。
すると彼女は、歩いていた足を止め、その場に崩れ落ちる。
(これが・・・私・・・)
歯軋りをさせ、手に力を込めるウルティア。彼女は現在のローグを一瞬でも殺そうと考えてしまった自らの心の邪悪さに押し潰されそうになっていた。
(思いとどまった・・・殺さなかった・・・だけど、そこじゃない・・・)
結果だけ見れば、ウルティアはナツとの約束通り、現在のローグには手を出さなかった。しかし、彼女にとって重要なのはそこじゃない。
(私は・・・何の罪もない人間を・・・殺そうとした!!極めて短絡的に・・・人の命を消そうとした・・・)
例え如何なる理由があろうとも、人を殺めることはあってはならない。ウルティアは、闇ギルドにいた頃、命令であったとはいえ、たくさんの街を襲い、人々を虐殺してきた。そんな彼女はグレイとの戦いで目が覚め、正しい道を歩んでいこうとしていた。
それなのに、今回・・・彼女はやってはならない罪へと、再び足を踏み入れかけたのだ。
(私はやっぱり変わってない・・・)
震える手のひらを見つめているウルティア。それに、不意に一滴の水滴が落ちてくる。それは、ウルティアの罪の意識を感じ取っての涙だった。
(何が魔女の罪よ・・・私の罪は・・・みそぐことができない・・・)
流れ落ちようとする涙を溢さないようにするためなのか、はたまた何かに思いを馳せているのか、ウルティアは赤く光る月が浮かぶ夜空を見上げ、ただその場に膝をついていた。
「行くよ!!ウェンディ!!」
「うん!!」
視線を交わし、同時にジルコニスへと向かって駆け出す二人の妖精。
「水竜の・・・」
「天竜の・・・」
「「鉤爪!!」」
シリルとウェンディ。二人の蹴りが同時にジルコニスの顔面に食い込む。
「おっ!!」
ジルコニスは小さいながらも、いい蹴りを放ってくる二人の幼子に少々驚いているようである。
「水竜の劔角!!」
「天竜の咆哮!!」
そんなジルコニスに対し、二人は間髪いれずに攻撃を行う。シリルとウェンディは地面に着地すると、少年は素早く水を体に纏わせ突進し、少女は彼に向かって風の渦のブレスを放つ。
少女の放ったブレスは先をいく少年を飲み込むと、彼女のブレスの特性である回転により、少年は体を何回も回転させてジルコニスへと頭突きを食らわせる。
「ぐっ!!」
それによって怯むジルコニス。それを見た二人は再び、タイミングを合わせて両サイドからジルコニスへと接近する。
「ぬっ!?」
すぐに意識を取り戻したジルコニス。彼は二手に別れた少女たちを見て、どちらを狙えばいいのか迷っていた。そして、その迷いが命取りとなる。
「水竜の・・・」
右側に回っていたシリル。彼の方が先に、敵に対しても攻撃体勢に入ったかのように見えた。
「そっちか!!」
それに反応し、シリルに意識を向けようとするジルコニス。だが、
「天竜の・・・」
「!!」
反対側からわずかに遅れて、ウェンディが魔法を繰り出そうとしているのが聞こえた。彼は先程一瞬とはいえ少女に意識が向いてしまっていたため、その声を聞き取れてしまい、ウェンディの攻撃も対処しようとした。
「「翼撃!!」」
「がああ!!」
その結果、双方どちらに対しても中途半端になってしまったジルコニス。彼は二人の抜群のコンビネーション攻撃により、地面へと伏せさせられる。
「やったわ!!」
「すごいよシリル~!!ウェンディ~!!」
その様子を見ていたシャルルとセシリーが大喜びといった表情で手を取り合う。彼女たちの近くにいたミラジェーンが、なかなか見ることができないシャルルのはしゃぎように思わず笑みを溢していたが、その視線を感じた彼女は急いで隣の茶色の猫の手を振り払っていた。
「いい連携だな」
「あいさー!!」
「ちっちゃい者同士、相手のことがわかるんだね!!」
奈落宮でナツともいい連携を見せたウェンディ。だが、それ以上にシリルとの連携は息があっているように感じたリリー。彼は抜群のコンビネーションを見せた二人を腕組みしながら感嘆の声を漏らし、隣にいる青猫とオレンジの猫耳の少年も同様の反応をしていた。
「氷結」
「やぁ!!」
二人の妖精が戦っている中、こちらでは限りなく年齢の近い蛇姫たちが、群がる小型を次々に撃破していた。
「あっちもあっちですげぇなぁ」
「本当ね」
ヒスイ姫を守るためにアルカディオスと共に彼女の近くに下がっているカミューニとミラジェーンが、シリルとウェンディに負けない連携を見せる彼らに驚きを隠せない。
「レオン様・・・魔法を変えたのでしょうか?」
彼らの隣にいるユキノは、四日目までの対決では見せることがなかったレオンの滅神魔法に目を見開いていた。なんといっても驚かされるのはその威力。他のものの攻撃では何度も繰り出さなければ破壊できない小型を、一撃で、それも複数粉砕しているのである。
「違うよユキちゃん!!あれが本来のレオンだよ!!」
「ゆ・・・ユキちゃん?」
そんな彼女にラウルがそう言う。ただ、彼女は少年にされた呼び方に思わず耳を疑わせており、肝心なところは聞いていなかったようである。
「氷の滅神魔法・・・まさか・・・」
「えぇ。彼があの噂の少年です」
ヒスイ姫を最も近くで守っているアルカディオスは、レオンの使う魔法を見てある噂を思い出していた。そしね、彼に守られている女性が、それを肯定する。
「やったのかな?」
「気を抜いちゃダメだよ。こいつらは・・・」
ジルコニスを倒したのか確信を持てないでいるウェンディとシリルは、不意討ちをされないようにと彼に集中を集めている。
「やるのぉ嬢ちゃん。見た目のわりになかなか・・・」
彼らのその気の入りようを感じ取ったのか、ジルコニスがゆっくりと体を起こす。
「耐久性がめちゃくちゃだから」
「そうだね」
普通なら倒されてもいいはずの攻撃を、先程から何度も放っているシリルたち。だが、ドラゴンの耐久力はまさしく驚異的で、なかなかそれを上回ることができない。
「しかし本当にうまそうだのぉ。だが」
ジルコニスは大きな腕を思いきり伸ばし、シリルとウェンディに襲い掛かる。
「ほっ!!」
シリルは持ち前の反射神経でそれを回避することができた。だが、ウェンディは避けきれず、その攻撃を喰らってしまう。
「きゃっ!!」
「ウェンディ!!がっ!!」
飛ばされるウェンディの方へ視線を落としたシリル。そんな彼も空中でジルコニスの払われた腕に捕まり、ウェンディと同じように飛ばされてしまった。
「いってぇ・・・」
「ここまで力があるなんて・・・」
体を起こしながら、痛む箇所を押さえつつ立ち上がろうとするシリルとウェンディ。そんな彼らを見て、ジルコニスは唇を舐めていた。
「そうじゃ・・・逃げられないように串刺しにするなんて良さそうだのぉ」
そういった彼は、自分の指につく長い爪を擦るようにして慣らす。そして、狙いを二人の妖精へと絞り込む。
「その腹に我の手を突き刺して食らってやろう。きっとうまいぞぉ」
自分を苦しめた少女たちを食らうこと。それがいつしか楽しみへと変化していたジルコニスは、まだ立ち上がってないシリルとウェンディに長い腕を伸ばす。
「ウェンディ!!」
「シリル!!」
「いかん!!」
「避けて!!」
エクシード四人組が大ピンチの二人に叫ぶ。さっきまではこのタイミングで誰かが助けてくれていた。しかし、もうこちらに戦力を裂いていられるほど、魔導士たちの戦況はよろしくない。
「シリル!!」
「ウェンディ!!」
小型と戦っていた蛇姫たちもそれに気づき、二人の名前を叫ぶ。
(くっ!!こうなったらこれしかないか)
自身の目前に迫るジルコニスの腕。まだ立ち上がっていない自分達を襲うそれを回避する方法はない。二人揃っては・・・だが。
(ウェンディだけでも逃がす!!)
何よりも先に、体が動いた。シリルは自分の最愛の少女だけでも生き延びてもらおうと、彼女を突き飛ばそうとした。しかし、
ガシッ
「「え・・・」」
突き飛ばそうとして出した手に、相手の手が絡まった。その理由は簡単。自分がしようとしたように、相手も彼を逃がそうとしたからだった。
両者が相手を思い、咄嗟に取った行動。だが、時にその思いやりが、悲劇を招くことになるのかも知れない。
「しま・・・」
「ごめ・・・」
二人とも予想してなかった展開に何もすることができない。手を取り合う形になった二人の妖精。彼らの体に、ドラゴンの爪が突き刺さろうとした。
だが、その瞬間・・・彼らの前に一人の男が割って入る。
ザシュッ
目の前で吹き飛ぶ一本の腕・・・それはジルコニスの魔の手から幼き竜を守ろうとした青年のものだった。
「っ・・・」
「「カミューニさん!!」」
ヒスイ姫を守るために彼女のそばにいたカミューニ。しかし彼は、ジルコニスの狙いがわかったその時に、彼らを守るためにここまで飛んできていたのだった。
「ほほぉ。一人増えたが・・・」
結果的に邪魔をされた格好となったジルコニス。だが、彼は何も慌てるようなことはしない。
「構わん!!三人まとめて食らってやろう!!」
カミューニものともシリルたちを食いつくそうと、再度体を貫こうとするジルコニス。
片腕がなくなったことで、体の均衡が崩れたカミューニ。彼は崩れ落ちようとする自身の体をなんとか踏ん張らせ、シリルの胸ぐらを掴む。
「生きろ、シリル、ウェンディ」
倒れかけのカミューニ。彼は掴んだシリルの体を無理やり横に投げると、彼の隣にいたウェンディへとぶつけ、彼の魔法である波動を放ちながら二人を吹き飛ばす。
「きゃっ!!」
「ぎゃっ!!」
投げ出された二人は地面に背中から落とされてしまった。が、そのおかげでジルコニスの攻撃範囲からは向け出ていた。
そして彼らを逃がしたカミューニの体に・・・
ジルコニスの指が突き刺さった。
「きゃあああああ!!」
「カミューニさん!!」
助けられた二人の妖精は、目に涙を浮かべ、絶叫していた。
(私にはもう・・・生きる資格がない・・・)
それと時を同じくして、青年と同じギルドのこの女性は、物思いに更けていた・・・
後書き
いかがだったでしょうか。
レオンがヒスイ姫に絶対に叶うことのないフラグを建てる。
それに対してシェリアが嫉妬する。ありがちかな?
そしてカミューニがシリルたちのためにやられました・・・
当初はシリルがウェンディを庇って~とも思いましたが、彼は天狼島でも大魔闘演武でも死にかけてますし、違うキャラがやられてもいいのではないかと思いましてこのようにしました。
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