貰った特典、死亡フラグ
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自分の流儀を貫いて
9話:あるよ、守りたいものなら。無くしたけどね
帰ってきてからどのくらい経ったのだろうか。俺はずっとサイファーの言っていたことを忘れずにいられないでいた。
『マリ・カーターが行方不明』
マリは俺が確かにこの手で殺してしまった。その時にはマリはもう死んでしまっていた。もしかしたら生きている、という楽観的なことはどうしても考えられない。きっと誰かに弔われていると思っていた。
『あんたが助けに来てくれて、嬉しかった……。でも、ちょっとだけなんだからね!』
ゲームの内容もまったく頭に入らない。とりあえず電源をつけてみたが、自動送り。ただの雑音程度でしかない。
「いったい、どうなってんだろ……」
死んだ人間が勝手に動くなんて、考えられない。いくらこの世界に魔法があったとしても、それは無理だろう。他には誰かが持っていったという可能性もあるが、なぜマリだけなのか説明がつかない。サイファーは知らないと言っていたし、本当のことだろう。あいつは嘘をつかない。
「探しに行きたいけど、どこを探せばいいのかわかんねぇし……、トーマ達のこともあるし」
トーマはついさっき目を覚ました。自己紹介だけはしたが、“エクリプスウィルス”についての説明はフォルティスとビルに任せた。説明役は俺ではないし、そもそもそんなことをしている心の余裕がない。
「どこにいるんだよ? マリ…………」
『現在、本機に向かって大型航空戦力が接近中』
「なんだ?」
これは管理局が来たな。特務6課か。原作なら戦闘になってたな。
『対象はLS級管理局艦船。識別名称“ヴォルフラム”』
「めんどくせぇ……」
だが、俺も出ないとダメだろう。“フッケバイン”が落とされることはないと思うが、万が一のことがあっても困る。
『フッケバイン乗務員、警戒通報。管理局艦船ヴォルフラムが接近中。先ほどから長射程魔導砲“アグウスト”による攻撃を開始。本艦へのダメージは無し。投降の勧告を送信してきています』
「仕方ないかぁうおっ!」
今、結構揺れた。恐らく、“主砲”を撃ってきたのだろう。“フッケバイン”の中和フィールドを抜ける、AEC装備。高町なのは一等空尉の“ストライクカノン”。
『機体上部に大型エネルギー反応を確認』
おっと、これはヤバイな。急がなければ、もしかしたら落とされるかも。俺という異分子がいるしな。何があってもおかしくはないと思う。
ガゴォンッ!と上の方から音がした。これは確か、“プラズマパイル”。
『機体外壁に接敵。破損箇所から内部に侵入されました』
侵入されちまったか。皆はと……。
「おい、フォルティス!」
「遅いですよ、ダレン。もう、侵入されています」
「皆は?」
「ビルとヴェイ、サイファーが迎撃に、アルは艦砲サポートです」
そうだろうな。アルが中で好き勝手に撃ってたら、“フッケバイン”が内部崩壊する!
「僕はステラについていますが、そうですね、ダレンは……」
「俺は相手の“主砲”潰してくるよ、聞きたいこともあるしね」
「それはいいですけど、大丈夫ですか?」
フォルティスは、マリのことで俺が気にしていると思っているのだろう。帰ってきてから、ずっと沈んでいたし。でも、やらなければなるまい。
「やるときはやるさ。捕まらない程度にね。“約束の日”もあるしさ」
「わかりました。気をつけて」
目標としては、“ヴォルフラム”まで行くこと。そして、“主砲”に話を聞くこと。俺の目的もあるから、絶対に“フッケバイン”は落とさせない。そう、例えどんな手を使ってでも。
●●
わたし、高町なのはが使っている、AEC装備はCW-AEC02X“ストライクカノン”。
「やっぱり、バッテリー消費が……」
バッテリーの問題は、AEC装備最大の課題。それでも、EC感染者にはこの装備でなければ、戦えない。
『なのはさん、緊急です! 上空から正体不明が接近中! おそらくフッケバインです、注意してください!』
「え!?」
見上げるとそこには、人がミサイルのように飛んできていた。
『接敵まで、約3秒前!』
それは、空中でクルンと一回転してから着地した。姿はジャージ姿の少年だった。
「時空管理局、本局武装隊航空戦技教導隊5番隊所属、高町なのは一等空尉ですね」
立ち上がりながら、その少年は言う。その顔は、どこかで見たことがあるものだった。確か……フッケバインが関わったとされる殺人事件の報告書。
「お初にお目にかかります」
息を吸い、ゆっくりと
「フッケバイン所属、近接武術師たまに遠距離、ダレン・フォスターです。そして」
その少年、ダレン・フォスターは右手にECディバイダーと思われる物を出しながら、
「EC兵器を扱う者、俗にEC感染者やEC因子適合者と呼ばれる者の1人でもあります」
そうだ、シグナムさんが言っていた、第14無人世界の開墾地で起きた殺人事件報告書にあった、行方不明の男の子!
「誠に勝手ながら、貴艦“ヴォルフラム”の主砲である貴女と話をしに、そして潰しに参上いたしました」
●●
(決まった……)
“ヴォルフラム”に着くまで、どんなことを言おうか考えていたが、これを言って正解だった。格好いいな、とは思ってたし。途中で噛まないか心配だったけどね。
俺がしゃべっている間に攻撃してこなかったのには、驚いた。優しいんだなぁ。けど、構えの姿勢は崩さなかった。やっぱり、俺の何倍も強いのだろう。俺が今まで戦ってきたのは、犯罪者に管理局員、そしてサイファー。もちろん、殺し合い。サイファーとは戦闘訓練をしたけど、俺の病化特性もあってか、本気で殺しにきていた。死ぬ危険が少ないから安心してやれる、だそうだ。物騒な女だね!
「えっと、ダレン・フォスター君でいいんだよね?」
「はい、そうです。高町なのは一等空尉」
敬語で答える。タメ口には抵抗があった。年上だし、原作キャラだし。フッケバインの皆は仲間だし、家族だからいいけどね。そして呼ぶときは、呼び捨てではなく、階級をつけて。いきなり敵に呼び捨てされたら嫌だろう。俺は嫌だ。敵にさん付けする人も少ないと思うけど。
「えっと、何で君がここにいるの?」
「は?」
なんでって、フッケバインのメンバーだから、と言えばいいのかな。
「事件の報告書読んだけど、たしか君って行方不明に……」
そういうことか。サイファーも俺が行方不明扱いだと言ってたし。よかった、なのはさん事件のこと知ってた。これなら、話を聞けるだろう。
「俺についてはどうでもいいです。それより、マリ……マリ・カーターが行方不明というのはどういうことですか?」
たとえ、捜査に関わっていなかったとしても、話くらいは聞いているかもしれないし、事件の報告書を読んだのならマリのことは知っているだろう。
「どういうことって? それに君、なんでフッケバインなんかに?」
なにか、俺のことについてゴチャゴチャ言っているが、そんなことはどうでもいい。今、一番大事なのはマリのことだけだ。それ以外のことなんて聞きたくはない。
「俺の質問に答えてください。マリが行方不明ってどういうことですか?」
声に少し、怒気を含ませて問う。
「マリ・カーターさんが行方不明っていうのは本当。捜索したけど見つからなかった……」
「そんなわけないだろ! マリは俺が殺してしまったんだ! なんで、なんでそんな……」
なんで、行方不明なんだよ……きっと、誰かに弔われているのだと思っていた。行方不明なんて、浮かばれねぇじゃねぇか!
「ちよっと待って。俺が殺したって何?」
「マリは俺が殺しました。“エクリプスウィルス”の殺戮衝動で。サイファーではなく、俺が。真実ですよ」
「マリと呼んでるってことは、親しかったのかな」
「そうです。この世界で、初めての友達でした」
そのマリを俺は殺してしまったんだ。管理局もマリのことについては捜査が行き詰まっているのか?
「他に何か知らないんですか!? マリのことは!」
「ごめんなさい。事件のことは機密事項だから、これ以上は教えられないの。君が事情聴取を受けてくれて、捜査に協力してくれるなら一緒に探せる。君とマリさんをきっと助けられる! だから、こんなことしてちゃ駄目だよ!」
そうか……。やっぱり、駄目だよね、こんなことしてちゃ。時間の無駄だったのかなぁ。
「そうですね、そうなんですよね。こんなことしちゃ、意味無いですよね」
「わかってくれて良かった。だからこっちに……」
「ええ、よくわかりました…………どうやら、貴女に聞いても、いや管理局員全員に聞いても無駄みたいですね」
「え……?」
希望は無くなった。どうやらこの人は、俺に逮捕されろと言っているようだ。しかしそれは、俺のこの世界での目的の崩壊を意味する。これ以上ここにいても意味はない。ならば、俺の目的を守るために行動すればいい。俺は俺の力でマリを見つけ出す!
「貴女に聞くことはもう、なにもありません。だったら俺は皆を守るために戦います」
本当に俺は自分勝手だ。聞くだけ聞いて、あとは戦う。けど、そうするしか道はない。俺は捕まるわけにはいかない。この人は優しい人だ。でも、戦いの中では意味はない。それは、俺がこの3か月で学んでしまったことだ。優しさは意味がない、なんて正に悪役が言う言葉だな。そうか、俺、犯罪者だっけ。
「貴女たちが管理局の正義で戦っているように、俺は俺の正義で戦います。話を聞いてくれて、してくれてありがとうございました。でも、俺達は捕まるわけにはいかないので、“主砲”を、貴女を潰します」
もう1人の“主砲”は後でいいだろう。まずは目の前の障害を。今日の気分は……手のひらにザックリと。
「リアクト。モード“剣鎧装”」
グチュッ!っとグロテスクな音が響く。神経を通して、刃が肉に食い込むのがわかった。
「待って、話をっ!?」
俺の両の手に現れるのは、二対の長刀。刀身はギザギザで、柄の部分には銃の機構。まるで、サイファーの武器みたいだ。そして、見に纏う鎧。
「話すことは何もありませン。話し合いはもォ、無駄です。ただ、俺達が捕まるわけにはいかないので、俺は戦います」
ガシャンッ! と頭のバイザーが降りた。
『ドライバーのリアクトを確認。戦闘形態へ移行。要請を確認、戦闘の補助を開始します』
青十字の書は準備万端。高町なのは一等空尉の方も既に構えていた。隙が全然見当たらない。やはり、この人は俺よりものすごく強い。
でも、負けるわけにはいかない。俺にも守りたいものがあるから……。
後書き
次回は戦闘。けど、すぐ終わるかもしれません。
そして、明かされる“約束の日”。
マリのことになると、周りが見えなくなる主人公。
リアクトのモードの名称のセンスがない自分。
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