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ミンホタ

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第四章

 それを入れた袋を手にだ、お婆さんにあらためて言った。
「じゃあこれで」
「彼女さんともな」
「仲直りしてきます」
「喧嘩してもな」
「仲良くですね」
「うむ、それがよいのじゃ」
「お婆さんもそうしてますか」
「うちの亭主とは六十年になるが」
 結婚して、というのだ。
「やはりな」
「仲直りはですね」
「ちゃんとしておるぞ」
「それで六十年ですね」
「今も一緒にやっておるわ」
「それはいいことですね」
「だから御前さんもな」
「はい、仲直りしています」
 こう言ってだ、そのうえで。
 ジュゼッペはその袋を持ってその足で交際相手であるファナ=タラゴサの家まで向かった。そしてだった。
 チャイムを鳴らしてまずはファナの母親と話をした、この母親とは馴染みだが黒髪を腰まで伸ばしたやはり黒い目の細長い顔に浅黒い肌をしている。
 背は高くすらりとしているが胸は大きい、切れ長のあだっぽい目をしていて眉は細く奇麗なカーブを描いている。
 その彼女にだ、ジュゼッペは言った。
「ファナいますか?」
「ファナから聞いてるわよ」
 母親はくすりと笑って彼に応えた。
「喧嘩したのよね」
「はい、実は」
「何か笠の柄がどうとかで」
「そうしたことで」
「やれやれね、相変わらず」
「下らないことで、ですか」
「喧嘩するわね」 
 こう言うのだった。
「若いうちは」
「まあそれは」
「ファナには言ってるわ、仲直りしなさいって」
「あっ、すいません」
「お礼はいいわ、とにかくね」
「今からですね」
「ええ、ファナここに来させるから」
 そうするというのだ。
「待っててね」
「わかりました」
 こうしてだった、母親は一旦家の中に入ってだった。
 そうしてだ、彼女と入れ替わりになる形でだった。その母親がそのまま十代の娘に若返った様な少女が怒った顔でジュゼッペの前に来た。外見は母親そっくりであるが目だけは違う。目はぱっちりとした大きな黒い目だった。目の色は同じであるが形が違っていた。
 そしてだ、こう彼に言ったのだった。
「お母さんに言われたわ」
「僕もだよ」
 ジュゼッペもその少女ファナに返した。
「仲直りしなさいってね」
「そうね、まあ確かにね」
 ファナも言うのだった。
「喧嘩したままでもね」
「よくないね」
「そう、だからね」
「ここに来たんだね」
「そうよ、お話しようって思って」
「そうだね、それでね」
「それで?」
「ご機嫌取りじゃないけれど」
 このことは断った彼だった。
「仲直りにってね」
「仲直りにって?」
「プレゼントだよ」
「私も今そういうの用意していたけれど」
「あっ、そうだったんだ」
「お互いにみたいね」
「そうだね」
 ジュゼッペはファナの言葉に頷いた、そうして。
 ファナは彼のその手にある袋を見てだ、こう言ったのだった。 
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