普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
132 【ガンゲイル・オンライン】
SIDE 《Teach》
「……っと、コンバートも無事完了──と…」
〝やって来ました【ガンゲイル・オンライン】〟──なんて冗談はそこまでにしておくとして、恙無く【ALO】からコンバートを終えた俺は【GGO】の首都である【SBCグロッケン】にインしていた。
……ちなみに直葉や稜ちゃん──ユーノを除く現実と仮想で親交のある人達には〝現実〟で【ALO】コンバートする事を伝えてある。……そして、そんな俺に倣ったのか──和人も菊岡さんの名前を使いつつ、近い内にコンバートする事を仲間内に伝えて回っているらしい。
閑話休題。
右を見てはどこかしらか、ハーモニカの音が聴こえてこないか気にして、左を見てはどこぞの──テキーラを持っている様な荒くれ者が吹っ飛んで来ないか身構える。……脳内でのおふざけが止まらない。
……世界観は前に軽く触れた通り、〝拳撃ではなく硝煙が燻る某世紀末な世界〟なので──俺もそんな世界観に早くも充てられたのか脳内おふざけが軽くオーバーヒートしているのだ。
(そう云えば、刀や槍を振るったことはあれど〝銃〟はあんまり使った事が無いな──ん?)
――「あのっ、ちょっと良いですか?」
【ガンゲイル・オンライン】と云うゲームの特色か──はたまた、たまたま今日の気象設定がよろしくなかったのかは判らないが、曇天に覆われた空を仰ぎ見ながら、感慨に耽っていると後ろに気配を感じ、立ち止まって後ろに振り向く前に──後方から透き通った声が掛けられる。
(チュートリアルイベントか…?)
先程までの俺はキョロキョロと辺りを見渡したりしていたので、〝明らかに〝初心者〟だと仮定できるだろう俺に声を掛ける〟──そんな酔狂な人物が気になり、立ち止まりつつも声を掛けられた方向である後ろを見てみる。
……そこには俺と同じくらいの背丈の少女が居た。
その少女からは〝命の音〟が聴こえていて、ユイとはじめて会った時の様な違和感──〝生きている生きていないように感じる〟とかみたいな矛盾した違和感はない。
……尤も、後ろに立たれていた時点でその少女からは〝気配〟を感じていたが…。
閑話休題。
取り敢えずその少女の属性を〝〝初心者〟に声を掛けるおせっかいなプレイヤー〟だと暫定して、チュートリアルイベントの可能性を排除する。
「さっき、このゲームにインしたばかりなんですよね?」
「……そうだが」
訝しみながら──とかでは無いがその少女を観察しつつ少女から問われた事に肯定。……どうやら俺の立ち振舞いは相当に〝初心者〟臭かったようだ。その辺りについては後々にはなるが反省しておく事を心に決めた。
「あ、いえ別にどうこうしようとか──そういうわけじゃないんです。……ただ、現実で彼氏にフラれて八つ当たり気味に狩りをしようとしてたところにレアアバターである貴方を見掛けたので声を掛けさせてもらいました」
現実で彼氏にフラれてしまったらしい少女は、彼氏にフラれた時の状況を思い出したらしく、そこから少女は訊いてもいない事を──悪く云えば愚痴をばら蒔き始める。……俺からしたら反応に困る──良い迷惑である。
「大体──な・に・が! 〝悪い。お前には付いていけなくなった〟──だって…? 【GGO】に誘ったのはお前だってのに、ちょっとばっかし私が強くなったら別れる…? ……はっ、そんなチキンミリオタこっちから願い下げですよーだっ」
「お、おう…」
(……ん? ……どこかで会ったような…)
止まらない少女のマシンガントークを右から左に聞き流していると、次第に少女の口調が崩れていく。ふと──ナゾの懐古感に見舞われたのはそんな時の事だった。……もちろん、そんな口調の女の子に会ったことがあるわけじゃない。
今の感覚を表すなら、その昔【SAO】内にて〝ヒースクリフ=茅場 晶彦〟の等式に──直感的に気付いた時の感覚に近い。……となると、俺はこの少女に〝現実世界〟で会った事があると云う事になる。それもただすれ違っただけ、とかではでななく──対面してある程度の会話したような人物。
……〝ヒースクリフ=茅場 晶彦〟に無意識下だが気付いたのは、〝茅場 晶彦と云う人物〟があまりにも〝ズレていて〟──特徴的だったからその等式を直感するのは難しくなかったが、この少女からはそこまで強い印象を受けない。
(〝裏表が激しい人物〟〝女性?〟──カットカット)
脳内で目の前の少女について検索していくが、リアルの詮索はマナー違反なので、俺もその少女に釣られたのか──横路に逸れていた思考を切り捨てる。……それからその少女を宥める作業に取り掛かるのだった。
………。
……。
…。
「君の名前は《Peaeh(ピーチ)》で、〝現実世界〟で彼氏にフラれてうらぶれているところに俺を見付けたと…。……そしてレアアバターな俺を、言い方はアレだが──逆ナンしたと…」
「止めて! 改めて相手から言われると、私の立つ瀬が無くなっちゃうから止めて!」
さすがに先程の人の往来がそれなりに激しい大通りから一本外れた細道に場所を移して、目の前で見事としか云い様の無い〝orzポーズ〟を見せてくれている少女──ピーチに、死体蹴りの様に事実を突き付ける。
……まだ落ち込んでいて、地面とにらめっこしながら綺麗な藤色の髪を地面に垂らしてしまっているピーチを見ていると、封印してしまって幾久しい嗜虐心が涌いてきそうになり、ピーチの頭に足を乗っけたくなるが──そんな悪癖は、直ぐ様彼方に捨てた。
(どうしたものか…)
話を聞いているに、ピーチはそれなりに【GGO】のプレイ歴が長いと云う事はなんとなくだが感じられる。……なので敢えて逆ナンされると云う選択肢も──水先案内人としてピーチに〝【ガンゲイル・オンライン】〟をレクチャーしてもらうと云う選択肢もアリなのかもしれない。
「あのさ──」
………。
……。
…。
逆ナンから始まった、〝俺にとっての【ガンゲイル・オンライン】〟…。……下の会話を見たら判るかもしれないが──結局のところ、俺はピーチに逆ナンされ、ピーチから〝【ガンゲイル・オンライン】と云うゲーム〟についてレクチャーされている。
「ここが現在地──【SBCグロッケン】」
「ほうほう」
今はゲーム内の地理をピーチから教えてもらっていて、やはりと云うべきなのか、〝現実世界〟で触り程度に集めた──〝ただの知識〟より、〝【GGO(こっち)】〟で経験者から直截聞ける──〝活きた知識〟は雲泥の差であった。
……〝百聞は一見に如かず〟──とは故人はよく云ったものである。
「……ティーチ君のこれからの展望は決まってる?」
「ああ。大体は──だがな。……だがまぁ、それよりも取り敢えずは武器を手に入れないとお話にならないだろう」
「それもそうだね」
ピーチの言葉からいつの間にか堅さは取れていてフランクな話し合いが出来ている。……一応断っておくがピーチには、俺に現実で彼女が居る事を伝えてある。それからと云うもののピーチは〝逆ナン〟から〝初心者へのレクチャー〟にスタンスを換えてくれた。
……どうやらピーチには〝おせっかい〟の他にも、〝お人好し〟の属性が付いているらしい。
「じゃあ武器屋に行こうか」
「了解」
二人して意気軒昂と武器屋に向かうのだが──あくまで俺は【ガンゲイル・オンライン】に於いては〝初心者〟である。その事を──〝お金〟が全く無いことに気付くのはそう時間の掛かる事ではなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
取り敢えずピーチからいくらか〝先立つもの(クレジット)〟を借りて武器ショップに突入。……するとそこには──さすがは〝銃の世界〟と簡単するべきなのか、ショーケースの向こうには所狭しと銃という銃が並んでいた。
(ふむ──っ! ……〝これ〟は…)
じっ、とショーケースを流し見ていると、〝ピン〟とくる武器をショーケースの端の方に見つけた。……〝その銃〟は今世、前世、前々世を含めて初めて買ったモデルガンと同型だった。
……前々世の思春期に──確か中学生くらいの時に、一時期皆してサバゲーにハマって〝その銃の愛称〟が思春期特有の感性──俗に云うところ〝厨二精神(チューニ・スピリット)〟を擽ったものである。
「よし決まった」
「“Vz61”か…。良いと思うよ? ……えっと、確か──≪スコーピオン≫が愛称だったけ?」
ピーチが言った様に、俺が手に取ったのは小ぶりな機関銃──“Vz61”と銘打たれた短機関銃。≪スコーピオン≫とな愛称の由来は、銃床を折り畳む際、前方に持ち上げて回転させる様子が〝尾を振り上げる蠍の姿〟を連想させる事に起因しているらしい。
……ちなみに銃としての仕様は以下の通り。
――――――――――――――
種別:短機関銃
口径:7.65mm
銃身長:112mm
使用弾薬:32ACP弾(7.65×17mm弾)
装弾数:10・20・30発
作動方式:シンプルブローバック・クローズドボルト
全長:270mm(517mm)
重量:1,280g
発射速度:750―850発/分
銃口初速317m/s
――――――――――――――
「〝能力構成〟はもう決まってる?」
「ああ。能力値は取り敢えずは無難に〝DEX〟〝AGI〟に──技能は“軽業”と“弾道予測拡張”に振って、〝走るガンナー〟を目指すつもりだ」
「うわ、夢が無い…」
ホクホク気分のところ、ピーチにそう訊かれたので、考えていた事をそのまま口にしたらピーチにドン引きされたのはご愛敬か。
……その後は、ピーチが現実での用事を思い出したらしく、ログアウトする前に明日また会う約束をして──ピーチから〝ギャンブルの出来る場所〟を訊いてからその日は解散した。
SIDE END
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