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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  131 ユーノとの暗談

SIDE 《Teach》

視界の端にある時計を見たら、時刻は22時20分となっていて、待ち合わせ場所に行けば先客が居た。

「待たせた」

「うん、待ってた」

待ち合わせていた人物──ユーノと当初待ち合わせていた時間より、誠に申し訳ない事に1時間以上もユーノを待たせてしまっていた。……当然、1時間半近くも待ちぼうけを食らっていたユーノも良い顔をしていない。

ユーノとの待ち合わせに指定した場所は〝新アインクラッド〟内の、1層。≪異界竜騎士団≫のギルドホームが在った──思い出深い場所でもある。

俺とユーノは【SAO】から引き継げたコ
ル──【ALO(こちら)】で云うところの、ユルドを出しあって、〝新アインクラッド〟その日その場所にプライベートホームを購入した。……恥ずかしがらずに云えば──俺とユーノ、時々ジェミニアにとっての〝愛の巣〟でもあった。

……しかしながら、ある意味贅沢な悩みとも云えなくもないが、問題もある。……≪異界竜騎士団≫は最終的に21人のプレイヤーが在籍していた。なので、ユーノ──そしてジェミニアと暮らすには(いささ)か広すぎる様な気がしないでもない。

閑話休題。

「菊岡さん──もといクリスハイトに捕まってたんだよ。……とは云っても遅れたのは確かだ。それについての(なじ)りは甘んじて受けよう」

「やっぱり(おとこ)らしいね。……その〝漢らしさ〟──嫌いじゃないよ」

サムズアップとウインクと云う──〝漢らしさ〟と〝可愛らしさ〟と云う二つの相反してそうな所作を、纏めて()せた黒紫の髪を揺らす〝闇妖精(インプ)〟──もといユーノ。……いっそ〝倫理コード〟を解除してこれからシケ込みたくなるが自重しておいた。

……仮想空間内とは云え、(ねや)で話すにはあまりにも無粋と云う事もある。

「【ガンゲイル・オンライン】を知っているな?」

「うん」

(……やっぱり〝原作イベント〟か…)

幾つかは判らないが──ユーノは〝俺がするだろう質問〟予想していたようで、俺の問いに間髪を入れず肯定する。……そしてそのユーノの語り方から察するに、これまでの一連の流れは、〝原作イベント〟だと半ば確信した。

これまで【ゼロの使い魔】──と、もしかしてもしかすると〝【幻想郷】に繋がる世界〟では〝原作イベント〟とやらには知らず知らずの内に関わってきた。きっと今回の場合もそうなのだろう。……だが、〝ユーノ(まどか)には〝そのイベント〟が終わるまでは詳しい話は()かない〟──と云うのが俺の中に不文律として存在している。

〝〝原作知識〟が必要である理由〟を道筋立ててユーノに()けば──良い顔をしないだろうが、ユーノは〝知識〟を開帳してくれるだろう。……もちろん、〝原作知識〟に興味が無いと云えば嘘になる。

……しかし俺は、それを強くは望まない。何が楽しくて自分から〝要らない責任〟を背負おうと云うのか。……〝原作の知識(かのうせいのせかい)〟なんて重大なモノ、俺は出来れば背負いたくないものである。

ユーノもユーノで、本当に大変な場合──〝明日にも世界が終わる〟とか云う状況でも無い限り、知識をひけらかさないのも知っているし──もしもユーノが〝知識〟を使う場合は、もっとさりげなく使っているのも何となくだが判っている。……付き合いはそこそこ長いから。

「さて、〝今回の件についての概要〟を聞こうか。代金は俺の武器(やり)と全ユルドでどうだ? ……ストレージを圧迫する様だったら〝メイン〟以外は売り払って構わんぞ」

「あははははっ。……だったら、まず〝どこまで〟菊岡から聞いてるか教えてくれないと〝どこまで口を滑らせてしまったらいいのか〟判らないよ」

メニューからトレード画面呼び出し、ユーノに茶番劇を交えながら主武器(メインアーム)と幾つかの装飾アイテム、全ユルドを譲渡する。……コンバートでは【ALO】の通貨である〝ユルド〟や武器(アイテム)は【GGO】には持ち込めないからだ。

……アイテムに指輪等の装飾品くらいなものだし──予備武器(サブウエポン)にしても、主武器(メインアーム)に比べれば幾らか等級が下がるのでストレージを圧迫する様であったら、売却しても構わないとな(むね)の言葉も伝えておく。

「……菊岡さんに聞いたのは【GGO】の中で少なくとも2人──ゼクシードと薄塩たらこだったかが撃たれて、現実でも死んでしまっていた事くらいか」

「真人君の所感での犯人像はどんな感じ?」

「……いろいろ考えはしたが、俺の所感──ってよりは妄想に近い想像では〝AGI偏向型アンチアンチ〟と云ったところか。……あとはそこに〝住所の入手方法を知っている〟ってのが加わるが──そこはまぁ要検証要考察、だな」

あくまで妄想でしかなく、あまりに飛躍した内容だったので、菊岡さん達には伝えづらかったが──少なくともゼクシードの語りぶりからすると、ゼクシード自身は〝AGI偏向型アンチ〟だったと云う事は予想出来た。

……そこまで語るとユーノは呆れた様な表情で力無く頷く。……どうやら中々いい具合に俺の推理は当たっていたらしい。

そしてユーノは口を開く。

「住所──って、なんで住所の入手が必要かと思ったのか()いてもいい?」

「……〝住所云々~〟についてはほぼ確信。要は前世──俺からしたら前々世で読んでいた【DEATH NOTE】の〝あのノート〟と一緒で、対象の人物を殺すには〝ある程度の情報〟が必要と推測した」

ゼクシードにしろ薄塩たらこにしろ〝致死〟から〝死体発見〟までの時間が空いていると菊岡さんから聞いていた。……つまり以上の二人は一人暮らしに近い状況だったと云う事になる。

……それなら、家に誰かが居る時にインするようにすれば良いし──(むし)ろ俺が手ずからに強化した〝升田邸(うち)〟の防犯システムを掻い潜れる下手人が居るのなら、その方法を伝授してもらいたい。

「……その様子じゃあ〝当たらずとも遠からず〟──と云ったところだな?」

「はぁ…。……何て云うか──流石だね」

「っと──恐縮だ」

ユーノはカマを掛けられていた事を悟ったのか、また呆れた様な表情で頷き──そのまま項垂(うなだ)れそうになるのを支える。

……そして、そんなユーノを見ながら俺は更に、足し忘れていた事を付け加える。……それがある意味俺の語りたい推測の〝キモ〟でもあったから。

「〝〝現実(リアル)〟にまで届く〝虚構(ゲーム)〟の弾丸〟──そんな非科学的なものがあったら、今頃【GGO】の〝AGI偏向型アンチ〟の有力プレイヤーの殆どは、物も言えない死体になってるだろうさ」

……俺とユーノはその〝非科学的な存在〟──〝転生者〟だったり〝魔法使い〟だったり〝炎術師〟だったりするのだが、もちろんの事ながらその辺については棚上げである。

閑話休題。

〝そうなってない〟と云うことは殺人至るまでには幾つかの過程が必要で──そうなると、いっそ〝住居に侵入して、アミュスフィアを被りながら寝ている対象に(なにがし)かする方が現実的である〟。

……少なくとも〝〝現実(リアル)〟にまで届く〝虚構(ゲーム)〟の弾丸〟なんかよりは──と云うのが、今の俺がユーノに語れる最大限の推測。

「……それなら〝菊岡さんが依頼した〟キリトにくっついてれば、(おの)ずと答えは出そうだな」

「ふふ、それもそうだね。……あとはボク言える事、か──あ、ところで話はあまり変わらないけどさ、ティーチ君は5年前くらいの〝〝少女A〟が薬中を殺した〟って事件は覚えにある?」

(あれか…)

ユーノからのいきなりの質問に2020年──2025年の今からして5年も前の事件思い出す。〝10歳かそこらの少女が、薬物中毒者(ドラッグジャンキー)を射殺した〟──とな概要の事件で、当時の世間に一大センセーショナルを巻き起こした。

……当然その少女の名前が公表される訳でもない──が、今も昔も〝ネットワーク〟と云うものは5年も前のその当時から広大かつ深遠で、〝少女A〟の名前こそ出なかったが年齢や性別なんかは簡単に調べられてしまった。

ニュースで連日報道されていればさすがの俺にもちょっとした野次馬根性が沸き上がる。……検索エンジンに事件の概要を打ち込んでしまうと云うのは仕方の無かった事だと自己弁護していた。

……〝していた〟──と云う論調の通り、それは過去の話であり、今として思い出すのは、面白半分に検索してしまった俺への強烈な〝自己嫌悪〟と、唾棄(だき)したくなる──当時のネットに書き込み。

おおよそ人に向けられるべきでない言葉の数々。……〝偽善者〟とな(そし)りを受けようとも、〝火消し〟を(はか)ろうとした時──気が付いたらマウスを握り潰していた。右の(てのひら)がぐちゃぐちゃになっていた。

……その傷痕は自戒の意味を込めて今でも現実(リアル)の右手の中に残してあったり。

「……あー、確か郵便局かなんかで銃で──っ」

過去に記憶を馳せながら右手をグーパーさせていると、ユーノが何やら胡乱(うろん)な視線を向けてきたので、場を繋ごうと口を開けば俺の頭の中で、ばちりっ! と──〝ナニカ〟が繋がった気がした。

……まず、当然のことながら、ユーノの語り振りからして〝≪死銃(デス・ガン)≫=〝少女A〟〟とな、簡単な等式と云う訳でもないだろう。……(むし)ろこの場合は、〝少女A〟が≪死銃(デス・ガン)≫の事件に巻き込まれる可能性がある──と云う事だ。

「もしかして、被害者の方か…?」

「……こういう時は〝君のような勘の良いガキは嫌いだよ〟──って云えば良いのかな? ……まぁティーチ君の言う通り、キリトと一緒に〝BoB〟に参加してれば、ティーチ君なら(うま)くやれるはずだよ」

「出たよ謎の信頼」

「信頼されるだけの事を積み重ねてきたのはティーチ君だよ。……後は〝哄笑(こうしょう)の残響〟にも注意しておけば大丈夫」

(〝哄笑の残響〟…?)

聞きなれない言葉だったが、ユーノは意を決した様に俺の手を引きベッドルームまで連れ立つ。

胡乱気な俺を他所に、ユーノは装備フィギュアを次々と解除していき──(やが)て下着姿となる。

「あのー、ユーノ=サン?」

ユーノのいきなりの行動に目の遣り所に困り、目線を泳がせていると、[23時38分]とな文字列があった。どうにも、1時間以上ユーノと話し込んでいたらしい。

「これはボクを待たせたティーチ君への罰でもあるんだよ。……眠くなったら寝落ちする。……だからさ──たまには一緒に居させて」

「……〝罰〟なら仕方ない──よな?」

「うん、〝罰〟なら仕方ないね──ん」

その後はもう言葉なんか要らなかった。

SIDE END 
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