普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
130 異邦の罪科
SIDE 升田 真人
「へぇ、〝最強の【GGO】プレイヤーを決める大会〟──〝Bullet of Bullets(バレット・オブ・バレッツ)〟ねぇ…」
菊岡さんに【ガンゲイル・オンライン】──略称【GGO】の調査を任された午後。早速【GGO】の情報を公式サイトを始めとした日本の攻略サイトまで出来る限り情報を浚う。
……すると今俺が溢した〝Bullet of Bullets(バレット・オブ・バレッツ)〟──略称〝BoB〟の事の他にも幾つかの情報が集まった。
【GGO】──【ガンゲイル・オンライン】とは俺と和人、アンドリューがネットの世界にばら蒔いた“世界の種子(ザ・シード)”から生まれた世界──〝VRMMORPG〟の1つで、その世界観を簡潔に云うなれば〝拳撃ではなく硝煙が燻る某世紀末な世界〟と云ったところか。
サーバーはアメリカと日本にあり、〝ザスカー〟なるナゾの企業によって運営されている。アメリカ製ゲームだが、日本のサーバーには日本人スタッフがいるらしく、公式サイト・メールなどは英字であるがゲーム内は日本語で表示されているらしく、日本人も普通に遊べる模様。
前に菊岡さんがぽろり、と言っていたように接続料は3000円程度と──他のVRMMORPGと比べると割高だったとしても、日本内ですらそれなりに人気があるのは、主に2つ要因がある様だ。
〝ゲームコイン現実還元システム〟と云うシステム──ゲームで稼いだ金銭を〝現実に電子マネーとして1/100レートで還元出来てしまうシステム〟と、〝ごく稀にレアな武器が手に入る事でそれを換金すれば現実世界で数十万という金額が手に入るシステム〟があるのが主に大きな要因だと推測。
……つまりは、〝ゲームで生計を立てられるようになるゲーマー垂涎のゲーム〟──と云う事にもなる。……実際、〝トッププレイヤー〟と呼ばれる人種は月に20~30万円は稼いでるらしい。
「さて、と」
伸びをする様にパソコンから顔を離し、〝机に置かれた【ガンゲイル・オンライン】のソフトを見ながら〟椅子の背凭れに背中を預ける。その時、背中からと小気味の良い音が聞こえたので、公式サイトの和訳などで──相当時間を食ってしまった様だ。
(……で、いつインするか…)
俺が和人より先に【ガンゲイル・オンライン】のソフトを持っている理由は、昨日行われた──和人が明日奈とのデートの約束で抜けた後の、〝俺と菊岡さんだけの二人きりでの意味ありげな話し合い〟で有った菊岡さんからの提案に起因している。
取り敢えず【ガンゲイル・オンライン】に関する情報を纏めた俺は、菊岡さんにメッセージを送っておいた。
[和人を【GGO】に送るなら〝BoB〟──【GGO】内のトーナメントが開かれる12月13日までにしておいた方が良いかもしれない。俺が≪死銃(デス・ガン)≫がなら動く]──と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「真人君、少し時間は取れるかい?」
和人が「明日奈との待ち合わせがある」と言って離脱した、菊岡さんとの会談場。……俺も乃愛との待ち合わせが──【ALO】の中でだがあったので、手付かずだったシュークリームを口の中に放り込み、和人に倣って俺も席を立とうとした時菊岡さんに呼び止められた。
……どうにも、菊岡さんは和人には聞かせられない──〝楽しい話し合い(意味深)〟をしたいとみる。
「……俺も乃愛──と云うかユーノと待ち合わせがあって時間は圧してるんだが…。……時間が掛かるみたいだったら、乃愛に連絡を入れさせてくれないか?」
「……時間は割と掛かると思うし、乃愛さんにもそれなりに関係が有る話だから構わないよ」
〝乃愛にもそれなりに関係が有る話〟だと菊岡さんから聞いて首を傾げかけるが、まずは乃愛に一報を入れようと乃愛へと電話を掛ける。……すると乃愛の近くにケータイが在ったのかは判らないが、すぐに話が繋がった時特有の感覚がした。
『どうしたの、真人君?』
「……あー、乃愛か? 悪いな。今日はちょっとばっかしインするのが遅れそうだ。……〝昼行灯眼鏡〟に逆ナンされててな」
『……もしかして菊岡?』
「大体そんなところだ。……あ──それと、後で話したい事もあるから、午後9時にいつもの場所で待っててくれないか?」
『……今日の〝狩り〟はお休みになるみたいだね。……判ったよ。いつもの場所で待ってるね』
通話時間にして48秒の短さで、乃愛からか俺からかは判らないがほぼ同時に電話が切られる。遅れそうになった理由を簡潔に──かつ、捕まった相手について歪曲に述べると、乃愛は容易く直ぐに俺の言葉の真意を見抜く。
……その辺りを類推するに、〝今回の件〟は〝原作イベント〟──だろうと云う事も推測する事も出来る。……それか、〝昔馴染み〟故の〝阿吽の呼吸〟とも言い換えられるかもしれない。
「時間を取らせて悪かったな、菊岡さん」
「いや1分も掛かってなかったみたいだからそこらへんは良いんだけど…。……〝昼行灯眼鏡〟──って中々酷い言い種じゃないかな? 〝人でなし〟君?」
「……俺が〝人外〟なのはある程度は自覚しているが──それを無しにしたとしても、乃愛は〝昼行灯眼鏡〟で菊岡さんだと気付いたんだが…。その辺りを菊岡さんの普段皆と接しているスタンスについて物申したいね」
「ははは…。これは手厳しい」
適当に菊岡さんに軽口を叩けば菊岡さんも菊岡さんで、俺を〝人でなし〟と揶揄してくるが、俺はそんな菊岡さんの揶揄を棚にあげる。……すると菊岡さんが乾いた苦笑を漏らしたので、〝勝利した〟──と、しょーもない征服感に意味もなく浸る。
勿論、俺がこれでも自重している方だと云う事を言外に菊岡さんに述べておくの忘れない。……あくまでも〝ある程度〟でしか無いが。
「……で、話を戻すけどさ──いや、この場合は〝気になっていた事を訊きたくなったから〟と言い直した方が良いか」
「和人に聞かせない方が良い事なのか?」
と──和人が退席してから、菊岡さんのムードが変わっていたことから類推した上での推測を投げ掛けてみれば、菊岡さんは小さく1つだけ頷いてみせる。
これまでの事で判っているのは、〝乃愛にもそれなりに関係が有る話〟〝和人は聞かい方が良い事〟──以上の2点で、それらの共通因数を含んでいる質問は割と多いので、内心で軽く身構える。
……例えば、〝〝平賀 才人〟と〝ユーノ・ド・キリクリ(まどか)〟の嬉し恥ずかしなあれそれ〟とか。
もし何か──ミネルヴァさんの悪戯とかでユーノと乃愛の記憶が合致されていて、その記憶の一部──専ら閨での語り合いが乃愛の悪戯で菊岡に流れていたら、遠き地にて闇に沈んでしまいたくなるだろう。
(いやだなぁ…)
そんな可能性が低い──それこそ万に一つな可能性の凶事に憂いながら、菊岡さんの次の言葉を待つ。
……もしこれで菊岡さんの口から〝ユーノとの嬉し恥ずかしなあれそれ〟な──赤面確実モノの言葉聞こえてしまったら、俺が手ずから〝この世界〟を終わらせる呪文を唱える事も辞さないだろう。……主に“マダンテ”や“アルテマ”とかで。
閑話休題。
「……真人君は人を殺めて、どうしてそう──平然としてられるんだい?」
軽口の掛け合いも──勝手な杞憂でダウナーになるのもそこらとして、いきなり佇まいを改めた菊岡さんから投げ掛けられたのは、〝俺にとっては今更〟な質問だった。
そして、確かに和人には聞かせにくい話でもあった。そこら辺を慮ってくれた菊岡さんには一応の感謝として、〝昼行灯眼鏡〟──なんて揶揄は、大して面白くも無い状況に限り使わない事にした。
……裏を返せば、〝面白い状況〟が有ったらその限りではないと云う事にもなるが。
(……ふむ、どう答えたものか…)
「カウンセリングの人が言っていたよ。……【SAO】内で≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の首魁を意図的に殺めた時の場景について訊ねられた時、カウンターからの質問に動揺もせずに答える様は機会みたいだったと…」
どう答えようか頭を捻っていると、菊岡さんはまた──そう註釈を添えながら問い質してくる。……【SAO】から脱出した俺達〝生還者〟は、当然そのまま元の暮らしに戻れると云う訳でもなく、カウンセラーからそれなり手厚いカウンセリングを受けた。
……そして俺はそのカウンセリングの際、訊かれた普通に答えていただけのつもりだったが、カウンセラーからしたらその〝普通さ〟が歪に診えてしまったのだろう。
「……俺は〝人の命を奪う〟と云うことをちゃんと理解しているつもり──だからじゃないか?」
「だったら聞かせてくれ。……真人君は人を殺した時、どこまで理解していた?」
「……少なくともいきなり殺人の罪で捕まるとは思っていなかった。自首したとしても俺を逮捕出来るともな。……2~3年では法整備も難しいと云う事も殆ど確信していた」
俺が《PoH》──≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のリーダーを殺したのは恣意──その場の思い付きではなく、〝殺人〟までもが、一貫であったと、言外に菊岡さんへと語る。
「他にもやり方はあったはずだ。……例えば他の幹部みたいに〝監獄エリア〟に送るだけとか…」
「それじゃあ駄目だったんだよ」
「どうしてだい?」
「理由は二つある。……まず一つ、〝絶対に《PoH》は現実に出してはいけない〟と思ったから。2つ、〝見せしめ〟が必要だったんだよ。……〝殺人者に対しては≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫〟と云うギルドが…。……そして、≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫には《PoH》が──みたいにな」
「……報告に上がってないな、そんな事…。……どうして僕に打ち明けてくれたんだ?」
「俺のこの考え方はそこそこ〝異端〟だと云う事は自覚はしているさ。……菊岡さんにバラしたのは、菊岡さんなら別に良いやとも思ったんだ」
菊岡さんが俺の心の裡を知ったとしても、どうこうするとも思わなかったのもある。
「……一応〝信頼〟、として受け取っておこう」
菊岡さんは一つ頷くと、話を変えてきて──鞄から何かの箱(?)を取り出す。その箱には[GunGale Online]でかでかとそう記されている。
「これって…」
「もう一つの話、〝これ〟──【ガンゲイル・オンライン】についてだ。和人君より先にインして、〝もしも場合〟は和人君をフォローしてくれ」
その他にも菊岡さんから幾つかの事を頼まれてたが、和人が動く以上俺が動かない訳にはいかないので、菊岡さんからの頼みに了承した。
SIDE END
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