普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
128 リア充タイム
SIDE 升田 真人
来る年があれば行く年もある。〝新生【ALO】〟が開始されて──【アルヴヘイム・オンライン】に〝新・アインクラッド〟が実装されて、早い事1年近い月日が経ち──もう11月の月尻となり、2025年も年の瀬の頃となっていた。
〝新・アインクラッド〟は〝旧・アインクラッド〟から較べると、大幅なアップグレードや〝レベル制廃止〟などの修正があり、四苦八苦──一層ずつではあるが、確かにその攻略は確かに進んでいる。
……尤も、ボス部屋の前でレイドを組んで屯して、ボス討伐のドロップアイテムを独占しようとしたりするマナーやモラルに関する教養が芳しくないプレイヤー──キャラクターネームから察するに〝元【SAO】プレイヤー〟も居たりするが、そんなプレイヤーは一握りである。……今のところは…。
閑話休題。
俺は蒼月家に足を運んでいて、俺の前には槍を構えている稜ちゃんの姿が在った。……簡単に云わば、〝【ALO(ゲーム)】ばっかりやってないで、体もちゃんと動かしましょう〟──と云う師匠からのお達しだった。
「始めっ!」
「せやぁっ!」
師匠から合図を出された途端、稜ちゃんは〝だんっ!〟と床を鳴らしながら、刃潰し済みの──穂先がゴムで出来ている槍で突いてくる。……しかし、稜ちゃんの視線からどこを突いてくるのかは一目瞭然だったので危なげなく、余裕をもって対処する。
……敢えて冗句を交えるのなら、〝目線見て喉元予見余裕でした〟──と云ったところか。
先程の稜ちゃんの突きは、〝当たっても良いと思える〟程のものでもなく──こう云ってしまえばなんだが〝何の捻りも無い突き〟だったので、当たってやる訳にはいかない。……寧ろ、さっきの稜ちゃんの突きになんか当たっていたら、後の師匠から稽古が厳しくなるまである。
「甘いっ!」
俺の槍で──後ろの握り(グリップ)を軽く緩め、前手首のスナップを利かせつつ稜ちゃんからの突きを、巻き込む様にかち上げる。
アインクラッド内で≪閃光≫とすら謳われていた明日奈──アスナの細剣すら見切れていた俺からしたら、稜ちゃんの槍にタイミングを合わせてかち上げさせるのは簡単だった。
……寧ろ、アインクラッドの時より〝本当の身体を動かせている〟──と実感出来る分、〝前〟より幾らか調子が良いとすら思える。
「っ!」
両手で持つ〝両手槍〟のその性質上、俺に槍をかち上げられた稜ちゃんは、ちょうど──〝ちょっと不恰好なバンザイポーズ〟となっている。……脇をちゃんと締めていなかったと云う証左でもあった。
身体的には稜ちゃんと合わせて──俺自身の肉体年齢である18歳くらいにまで落としているので、ちゃんと脇を締めていれば、今の稜ちゃんの筋力──〝多少鍛えている15歳くらいの少女の筋力〟でも充分に耐えられ、今の稜ちゃんみたいな醜態は晒さなくて良かったはずだったのだ。
……ちなみに、〝全力全壊〟で振るっていたら稜ちゃんが縦に切断されて[稜]と云う漢字が〝偏〟と〝旁〟に別れていた可能性が高い。……云うなれば、“なんちゃって海鳴閃”である
閑話休題。
「ぐぐっ…!」
(……及第点か…)
一方、評価すべき点もある。……〝槍をしっかりと握っていて手放さなかった事〟と〝地面を足裏の握力で掴み身体を浮かせなかった事〟については稜ちゃんを──内心だけで評価しておいた。
……声に出して誉めたりなんかしないのは、〝脇をちゃんと締めて居なかった〟、〝迂闊に先手を取ってしまった〟と云う2点のマイナス点が、プラス点を帳消しにしていたから。……逆に云うとそれは〝マイナス点をプラス点で何とか打ち消せた〟と云う事にもなるが…。
師匠からしたら俺の采配は甘めなのかもしれない。……が、しかし、もしも武器を落としたり──身体を浮かせていたとしたら、稜ちゃんが床に付くその隙に俺の槍の穂先が稜ちゃんの鳩尾に、寸止め(当たり前)が向かっていて、その時点で俺が一本を取れていたことだろう。
「すぅ…はぁ…」
(ほぅ…)
稜ちゃんは慌てて武器を下げて息を整えている。さすが武門の娘と云うべきか──稜ちゃんは醜態を晒してしまった最たる原因を直ぐに悟ったらしく、今度は脇もちゃんと締めてある様だ。そして、身体を半身にして──俺からの攻撃に対して、攻撃の当たる範囲を狭くして、〝先の先〟を無理に狙おうとせずに〝後の先〟を狙おうとしている。
……師匠からの指導通りの──良い構えにして正しい立ち回り方である。
(今度はこちらからだ…っ)
「っ!?」
稜ちゃんの呼吸のリズムを感じながら、稜ちゃんの呼吸から緊張が抜けた瞬間に──稜ちゃんが瞬きをした瞬間に踏み込む。稜ちゃんからしたら、俺がいきなり目の前に瞬間移動して来た様に感じていることだろう。……やはりと云うべきか、稜ちゃんはその双眸を〝これでも〟かと見開き驚いている。
……ちなみにこの〝縮地法モドキ〟。〝武〟に対しての練度の違いから直葉にやったら普通に対処され──和人にやっても超人的な反射神経で対処される。……かの二人に攻撃を当てたかったら〝縮地法モドキ〟に〝圏境モドキ〟を合わせなければならないのでやってられない。
閑話休題。
「一本! それまで!」
〝縮地法モドキ〟を初めて見たのか──未だに目を見開いたままの稜ちゃんの腰辺りに穂先を着けると、師匠がこの模擬戦の幕を降ろした。
………。
……。
…。
「何、今の?」
「あれは縮地の一種──だよね? 真人君」
「はい、師匠の仰る通りです」
「おおっ!」
師匠は、さすがに──今の時代に在るかは判らないが、他流試合で見たことがあったのか、〝縮地法〟は存じていたみたいだった。そして稜ちゃんは俺の肯定に〝すごっ!〟──とでも言いたげに稜ちゃんは声を弾ませた。
「……とは云っても、体技の延長上にある──悪く云えば小細工程度のものなんだけどな」
〝氣〟などの不思議エネルギーを使えば〝瞬動術〟や──その上位互換である〝縮地〟が使えるが、この平和な世界でそんな物騒な技術が使える事なんて、態々説明することでもないだろう。
「さぁ真人君、次は僕とだよ。……あ、そろそろ新しい技も授けようか。……〝【SAO】事件〟があったから、確かまだ“牡丹”くらいしか教えてなかったはずだしね」
「了解です」
「……あ、確か稜も〝双月流〟を習い始めてから真人君と同じくらいに──そろそろ2年になるね。だから稜に対して教授も先に進めるから、今から真人君と行う打ち合いを見ておく様に」
「了解」
その後は師匠の言う様に、師匠から新しい技を教わったりしながら平穏無事な休日の昼下がりを過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
蒼月家にて師匠から新しい技を教わって数日。俺は東京駅で待ち人達を待っていた。……〝待ち人達〟──とな表現の通り、複数系である。重ねて云えば、その待ち人達とは公にはしにくい関係を結んでいる。
……敢えて直截的に言うのなら、待ち人達──〝恋人達〟とのデートの待ち合わせだった。
(来たか…)
〝【SAO】事件〟でブランクのあった〝仙術〟も漸く以前の様に使える様になってきた今日この頃。〝仙術〟の気配探知能力を暇潰しを兼ねつつ研鑽していると、〝探知範囲内〟──俺を中心とした半径約500メートル内くらいに、〝前世からして覚えのある〟気配が入ってきた。
属性は〝炎〟と、〝龍〟──と云うよりかは〝蛟に近い龍八体〟が、その気配と同居していた。……〝八体の炎竜〟かつ〝識っている気配〟、その二つに合致した人物はこんな平和な世の中では1人しかしらない。……結城 乃愛だ。
……ちなみに、前世──ハルケギニア時代からユーノ・ド・キリクリの気配を覚えていたが《Yuhno》に初めて逢った時〝ユーノ・ド・キリクリ=《Yuhno》〟だと気付かなかったのは、仮想世界では〝感覚的な気配察知〟は出来ても、〝仙術を用いた気配〟が出来なかったからである。
閑話休題
……そもそも、〝仮想世界で〝肉体〟に宿る〝八竜〟を感じ取れるか〟と訊かれても首を傾げざるを得ないが。
また閑話休題。
「早っ──もしかして、待たせちゃった?」
「30分以上も前に来ておいて、どの口が言うか。……大して待っていないさ」
[9時24分]と表示されている──駅に備えてあるデジタル時計板を目で示しながら乃愛を宥める。俺は9時9分──待ち合わせ1時間くらい前から来て居て乃愛と稜ちゃんを待っていた。
最初のデートは俺が後から来るパターンの待ち合わせだったが、乃愛と稜ちゃんにナンパが群がったので、最初のデート以降は[デートの待ち合わせは乃愛と稜ちゃんが後から来る]と云う不文律が出来た。……俺さえデートに合流できれば明らかに〝カタギ〟じゃない俺の眼光で、軽薄なナンパ程度なら簡単に撃退できる。
……その辺、〝前々世〟で強面に産んでくれた〝母さん〟に感謝である。〝独占欲乙〟と云わば云え。
「よしっ」
「稜ちゃん、着いた?」
「ああ」
〝仙術〟の探知範囲内にまたもや〝覚えのある気配〟──今度は稜ちゃんの気配が入って来て声を漏らしてしまう。すると、恥ずかしながら〝阿吽の呼吸〟と云うのか、俺が動きを見せると乃愛も俺のそんな反応から稜ちゃんが到着した事を察知したのか、この場から直ぐ動ける様なスタンスをとる。
デジタル時計板はまだ待ち合わせ時間の14分前──[9時46分]を表していた。……どうにも、乃愛と学校の近況などの話題で歓談してるうちに、20分以上も経過していたらしい。
……それでも──一番後に来た稜ちゃんですら14分前なので、そこは〝日本人の性〟と云うべきか。
「まだ15分前だよね──ごめん、待たせちゃった?」
「大丈夫大丈夫、俺も乃愛も大して待ってないよ。……でも上映時間が大分空いたな…。サ店で時間でも潰すか」
乃愛からの「サ店、て…。ATMネタかよ」なんて呟きはスルーして、今日の目的──映画の上映開始時刻である11時30分までの時間の潰し方を提案すると、乃愛と稜ちゃんも不満は無いらしく、すんなりと承諾した。
「「さあ、私達のデートを始めよう!」」
乃愛と稜ちゃん──否、主に乃愛がふざけてのその宣言は、周りの男から嫉妬を集めるの充分過ぎたのは言うまでもない。
SIDE END
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