ソードアート・オンライン〜Another story〜
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キャリバー編
第220話 霜の巨人の王
前書き
~一言~
うぅ……、更新が遅くなってしまってすみません……。
何とか一話分出来ましたので投稿をします。
スリュムへイムも終盤! ……あの巨人は正直大きすぎますよね……。実際にゲームで出現したとしたら、足を攻撃して 必死に登って登って…… 頭まで行って漸く撃破!! でしょうか。暴れると思いますので、振り落とされない様に注意! でしょうw
後1話位? かな。と予想をしております!
最後にこの二次小説を読んでくださって、ありがとうございます! これからも、頑張ります!!
じーくw
新たな仲間と共に、スリュムヘイムを突き進んでいく一行。
そして、軈て下り階段へと差し掛かった所で、だんだん皆判ってきた様だ。何故なら、その道中から、モンスターもまるで現れないと言うのに妙に道幅が広がり、更に周囲の柱や彫像と言った、装飾オブジェクトもより華美になっていったからだ。
つまり、《ボス部屋に近づくとマップデータが重くなる》と言うアインクラッド以来の伝統が生きている。……厳密に言えば 様々なRPGゲームでは一貫して言える事でもあるのだが、VRMMOで言えばアインクラッドが初代である為、そこからの派生となっているのだ。
その突き当たりには、2匹の狼が掘り込まれた分厚い氷の扉が立ちはだかっていた。つまり、この先が最終決戦の場。《霜の巨人の王》がおわす玉座の間になっているのだろう。
周囲に妙なギミックが無い事を十分に確認しつつ、慎重に皆は歩み寄った。
そして、目算で約5m程 あの巨大な氷の扉に近づくと、プレイヤーを感知した様に、ぎぎ……と言う音が場に響いた。左右に開こうとしたのを確認すると、先頭に立っていたキリトは、速やかに後ろに下がる。万全を期す為に。
それは、アスナやレイナも十分判っていた様だ。互いに頷き合うと。
「じゃあ、皆 支援魔法を張り直しするよ」
「うん。私も、次 いつ出来るか判らないからね」
アスナとレイナが示し合わせて、其々の力を皆に分け与えていく。
そうしている内に、フレイヤも一歩前に出ると。
「では、私も……」
フレイヤが唱える呪文詠唱の組み合せは知らないものだった。
その感覚は間違いではなく、これまでで初めての効力を持つ支援魔法が発動する。
視界端に表示されているHPゲージの最大値が大幅に増えているのだ。
「私、最大生命値が増える魔法なんて、初めてですっ」
「きゅるる~」
シリカも驚きながら、自分の身体のあちらこちらを、ぺたぺた、と触っていた。
こう言う自分のステータスが上昇する、という事で一時的には 自らが強くなるという事だから、ついつい感触を確かめる様に触ってしまうのはよくある事だった。
「……オレもだ。多分、リタも知らないかもしれないな。フレイヤの専用支援魔法、と言った所か……。さて、ここからだな」
リュウキも、大幅にブーストされたHPを見てそう呟いていた。
大体120%程上昇しているHP。それがもたらしてくれるのは、当然HPが高いと言う有利さは言うまでもない事だろう。大分戦いやすくなる事は事実。……だが、その反面 これから戦う相手の事が判る。推測が出来る。
まだフレイヤの存在が、これから先どうなっていくのか……判明はしていないが、BOSS戦前に 仲間になるNPCが齎してくれたアドバンテージ。それを考慮すれば、このアドバンテージがまるで問題にならない程の相手がこの先に待ち構えているであろう事だ。
だからこそ、……リュウキは燃えている。気合が明らかに入っている、と言うものだった。
リュウキは、拳を強く握り締めていたのだから。
表情には出さしてはいない。頭は常に冷静に。……だが、心は熱く。大きな戦いの前はいつも同じだった。
「……ふふ、うんっ」
レイナも、隣でリュウキの方を見て微笑んだ。
信頼できる皆が一緒だから。……最愛の人、そして親愛な人が、直ぐ傍にいるから、自分はどこまでも強くなれる、と信じているから。例え、この先にいるのが現行最強のボスであったとしても、リュウキや皆と一緒なら。
その気持ち、想いが皆にも伝わったのか。やや緊張していた筈だったのに 仄かに笑みを皆は浮かべるのだった。
いよいよ、全員でボス部屋内部へと入っていった。
その場所は、横方向にも縦方向にもとてつもなく巨大な空間となっていた。目算でも まだ把握しきれない程の広さ。故に360℃、そして 空間を使った波状攻撃でもされたら 大分きつい事が容易に想像がつく。 あたりに警戒をしつつ、ゆっくりと奥へ奥へと進んでいく。その壁や床は、これまでと同じ青い氷で、更に同じく氷の燭台。ここまでは 同じ構造だ。……ただ、この部屋が決戦の場だからか、燭台に灯っている、青紫色の炎の揺らぎが、やたら不気味に感じられる。
のだが、その不気味さもあっという間に忘却の彼方に吹き飛ばす様な光景が眼前に広がっていた。
それは、左右の壁際から奥へと連なっている無数の眩い反射光だった。
その光の正体は、《黄金》。金貨や装飾品、剣、鎧、盾、彫像から、家具に至るまで、ありとあらゆる種類の黄金製のオブジェクトが数えるのも不可能なほどの規模でうずたかく積み重なっているのだ。
更に奥に空間は続いているのだが、索敵スキルを使っても尚、闇に包まれているから、このお宝の全貌は全く掴めない。守っている様子も、今のところ見えない。
「………総額、何ユルドだろ………」
この中で、ただ1人プレイヤーショップを経営するリズベットが呆然とつぶやいていた。
「はぁ~~い! りゅーきっ!! 計算してっっ!!」
妙なテンションになってしまっているリズは、指をぱちんっ! と鳴らしながら、訊いてくるが一体何の計算をしろ、と言うのだろうか? まさか、 ここまで積み重なっている黄金の全てをユルド換算をしろ? とでも言うのだろうか。エギルなどの店に売ればそれなりに、色をつけてくれる事もあるし、プレイヤー間の商談交渉もあり、オークションシステムも、搭載されているALOにおいて、実際に売却してみないと判らないのが、普通なのだが……。
「………アホ。どうやって計算しろ、っていうんだよ」
「じょーだんって、判んないのっ! って、こ~~んな、黄金卿を見つけて、感動が少なすぎるでしょ! これだけあれば、レイに素敵な プレゼントだって、たっくさん買えるのよー。あの指輪作ってた時みたいにっ!」
「っ……」
「り、リズさんっ!?」
「…………」
それは、確かに魅力的な話だった。
確かにこの世界ででは、金銭が余っている、様な事は今の所、リュウキにはない。『これだけ貯めれば、あれを買おう』と先の先まで予約済みだから。……リズの言う通りレイナ関連がほとんどである。因みに、やっぱり、そう言う話には(指輪と言う単語も) やや複雑であるシノンは、ぷいっ! とリュウキから視線を反らせるのだった。
「はぁ、緊張感ないな……。でもま、こんなことならストレージをスッカラカンにしてくるんだった……」
「あ、あははは……」
キリトもそうつぶやいてしまう。目も眩む程のお宝の山を見てしまえば仕方がないだろう。アスナも苦笑いをして、クラインも当然ながら 大口を開けているし、シリカも、ピナをぎゅっと抱きつつ、驚きの表情を見せている。『すっごいね……ピナ』と呟きながら。
「これだけあったら、アシュレイさんの所の最高級装備も……」
リーファも 貰えるモノ、と認識をしているのだろうか? 指を折りながら何を買おうか、と迷っているのだった。因みにアシュレイとは、ALO屈しの《服飾職人》である。……また何れ語る時も来るだろうから、割愛。
そんな感じで、お宝に目を奪われるとはこの事、と指南を受けつつ、クラインが実際に手触りでも確認したいのだろうか? 或いは、また武士道に突き動かされたのだろうか? 判らないが、ふらり、ふらりとお宝の山へと数歩近づいたその時だ。
「………小虫が飛んでおる」
突如、まだ視認不可能だった筈の奥の暗闇から、地面が震える様な重低音のつぶやきが聞こえた。それは止まる事なく、全体に威圧感を放ちながら続く。
「ぶんぶん煩わしい羽音が聞こえるぞ……。どれ、悪さをする前に、ひとつ潰してくれようか」
まだ視界に捉える事は出来ていないが、恐らくこちら側へと向かってきているのだろう。
ずしん、ずしん、と床が震え、その音が近づいてきているのだから。今にも氷の床を砕いてしまいそうなほどの重々しさだ。
やがて、ライティングが届く範囲に、ひとつの人影が出現した。
巨大―――……などというものではない。地上をうろつく人型邪神や、これまでこの白で戦ってきたボス邪神達と比べても、明らかに倍以上はあろう体躯。遥か高みに見える頭はもう、何メートルの高さにあるのかが、見当もつかない。
さしのリュウキも、予想以上の巨体に 思わず苦笑いを漏らしていた。
予想外、と言うのは誰しもが同じ事だろう。
何故なら、旧アインクラッドで戦ってきた75層までのボス示して75体のボス。奴らは、1フロアの高さが100mまでである、と言う絶対的な制限があったから、あまり、ボスの部屋自体の高さも高くしすぎる事が出来なかった為、必然的に縦方向のサイズは、控えめにならざるを得なかった……、と今なら判るからだ。
この場に集った歴戦の妖精達、誰ひとりとして経験したことの無い程の巨人。月の光、太陽の光の恩恵を得られない迷宮区内、ヨツンヘイムでは、決して翔べないのに、どうやって戦えば良いのだろうか? 剣を振り回しても、せいぜいスネあたりを斬りつけるので精一杯だろう。
そう、考えていたキリト。リュウキやユイに今後のプランを検討。色々と意見交換を呑気にしてみよう、と考えていた時、巨大な巨人、二重表現ではあるが、そうとしか言えない相手が一歩踏み出してきた。
「ふっ、ふっ、ふっ…… アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに唆されてこんな所にまで、潜り込んできたか。……どうだ? いと小さき者共のよ。あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけ呉れてやるぞ、ンンー?」
何もかもが桁外れの偉躯や額の王冠。そして何より、女神ウルズの名を出した事で、こいつこそが、《霜の巨人の王スリュム》であることは最早間違いないだろう。
更に、今更使い古されている様な気もする欲への誘い文句。『ワシの味方になれば、世界の半分をやろう、どうじゃ?』とでも言うかの様な提案。ここで乗ってしまえば、これまでの展開上。自動生成しているであろう、このクエスト。人間の欲を試す、と言うカーディナルの性質上、この提案に載ったが最後、全てを丸裸にされて、このヨツンヘイムの寒空の下へ、『出直してこい』と言わんばかりに、放りこまれるのは目に見えていた。
勿論、そんなバカな提案を乗る者は皆無であり、早速言葉を返したのは、クラインだ。
「……へっ、武士は食わねど高笑い、ってなァ!! オレ様がそんな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!!」
また、妙に間違えていることわざを使い、愛刀を抜いたクライン。
先程、フレイヤとの1件を見ているから、全員が微妙にホッとしてしまうのも無理はないだろう。クラインは、スリュムに集中しているから、皆の視線を感じる事なく、そのまま、『決まった!』とでも思ったかの様に、こんクエスト一番のドヤ顔を見せつけている。
だが、こんな時に茶々を入れる様な者は誰ひとりとしておらず、クラインに半ば続く感じで、各々の武器を取り出した。
伝説級装備を唯一持つのは、リュウキただ1人ではあるが、決して他の者達も見遅れなどはしない程の一品を持ち合わせている。全てが固有名付きの古代級武器《エンシェント・ウェポン》か、或いはマスタースミスであるリズベットが鍛えた会心の銘品なのだから。
だが、さして 不快にも思っていないのだろうか、スリュムは、向けられた無数の刃を見ても、決してその不敵な笑みを消そうとはしない。……それも仕方がない事だろう。この中で一番の大物を持っているリュウキの剣にしたって、あの王からすれば、少々長い爪楊枝程度にしかならないのだから。
……だが、ここでキリトは 思う所があった。
リュウキの持つ神の剣と呼ばれる武器《レーヴァテイン》。それを持つ男を認識すれば、ウルズ同様に何かしらスリュムから反応があるだろう、と思えていたのだが、不敵に笑うだけで 何にも言わないのだ。等のリュウキはと言うと、まだ 鞘から抜ききっておらず、ロッドと剣のどちらでも抜ける様に備えている。
あまりの大きさ故に、これまでの敵とは違い、大規模魔法の方が効率が良いかもしれない、と思っているのだろう。
剣を完全にみせていないから、スリュムが反応しないのだろうか? と思えたキリトだったが、それは違った。
――もう、既にスリュムが注目している者がいたからなのだ。
「……ほう、ほほう……。そこにおるのは、フレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がついたのかな、ンン?」
スリュムの一言、そして 自然と向けられた視線の先にいる、先程仲間になったばかりのフレイヤを見定めていたのだ。
このイベントが過ぎ去れば、何らかの反応を見せるかも……と思っていた矢先、思考をかき消す勢いで、クラインが半ば裏返った叫びを漏らした。
「はは、ハナヨメだぁ!?!?」
その言葉を、スリュムは即座に認識。やはり、大ボスであるから、それなりのAIを搭載しているのだろう。
「そうとも。その娘は、我が嫁として、この城に輿入れしたのよ。だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫を嗅ぎまわろうとしたのでな。仕置きに氷の獄へ繋いでおいたのだ。ふっ、ふっ、ふっ……」
フレイヤについては、まだまだ不明確な部分があったのだが、ここらで状況を整理する事にした。先刻、フレイヤは『一族から盗まれた宝を取り戻すため、この城に忍び込んだ』と言っていたが、スリュムへイムは空中に浮かぶ城。今は出払っているものの、無数の邪神も存在している為、忍び込むのは困難極まるだろう。
そこで、花嫁になる、と偽り 堂々と城門をくぐり、王の玉座の間に侵入。……奪還しようとしたが、門番に発見されて、牢屋に鎖で――、と言う設定が一番しっくりくる。
内心で色々と考えている内に、直ぐ隣でいたリーファがくいくい、と袖を引っ張って囁いた。
「ねぇ、おにいちゃん。あたし、なんか、本で読んだような……。スリュムとフレイヤ。……盗まれた宝……、うーん、あれは、ええと……」
リーファが記憶再生を必死にさせている時、最愛の妹には悪いが、こんな時は 知識の宝庫。瞬間記憶能力者? の心強い 銀髪の勇者様のお言葉を承った方が、妹の記憶もしげきされるのではないだろうか? とキリトは考える。
そこで、リュウキに打診をしようと、視線を送ろうとしたのだが、今リュウキの立ち位置は、部屋に侵入する時にレイナの傍へといたから、やや 自分とは離れてしまっているのが失敗だった。
――いや、決戦の前の不安を、少しでも愛しの人の傍で、和らげようとした、歌姫の行動を咎めようものなら、此処から帰ったら本気の本気で、隕石流星群を、頭に打ち下ろしそうな気がするので、決して口にしない、これ以上考えない様にしない、とキリトは首をぶんぶんと、振った。
やや、その行動に訝しむリーファだったが、何も言えなかった。
何故ならすぐ後ろで、フレイヤさんが毅然と叫んだからだ。
「誰がお前の妻になど! かくなる上は、剣士様達と共にお前を倒し、奪われた物を取り返すまで!」
その毅然とした叫び。それも心地よく感じているのか、その大きな髭ヅラが愉快そうに、醜悪に歪む。
「ぬ、ふっ、ふっ、ふっ。威勢の良いことよ。流石は、その美貌と武勇を九界の果にまで轟かすフレイヤ殿。しかし、気高き花ほど、手折る時は、興深いというもの……小虫どもをひねり潰したあと、念入りに愛でてくれようぞ……、ぬっ、ふふふふ……」
その髭面を撫でながら発する台詞。
正直な所、これが本当に自動クエスト・ジェネレータが書いた脚本なのか? と疑いたくなるほど、全年齢向けのゲームで許されるギリギリの線にまで攻め込んできている、と感じるのは仕方がない事だった。だから、女性陣が一様に顔を顰めて、女の敵! と認識してしまうのも無理はない。曰く『きもいっ!』『うわぁぁ……』『ヒゲっ!』『女の敵!!』と其々が呟き、レイナも『りゅーきくんっ!! やっちゃって!!』と憤慨しており、リーファに至っては、『お兄ちゃん、こいつに言ってやって!!』と全ての代弁をキリトに委ねる。
中でも一番反応したのは、当然ながら フレイヤにゾッコンである、クライン。
「てっ、てっ、手前ェ!! させっか、ンな真似!! このクライン様が、フレイヤさんには、指一本触れさせねぇ!!」
とぶるぶると左拳を振るわせながら喚いた。
――こんな空気の中で、見せるのはどうかなぁ……。
と、一瞬だけ、リュウキは考えた。
展開が容易だが読めそうなのだ。これをみせればどうなるか。……恐らく、スリュムだけではなく、味方の彼女にも変化があるかもしれない。
折角 スリュムが良い具合に皆を挑発して(リュウキ自身も少なからず思う所有り)、クラインや他の皆が憤慨。良い具合にスリュムが完全なる悪党へと、ワンランク上昇した所で、水刺してしまう様な気がした。
だけど、レイナたっての願いだから仕方がない事だろう。(厳密にはやや違うが)
「………さて、と!」
まだ、髭を撫でながら、フレイヤを視姦しているかの様なスリュムの視線に、つまり、フレイヤとスリュムの間に、リュウキは剣を素早く抜き出して阻んだのだ。
クラインは、既にそうしているのだけど、生憎彼の名刀、愛刀では スリュムの表情を変える事は出来ない。が、彼の武器はまた別の話だ。
リュウキが、フレイヤに触れさせん様に、阻む長剣の刃。少なからず、その行動に 『……むっ』と可愛らしい嫉妬をみせていたレイナだったが、その行動の意味は直ぐに理解できた。
「ヌゥっ!?」
その銀に輝く刃を見せつけられたその時、明らかに驚いた表情を見せた。ヒゲを撫でていた手は、拳を作っている様だ。
「そ、その剣は……、兄のものと……」
それは、守られる側であるフレイヤも驚きを隠せられない様だった。
よくよく考えてみると、フレイヤと出会って、まだ剣を抜いてはいない。ウルズは、ストレージに入っている時点で、気づいたのだけど、この2人にはそこまでの感覚は備えられてない様だ。
「小虫が……、何故、その剣を持ち合わせておる。分相応と言う言葉をしらん程、無脳というわけではあるまい……?」
明らかに不快感を醸し出しているスリュム。
ヨツンヘイムよりも更に下の世界、ムスペルヘイムに住んでいる炎の巨人が持っているとされているレーヴァテイン。ロキに鍛えられ、その神の剣。いや、スリュム達にとっては 《神々をも殺す剣》として 知らしめられている剣が目の前に現われている事事態に、驚愕している様だ。
炎の巨人故に、霜の巨人としては 相性が悪いのかも知れないが、そこまで語られる事はなかった。
「王の命令だ。答えよ。羽虫!」
ごぅっ!! と言うまるで大騒音が場に響く。
「ほら、クライン言ってやれ」
「は? このタイミングでオレかヨ?」
突然、振られたクライン。さっきまで憤慨していたのだけど、明らかに変わったスリュムを見て、聞き手になりかけていた所に言われたから仕方ない。
「さっきまでの、勢いだ。……それに、こう言う時、クラインなら、なんて言う?」
ニヤリ、と笑って焚き付ける。
それを見たクラインは、『やってやらァ!』と言わんばかりに、スリュムへと向きなおした。まだ、フレイヤに対しての無礼極まりない発言の怒りが残っている様だ。
「オレらを倒せたら、教えてやんよ!! かかってきやがれ!! 髭ジジィが!!!」
びしぃぃっ!! と剣を高く掲げるクライン。
こう言う役目はクラインに任せるに限る。そのノリに乗ってくれたのだろうか、スリュムは。
「よかろう……!! ヨツンヘイム全土が儂の物になる前祝い。そして 地の底の巨人どもに一泡吹かせる手土産も出来た。全てを平らげてくれようぞ!!」
明らかに憤怒が混じっている。
ここから連想出来るのは、いきなり全開攻撃の可能性がある、と言う事だ。つまり、戦闘の初期状態、《王の戯れ》の様な攻撃がまるまるカットされたと思われる。
「……怒らせただけになったかもな」
「いや、ああ言う激高した方が、隙きが見つけやすいだろ。どのみち、戦うんなら、その剣見つかるのも時間の問題だったんだ。早い方がまだいい」
リュウキの言葉にキリトがそう言い、そして 全員も頷いて構えた。
「――よし! 全員、ユイの指示をよく聞いて、只管序盤は回避! リュウキ、パターン頼むぞ!」
キリトが叫んだ直後、スリュムは、怒りのままに大岩の如き拳を天井高くにまで掲げ、青い霜の嵐をまとった拳を猛然と振り下ろしてきた。
スリュムヘイム城 最後の戦い。おそらくはだが―――は、予定通り、正直全て記憶するのは難しい程の大激戦となった。
王スリュムの攻撃。恐らくはリュウキの剣が反応したせいもあって、かなりパターンが変わったと思える。序盤モードから、中盤、もしかしたら終盤モードなのかもしれない。力を集中させている故に、隙きも大きいが、その分威力も果てしなくでかい。
だが、完全に無理げーに進化した訳ではなかった。
戦闘開始と同時に、表示されたスリュムのデータ。即ち、もう見慣れた緑色のHPゲージの量だ。
これまでで、見た事も無い程伸びに伸び、更にゲージが追加されたその量は果てしなく多い。……が、スリュムが力を集約させる事は、生命力にも直結している、と言う設定らしく、力が集えば集う程に、HPを消費していったのだ。
ハイリスク・ハイリターンの状況だが、時間をあまりかけたくない自分達にとっては都合の良い展開でもある。戦いの間に、丘の巨人族が全て消滅させられたら、否応なく『残念だったなぁ、羽虫ども』と、ゲームオーバーとなってしまう可能性が高いから。……それが、例え最後の戦いでも。
だが、それでも元々のHPの量が多いのには変わりはない故に、激戦は必至だった。
「あれは、氷ブレスの一種です! ですが、威力に比例して予備動作が非常に大きいので、見てから十分回避が可能です! が、決して当たらない様にしてくださいっ!」
ユイの的確な指示の元、拳から繰り出した、スリュムの霜の竜巻を何とか躱したメンバー。『決して当たらない様に』即ち、即死級の攻撃力だと言う事が分かり、一層集中力を高める。
「目安だ! この範囲内には入るなよ!」
そして、リュウキが剣を振るい、衝撃波を生み出したかと思えば、その剣擊のラインが地面に生まれた。正確に地面に描かれたその扇状のラインは 敵の攻撃範囲を雄弁に物語っている。正面にスリュムがいる場合の目安だ。動く相手だからズレたりは当然するが、かなり避けるのが楽になると言うものだ
まさに 完璧なる案内人、と言えるだろう。……なに? その名前。と思うかもしれないが、そこはスルーだ。クラインが命名したから。
「後衛は、範囲攻撃に注意! 大体攻撃パターンが解ってきた! 攻撃する時は、前衛は脚元を狙うんだ!! 踏まれるなよ!?」
大体の攻撃を丸裸にした所で、回避に集中していたが、攻勢へ移行する様に指示を出すキリト。強大な威力だが、それでも隙きが大きい為に回避はしやすい。更にマーキングをリュウキがある程度作ってくれた為(床の傷はすぐに再生されたが) 回避は更にし易い。
後衛達も十分に認識したのだろう。頷いて、其々が攻撃に映っていた。
「ぬぅぅう!!! 所詮は 羽虫よ! 強き物を持った所で、多少背伸びをしたに過ぎん!!」
リュウキが下がるのを確認したスリュムは、更に激昂したのだろうか。戦闘中に再び叫びを発揮。すると途端に地面から、氷の彫刻……ではなく、氷で形成されたドワーフが現れた。
「なに! こいつら!」
「ちぃ! こいつらに集中して、まともにアイツの一撃を受けたら、不味いぞ!」
そう、ドワーフに足止めをされている間に、怒れる巨人の一撃を受けてしまえば、最悪の展開に成り得るだろう。
それを危惧したキリトとリーファだったが、杞憂に終わる。
迫るドワーフの群れ。示して12体。
それらのドワーフの頭部が疾風の矢によって、瞬く間に破壊されたからだ。
「すげっ! 12体全部ヘッドショットかよ!」
「シノンっ! 助かる。ドワーフは任せていいか!?」
そう、シノンの連続弓射撃である。
超精密な矢は、まるで吸い込まれる様に、直撃を続けるのだ。かつて、キリトが震え上がっていたハリネズミ状態を、ここで見られるとは思ってなかったが、心強い事は間違いない。
「凄いですっ! シノンさんっ」
「きゅるるっ!!」
ピナとシリカも同じく歓声を上げていた。
ドワーフの群れに囲まれやすいが、それでも素早さとアクロバティックさを活かして、回避して接近しようとしたのだが、それも難しいと、焦っていた所に、シノンの一撃のおかげで、接近しやすかったから。
「流石っ♪ GGO名スナイパー」
リズも同じく。以下同文。
これ程の腕だったら、速攻で伝説級武器を求めるのも無理はないだろう、とおもえてしまったが、それでも いつかは自分の作った弓で満足させてみせる、ともリズはおもえてしまった。それ程までに、心強いから。
「ナイスショット」
「……ふふ、ええ」
リュウキの隣で、笑顔を見せるシノン。
因みに、只管回避をしつつ、戦闘のプランを思案し続けたのだ。相手は今の所、脚元しか攻撃出来ない。が、そこに 弱点設定は無い、とリュウキは眼で判断した。あまりの巨体だから。つまり、今は接近戦をせずに、隙ができても大技を繰り出した方がよく、更に大技を繰り出すと、相手がそれに警戒をする様にシフトすると予想出来る為、より安全に接近戦もし易い。
考えられる戦術の中では、最適の手段だとキリトは勿論、ユイも賛成した。
「……霜巨人の王」
「ぬっ!!」
この乱戦の中で、言葉が聞こえたとは思いにくい。
だが、相手ははっきりと聞こえたかの様な仕草だった。
「――……地上に侵攻するのは まだ早い事を教えてやる」
凄まじい程の詠唱文が宙を踊り出ると同時に。
下層のボスには握り潰されてしまった、あの魔法を敢行した。
だが、今回は少し違う。
「天を斬り裂く、勇猛なる鉄槌の導べ―――……」
リュウキの隣には、レイナがいた。
それは、戦いの歌 魔法攻撃力アップの歌。
歌姫の祈りの歌、勇者……いや、大魔法使いの極大魔法。
2つが融合し、巨大なスリュムの頭上に暗黒のゲートの様な物を出現させたのだった。
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