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フリージング 新訳

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第37話 NOVA form 2

 
前書き
お久しぶりです。そして、ご報告があります。私、遂に受験生となってしまいます泣
それに伴い、この作品の更新速度が異常に落ちる、もしくは大学生になるまで停止ということになるやもしれません。
どうか、復活を待っていて欲しいと思います。 

 

そこは、正しく地獄絵図と言っていい惨状だった。力に飲み込まれ、自我を失ったパンドラが仲間であるはずのパンドラを攻撃し、その命を奪おうとしている。
襲いかかるパンドラは、聖痕から歪な武装を体に纏い鍛錬によって研鑽されたハイエンドスキルを駆使している。自我を無くしているというのに、実力が落ちるなどということはない。寧ろ痛みなどを感じない分、攻めに特化しているスタイルは、ウエストジェネティクスのパンドラに多大な恐怖を与えた。
異質で異常なその戦いには、誇りも名誉も何もない。ただの乱闘だ。

「はっはー。いい眺めじゃねえか」

金髪の男、蒼城狼牙はその様子を気持ちの悪くなる笑顔で見ていた。
自分が作り出した歩兵がゼネティックスの
生徒たちを見下ろしている。それをいい眺めと言っているとは、相当な悪趣味だ。

「さぁて、踏み台野郎は出てくるか?」

その声に込もっているのは、自分がヒーローになるというあり得ない期待だけだった


その頃、カズトはウエストゼネティックスの最下フロアにサテライザー。ガネッサ、アーサーペアと共に待機していた。カズトは今までと同じ赤の制服姿だが、アーサーはリミッター専用の戦闘服に身を包んでいる。

「ノヴァの複数体出現。こんなこと、前にもあったんですか?」
「いいえ。今回みたいなことは、そもそもありえないことだわ」

アーサーとガネッサが話している横で、カズトは拳を血が滲むほど握りしめていた。先輩達は命がけで戦っているというのに、自分はどうしてこんなところで立ち尽くしているのだろう。
それは、サテラも同じで終始黙り込んでいる。今すぐにでも上に行って助けたい。こんなところで黙ってなんかいられない。なのに、任務だから。そんな理由で助けにいけないのが辛い。

「心配するなってカズト。上は三年生の先輩達がいるんだから、ここまで来るはず無いって」
「あ、ああ…そうだな」

無理やり笑顔を作って、自分を納得させる。そうしないと、今すぐにでも飛び出してしまいそうだからだ。
そんかカズトの葛藤に気がついているのは、この場ではサテラただ1人だ。ラナが地上で戦っている今、カズトを支えられるのは自分だけ。ならば、自分が出来る限り支えなければならない。

その時、ズドンと地下の壁が砕け、その中から2つの人影が突っ込んできた。
片方は赤毛をポニーテールにした三年生の女性だ。鎌を持った彼女は、つい先日戦った三年生のアーネット先輩だ。

「っ!あれは…⁉︎」

もう1人は、緑色のポニーテールに、無表情な顔をした女生徒。その両腕は聖痕の過剰活性化によってノヴァのような歪な剣へと変わっている。
その姿には、カズトが先日見た凛々しさや美しさは全くと言っていいほど見られず、まるで戦うための機械のようだ。

「なんで、キャシーさんが……」
「彼女を知っているの?」
「あ、いや……知り合いというか……なんというか……」

歯切れ悪く言っている間に、その刃がアーネットを切り裂いていく。その惨状に、思わずカズトが動いた。
グラディウスを展開させるのに要した時間はコンマ1秒もかからなかった。
大剣を構え、キャシーとアーネットの間に入り、その剣撃を受け止める。それだけの動作なのに身体にとてつもない負荷が掛かった。

「あ、アオイ・カズト⁉︎」
「っ!下がれ‼︎」

アーネットがカズトの登場に驚きの声を上げるが、それに構っている余裕はカズトにはなかった。前回の模擬戦では手を抜いていたということが明らかに分かるほどの乱撃に、思わず彼女を突き飛ばす。
顔面目掛けて飛んでくる拳を弾きながら進もうとするが、そんな間は開けてもらえない。間髪入れずに襲いかかる拳と斬撃をグラディウスで反撃していくが、傷を負ったところでキャシーが止まる気配はない。

そして、遂にグラディウスが叩き折られ、完全なる隙が生まれてしまった。それをキャシーが見逃すわけはなく、即座に咽喉元へと刃を滑らせてくる。咄嗟に籠手のつけられた右腕で防御しようとするが、おそらく間に合わない。
来るであろう衝撃に身をすくませる。
しかし、それが来ることはなかった。キャシーの剣撃を阻み、その身を蹴り飛ばした影が現れたのだ。

「ッ、サテラさん」
「カズト、大丈夫?」

傷ついているカズトを労わるかのように、サテラがキャシーとの間に割って入ってきたのだ。

「たく、先走りすぎたっての」
「早死しますわよ」

アーネツトにガネッサも立ち上がり、戦闘態勢に入った。アーサーは後方に待機し、フリージングの準備をしている。
ここからは総力戦だ。先に息を切らした方が負けてしまう。グラディウスを再び展開し、正眼に構える。キャシーはまず間違いなくこの4人よりも格上。全員で一斉にかかったところで勝てるかどうかは、怪しいところであろう。

「行くわよ。カズト」

険しく眼を細めていると、サテラがカズトの隣に立つ。その瞳に宿っているのは、誰にも負けないという光。
この人が隣にいてくれれば、何でもできる気がしてくる。

「はい。サテラさん」

そう、うなづいた時だ。2人の間に旋風が吹き抜けた。正確に言えば、吹き抜けたという現象がすでに起こった後に音が聞こえたのだ。
恐る恐る風の行く先へと眼を向けた。
そこにあったのは、一瞬の死闘の跡。

「カッ……ハ……」

アーネットの全身が切り刻まれ、立つことすらもままならないほどのダメージを受けている。
そこにいたのは、イーストの神速。聖痕の過剰活性化によって自我を飲まれようとも、彼女の実力は衰えるとこを知らない。
その証拠に、アクションが終わってから音が耳に入ってきた。つまり、彼女はこの一瞬で音速を超えたのだ。

「何も…見えなかった…?」

ガネッサが怯えた眼でキャシーを見る。
そうだ。恐怖を覚えているのは何もガネッサだけではない。カズトもサテラも同じなのである。
今までの戦いは確かに相手も強者だった。しかし、彼女は格が本当に違う。

これが1位。

「これが…イーストの神速…」

これが、キャシー・ロックハートなのである。 
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