非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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4月
第1話『始まりの朝』
前書き
今回から始動です!
※作者のつぶやきに1章(33話)までの要約を掲載しています。序盤をスキップしたい方はどうぞ。
ここはどこだろう? 見たことのない景色だ。
見渡す限り広がる草原、そして雲一つ無い晴天の下、俺は立っていた。そよ風が優しく頬を撫でる。
なぜかはわからない。気がついたら立っていたのだ。
『お兄ちゃん!』
『…!』
後ろから声が聞こえた。俺のことをこう呼ぶのは一人だけだ。
『智乃…』
『えヘヘっ』
智乃の無邪気に笑う姿はまだまだ幼い。しかし、それよりも気になることがある。
『なぁ智乃、ここはどこだ?』
『さぁどこでしょう?』
質問したのに、し返されてしまう。だが知っているような口調だから、少し問い詰めてみよう。
『もったいぶらずに教えてくれよ?』
『そうだなぁ・・・私を鬼ごっこで捕まえたら、教えてあげるよ』
何でそうなるんだろう。
けど仕方ない。訳のわからないまま、俺はその鬼ごっこに興じることにした。
『それじゃあ逃げるよ。鬼さん、捕まえてね』
『おう』
小学生の妹に負けるほど、足は遅くないつもりだ。すぐに捕まえて、ここがどこか教えてもらおう。
『…え?』
さぁ走りだそうとしたその時、俺の視界には奇妙な光景が映った。なんと智乃が数十人、数百人という規模で草原中に居るのだ。これではどれを捕まえればいいのかわからない。
いや待て、それよりもまずなぜ智乃がこんなにも居るのだ? それこそおかしいだろう。
俺は夢か幻でも見ているのだろうか?
『『『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』』』
智乃の声が何重にも重なって聴こえてくる。この事態に、さすがに俺は恐怖を感じた。
『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。
俺は耳を塞いだ。が、それでも聴こえてくる。
『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。
待て、やめてくれ。これは俺の知ってる智乃じゃない。智乃の姿をした"何か"だ。
『や、やめてくれ…』
こうなると、もはや鬼ごっこどころではない。俺は怯えきって、追いかけるどころか動くこともできなかった。
『やめろ!』
俺は必死に叫んだ。だがその声は彼女たちの幾重もの声にかき消されていく。
『お兄ちゃん』
『う、うぁ、うぁぁぁぁ!!』
もう我慢の限界だった。妹に向かって兄は発狂した。
『お兄ちゃん』
『う、あぅ…』
智乃が名前を読んでくる。俺はうめくことしかできない。
『お兄ちゃん』
『ごめんなさい…』
もう俺は必死に謝っていた。こんなのもう悪夢としか言いようがない。夢なら早く醒めてくれ。智乃を返してくれ・・・!
すると次の瞬間・・・
「お兄ちゃん!!!」
「はいっ!・・・ってあれ?」
急に智乃の声が大きくなったことにびっくりした俺は飛び起き、周りを確認した。
するとすぐ隣に、心配そうにこちらを見る智乃の姿があった。
…ん?『飛び起きた』? そう、俺の体はベッドに横たわっていたのだ。
――――――――――――――――――――
「もうホントにびっくりしたよ、お兄ちゃん」
「わ、悪かったって」
朝食を食べ終えた二人は会話をしていた。俺は中学校へ行く準備をしている。
「仕方ないだろ、変な夢見てたんだから」
「どんな夢?」
「お前がたくさん出てくる夢だよ」
夢の内容について聞かれた俺は正直に答えた。
すると、智乃は頬を膨らませる。
「それのどこが悪夢なのよ!」
「いや、普通に怖かったんだって!」
だが智乃の言い分はごもっともだ。怖かったとはいえ、悪夢は言いすぎたかもしれない。怖かったけど。
「もう。今日中学の入学式でしょ? その夢見た後に事故でも遭ったら怒るからね」
「はは、そりゃ縁起が悪いな」
「そうよ!」
変なことを気にするな、こいつは。もっと普通の心配をしてくれればいいのに。過保護というか何というか。俺の方が兄なのに。
そうこうしている内に時間は過ぎ・・・
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。インターホンで相手を確認した智乃は俺を呼ぶ。
「お兄ちゃーん、莉奈ちゃん来たよ!」
莉奈、とは俺の幼馴染みのことだ。彼女は俺の家の隣に住んでいて、小学生の頃はこうして一緒に登下校していたものだ。中学生になっても、それは踏襲されそうである。
おっと、それよりもうそんな時間か。
「おはよう」
「おはよー」
玄関の扉を開け挨拶した俺に、彼女は気の抜けた挨拶を返してきた。
彼女とは保育園からの付き合いである。昔からよく遊んでいたし、今でもそれは変わらない。元気な性格で、一緒に居て飽きない良き友達だ。
「すまん、ちょっと待ってくれないか? まだ準備が終わってないんだ」
「じゃあここで待ってるねー」
「悪いな」
俺は部屋に戻り、急いで準備を進めた。
「おまたせ」
「じゃあ智乃ちゃん、行ってくるね」
俺が準備を終えたらすぐ出発だ。少し大きめの慣れない制服を着て、新品の靴を履いていると、莉奈は智乃に手を振りながら言った。
「行ってらっしゃーい!」
智乃も莉奈に負けないくらい大きく手を振り返す。
全く、この二人は朝から元気だな。
それにしても中学生ともなると、家を出るのが小学生の頃に比べて少し早くなったな。まだ智乃は制服さえ着てないし。
「行ってきまーす!」
「行ってきます」
少し恥ずかしいが、俺も行ってきますとは言っておいた。
さて、いつもと違う新しい通学路を歩くのは新鮮な気分だ。
いよいよ新しい生活のスタートだな。
――――――――――――――――――――
「ひょっとして晴登ってさ、『急に目の前の曲がり角から少女が飛び出してきてぶつかった』っていうシチュエーション好き?」
「いきなり何だよ。マンガの読みすぎだぞ」
不意にかけられた莉奈の言葉を、俺は一蹴する。第一、何でそんなことを聞くんだよ。
「いや〜、実はそこにうってつけの曲がり角があるんだよね〜」
「え? まぁ確かに…」
莉奈は楽しそうに言った。確かに目の前には『うってつけの曲がり角』がある。見通しが悪く、少女じゃなくて車が出てきてもおかしくない。
「はぁ…もしそんなシチュエーションになったら、何か奢ってやるよ」
「お、言ったね?」
俺は莉奈をからかうつもりで賭けをした。マンガみたいな展開が現実で起こる訳がない。そう思っていたから。
だが、偶然とは起こるもので・・・
「「ぐはっ!!」」
その曲がり角を曲がった瞬間、晴登は誰かとぶつかった。
背は俺より少し高く、見たことのある顔・・・あれ、大地!?
「いってーな…」
頭を擦りながら起き上がろうとする大地に、先に立ち上がった俺が声を掛ける。
「大丈夫か? 大地」
「すいません…って晴登? それに莉奈ちゃんも」
「おっは〜」
ようやく大地は俺たちに気づいたようだ。そして安心した表情を浮かべる。
「良かった〜、道に迷ってたんだよ」
「あぁ、いつも通りね」
なるほど、そういうことか。俺は納得した。
実はこいつはかなりの方向音痴で、初めて通る道ならまず間違いなく迷うのだ。だから新しい通学路も当然迷う。
成績は良いのに、なぜだろうか?
「じゃあ大地も一緒に行こうよ?」
「そうさせてもらうわ…」
「最初から誘えばよかったな」
莉奈の提案に大地は間髪入れずに答えた。道に迷うんだから、さすがに仕方ないよな。俺も配慮するべきだった。
ちなみに大地とは小学校からの付き合いで、親友みたいなもんだ。遊ぶ時は、基本この3人だ。つまり、とても仲がいい。
「あ、晴登、あそこの自販でお茶買ってきて」
「は!? 大地は男だから、ノーカンだろ!」
またも不意に、莉奈が賭けの話を掘り返す。でも、莉奈が言った通りのシチュエーションにはなってないから数えられないはずだ。
「なになに、何の話?」
大地が話に割り込んでくる。頼むから話をややこしくするのだけはやめてくれよ。
「私は別に女子だけとは言ってないよ。同性愛だって今時あるんだから」
「アホか!!」
莉奈が言ってることは、もはや屁理屈である。
まだ12歳なんだぞ、俺らは。異性をすっ飛ばして同性愛だなんて…話が飛躍しすぎだよ。
「ったく晴登、そういうのは勘弁してくれ」フッ
「お前もノらなくていい!」
「冗談だよ」
全く、思ったそばから話をややこしくしやがって。話の呑み込みが早いのも考えものだな。
「晴登〜、何でもいいから早く買ってきて〜」
莉奈が子供のように駄々をこねる。いや、実際まだ子供だけども。
「はいはい、わかったよ」
俺は結局根負けして、買いに行くことにした。これ以上争ってもめんどくさい。
でも、決して同性愛を認めた訳ではないぞ。
「プハーッ、旨いわー!」
「お茶一杯で大袈裟だろ」
まだ入学式までは時間があるが、さすがにほっこりし過ぎだろ。
「なな晴登、俺にも何か奢ってよ?」
「え、やだよ」
本気なのか、からかってなのか、大地がそう言ってきた。
もちろん答えはNOだけど。
「いーじゃんケチ」
「これはケチなのか?」
最終的にケチ扱いされてしまう。俺は何も悪くないんだけどな…。
「ねぇ晴登。また曲がり角あるけど」
俺たちが歩みを再開させると、莉奈がそう言った。この辺はまだ住宅街で、同じような地形が続いてるから当たり前だな。
「もう賭けはしないでおくよ」
「えーつまんなーい」
莉奈の魂胆を読み、俺はそう言った。俺だって学習する。
頬を膨らませて不平をこちらに訴えかけてくる莉奈。でも次も誰か友達とぶつかるかもしれないし、それでまた奢るなんてたまったもんじゃない。
・・・でも賭けが無くともぶつかるのは嫌なので、俺は曲がり角の先を事前に見ることにした。
二人より小走りで先に行き、曲がり角から顔を出して覗くと・・・
「きゃっ!?」
「えっ!? うわ、ごめんなさい!」
なんとまた人が居たのだ。しかも女子で同い年ぐらいの。知り合いではない。
ギリギリ寸止めくらいで向かい合う状態となったが、俺が驚いて急いで後ろに下がったために尻餅をついてしまう。
「どうしたの!?」
俺が急に大声をあげて尻餅をついたのに驚いて、後ろから莉奈と大地が駆け寄ってくる。
「いや、この人とぶつかりそうになって…」
俺はそう説明する。今のはたぶん俺が悪いな。
「すみません、怪我は無かったですか?!」
ぶつかりそうになった少女が焦るように声を掛けてくる。
俺は「大丈夫」と答えようとしたがその時、初めてよく少女を見て、息を呑んだ。
「可愛い…」
今のは後ろの大地の呟きだ。そして、まさに今俺が思ったことと同じである。
茶色の艶やかな長い髪に、つぶらな瞳。可憐という概念を具現化したような美少女が目の前にはいた。
「…? あの…?」
「あ、あぁ大丈夫です! お気になさらず!」
俺は思わず見とれていたことに気づき、慌てて返事をする。
それにしても、こんな可愛い子が現実に存在するとは思わなかった。マンガのヒロインとして申し分ないくらいのルックスである。
「全く、気をつけなよ晴登」
「元はと言えば、お前が変な賭けを始めるからだ!」
「はて、何のことやら」
しらばっくれる莉奈にイラッとするが、人前なのでそれは堪える。後で覚えておけよ。
「えっと、それじゃ私行きますね」
「あ、はい」
そうこうしていると、美少女はそう言って足早に去っていった。
曲がり角で美少女と出会うという黄金パターンだとはいえ、いざ実際に遭遇すると案外呆気ないものであった。
俺は肩を落とすこともなく、すぐに立ち上がる。
「あの子も同じ学校なのかな?」
「制服は一緒に見えたけど、進行方向は逆だったね」
「俺はもう一度会いたいなぁ!」
俺、莉奈、大地と口々に今しがたの美少女について語る。あまり誰かが可愛いだとかは言わない俺だが、さすがに今の美少女は可愛いと認めざるを得ない。
「まぁ、また会えた時はラッキーってことで」
俺はそう結論づけると、また2人と先へ進んだ。
なんだかんだで、あと横断歩道を渡れば、学校に着く距離となっていた。
「なんか長い道のりだった…」
「1km位でへばんなよ」
「そうよ。だらしないね」
愚痴を吐く俺に、大地と莉奈が当然のように言ってきた。
いや、この散々な道中で疲れるのは仕方ないと思うんだが? ほとんどこいつらのせいだ。
もう入学式サボって、家に帰りたい…。
「お、着いたな」
あれこれ俺が考えてる内に、もう校門の前まで着いてしまった。
もう行くっきゃないよな…。
「意外と普通ね」
莉奈が言った。
この学校のことはこの地域以外の人は全然知らないけど、逆に言えばこの地域の人には何かと噂が伝わってくる。不思議な学校、だとか、怪談が多い、とか。…でも、見た感じは思ったより普通だな。
「でも小学校とは大違いだ」
今度は大地が言った。確かに、 校舎の大きさとか、規模は小学校とはかなりの差がある。ここが新しい学び舎となるのだ。やっぱりワクワクしてきたかも。
「おはようございます」
「「「!?」」」
不意に後ろから挨拶が聞こえてきた。それに驚いた俺たちは、反射的に後ろを振り向く。
そこには、にこやかな笑顔を浮かべるおじさんが立っていた。
「ああ、驚かせてすまない」
「いや、すいません。俺らも驚きすぎました」
謝られたので、俺が代表して謝り返す。
その際、男の人の顔をよく見てみると、とても優しそうな顔つきをしていた。
「あの、あなたは…?」
「私はここの先生だ。山本という」
山本の自己紹介に、会釈で返す。なるほど、先生だったのか。ならここに居ても何ら不思議ではない。
「それより君たちどうしたの?」
「えっ?」
山本が意味深なことを訊いてきたので、俺たちは疑問符を浮かべる。何か間違ったことでもしたかな?
入学式の日が違うのか、とも思ったが日付は今日で間違いないはずだ。
「君たち、1時間以上来るのが早いよ?」
「「「えっ!!?」」」
俺たち3人は揃って驚いた。
時間が違う!? 遅れるよりは早い方が良いけど、それでもなぜだ? しかも3人共なんて・・・
「大方、通常の登校時間に合わせて来たんだろう?」
「はい…」
その通りだ。まさか通常と入学式の集合時間が違うのか。道理で周りに人1人いない訳だ。しっかりと配布されたプリントを見ておくべきだった。
「どうするよ?」
「一度帰って出直すか? 往復30分位だから大丈夫だろ」
「あと1時間もあるしね。」
「あぁその必要はないよ」
「「「えっ?」」」
俺たちが帰ろうかという案を出している途中、山本がそれを止めてきた。その言葉に俺らは疑問を持つ。
「せっかく早く来たんだから、学校中を巡ってみるのはどうだい? 私が案内するよ」
山本がそう提案してきた。なるほど、それは良い案だ。
この理由には俺ら3人共納得した。なんかラッキーだな。
「「「ありがとうございます!」」」
「気にしないでいいよ。これくらいは当然だとも」
これは好都合。周りの人たちより早く学校に入れるなんて、なんか特別な気分だ。
俺は期待の目で山本を見た。
「改めて、よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!!」」
俺に合わせ、二人ももう一度山本に礼をする。
「さぁ行こうか」
「「「はい!!」」」
ようやく俺たちは、日城中学校へと足を踏み入れた。
後書き
あまりにも長くなりそうだったので、分けてしまいました。てか、まだまだ日常ですね~。次回も…まだ変わらないですかね、はい。
という訳で今回はここまでです。次回もよろしくお願いします!
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