すきなもの
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はじまり
「げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
やっとくたばりやがったか、あのクソ祓魔師めが!」
ある雨の日の夕暮れの刻。
大きなバケツをひっくり返したかのように降り注いでいる水は、15歳の少女のその真っ白な真珠のような髪の毛や装束だけではなく、青白く痩せこけた頬をも濡らす。
一滴ではない。
まるで止まる事を知らないように頬を流れるのは、雨なのか、それとも。
「もう何年だ…。
“強欲”な俺がこんなにも手に入れるのに手こずった人間は、オメーがはじめてだよ。」
骨ばった頬を濡らす少女が立つ後ろでは、甲高い女性の悲鳴や、必死に誰かの名を呼ぶ男性の叫び、泣き止まない赤ん坊の声などが飛び交っていた。
白髪の少女の影は、彼女の視界の下のほうでゆらゆらと揺れ続ける。
どんよりと重い雨雲で太陽は隠れているというのに、この辺り一帯は明るい。
真っ白なはずの少女の髪は、薄っすらと燃えるような赤色に染まっていた。
「ようやく手に入った。
コッチには俺の大好きなカネやタカラが余るほどある。
我慢した分、好きに遊ばせてもらうぜ!」
ニヤリと口角上げ、はだけていた真っ白の装束の襟元を正すと、轟々と絶望を燃やす赤色を背に、少女は歩き出した。
そしてひとつ、静かに、誰に伝えるでもなくボソリとその口は呟いた。
「俺の気が済んだら、お前の“強欲”も満たしてやるよ。」
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