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戦国異伝

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第二百四十三話 信長の読みその四

「ならず者だが使える駒じゃ、捨て置くな」
「はい、ではあの者達も」
「すぐに船に収め」
「そのうえで下がります」
「そう致します」
「これでは攻めの術を使う暇もない」
 老人はこうも言った。
「逃げるしかない」
「はい、では」
「今はこうして下がり」
「そうしてですな」
「次で」
「うむ、今度こそじゃ」
 まさにとだ、周りに言ってだった。魔界衆の者達は今は彼等の兵を収めてだった。そのうえで何処へと退いていった。
 朝にいたのは信長と彼の軍勢だけだった、勝鬨をあげた。
 しかしだ、信長はその勝鬨の後で言った。
「勝ったがな」
「しかしですな」
「この戦はあくまでただ勝っただけ」
「あの者達を滅ぼすものではない」
「実際敵は逃げました」
「討ち取った者はいます」
 そうした者は多かった、実際に。
 砂浜にも海にも屍が転がり漂っている、それは確かだった。
 しかしだ、捕虜はおらずだった。
「その数は案外少ないですな」
「すぐに兵を収めて逃げ去っていますな」
「傀儡を多く出し」
「そのうえで」
「傀儡じゃな」
 その傀儡、人形や式神のそれを見てだ、信長も言う。
「それを盾にして逃げたわ」
「どうやらです」
 ここで言って来たのは雪斎だった。
「果心居士殿の呪文はです」
「防ぎ打ち消すものでな」
「相手が出す式神、そして自分達に使う術にはです」
「効かぬな」
「防ぎ消すものですから」
「そうじゃな、しかしそれでもよい」
「連中の妖術を破ること」
「それが要じゃからな」
 だからこそ、というのだ。
「それでよい、しかし」
「敵が己達を守る妖術については」
「それはどうするかじゃな」
「それですな」
「果心居士の呪文は奴等の妖術を打ち消す」
 信長はこのことからあらためて考えて述べた。
「ならばじゃ」
「敵の中にその呪文を打ち込めば」
「敵が守る為の呪文もな」
「それもです」
「消える」
「そうなります」
「ではじゃ」
 ならばとだ、また言った信長だった。
「答えは出たわ」
「さすれば鉄砲や弾丸の弾にですな」
「書くか、矢でもよいな」
「それが宜しいかと。ただ」
「うむ、全ての弾や砲弾にはな」
「書けませぬな」
「そこまでは時がない」
 とても、という口調での言葉だった。
「やはりな」
「では少しですな」
「少しでもな」
「書いたものを入れて」
「撃とうぞ」
「弓矢もまた」
「そうしようぞ」
 こう雪斎にも答えた。 
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