SAO二次:コラボ―Non-standard arm's(規格外の武器達)―
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chapter2:For the first time of the city(見た事の無い街)
前書き
一応の説明回みたいなモノですんで、コラボキャラ達は登場しません。
あしからず。
「……やっぱりこれだけなのか?」
「何度確認しようと、変わらないわ」
「……だ、だよなぁ……」
「さっきからずっと同じ事言ってるよ? キリト君」
何処かアメリカンな雰囲気漂う、人々行き飼うビル群の中。
和人、詩乃、直葉の三人は、顔を見合わせて立ち尽くしていた。
否―――彼等の姿は、『ダイシー カフェ』にて見かけたモノとは異なっており、初見では誰なのか分かる筈もない。
和人のアバターネームは【キリト】。
中性的だった容姿をすこし男性よりに傾かせ、髪色は黒のままで髪型はALOにて使っている物を。装備は初期装備の中でも大分が黒い物ばかりを選んだため、髪の毛も胴体装備も、脚の装備も全て冗談抜きでまっ黒けっけ。
詩乃のアバターネームは【シノン】。
尖った癖っ毛な水色の髪と、日本人とアメリカ人のハーフの様な外見の所為で、一見しただけでは誰か分かり辛い。異様に丈が短い迷彩柄のパーカーの下に、白と黒を基調としたアンダーウェアを着こんでいる。
直葉のアバターネームは【リーファ】。
金髪よりな黄緑色の髪をポニーテールにしており、三人の中でも一番元の外見が想像できない容姿だ。鮮やかな緑色をしたチュニック状ウェアを上に、脚にピッタリ張り付くほど細い白ズボンを下に着こんでいるスタイルだ。
……嘗てデスゲームと様変わりし、約四千人もの命を呑み込んだ『SAO』こそ現実準拠の外見設定だったが―――――多くの人が知っているように、本来この手のゲームはこういったアバターを作り、プレイするものだ。
そして、それは画面越しにキャラクターを操っていた一昔前でも、直接ゲームの中に入り込めるフルダイブでも、やっぱり基本変わらないのである。
そんな服装現代で姿ファンタジーな彼等は未だ立ち尽くし、シノンは顔を見合わせているキリトとリーファを見て溜息を吐いていた。
「仕方がないわ。シリカはまだ分からないけど……アスナもリズも、クラインにエギルだって、今日は忙しいって連絡が入ったでしょう?」
「い、いや、確かにそうなんだけど……」
事の発端は金曜日。
集合前日だから準備をしておこうと、アバターネーム【エギル】ことアンドリューから教えて貰った事だけでなく、ある程度キリトも自分で『Non-standard arm's』の詳細について調べていた。
ステータスアップの方法や、スキルの仕組みなども粗方調べ終え、
[とある魔法の世界があり、そこには使い道の分からない謎の鉱石があった。
発見から約一世紀以上もの間放置されていたが……とある不可解な事件の折り空間に穴が開き、そこで滅びた機械文明の世界を発見した。
どうじに未知なるエネルギーと魔法の融合に元々あった文明の発展、更には謎の鉱石の使い道も分かり―――]
―――という、ゲームに良くある簡潔な世界観設定を眺めていた……その時 『悲報』 は訪れた。
まず、アバターネームがまんま【アスナ】な明日奈から、家の都合で急用が出来たと断られる。
次にアバターネーム【リズベット】こと里香から、宿題を放っておきすぎてこれ以上はヤバい、だから友達の家で教えてもらう……との事でドタキャン。
更に【クライン】という名のアバターを持つ遼太郎も、職場の上司に誘われてしまったと断念の報が。
エギルもまた仕事が忙しいとのことで、その日はログイン不可能だと告げられる。
唯一、【シリカ】こと珪子からはまだ何もないが……集合時間になって尚、影も形も見えはしない。
結果……友人も何の用事もないキリトと、学校が普通に休みで宿題も何もないシノンと、彼の妹であるリーファだけが、この場に集まる事態を招いてしまったのだ。
少々ながら居た堪れなくなったか、リーファは再度発言しかけたキリトを遮り、食い気味に話題を変えた。
「キ、キャラクタークリエイトがランダムじゃないのは有り難かったよね。この姿、今では気に入ってるからさ」
「確かにそうだよな。何より、突拍子もない外見にならずに済んだし」
「えぇ…………本当に、ね?」
過去の“とある因縁”をまだ覚えていたシノンに睨まれ、キリトはビクリ竦み上がると、揚げ足など取らずロボットばりにかくつきながら頷く。
リーファは何の事だか知らないらしく、疑問符の浮かぶ顔で彼の顔を覗きこんで来た。
バツが悪くなったのか、説明するのは憚られる事なのか、キリトは少々慌てながら通りの向こうを指差した。
「えーと……と、取りあえず武器屋に行こうぜ。初期のキャラクリじゃあ防具しか選択できなかったしな。おまけに武器買わないと、衛兵に止められて外出れないみたいだから」
「……結構種類が多い割に、ステータスや『スロット』は全部一緒だったけど」
「良心的だと思いますけどねー。お気に入りの装備が弱いままになっちゃったら、ちょっと哀しいですし」
今しがたシノンが発言したように、『Non-standard arm's』では防具そのものが持つステータスやスキルのほか、スロットへ《オーブ》という名のアイテムを嵌めこむ事により、ある程度自分好みのステータスに調整できるのだ。
だがレベルが高くなればなるほどスロットが増えるかと言えばそうではなく、数値が高すぎる物はスロットがかなり少なかったり、逆に《オーブ》を嵌める事で初めて真価を発揮する防具すらある。
その情報を三人とも頭の中で思い返しながら、武器屋へと真っ直ぐに歩いて行く。
「コンバートは出来ないから、マジ物の“初心者状態”での挑戦なんだよな……何か新鮮だ」
「元々コンバートする気もなかったけどさ」
「……そうしないとエクスキャリバー、消えるものね」
「ご尤も」
そんな会話を交わしながら、GGOとは違う明るさと近未来的様相を持ち、しかし現代の雰囲気は確り取り入れている街並みを眺めつつ、三人は着々と脚を進める。
そして五分と経たず店の前に辿り着いた。
此処で間違いないと確認した後、西部劇にでも出てくるような形をした、古と新の融合する自動ドアを潜り入店する。
「おぉ……何か凄いな」
「……GGOとは、やっぱり違う感じね」
「ALOとはまるっきり違う……」
店内は清潔に整えられたシンプルな内装であり、漢字を崩した様な文字板が壁に掛けられていて、《剣》が元ならば剣が、《銃》が原型ならば銃が、その漢字に対応したプレートの下に幾つも並んでいる。
使い道のトンと分からない道具も幾つか陳列されており、それらの棚のお陰で疑似的な通路と、広いスペースとゴチャゴチャした狭いスペースが自然と分けられていた。
また、《剣》や《銃》にも当然の事ながら幾つか種類があり、プレートの下に全種類そろっている訳でもなく、大・中・小とサイズごとにも分かれている。
「取りあえず個人個人で武器を選んで、そのあと広場で集合しよう」
「了解よ」
「分かった!」
言うや否やキリトは《剣》コーナー1へ、リーファは《剣》コーナー3へ、シノンは《銃》コーナー2へと分かれて、装備を物色していく。
「おっ。御誂え向きに良いのがあるじゃないか」
一番最初に武器を手に取ったのはキリトだった。
ヒエログリフにも似た白い鳥の紋様が幾つも刻まれた、実に彼好みな黒い片手直剣を即座に目に留め、一瞬の迷いすらなく手に取って見せる。
早速確認だとばかりに指でクリックしてメニューを呼び出し、アイテムの詳細とステータス欄を表示させた。
「……あれっ?」
……そこで違和感に気が着いた。
武器の種別を示す[weapon type]の項目には確かに『one handed sword』と書かれている―――――のだが、“/”で区切られたその横に『two handed sword』とも記されているのだ。
今キリトの目の前にあるのはどう見ても、細長い“台形”な刀身を持った所を除けば、単なる黒色の片手剣。
両手剣の要素など、如何頑張って穴があくほど睨み、眺めてみても、何処にも見当たらない。
と……そこでキリトは先日の件を思い出した。
(そういえばあの動画……ソリッド・ガイとか言う名前のプレイヤーが使っていた武器、変形してたよな?)
トンファー型武器の柄部分が打ち合わされ、縦に垂直となって一本の棍となったのは、余りの驚きからかキリトも鮮明に覚えていた。
そうなるとまさか、この武器達も変形するんじゃあないだろうか――――強ち有り得なくもなく、否定できない要素にキリトは顔を顰めてしまう。
お試しに扱う事も出来るらしく、店内限定のメニューウィンドウを出現させて、日本語で言う『試し切り』のボタンを押す。
メニュー欄を更にクリックすれば、前時代的でもあまだ足りない簡素なポリゴンの立方体が現れ、左には今持っている剣と同じ形の立方体が、右には今持っている物よりも刀身が細い代わりに長くなっている剣が表示されている。
更に下には説明文もあり、宛ら《変形のさせ方》でも教えているかのよう。
「えーと……思い浮かべながらここのスイッチを押す、のか?」
嫌な予感の加速を感じながらも、キリトは半ば使命感に押されたかのように、自然と次へ進めていく。
スイッチ、と呼ぶには聊か平面的で出っ張っていない部分を押しながら、柄尻先の虚空部分に左手を持っていき、集中力を高め――――――
[“ガカカカン!!”]
機械的な効果音を上げて、刃が少し横にスライドしたかと思うと、今度は上にスライドしてせり上がり、鍔元部分に残っていた嘗ての刀身の半分と合体。
しかも柄も柄尻から蝶番の如く展開し、多少細くなりながらも立派に長い持ち手へと変わる。
見事……片手直剣は“両手剣”へと変形してしまった。
「……」
例え予想の範疇内だろうとも、実際に起きてしまえばやはり驚愕が大きいか、キリトは絶句して立ち尽くした。
続いて、リーファ。
「あれ? なんか此処に付いてるし……変な形してるけど……」
ALO使っていた細身の剣と同じタイプの武器を探している途中、以前扱っているものと刃の形自体は同じな西洋剣を見つけ、彼女は思わず足を止めた。
しかし近寄ってよく見てみれば、ALOの得物とは違い小さなルーレットが鍔辺りに嵌めこまれていて、銃器とは明らかに違うトリガーが鍔元にひっ付いている。
(……というかこのルーレットは何?)
ステータス画面を表示して見れば、そこには[one handed sword:+magic device]との説明文がある。
そこでリーファもキリト同様、“エーデリカ VS ソリッド・ガイ” の闘いを思い出した。
(確かエーデリカって人は、ダガーから魔法の刃を放ってたよね。コレもそうなのかな……?)
店内メニューから試し切りを選び、オブジェクトして手元に出現させてみると―――置いてあった剣以外にも、四色に分かれている薄く細長い一本の板も同時に握られている。
グルグル回して剣を見るうち、柄尻辺りにその板を入れられる場所がある事に気が着き、カシャッ! と小気味良い音と共に差し込んで、何時ものように正眼に剣を構えた。
「此処でトリガー―――じゃなくてこっちのスイッチを押して……緑色に合わせて……」
押す回数で決まるらしく、リーファは風属性らしき緑色に合わせるべく二回押した。
カララララララッ……そう音を立ててルーレットは回転。
そしてカチッ、と望む場所にかちあったのを見るや否や―――
「せいっ!!」
トリガーを押しながら思い切り振りきって、薄緑色のかすかな風の魔法刃を全方へと射出して見せた。
次に刺突しながら同様にトリガーをプッシュして見ると、今度は槍状の風魔法が正面目掛けてかっ飛んでいく。
「うわぁ、面白ーい!」
茫然としたキリトとは対極的な空気で、何もかもが新しい魔法を試しながらリーファは陽気にはしゃいでいた。
一方のシノン。
GGOとは明らかに違う銃の造形について興味をもったか、一つ一つ真剣な顔で眺め……兎も角まずはステータス確認だと、スナイパーライフルだろう長い銃を手に取り、指でクリックして説明分の記されたウィンドウを出現させる。
「……なにコレ」
[weapon type]欄には[sniper rifle / two handed ax]と書かれており、先にキリトの変形模様を見ていたからか軽く驚いたのみで、シノンは次の武器を手に取る。
だが―――
次に選んだ銃は、[Twin handgun / Large handgun]。
次に手に取った物は[Crossbow / Bastard sword]。
これはどうだと手にとってみれば、[sniper rifle / assault rifle]。
「デザインは悪くないけれど……何だか、碌なのが無いわ……」
偶に変形機構が存在しない銃火器もあるのだが、何かしら可笑しな仕込みがしてあったり、魔法の銃弾専門であったりと、シノンの望む銃器は中々発見できない。
GGOで彼女が愛用している対物ライフル―――通称“ヘカートⅡ”に酷似するズッシリとした銃こそあったものの、それはそれで値段が張る上……案の定か変形機構の存在する武器だった。
それだけではなく、もうガッシャンガッシャン変わる事は諦めたとしても、その変形先の武器の扱いが複雑な事もあって購入は遇えなく断念。
彼女としては大型か否かに関わらず単なるスナイパー・ライフルか、アンチマテリアルライフルが欲しい所なのだが、ゲームの特性や設定上後者ならばともかく、前者すらない。
存在事態はあるのだと仮定した所で、初心者用のこの店内には用意されていない。
眼を見開いて探してみても、やはりどこにも置かれてはいないのだ。
シノンはまたも幾つか物色した後に諦め、いっそ態とらしい位……大きく深い溜息を吐いた。
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二十分後。
漸く買い物をすませたキリト達は店を出て、買い終えたのが全員バラバラだった為に、一先ず宣言通りにログインした円形広場へ集まっていた。
「じゃあまず買った武器をお披露目っと……俺はこれだ」
「……何だか普通の片手剣ね」
どうも気に入らなかったのか、両手剣に変形する黒い台形刀身の剣は買わなかったらしく、彼の手にはシンプルな形状の片手直剣が握られていた。
「アレ? ……キリト君。その剣、何か横に付いてるけど?」
「銃撃機能搭載式だってさ。トリガーを引くと銃弾が出るんだ」
鍔元から三分の一あたりまで伸びる、角形で簡略的に作られた銃であろう部分を指差し、彼は答える。
何でも……キリトは必死に探して探して探したのだが、やはり普通の剣は存在しなかったらしい。
偶々店を利用していた他のプレイヤーに聞いた所、『此処の初心者用の店売りの武器に、シンプルな奴は置いてない』と言われてしまい―――結果扱いが一番簡単そうな、変形もしない剣を選んだという訳だ。
「ちなみに安かったから、追加でもう一本買ったぞ」
「あんた、此処でも二刀流を披露する気?」
「銃撃を考えなければ、何時も通りで大丈夫だしな」
「うわ……それじゃあALOと変わんないじゃん。キリト君らしいけどさ」
言いながらリーファは苦笑した。
そんな彼女へ次は己の番だとばかりに二人が目を向け、しかし意気消沈もせず寧ろ喜びを高め、リーファは鞘から勢いよく抜き放った。
「じゃじゃーん! これぞ、マジ物の魔法剣って奴だよ!」
彼女が手に持っているのは、先程喜色満面で扱っていた、ルーレットにより宿る力が変わる剣型魔法具だった。
形もALOで彼女が使っていた剣と――――つまり先の物と全く同じな為、振っていた代物と同じ物を買った事が窺え、握り心地からも余程気に入ったと見える。
だが先の四色ルーレットとは違って四つに分けられてこそいれど、上下は青で左右は緑の“二色”になっており、これは初心者なのに態々高い難易度へ手を出して、思わぬ暴発をさせない為の保険だと理解出来た。
「此処のスイッチを押してルーレットを回転させてぇ……えいっ! 更に―――はぁっ!」
実演の為にとリーファはルーレットを回して、上に向け刃を振う。
半月状の氷の刃と、槍状の風の刃を二連続で射出し、嬉しそうにはにかんだ。
周りを行き交うプレイヤー達も、『その気持ちは分かる』とばかりに頷いていたり、『自分にもあんな頃があった』とに苦笑している者達が殆どだった。
「まあ残弾数の制限はあるけどさ? 詠唱しなくても発射できるからALOと比べると結構便利だし、フェイントにも使えるし、物によってはちょっと特殊な物もあるらしいし……何か楽しみになっちゃって!」
「確かに便利だよなぁ」
リーファが扱っていた物を見て、自分も拘りを見せてないで牽制にくらい使ってみるか? といった感じの思考を巡らせているのか、顎に手を当てて考えるキリト。
が……すぐにハッ、と顔を上げて、まだ武器種を教えてもらっていなかった、シノンの方へ顔を向けた。
「シノンは、何を選んだんだ? やっぱり銃か?」
「……ええ。冷静に考えてみれば、“所変われば品変わる”だからケチ付けても仕方ないし。それに、序盤から扱いきれない物持つなんて愚行だし……デザインもシンプルだから、コレで妥協したわ」
そう言いながら目の前に差し出されたのは―――薄く灰色がかった緑色で、彼女の言う通りシンプルな形をしたスナイパーライフル。
確かに以前までスナイパーだった彼女だ。後は銃の癖を理解すればピッタリ合致するだろう。
されど……妥協したという事は、コレ以外に何かあるという事にも他ならない。
何があるのかと言いたげな表情で覗き込むキリトとリーファへ答えるかのごとく、シノンは銃口を下へ向けてスイッチらしきものがある場所を、若干集中力を増させた表情で押した。
するとキリトが唖然となった台形刃の黒剣の如く[“ガカカァン!!”] と音を上げて、まず細長い銃身がある程度引っ込みカバーがかぶせられ、上下に分かたれた後部持ち手がそれぞれ変形し、『狙撃銃』から『突撃銃』へ様変わりした。
「銃オンリーなんですね。そっか、変形だからって無理に遠近にしなくてもいいんだよね……」
「形自体はあまり変わってないけどな」
「でも現実的な銃で考えれば、充分に可笑しいわ。用途が全然違うライフル銃への変形だもの」
今まで硝煙と鋼、そして黄昏の世界を渡り歩いていたシノンだ。
ALOでは弓を使っていたが当然変形機能なんて存在せす、ずっとシンプルに遠距離から闘っていたのだから、行き成り使い分けろと言われても、意識的や手腕的に少々キツイのかも知れない。
「まあ、使ってみたら案外ハマったけれど。GGOよりは簡単だけど底が浅い訳でもないし、ノーエイム射撃も出来るし」
「えっ」
「じ、銃声は聞こえませんでしたけど……?」
「射撃用の別エリアに飛んだからよ。発砲音が他のプレイヤーの妨げにならない様に、って」
が……どうやら妥協こそしたが、気に入らない訳でも、使えない訳でもないらしかった。
キリトは少しの間言葉を失ったものの、すぐに立ち直って咳払いをする。
そこから指を立てて告げた。
「よし。じゃあ全員の武器も確認出来た事だし、早速フィールドへ出てみるか」
「賛成! 早く本番でこの子を使ってみたいなあ」
「確かめただけだったし、この銃にもっと慣れなきゃいけないし……異論はないわ」
「満場一致だな!」
頷いたキリトはまずランクの低い、ビギナー達が足しげく通う最初のフィールドを、広場前に置かれていた大きなモニター型地図で確認する。
ワクワクが止まらないリーファと不敵に笑うシノンを連れて、彼自身もまた新しい世界へ一歩踏み出す高揚感から―――――意気揚々と歩き出すのだった。
「すすすす済みません!? おおお遅れちゃいました~~~っ!!」
「「「え?」」」
否歩き出した…………正にその瞬間、背後から聞き覚えのある声が掛けられ、キリト達は一様に脚を止めてしまう。
振り向いてみればそこにいたのはツインテール―――いや、今はツーサイドアップの少女【シリカ】だった。
「シリカ……来てくれたのか?」
「ハ、ハイッ! 今日は予定もありませんでしたし!」
「よかった~、ログイン出来ないんじゃないかって、あたし達心配したんだよ?」
「何かあったの?」
「そそ、それはですね……」
シリカが言うには―――――何でも前日は宛ら遠足前の小学生よろしく楽しみで中々寝つけずにいて、それでも何とかギリギリ間に合いそうな時間に起床する事は出来たものの、キャラクタークリエイトの自由さにのめり込んでしまい……結果、大幅に遅れてしまったらしい。
ハマってしまったのが原因というだけあって、青を基調とした露出の少ない服の色は丁寧なグラデーションを持ち、髪型もツーサイドアップでありながら猫耳の様な小さいアレンジを施され、身長こそ変わらないが現実の彼女とは似て非なる装いとなっていた。
「確かに髪型も、グラデーションとかも変えられたよね。あんまり拘らなかったけど」
「入れたい場所に入れたわ。折角だし」
「……お、俺は、えっと―――」
「言わなくていいわ。どうせ即行、黒で塗り潰しただろうし」
ぐうの音も出ない “正解” にキリトは黙ってしまった。
そんな彼を見て幾分か落ち着きを取り戻したシリカだが、しかしすぐさま再び湧き上がって狼狽し始める。
「ととっ、兎に角すぐに武器を買ってきますので!」
「あ! シリカ、この世界の武器は」
「ではっ! ちょっと待ってて下さいね!」
キリトが言いきる前に、シリカはピューッ! と走り去ってしまう。
呼びとめることすら出来なかった。
「……だ、大丈夫かなシリカ……奇妙な得物を買ってきたりしない……よね?」
「ソレを否定できないのが辛い所だわ」
「せめてリーファみたいな武器だと良いんだがな……うん」
心配だという空気を隠しもせずボソボソ話し合う彼等を余所に、僅か “三分足らず” でシリカは店を出て、マッハで買い物を終えたか勢いよく駆け戻って来た。
「はぁ~、良かったです。ちゃんと短剣は置いてありましたよ~」
「し、シリカ、その武器って……」
「はい! やっぱり心機一転しても、以前まで使っていた武器の方が、馴染みやすいと思いまして!」
キリトの心配とはかけ離れた、見当違いなことを元気よくシリカは述べる。
当然の事ながら、キリトが何故言い淀んだのか、なぜ『その武器って……』と呟いたのか、今更考えるまでもない。
どうやって教えるかと悩んだ後、埒が明かないと見たかシノンが一歩前に出る。
「シリカ、ちょっとステータスを開いて言う通りにクリックしてくれる?」
「はい……?」
訝しみながらも他プレイヤー可視可能モードにして、シノンに言われた通り順々に確認していき……最後には左手を切っ先の前に置くという、奇妙な格好で構えさせられていた。
「これで、思い浮かべて集中しながら、スイッチを押せばいいんですよね?」
「その通りよ」
言いながらキリトとリーファの元へ戻っていくシノンの顔は……何故かとても疲れた物であり、しかも途中で目を覆ってしまう。
「如何したんだよ、シノン」
「……有り得ないでしょ、アレ……有り得ない……」
「あの……本当にどうしたんですか?」
リーファの声掛けでも顔を上げず、何度目かの問い掛けで漸く呟くのを止め、顔を上げたシノンが二人を見ながら顔をしかめた。
「ホント、一番あり得ない。だって―――」
[“ガカァン!”]
「ふぇ……ふぇえええぇぇ!?」
シノンが言いきる書の直前、前方から驚愕の声音が上がった。
眼を丸くし、シリカは驚いているが……それだって無理もない。
何せ短剣の刃が横に縦に、ある程度ながら伸びただけでなく―――
―――あろう事か柄まで、三倍をも “超えて” 長くなっていたのだから。
「……なあ、アレって……」
「ま、まさか……」
「ええ。武器欄に記されていたのは[dagger]と…………[two handed spear]よ……」
―――『槍』に、変わっていたのだから。
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