ガンダムビルドファイターズトライ ~高みを目指す流星群~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
04 「ガンプラバトル部、始動」
圧倒的なエネルギーの奔流がすぐそばを通過する。
俺の扱っている機体クロスボーンX1フルクロスにはIフィールドが搭載されているが、このレベルの砲撃が直撃してしまうと撃ち抜かれる可能性もある。Iフィールドの出力を最大にすれば撃ち抜かれる可能性は低くなるだろうが、それは必然的に機体の粒子残量が大きく削ることに繋がるだろう。
「まあ……当たらなければどうということはないんだが」
意識を前方のモニターに映っているセラヴィーパンツァーに集中する。
この機体はオリジナルであるセラヴィーガンダムをより重火力・重装甲化させたヒョウドウの機体だ。何故俺達が戦っているかというと理由は至極単純。部員同士の練習試合ということになる。
先ほどの高火力兵器――改良型GNキャノンは連射性には優れていない。次が発射されるまでにはインターバルがある。接近するなら今がチャンスだ。
ファイターによってはヒョウドウの機体は鈍重だから狩りやすいと思うかもしれないが、俺から言わせてもらえばなかなかに性質の悪い機体だ。
まずIフィールドといったバリア系統を撃ち抜きかねない高い威力を持つ改良型のGNキャノン。射程ももちろん長いため、ロングレンジで撃ち合えるのはランチャー兵器や長距離狙撃可能なライフルを持った機体だけだろう。
他にも手には連射性を向上させた2丁のGNバズーカⅡ。オリジナルよりも火力は落ちているとはいえ、ビームライフルよりも確実に火力はある。それに背中のバックパックはセラフィムではなく、GNミサイルといった兵器をふんだんに積み込んだ火薬庫だ。
俺のフルクロスにはムラマサ・ブラスターやピーコック・スマッシャーといったそれなりに火力を持った射撃兵器がある。本来ならば無理に近づかず中距離で制圧するか武装を潰す……
「……とはいえ」
あのセラヴィーにはGNフィールドがある。機体の特性的にOOシリーズでもトップレベルの強度を持ったフィールドだ。ヒョウドウのビルダーとしての力量を考えるにそこに改良を加えていないということはないだろう。
故に中距離で撃ち合っていても埒が明かない。それどころか、戦闘が長引けば長引くほどこちらが不利になるだけだ。
自画自賛になってしまうが俺のフルクロスは、そんじゃそこらのビルダーが作ったガンプラよりも完成度は高い。機体の性能を考えれば数段上を行くだろう。
しかし、高い性能を十分に発揮するにはそれだけのエネルギーが必要になる。
つまり簡潔に言ってしまえば、俺の機体は燃費が悪いのだ。チーム戦ならば仲間から粒子の供給も可能なのである程度解決する問題なのだが、何分今は1対1バトルだ。補給を受けることはできない。
これらを考慮した結果、俺はセラヴィーに接近して近接武器や最大出力の射撃を撃ち込むという考えに至ったのだ。
「――行くぞ!」
最大限スラスターを噴かせ機体を加速させる。はたから見れば、俺のフルクロスは宇宙の闇を切り裂いて飛ぶ流星のように見えるかもしれない。
こちらが接近を行い始めた直後、セラヴィーが次々とGNバズーカⅡを発射してくる。
一般的なビームライフルなどに比べると取り回しが難しい武装であるはずだが、舌打ちしたくなるほどボディを狙った精密な射撃だ。扱い慣れたフルクロスならまだしも、俺ではあのセラヴィーでここまでの精密射撃は出来ないだろう。
「だが……」
フルクロスの機動性ならば回避することは可能だ。それに……時として精密すぎる射撃は回避しやすい。可能な限り減速することなくビームの雨を潜り抜けていく。
ガンプラバトル部が稼働を始めて数日、ヒョウドウとは何度か刃を交えている。1戦ごとに射撃の精度や攻め方がより良いものへと変化しているあたり、彼女は物事をきちんと分析して自分の中で試行錯誤を繰り返しているのだろう。一瞬でも気を抜けば俺のフルクロスはデブリに変えられてしまうはずだ。
とはいえ、1戦ごとに相手の特徴を掴んでいるのはこちらも同じ。今バトルしているヒョウドウやもうすぐ部室に来るであろうコウガミからは自分達よりも上のファイターだと思われている。
ヨーロッパチャンピオンの友人を持っており、またそいつと良い勝負をする存在だと知られているのが最大の理由なんだろうが……何でヒョウドウはヨーロッパの方の情報が乗った雑誌を持ってたんだが。一応ガンプラの本場は今も日本のままのはずなんだが。
世界にも目を向けている、と言ってしまえばそれまでの話であり、間違った情報でもなければ特別隠しておくことでもない。なので俺からどうこういうつもりはない……が。
「っ……当たらない」
「強者と思われてる以上はそれ相応の戦いをしないといけないからな。というか、ここで当たったら何かしら言うだろ?」
「そうですね、体調が悪そうならともかく手を抜いたと判断すれば平手打ちをしてもおかしくないです」
感情の起伏があまりなさそうなのにガンプラ関連になると何事にも好戦的というか荒っぽいというか。作るガンプラといい、本当に見かけによらない人物である。
コウガミのような人間だったら理解もできるのだが……これを本人の前で言ったら怒られるだろうな。というか、今はバトルに集中しないと。
「これなら……!」
セラヴィーパンツァーの背部から大量のGNミサイルが放たれる。追尾性ももちろんだが、このミサイルはGN粒子を噴出して内部から破壊する特性を持っている。着弾すれば破損は免れないだろう。
――初見の時も驚いたが、相変わらず馬鹿げた量のミサイルだ。
ピーコック・スマッシャーを使って一層したいところだが、標準や威力の問題でその場で停止しなければならない。距離を詰めてる分、回避に使える時間は短くなっている。可能な限り移動速度を落としたくはない。
「なら……!」
俺はフルクロスの左手に持っていたピーコック・スマッシャーを腰部に携帯し、代わりにバスターガンとビーム・ザンバーを連結させた兵器ザンバスターを装備する。右手に持っていたムラマサ・ブラスターを射撃が行えるように持ち替え、迫り来るミサイル群に向かっていく。
――極力スピードは落としたくない。撃ち落とすのは最低限だ。
ムラマサ・ブラスターとザンバスターでミサイルを迎撃しながらセラヴィーパンツァーへ接近していく。GNバズーカⅡによる追撃も飛来するが、それも紙一重でかわしながら片方の武器でミサイルを迎撃しつつ、チャンスがあればもう片方で応戦。GNフィールドを貫けないのは分かっているが、接近するための牽制にはなる。
「くっ……まだ、まだ終わりじゃない!」
セラヴィーパンツァーは両手に持つ改良型GNバズーカⅡ、バックパックの大型GNキャノン及びGNミサイル、腰部のGNキャノンの標準をこちらに合わせる。絶え間なく射撃を行うがヒョウドウのメインスタイルではあるが、どうやら全武装を用いて広域攻撃を行うつもりらしい。
射撃の合間を縫って接近……不可能じゃないが部分的に破損する可能性が高い。最悪の場合、一瞬にして灰にされる可能性もある。Iフィールドを最大にして受けるという選択もあるが、それを行う前に出来ることはまだある。タイミングはシビアだが……!
発射されるまだの間、可能な限り機体を加速させて距離を詰める。攻撃の危機を伝えるアラートが鳴り響き続けるが、俺は速度を緩めたりしない。
「何を考えてるか分かりませんが、これで終わりです!」
「――そこだ!」
セラヴィーパンツァーの全武装が発射される直前、ムラマサ・ブラスターとザンバスターをセラヴィーパンツァーのバックパック付近へ放つ。
そこはGNミサイルの発射口。発射されるGNミサイルは発射直後に撃ち抜かれて爆発する。発射させる数が多ければ多いほど誘爆する数も増え、機体の近くでそれが起きれば必然的に損傷や操縦へ影響が出るものだ。
「なっ……!?」
目論見通りGNミサイルの爆発に成功し、セラヴィーパンツァーはその影響を受けた。しかし、それでもフルクロスに迫り来るビームは存在しており、俺はIフィールドをすぐさま展開する。
時間にしてみれば一瞬に等しいものだが、それでも機体は大きく減速させられた。相手のバックパックの武装は使い物にならなくなっているようだが、それでも両手と腰にはこちらを落とすには十分の火力が残っている。
――ここからはある意味時間との勝負だ。
右手のムラマサ・ブラスターを持ち替えながら左手のザンバスターで牽制。GNフィールドで防ぐかとも思ったが、ヒョウドウは回避しながらGNバズーカⅡで応戦してきた。精密さを失っていないあたり、彼女の勝利への意志に揺らぎはないだろう。
「それでも……勝つのは俺だ!」
すでに間合いは近接戦闘の距離に入っている。ここから先必要なのは射撃より近接武器だ。
俺は左腕を振るいながらザンバスターを分離させる。左手にはビーム・ザンバーだけが残り、バスターガンはセラヴィーパンツァーへ飛んでいく。
ヒョウドウは撃ち落としによる爆発で視界が遮られるのも嫌がったのか、片方のGNバズーカⅡで弾くことを選択した。ただ勝負というのは、時として一瞬と呼べる時間が明暗を分かることがある。
「――もらった!」
ムラマサ・ブラスターを上段から振り下ろす。これで決めるつもりだったが、斬り裂くことが出来たのは右手に持たれていたGNバズーカⅡだけ。だからといって気落ちしたりはしない。
俺は機体を素早く回転させながら微妙に距離を詰め、その勢いを利用して左手のビーム・ザンバーを振るった。その一撃はセラヴィーパンツァーの左腕を吹き飛ばす。これでGNバズーカⅡは現状では使用することは出来なくなった。
が、まだセラヴィーパンツァーには腰部にGNキャノンが残っている。ほぼゼロ距離に居るのだから直撃をもらえば敗北するのはこちらだ。すでにGNキャノンは発射準備に入っている。それだけに次の選択がこのバトルにおいて最重要だと言えるだろう。
まあ……ここまでの流れは読み通りなんだが。
俺は焦ることなく操縦を行い、フルクロスはそれに寸分の遅れもなく応え、回転の勢いを殺さないままムラマサ・ブラスターでセラヴィーパンツァーの胸部を貫く。引き抜きながら再度ビーム・ザンバーを振るって胴体を斬り捨てることで、このバトルは終わりを迎えた。
「……ふぅ。何度か戦って分かっていたことですが、あなたの操縦技術には舌を巻きます」
「そっちこそ、相変わらずの精密射撃だな」
「慰めならいりません。1発も直撃させていないんですから」
確かにそのとおりではあるが、こちらとしては余裕で回避したものは1発としてない。全弾に神経を集中してどうにか対処することが出来たのだ。
「別に慰めとかで言ってるんじゃないんだが……」
「……冗談ですよ。あなたが手を抜かずにやっていたのは見ていて分かりましたし、そもそも私とあなたとではファイターとしての力量に格段の差があります。全く悔しさがないではありませんが、ヨーロッパチャンピオンのライバルに善戦出来ていると思えば悪い気はしません」
そう言うヒョウドウにはわずかばかりだが笑みが確認できる。普段は無表情に近い彼女だが、どうやらバトル中やバトル後はテンションが上がっているのか口数が増え感情も表に出やすいらしい。
「そうやって変なプレッシャー掛けるのはやめてほしいんだがな」
「あなたがこれくらいの言葉で揺らぐような人物ではないでしょう。それに……このようなことは強者には付きものだと思いますが?」
否定はしない……というか、ヒョウドウは雑誌やらでヨーロッパに居た頃の俺を知っているようなので否定しようがない。あいつと顔見知りというだけならまだしも、ライバル的な扱いだったことも知られているのだから。下手に否定すると謙遜ではなく嫌味になってしまうだろう。
「ご期待に添えるように今後も精進するよ」
「頑張ってください。……ところでナグモさん、ひとつお聞きしたいことがあるのですが?」
このタイミングで質問ということは、バトルに関することだろう。
プラモデル部との一件が終わって今日で1週間。仮入部期間も終わり今日から本格的に新入生達は部活動に勤しむことになる。
俺を含めガンプラバトル部に入った新入生3人は、今日に至るまで毎日部室に顔を出してバトルやガンプラ関連の話を行った。無論、自己紹介も済ませている。まあだからといって明るい性格のコウガミはともかく、俺やヒョウドウにこれといった変化はないのだが。
「何だ?」
「ナグモさんの使うフルクロスは高重力対応型。それでいて完成度も高いため、抜群の機動性を誇っています。しかし……機動性だけで言えば、コウガミさんの百里の方が上です」
そこまで聞いてある程度ヒョウドウが聞きたいことは分かった。
俺とコウガミは同じクラスであり、彼女は基本的に俺と一緒に部室に行こうとする。先日のプラモデル部の一件以来、妙に話しかけてくるようにもなった。話す内容がガンダムやガンプラに関することばかりなので誤解するようなことはないが。
おそらく今ヒョウドウが聞こうとしているのは、どうして機動性に優れている百里には射撃を当てられるのにフルクロスには当てられないのか……といった感じの質問のはずだ。
これは解釈の仕方によってはコウガミのファイターの腕が低いとも取れる質問になりかねないし、俺達は接した時間的に何でもかんでも言い合える間柄でもない。ヒョウドウはこの1週間ずっと胸の内に秘めていたのだろう。今日聞いてきたのは、たまたまコウガミが知り合いと話があるということで部活に遅れてくるからか……。
「つまり、俺がどうやって回避してるかが知りたいってことか?」
「あながち間違いではないですが、私が聞きたい部分は私の射撃に癖があるかどうかです」
なるほど……近接戦や射撃戦のどっちが得意だとか、どういう武器が使いやすいかとかは分かりやすいが、動きの癖といったものは自分では気づきにくかったりするからな。
「もちろん……私とあなたは出会ったばかりですし、部活を離れたところで相対すれば敵同士です。無理に教えてほしいとは言いませんが」
「それはそうだが、今後はチームを組んで戦っていく間柄でもあるだろ。もっと気軽に何でも聞いてくれていいさ。ただ……正直に言って、ヒョウドウにおかしな癖なんてものは見当たらない」
「そうですか……ならば単純にファイターとしての力量の差というわけですね」
納得しているような声ではあるが、どことなく残念そうな顔をしている。普段感情を表に出さないだけに何とも言えない気分になってしまう。
「まあしいて言うなら……ヒョウドウの射撃は正確過ぎる」
「正確過ぎる?」
「ああ。ミサイルはともかく、基本的に機体の胸部から胴部を狙ってるだろ? 武装的に一撃で落とせるから間違ってるとは思わないが、正確過ぎる攻撃は時として先読みしやすいからな」
「なるほど……誰にでも言える言葉ではありませんが、あなたの動きを見ていた身としては納得の言葉です。とはいえ、大幅なコンセプトの変更はバトルスタイルにも影響しますから……武装面を見直してみることにします」
徐々にバトルで上がった熱は引いてきているようだが、目を見た限りやる気は十分に感じられる。
ヒョウドウの性格を熟知しているわけじゃないから何とも言えないが、近いうちにショットガン系の武装が追加されるかもしれない。そうなったら近接戦闘に入るのが今以上にきつくなるのは目に見えてる。
負傷覚悟で鉄器の懐に飛び込むことは何度もやってきたが、ヒョウドウのセラヴィーが相手だと考えると憂鬱になるな。動きが鈍るどころかその場に停止させられて、次の瞬間には木っ端微塵になってもおかしくないし。まあチーム戦では味方だから頼もしくも思えるんだが。
そんなことを考えていると、閉まっていた扉が開いた。入って来たのは長い金髪と抜群のスタイルが目を惹く女生徒……俺と同じようにガンプラバトル部に所属しているコウガミだ。
「遅れてごめん……あんた達ついさっきまでバトルしてたでしょ」
「ああ、よく分かったな」
「分かるわよ。あんたはどことなく集中力の切れた顔してるし、ヒョウドウは何か嬉しそうなんだから」
ヒョウドウのように普段感情を表に出さないタイプならまだしも、一時的に多少疲れているだけの俺の違いまで分かるとは大した観察眼だ。
これも機動性重視の機体を用いてヒット&アウェイスタイルで戦い続けることで磨かれたものなのだろうか。などと考えてはガンプラバトル馬鹿過ぎるだろう。
「そんなに私は嬉しそうですか?」
「ええ、普段のあんたからすればニコニコしてるって言えるレベルよ。疑うんなら鏡で確認してみたら?」
「いえ大丈夫です。実際のところ嬉しいと感じていますから。ナグモさんのおかげで今後取り組んでいくべき点が見つかりましたし」
こちらとしては大したことを言ってはいないので、そこまで言われると妙な気分になってしまう。数日後には何かしら改良されたヒョウドウのガンプラとバトルすることになりそうなので、そのときのことを考えると冷静になる。まあいざバトルとなれば胸の内は熱くなるだろうが……。
「ちょっとナグモ、ヒョウドウだけにアドバイスとかずるいわよ。ファイターとしてもビルダーとしてもあんたはこの部で1番なんだからこっちの面倒も見なさいよね。そうじゃないと不公平よ」
「不公平って……俺は別に先輩じゃないんだが」
「男ならグダグダ言わない。あんたこの前の一件の時、目標は全国大会優勝って言ったわよね。それを達成するにはチームとして勝ち進まないといけないんだから無意味なことじゃないでしょ」
確かにそれらしいことは言ったし、今日に至るまでの間に全国大会優勝を目指そうという話になった。現在はではガンプラ学園という学校が毎年のように制覇しているようだが、絶対王者を下して優勝というのは実に燃えるシチュエーションでもある。
「無意味だとか思っちゃいないが、俺が言えることだって限られてるからな。そもそもの話、俺とコウガミ達じゃバトルスタイルだって違う。バトルスタイルが違えば、敵への対抗方法も変わってくるんだから」
「それはそうだけど、相談くらいは出来るでしょ。協力してやってかないと全国大会優勝なんて夢のまた夢だわ。現状じゃチームとしての総合力は低いだろうし」
コウガミの考えは一般的に言えば否定したいところではあるが、実際のところ間違っていないと言える。
「それは……まあそうだな」
ここの部室に集まっているのはチーム戦ではなく個人戦ばかり行ってきたファイター。自分勝手に戦える個人戦と違って、チーム戦では戦術を始めとした連携が必要になってくる。
何度かバトルしてはっきりと理解したことだが、コウガミやヒョウドウは強豪校に居てもおかしくない力量を持っている。
だからこそはっきりと言えることだが、このチームのファイターは自分のバトルスタイルというものが確立されてしまっている。扱う機体や武装のバランスは悪くはないが、チームとして動く場合は多少なりとも妥協というか相手に合わせなければならない部分が出てくるはずだ。またこれに加えて……
「俺達はチーム戦の経験が不足しているし、全体的に使ってる機体が粒子残量に気を配らなければならないものばかりだ」
コウガミの百里は高い機動性を保持しているし、ヒョウドウのセラヴィーは高火力かつバリア持ち。俺のフルクロスは部分的に見ればふたりのガンプラに劣る部分もあるが、総合的には最も優れた性能だろう。それぞれの真価を発揮しようとすれば、必然的に使用する粒子は多くなる。
「それぞれが1体ずつ仕留めるって戦法でもある程度戦えはするだろうが……」
「地区予選ならまだしも、全国大会ではおそらく通用しないでしょうね」
「ええ。あたしやヒョウドウもナグモ並みの腕があれば別でしょうけど……全国大会に行けば化け物じみたファイターがゴロゴロと居るわ」
日本中の最も強いチームが集まるのだから当然だろう……個人的にはそれ以上に、化け物じみたという発言があったときにふたりの視線がこちらに向いたことが気になる。天才的といった表現ならともかく化け物というのは素直に喜べないのだが。そういう表現はMSに使われるべきだろう。
「勝ち抜いていくにはあたしやヒョウドウが化け物じみた連中に追いつくか、あたし達の戦い方を見つけることでしょうね」
「可能性として高いのは後者でしょうが……何にせよどちらも時間が掛かるのは間違いありません」
「そうね。そもそも部員が3人じゃ他校と試合でもない限りチーム戦は出来ないし、今はどこのショップも大会を開きそうにないし……」
結果的に言えば、今俺達に出来ることはバトルをして個人の力量を磨くこと。自身のガンプラの性能を理解し、より自分に合った機体に改良することくらいだ。
この1週間の間に顧問に他校と試合がしたいとはチラッと言いはしたが、うちの顧問はこの学校に来たばかり。しかも今年から教師になったばかりの新任さんだ。
うちの学校は世間からは弱小校と思われているだろうし、顧問もガンダムやガンプラは知っていてもバトルは見るだけで実際にはやったことがない人だ。練習試合を組むのも一苦労するかもしれない。
「今はやれることをして待つしかないだろう」
「そうなるわね……そういえば、来週うちに転校生が来るらしいわよ。聞いた話では海外の子らしいわ」
「ふーん……」
「そうですか」
「あんた達……少しは興味持ちなさいよね。どんだけガンプラ馬鹿なのよ」
ガンプラ馬鹿という言葉は、全国大会優勝を掲げる人間にとってはむしろ褒め言葉ではないだろうか。というか、言っている本人も俺やヒョウドウよりは他方面にも興味を持っているだろうがガンプラ馬鹿だろう。ガンプラ馬鹿にガンプラ馬鹿と言われても侮辱としては説得力がない。
「たかだか生徒数が増えるだけではありませんか。それに今どき留学生といった存在も珍しくありませんし、転校生が来るだけで騒ぐのもどうかと思います」
「あんたの考えを否定するつもりはないけど、少しは違うことにも目を向けるようにしないと灰色の青春を送ることになるわよ」
「ガンプラに打ち込んだ結果がそれならば本望です」
「あんた……恋愛とか興味ないわけ?」
「特に……まあ何にせよガンプラに理解のない人と付き合うつもりはありませんね」
「あっそ……ナグモは?」
「人に聞きたいならまずは自分から話せ」
ページ上へ戻る