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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第40話 将軍、逃亡

 魔人となった高杉晋作との戦いを制し、息も絶え絶えに到着した土方と近藤は、その城内に入るや否や信じられない光景を目にした。
 ある者は泣き叫び、ある者は怒声を発し、そして、ある者は只々呆然と立ち尽くしていた。
「これは一体、どういう事ことなんだ」
 その光景を見て近藤も呆然と立ち尽くした。
(俺達は勝ったんだ。あの魔人・高杉晋作に。それなのになんだ、この有り様は)
 近藤は怒りに震え始めた。
「近藤さん、ともかくまずは現状を把握しよう」
 土方の呼びかけに我に返った。
「そ、そうだな。我らが隊を見つけよう」
 土方と近藤は走り出した。

「土方さん、近藤さん」
 土方と近藤を呼び止める声がした。
「ご無事でしたか」
斉藤を担ぎ大阪城に先についていた原田佐乃助が二人を呼び止めた。
「おぉ、左之助。お前も無事でいたか」
近藤は原田の肩を叩いた。
「左之助、斉藤はどうした?」
土方は斉藤の状況をすぐさまきいた。
 なんせ、高杉の拳の衝撃を辛うじて逃がしたとはいえ、攻撃を喰らっている。まともでいられる訳はない。
 斉藤の戦力はまだまだ必要とされているのだ。
「はい、なんとか腕の骨折だけで済んでます」
 原田たちも大阪城に到着した時も近藤土方と同じように、この惨状を目のあたりにしていた。が、斉藤を気遣い、すぐさまに医者に、原田は斉藤を引き渡したのである。
「そうか、よかった」
近藤は安堵で胸をなで下ろした。
「ところで、左之助。この有り様はどういう事なんだ?」
土方は原田を見据えて言った。
「それが、私もついさっき到着したばかり実状はわからないのです。が、聞くところによると徳川慶喜公が・・・・」
原田はそういうと目を伏せ、その先の言葉を飲み込んだ。
 何故なら、原田でさえその事実が信じられなかったからだ。
「慶喜公がどうしたのだ」
 近藤は興奮して原田の双肩を揺さぶった。
(まさか、討死?)
「近藤さん、まずは落ち着こう」
 土方の声に近藤は我に返った。
「原田、慶喜公がどうしたんだ?まさか、討死ってことではあるまいな?」
 近藤の不安をさらりと言いのけた土方に近藤は驚き目を見開いて土方をみつめた。
「いえ、それが・・・・・」
 原田は慶喜討死を否定しながらも、目を二人からそらしている。
「討死でなければ、どうしたのだ!!」
近藤ははっきりしない原田を怒鳴りつけた。
「近藤さん!!」
 拳をぐっと握りしめ、土方は近藤に怒鳴った。
「近藤さん、この状況だ。流行る気持ちもわかる。が、原田を攻めてもどうにもなるまい。まずは、我々だけでも冷静に対処しよう」
 土方も事実、近藤と同じく原田をどやしつけたい気分ではあるが、ぐっとこらえた。
「原田、もう一度聞く。討死ではなければ、なんだ?」
 俯く原田に土方は原田を見つめ、厳しくも優しい声で言った。
「そ、それが、私も本当に信じられないのです」
 今まで聞いた事ない土方の声に涙を詰まらせ原田は答えた。
 ただならぬ、原田の様子を見て近藤と土方は息をのんだ。
「慶喜公が大阪城を抜け、江戸に戻ったとの事です」
 原田はそういい終わると泣き崩れた。
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・・」
 近藤の目の前が真っ白になった。
(幕府軍の総大将が敵前逃亡だと!!では、幕府のために戦った我らはなんだったのだ)
近藤もまた膝が折れそうになり、その場で泣き叫び衝動が全身を駆け巡った。が、それを繋ぎとめたのが土方だった。
「原田、慶喜公、逃亡は本当の事なのか?」
 土方は近藤の肩をぐっと握り原田に言った。
「いえ、聞いただけのはなしです。が、会津藩の松平容保様の手引きとの事と言う噂です」
 土方もその場で崩れ落ちそうになった。何故なら、会津藩が手引きしたという事に。
(松平容保、俺はあんたを信用していたんだがな)
 魔人・岡田以蔵退治に協力してくれた恩義もあった。が、まさかの将軍逃亡を手引きするとは。
 確かに大阪で将軍討死ともなれば幕府はその場で終わる。が、幕府に協力した諸国の者たち。そして、我ら新撰組の事をどう思っているのか。
 そう思うと怒りが込み上げてくる。
「近藤さん、俺はまず、それが事実なのか確認してくる」
  土方は近藤と原田を置いて大阪城天守閣に向かおうと歩き出した。
「としさん!!」
 近藤の叫びが土方の歩みを止めた。
「としさん、それは俺がやる」
 近藤の歩みは力強かった。
「近藤さん」
 近藤の呼びかけに立ち止った土方を近藤は追い抜いて行った。
「としよ、原田が言った事が本当なんか嘘なのかとしても、お前さんは、急ぎ先に江戸に向かえ」
 近藤は立ち止り土方に振り向くことなく告げた。
「近藤さん、何を言ってるんだ。俺も行くぞ」
 土方は歩きはじめとうとした。
「駄目だ。来るんじゃない!!」
 近藤の怒声に土方はひるんだ。あまり、聴かない近藤の怒声だった。
「としよ、この現状が偽りであったなら、急ぎ慶喜公、容保殿両名を引き連れ江戸に向かおう。そして、共再び戦おうぞ。が、これが本当ならば、慶喜公の真意をお前が聞くのだ」
 近藤は土方に振り向きにっこりとほほ笑んだ。
「近藤さん・・・・・・」
 土方はそれ以上声に出すことができなかった。
「いいな、副長・土方歳三。これは、新撰組局長・近藤勇の命である。いそぎ、隊を編成し江戸へ迎え」
 近藤の姿はまさに威風堂々。新撰組局長の姿だった。
「解りました。新撰組副長・土方歳三、局長の命に従います」
 土方はくるりと近藤に背を向け走り出した。
(としさん、お前はお前の誠を貫いていけ。俺も俺の誠を貫いていこう)
 近藤の目に光る物があった。また、同様に土方の目にも。
 
 

 
後書き
今回を第2部とさせていただきます。
さしずめ龍虎復活編となずけたいと思っております。
龍馬の龍と晋作を虎と致しました。
ですが、高杉晋作が剣豪?
しかも無手?と疑問があるとは思います。
そう、その通りなのです。
みなさんも安直だなと感じていると思います。
喧嘩屋だから拳で勝負。
高杉が喧嘩屋と言われた所以はそこではないと私も思っています。
ですが、拳のみで戦わせてみたいと思った次第なのです。
あの高杉の写真のよう軽装のままで自分の赴くままに。

 
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