紅く染まった琥珀石
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「妖精の尻尾」
『フィオーレ王国』人口1700万の永世中立国‥そこは魔法の世界。
魔法は普通に売り買いされ、人々の生活に根付いていた。
その魔法を駆使して生業とする者達がいた。
人々は彼等を『魔導士』と呼ぶ。
魔導士たちは様々なギルドに属し、依頼に応じ仕事をする。
そのギルド国内に多数。そしてとある町にとある魔導士ギルドがある。
後々に至るまで数々の伝説を生み出したギルド。
その名はFAIRY TAIL.
港町・ハルジオン。
茶色に塗られた列車の中から駅員の困惑した声色が聞こえてくる。
「あ‥あの‥お客様?」
「ナツ! 着いたよハルジオン! 起きて起きてー!」
「寝てないで起きてよ~」
喋る猫の2匹が床でダウンしている桜髪の青年・ナツを必死に起こす。
風呂敷を背負った青い毛並みの猫がハッピーで、おっとりとした口調の黄緑色の毛並みをした猫がミントという名だ。
「すみません! すみません! ほらナツしっかりしてください!」
駅員に謝りながらナツの腕をひっぱるこのバイオレットの髪色の少女、名はコハク。
「いえ‥それよりそちらの方は大丈夫ですか?」
「あい! いつもの事だから」
「うんうん、いっつも乗り物乗るとこうなっちゃうんです!」
「もう無理‥もう二度と列車には乗らね‥うぷっ」
気持ち悪そうにナツは顔を青白くさせた。
そんな顔色を見るとこっちまで気持ち悪くなってしまいそうだ。
「そんなセリフは聞き飽きました! ほら列車降りますよ? ミントおいで」
「はぁ~い」
コハクはミントを抱きかかえ、列車を降りた。
「情報が確かならこの街に火竜がいるはずだよ。行こう?」
「あ、その事なんですけど‥‥って聞いてないし」
思い出したかのようにコハクはナツの方を見たが、話を聞く余裕がないようだ。
「ちょ‥ちょっと休ませて‥」
窓の外に上半身を出し、外の空気を吸い込んだナツ。
その間にも列車は出発の準備をしている。
「‥あ」
列車の蒸気の音で出発する事に気付き、一人と二匹が車内の方を見てみると‥。
「たすけてぇぇぇー!!!」
案の定ナツがまだ乗車しており、三人をおいて列車は走ってしまった。
「発車しちゃった」
「かんっぜんにナツの事忘れてたねぇ」
「ですから早く降りようと言ったのに‥」
SOSの声が段々と遠くなっていくのを感じ、コハクは「はぁ」と溜息を一つ吐くのだった――。
何とかナツを列車に降ろし、街中を歩く四人。
「はぁ‥はぁ‥ったくよー。列車には二回も乗っちまうし腹は減ったし‥」
「オイラ達お金無いもんね」
「わたしもお腹空いたぁ」
物欲しそうな目でナツはコハクの方を見るが、コハクの背後に禍々しい何かを感じた。
「そんなのギルドに置いてきちゃいましたよ!!
誰かさんが「火竜探しに行こうぜ!」何て言って私達を無理矢理連れて来たんでしょうが!!
そもそもこの街に火竜は‥」
「ちぇっ。コハクも金ねぇのかよ」
コハクの言葉を最後まで聞かずにナツとハッピーは歩みを進めた。
「また聞いてない‥」
「なあハッピー。火竜ってイグニールの事だよな」
「うん! 火の竜なんてイグニールしか思い当たらないよね」
「だよな」
「勝手に話進んでるし‥」
そんな四人に女子達の歓声が聞こえてくる。
「火竜!?」
「え、本当にいるんですか!?」
コハクは驚愕した表情で女子が群がっている方向を見つめた。
「ほら、噂をすればなんとやらって‥!」
「あい!」
「ちょっ‥! 置いて行かないでくださいー!」
走って行ったナツに追いつこうと、コハクも群れの中へ入って行った。
「イグニール!!!」
「ナツ走るの凄い早いです‥!」
ナツとコハクの声に一人の少女は正気に戻ったのか、目を大きく見開いている。
「‥誰だお前?」
「し、失礼ですって!」
当の本人の火竜は驚いた素振りを見せた後、手をかっこよく振りかざす。
「火竜‥と言えば解るかねぇ? って早っ!!」
「あらら‥」
自己紹介も聞かずにナツとハッピーは去ろうとしたのだ。
その行動にキレた女子達はナツをボコボコにする。
「その辺にしときたまえ。彼とて悪気があった訳じゃないんだからね」
火竜の言葉に女子達は更にメロメロになる。
そんな様子を金髪の少女は厳しい目で見つめていた。
「僕のサインだ。友達に自慢すると良い」
「いらん」
「あっ、それ言っちゃダメですって‥!」
また再び怒った女子達にナツが再度ボコられたのは言うまでも無い。
「人違いだったね」
「やっぱいるわけないですよ」
「さて、この先の港に用があるのでこれで。
夜は船でパーティをやるよ。皆参加してね!」
キザに指を鳴らすと火竜の下から炎が出てきた。
それを巧みに操り宙へ浮き空へ消えて行った。
「なんだあいつは‥」
「どう見ても変人にしか見えな~い」
呆れた顔で空を見つめた四人に、先程の金髪少女が話し掛ける。
「ほーんと、いけすかないわよね」
「ん?」
「どちら様‥?」
「ありがとね! あたしルーシィ。よろしくね!」
突然のお礼に全員がハテナマークを浮かべるのだった。
ルーシィにレストランへ案内された四人。ナツとハッピーは一気に料理を口の中へ運んだ。
コハクもパフェやクレープ何かを食べており、ミントの方はバニラアイスを美味しそうに食べている。
「あはは‥ナツとコハクに、喋る猫ちゃんがハッピーとミントだったっけ‥?」
「あんた良い人だな」
「解ったからゆっくり食べなって‥何か飛んで来てるし‥」
「私達までごちそうになりありがとうございます‥。ナツお行儀が悪いですよ!」
料理に夢中でコハクの声が聞こえないらしく、返事が返って来ない。
「ダメだこりゃ‥」
「き、気にしないで‥。あの火竜って男、チャーム‥つまり魅了って魔法を使ってたの」
「魅了!? その魔法って人の心を恋させる魔法ですよね? 確か発売が禁止されたはずでは?」
コハクは驚いて水を吐き出しそうになり、ルーシィの顔を見た。
「そうそう。そこまでしてモテたいなんてやらしい奴よね。
でもあたしはあんた達のおかげで魅了が解けたの。だからありがとって事!
こう見えても魔導士なんだ、あたし! まだギルドには入ってないんだけどね。
あっ、ギルドってのはね魔導士たちの集まる組合で魔導士たちの仕事や情報を仲介してくれる所なの。
魔導士ってギルドで働かないと一人前って言えないものなのよ‥。」
魔導士やギルドについて言い出すと、ルーシィはその事についてノンストップで話し始めた。
「良くしゃべるね」
「明るくておしゃべりなのは楽しくて良い事ですよ‥!」
うんうんとコハクは頷きながら、パフェの最後の一口を食べ終えた。
「そう言えばあんた達誰か探してたみたいだけど‥」
「あい! イグニール」
「火竜がこの街来るって聞いたから来てみたは良いけど別人だったな」
「火竜って見た目じゃなかったんだね」
「火の竜っていったらてっきりイグニールの事だと思ったのにな」
ナツは腕を組みながら考え込むようにうーんと唸る。
「見た目が火の竜ってどうなのよ‥人間として」
「ん? 人間じゃねえよ。イグニールは本物の竜だ」
「はあ!? そんなの街中にいるはずないでしょう!!」
「だからそう言おうとじゃないですかー! そもそもドラゴンが街にいたら大騒ぎですよ!」
的確な二人の指摘にナツとハッピーは今気付いた様な顔をする。
「おいー! 今気付いたって顔すんなー!!」
ルーシィはビシッとツッコムと、代金をテーブルに置き席を立った。
「さて‥あたしはそろそろ行くけどゆっくり食べなよね」
「ありがとうございまし――あ!!」
「ん?」
ウェイターの挨拶が止まり、後ろを振り返ってみると‥。
「ごちそうさまでした!!」
「でした!!」
通路のど真ん中でナツとハッピーは土下座をしているのだ。
「すごーい目立ってるねぇ」
ミントはざわめき出した周りをきょろきょろしている。
「やめてぇ!! 恥ずかしいから!! 良いのよ‥私も助けてもらったし‥おあいこでしょ?」
「あまり助けたつもりがないとこが何ともな‥」
「あい、歯痒いです」
通路に座っているナツとハッピーを飛び越え、コハクはルーシィに駆け寄った。
「私からもありがとうございます!」
ルーシィの両手を握り、コハクは涙でうるうるした目で見つめた。
「い、良いのよ良いのよ‥あんた達の本気が物凄く伝わったから‥」
「あ、そうだ!」
ナツはルーシィへさっき貰った火竜のサインを差し出した。
「これやるよ」
「いらんわ!!」
すぐにバッサリと却下されたが。
夜になり、海が見える場所へ行った四人は満足そうに顔を綻ばせる。
「食った食った」
「あい!」
「ルーシィさんには一生感謝しなくてはなりませんね」
「あ! お船だ!」
海に浮かんでいる船を見つけたミントは目をキラキラさせて指差している。
「そう言えば火竜が船上パーティやるってのあの船かな?」
「豪華な船ですねぇ‥」
「うぷっ‥気持ち悪ィ‥」
「ナツ想像しただけで酔うの止めようよ」
「最近乗り物酔いが悪化している気がするのは私だけでしょうか‥」
背中をトントンとさすりながら溜息を一つ。
「見て! 火竜様の船よ!」
「行きたかったなぁー!」
「火竜?」
「知らないの? 今この街に来てるのよ! あの有名な妖精の尻尾の魔導士なんだって!」
女子達の会話を耳にした四人は"妖精の尻尾"という単語に反応した、
「妖精の尻尾?」
「‥何かあるのでしょうか」
コハクは船をマジマジと見つめ、ナツはまた酔っていた。
船上ではと言うと――。
火竜の口車に乗せられ、船上パーティへ行く事になってしまったドレス姿のルーシィがそこにいた。
「ルーシィちゃんか、良い名前だね」
「どうもぉ~」
「まずは乾杯といこう」
指を鳴らし、小粒状のお酒が浮き上がった。
その様子にルーシィは引いている。
「さ、口を開けてごらん? ゆっくりと果実の宝石が入ってくるよ」
我慢我慢と自分に言い聞かせ、口を開けようとしたその時、一気にお酒を手で払いのけた。
「どういうつもり? 睡眠の魔法‥スリープよね」
魔法を見破ったルーシィを興味深そうに見つめる火竜。
「ほほう‥良く解ったね」
「勘違いしないでよね。私は妖精の尻尾に入りたいけど、あんたのモノになる気はないのよ」
「しょうがない子だなぁ」
ルーシィの後ろのカーテンが開いたと思うと、そこからは女性を抱えた大柄な男達が出てきた。
「何なのよ‥これ」
「ようこそ我が船へ。ボスコに着くまで大人しくしてもらうよ‥お嬢さん」
「ボスコって‥ちょっと!! 妖精の尻尾は!?」
「諦めなァ。あんたも今から俺達の商品だ」
「そんな‥それじゃこの子達も‥」
「流石火竜さん」
「今回は大漁ですな」
下品な笑いが部屋に溢れ、ルーシィは太腿に用意しておいた鍵を取ろうとしたが火竜に鍵を奪われた。
「おっと‥。ふーん、ゲートの鍵‥星霊魔導士か。
この魔法は契約者以外使えん。つまり俺には必要ねえって事さ」
鍵を窓から放り投げ、ルーシィの鍵束が海の中へ沈んでいく。
「最低の魔導士じゃない‥!!」
ルーシィは悔し涙を流し、男達をキッと睨み付ける。
そんな時、天井から二つの人影が降って来た。
煙の中からはナツとコハクの姿が。
「ナツ!! コハク!!」
「あら、ルーシィさんこんばんは!」
かっこよく登場したは良いが、船の揺れで早くもナツがダウン。
「ダメだ‥やっぱり無理‥」
「かっこ悪っ!!」
「あららら‥」
「ルーシィ何してるの?」
「さっきぶりー!!」
翼を生やし、空を飛ぶハッピーとミントはルーシィの姿に驚いた。
「ハッピーとミントも! 騙されたのよ‥妖精の尻尾に入れてくれるって‥!」
「ふうん‥そういう事ですか」
コハクはルーシィの言葉を聞き、すっと立ち上がった。
火竜を含め男達は全員唖然としている。
「てかあんた達羽なんてあったっけ!?」
「細かい話は後だよ!」
「早く逃げよ~!」
ハッピーはルーシィを掴み、空へ飛んでいく。その後ろでミントが飛行する。
我に返った火竜は男達に指示を出す。
「追うぞ! 今日みたいに通報されたら厄介だ!」
「ちょっとナツは!?」
「二人は無理」
「あら‥」
火竜は空へ炎を放ち、ハッピーを撃ち落とす作戦だ。
男達も銃で応戦する。
「させませんよ」
だがコハクの蹴りで男は吹き飛ばされてしまい、手荒り次第倒していく始末。
「ナツもコハクも女の子達も助けなきゃ!」
「ルーシィ聞いて」
「何よこんな時に!」
「変身解けた」
「え? クソ猫ォォォ!!!!」
ハッピーの羽が消え、ルーシィは海へ真っ逆さま。
変わりにミントがルーシィを掴もうとしたが少し遅かった。
海に落ちたルーシィとハッピー。ハッピーは岩に頭をぶつけ、
ルーシィは先程火竜に捨てられた鍵束を探し、鍵束が岩の先端に引っ掛かっているのを見つけた。
「ぷはっ!」
「大丈夫~?」
「いくわよー! 開け宝瓶宮の扉! アクエリアス!!」
金色の鍵を海へ差し込むと、そこから魔法陣が出現し中央から瓶を持った美人な人魚の女性が現れた。
「魚ー!!」
「違うから」
「凄いねー」
「スゲー! 人魚だ!」
「あたしは星霊魔導士よ。ゲートの鍵を使って異界の星霊達を呼べるの!
アクエリアス! 貴方の力で船を港まで押し戻して!」
「チッ」
どうやらアクエリアスは気性が荒いようで、舌打ちをした。
「「チッ」って言ったかしらあんた、ねえ!!」
「そんな事に食いつかなくて良いよ」
「早くしよーよ」
「うるさい小娘だ。一つ言っておく、今度鍵落としたら殺す」
威圧的な目で睨まれ、ルーシィは即座に「ご、ごめんなさい‥」と弱々しく返事をした。
「オラァァァ!!」
瓶から大量の水が現れ、船を押し出した。
何故かルーシィ達も大きな波に呑まれていく。
「あたしまで一緒に流さないでよー!!」
「な‥なんですかこの揺れは!!」
船上にいたナツ達も大きな揺れに戸惑う。
ルーシィの希望通り砂浜に激突した船。
ハッピーは砂の中に頭が埋まり、ミントが綱引きみたいに引っ張っている。
「あんた何考えてるのよ‥普通あたしまで流す!?」
「不覚‥ついでに船まで流してしまった」
「あたしを狙ったんかい!!」
「しばらく呼ぶな、一週間彼氏と旅行に行く。‥彼氏とな」
「二回言うな!」
彼氏がいないルーシィへの当て付けなのか、二回「彼氏」と連呼し帰って行った。
「ねえルーシィ! さっきの場合オイラは謝んなくて良いはずだよ!」
「わたしもそー思う~!!」
「このおとぼけ猫達ツッコミづらい‥」
豪華だった船は一部瓦礫へと変身し、人々がゾロゾロと砂浜へ集まって来た。
起き上がろうとした一人の男を、コハクが瞬時に踵落としを喰らわせた。
そしてナツの元へ行くとゆっくりと立ち上がった。
「‥ナツ復活ね」
「ナツ!!」
「言い忘れてたけどナツもコハクも魔導士だから」
「それに凄い強いんだよ!」
ルーシィがナツの元へ駆け寄ったが、真剣な表情に気付き足が止まり、
ハッピーから受けた予想外の言葉に驚愕する。
「お前が妖精の尻尾の魔導士か?」
ナツは火竜にそう尋ねた。
「それがどうした! おいやっちまえ!」
「へい!」
「良く面見せろ」
「暴れ過ぎもどうかとは思いますが‥」
ナツは上着を脱ぎ、突進してきた二人の内一人を上着ごと殴った。
そしてコハクはいとも簡単に男の拳を受け止めた。
「俺は妖精の尻尾のナツだ! お前なんか見た事ねえ」
「同じく妖精の尻尾所属のコハクです。貴方達みたいな輩は少々仕置きを与えなくてはいけませんね」
手首を掴み自身へ引き寄せると、男の鳩尾にコハクの膝が食い込んだ。
「がはっ!!」
ナツの肩には赤色の妖精の尻尾の紋章が、
そしてコハクの右足の太腿にはマゼンダ色の紋章がちゃんと入ってある。
「ナ‥ナツとコハクが妖精の尻尾の魔導士!?」
「あ‥あの紋章‥本物ですぜボラさん!」
「バカー! その名で呼ぶなー!」
「ボラ‥紅天のボラ。
数年前『巨大の鼻』って言う魔導士ギルドから追放された奴だね」
「聞いた事ある‥! 魔法で盗みを繰り返して追放されたって‥」
「お前が悪党だろうが善人だろうが知ったこっちゃねえが、妖精の尻尾を騙るのは許さねえ」
「それにルーシィも騙すとは最低ですね」
「だったらどうするよ! ガキ共が!」
火竜‥いや、ボラが魔法陣から炎を出し二人を襲う。
ボラは去ろうとしたが、ナツは「まずい」と言い炎を食べ始めた。
「お前本当に炎の魔導士か? こんなにまずい火は食った事ねえ」
「こんなの生ぬるいですね」
そしてコハクは魔法で剣を出し炎を斬り裂いた。
人が火を食べる、そして剣で斬り裂くという常識ではありえない光景を目にしたボラ達とルーシィ。
「ふう‥ごちそうさまでした」
「此方も反撃といたしましょうか」
ナツはボラを睨み付け、コハクは長剣をしまい手から白色に光る鋭い刃物のようなモノを出現させた。
「ナツには火は効かないよ」
「コハクにもそんな弱っちい魔法なんて通用しませ~んっ」
ハッピーとミントは恐ろしく不気味な表情で笑った。
「食ったら力が湧いて来た。コハクいくぞ」
「ええ‥もちろんです」
「火竜の咆哮!!」
口から炎を吐き、辺り一面を爆発させたナツ。
「音魔法・剣刃の音!」
コハクの手からは無数の白い光が彼等を襲い、容赦なく切り刻んでいく。
煙が止むと、ボラ以外は全滅していた。
「あら‥一撃で終わらせるには少し威力が足りなかったようですね」
「ボ‥ボラさん‥あの女‥最近闇ギルドを一人で潰した妖精の歌手のコハク・シルビアじゃねえか!?」
「あの男も見た事あるぞ! 桜色の髪に鱗みてえなマフラー‥間違いねえこいつが本物の‥」
「火竜‥!!」
ルーシィは目の前に繰り出される魔法を見つめながら小さく呟いた。
「しっかりとその頭に刻み込んでおきなさい」
「これが妖精の尻尾の魔導士だ!!」
「音魔法・ユニゾン!」
両手に火を纏わせボラと近距離で戦うナツ。
一方コハクは音の力を一点に結集させ、ボラに向かって音を放った。
見事にボラへ直撃し、ナツが殴りやすくする為のサポートだ。
「火を食べたり火で殴ったり‥音で斬ったり音の光線出したり‥って本当にこれ魔法なの!?」
不安そうにルーシィはナツのいる空中を見つめ、動かない。
「コハクの魔法はね、"音"の力を操って戦うの!
でも音魔法は術者が凄い少なくて別名"幻想魔法"として人々の記憶に刻まれてきたんだ~。
あと最初におっきな剣出してたでしょ?」
「え、ええ‥魔法剣だったわね」
「それもコハクがギルドの人に教わった魔法なんだよ!」
「あんなに優しそうなのにやってる事凄いわね‥」
「竜の肺は焔を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う。
ナツのは自らの体を竜の体質へと変換させる太古の魔法」
「何それ!?」
二人の魔法に驚きを隠せないルーシィ。
「元々は竜迎撃用魔法だからね。滅竜魔法! イグニールがナツに教えたんだ」
ハッピーとミントが其々の魔法の説明をしている間にも戦いはヒートアップしていく。
ナツに向かって壊れた瓦礫が落ちてきたが、コハクの魔法で止められた。
「音魔法・加護の音! まったく‥気を付けて下さいよぉ‥」
「サンキューな」
コハクにお礼を言いながら炎を勢いよく吸い込むナツ。
「おいてめぇ! 丸焦げしてやるぜ。火竜の鉄拳!」
「丸焦げー!?」
ナツは火を纏った右手を振りかざし、ボラへ容赦ないパンチが飛んで来た。
その暴れっぷりはドラゴンの様に思える。
「凄い‥凄いけど‥‥」
改めて周りを見渡したルーシィ。そこには全壊された船、そして半壊した街や砂浜が目に映った。
「やりすぎよー!!!」
「あい!」
「怒られちゃうね!」
大騒ぎを嗅ぎつけた軍隊が現れると、焦った様にナツとコハクはルーシィの手を引っ張り逃げて行く。
ハッピーとミントは羽を生やし後を付いてった。
「少しやり過ぎちゃいましたね‥」
「逃げんぞ!」
「何であたしまで!?」
「だって俺達のギルドに入りてえんだろ? 来いよ」
「一緒に行きましょう!」
爽やかな笑顔で念願のギルドへ誘われたルーシィは、「うん!」と頷き一緒に走って行ったのだった―。
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