夏桜 〜この世界に俺は存在している〜
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プロローグ
前書き
初めまして、新雪と言います。精一杯書かせていただきますので、よろしくお願いします。
チャプチャプと、水の音がすぐ近くで聞こえてくる。
ほのかに香る潮の香り。よく響くカモメの鳴き声。 ジリジリと照りつけてくる太陽。そして遠くの方では、時折チャプンと魚が水面から飛び出す音も聞こえる。
そんな大海原のど真ん中で、俺は思わず頭を抱え、叫んだ。
「いや、一体どういう状況だよ!?これは!!」
......ひとまず状況の整理をしよう。
彼の名前は<島宮蓮利>。バリバリの......と言えば変かもしれないが、高校生だ。
彼は、この夏にとある島で咲き乱れる桜。通称"夏桜"を見に行こうと、定期便に乗り、自室で就寝していた......筈なのだ。
しかし、何故か気づけば貧相なゴムボートの上で、食料も水も無しに、大海原を漂流している......と言う訳である。
こんな体験、絶対にしたくない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「......とりあえず落ち着いたら?蓮利」
先ほどの叫びで、息を荒くした蓮利を落ち着かせようとなだめる少女。
彼女の名は<浅上美優>。蓮利と同じく高校生で、蓮利の恋人である。蓮利と共に、<夏桜>を見に行こうと定期便に乗り、同じく自室で寝ていたら、気づいた時には蓮利と同じ状況に陥っていたのである。
本当、こんな体験はしたくない。
「落ち着こうにも落ち着けないだろ、これは!」
「そんな事言っても、何も状況は変わらないよ?なら静かにして、少しでも体力を温存しないと」
冷静である。流石浅上さん。
「......」
返す言葉を思いつかず、渋々黙り込んだ蓮利の頭を撫でながら、彼女は辺りを見回した。
右を見た。海しかない。
左を見た。海しかない。
上を見た。太陽は真上からジリジリと照りつけてきており、今が夏真っ盛りだという事を再認識させる。
下を見た。勿論食べ物などが落ちている訳が無く、あるのは太陽の熱のせいで熱くなってきているゴムだけ。
「うーん、とりあえず屋根が欲しいなぁ......」
彼女は唸り、蓮利に目配せし、呟く。
対して蓮利は、はいはい、と言わんばかりにため息をつき、ポケットに手を突っ込んだ。
そして何かゴソゴソと手を動かしたかと思ったら、唐突に手を引っ張り出した。その手の上には、何やら赤色の小さなカバンの様な物があった。
そして、それに手を突っ込み、何かを引っ張り出す。
それは、真っ黒な"球体"だった。
それを、更に取り出したハサミで切り、長方形にすると、海水の上に放り投げた。
途端に、その黒い物は膨張し、ドンドンと大きくなり、やがて畳10枚分は有ろうかと言うスペースの"屋根付きのゴムボート"へと変貌する。
「ほら、こんなんで良いか?」
「うん♪上出来上出来!!」
笑顔で美優が返すと、蓮利も笑みを浮かべ、船に乗り移る。
そして美優に手を差し出し
「お手をどうぞ。お嬢様」
と、笑顔で言った。
それを聞いた美優は、笑顔を更に強めると、蓮利に向かって飛びつく。
それを蓮利は受け止めると、2人はゴムボートの入り口を塞ぐ。
やがてその中から、なにやら淡く喘ぐ声......の様なものが聞こえてくるが、それはまた別の話。
これを読んでいる貴方は何故、こんな話をわざわざするのか? そして一体これはどういう事なのか? などと疑問を浮かべただろう。
だが、その質問にはまだ答えられない。
いや、答えたくても答えられないのだ。
しかし、この先のお話を読み進めていけば、おのずと理解するだろう。その疑問の答えが。
だから、ここは静かに、しかしゆっくりと"待っていて"ほしい。
何故なら、未来は決まっているからだ。貴方は、この先の物語を読み進めていくうちに、ふと、気づくだろう。
蓮利の持っていた、あの黒い球体は何なのか?何故2人は、ゴムボートに乗って漂流しているのか?そもそも、"夏桜"とはなんなのか?
それの答えは、是非とも貴方の目で確かめてほしい。
では、最後にこの言葉を送り、物語へと入るとしよう。
覚めない夢は無い。例え、どれだけ幸せな夢だろうと、必ず夢からは覚めてしまう。拒んでも、拒み切れない。望んでも、望み切れない。そんな夢を見た時、貴方は......一体、どんな夢を見るでしょうか?
後書き
さぁいよいよ次回から、"夏桜"が始まります。
少し不思議な雰囲気の話にしようと思ってますので、応援、よろしくお願いします。
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