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本当(ウソ)のような嘘(ホント)のハナシ

作者:ぽんす
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物語
  【短編1】可愛い子

  
 物語を話そうと思う。



 自分で言うのもアレだけど、私は可愛いと思う。本当に可愛い。
名前は蓮華(れんげ)って言うの。可愛い名前でしょ?私は私の名前が大好き。
それに、私のパッチリ大きな目が好き。小さな鼻が好き。長く伸ばした綺麗な黒髪が好き。
ふくよかな唇が好き。すらっと伸びる足が好き。ちょっと恥ずかしいけど、胸も大きいほうだと思う。
あ、そうそう。チャームポイントの泣きぼくろも忘れちゃダメよね。
自分の顔だけど、毎日鏡を見てても飽きないくらいよ。
オシャレにだって気を使ってる。最近の流行を取り入れて、そこに少しだけ自分なりの工夫をするの。
自分で作ったものをワンポイントにしてみたり、ね。
メイクは元の良さを無くさないためにナチュラルで。目元に少しだけシャドウを入れるのが最近のお気に入り。目がとっても綺麗に見えるの。
街を歩けばみんな振り返るわ。一緒に遊ぼうって何度も誘われちゃうもの。
でも、最近は断るようにしているの。だって私には彼がいるんだから。
 彼はイケメンで、強くて、大きな会社の社長さん。実は私もそこに所属しているの。
告白は彼から。すごく高いアクセサリーをくれたからOKしたの。
やっぱり可愛い私にはこんな人が彼じゃなきゃ釣り合わないよね。
それから彼とはどこに行くにもずっと一緒。
最初はちょっと遊んでみようかな、って気持ちだったけど少し好きになっちゃってるのかな。
そんな風に思っちゃう自分がちょっと悔しい。でも嬉しくも感じてる。
 彼は私がしてほしいこと何でもしてくれるの。
欲しいものがあれば、どんなに高くても買ってくれるし、どこへでも取りに行ってくれる。
入手するのがとっても難しいレア物だってくれるのよ。
私が行きたい、って言えば、雲より高い空の上を飛び回ったり、
きらきら光る海の底をお散歩したり、ちょっとハラハラしちゃうけど火山デートもしたわ。
デート中に他の男の子にちょっかい掛けられたときも、すぐに駆けつけてくれて、全員殺してくれたわ。
僕が君を守るから、って。
ドキッとしちゃった。やっぱり私、この人のこと好きになってるんだな。
あ、そうだ。守ってくれたのは他の男の子からだけじゃなくて、火山に出るドラゴ
ドンドン!!
「花子!父さんだ。ここを開けなさい!」
花子?誰それ?
そんな可愛くない名前の子は私は知らないわ。
ドンドン!!
「いまだにあの事故のことは許せない。でも、ずっと部屋に篭ってたら先に進めないぞ!」
ずっと部屋に篭ってる?何を言っているの?
私は街に出かけたり、彼と買い物したり、いろんな場所を冒険したり。
コンコン...
「花子。お母さんよ。顔の怪我の調子はどう?痛くない?目の腫れは?鼻は?抜けちゃった髪の毛だってすぐ生えてくるわよ。だから、元気を出して…?」
顔の怪我?私は怪我なんてしてないわ。
目はパッチリで、鼻も髪も唇も何もかもが素敵なのよ!!
ほら!毎日鏡で・・・

・・・あ、あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

誰!!鏡に映ってるこの人は誰なの!!
目はこんな細くない!!鼻はこんなにつぶれてない!!髪なんか生えそろってないじゃない!!
誰なの!?
私・・・?
違う!!
私じゃない!!私じゃない!!私じゃ
コンコン...
「花子。頑張って出かけて見ましょう?どこか行きたいところはない・・・?どこでも連れて行ってあげるわよ・・・?」
行きたいところ・・・。そうだ、彼のところに行きたい。
彼のところに行かなくちゃ。私を待ってるはずよ。



 そして、彼女は丸々と膨れ上がった足を上げた。

そう呟きながらも、物語の語り手は、紙を文字で埋める作業を続けている。
「で、その人はどうなったの?その彼に会ったの?」
前のめり気味に話の続きを求める私に、語り手は、ん・・・、と私の手元を指差す。
そこには、強く握り締められた漫画の単行本があった。
あっ・・・、と我に返って折り目の付いてしまった単行本を何とか元に戻そうと机に押し付けてみる。
「本は大切にね?」
そんな語り手の言葉に、すみません、と返事をしながらも、私はさっきの話の続きが気になって仕方なかった。
そして、まだ少し丸みを帯びた単行本を本棚に戻しながら、さっきと同じ質問を語り手に投げかける。
語り手は、私の顔すら見ず、わからない、と一言返した。
「わからないって・・・。先輩が考えたお話なんでしょ?これから先も同じように考えればいいじゃないですか。」
それとも続きを考えられないんですか、と冷やかしてみる。
「僕だって、わからないものはわからないよ」
語り手は、ふぅ、とため息をつく。そんな態度に少しイラっとして声を荒げる。
「だから、先輩が考えた話なら続きはどうだってできる・・・」
そこまで言って私はあることに気づいてしまった。
考えた話なら・・・。
考えた話じゃないなら・・・?
「・・・も、もしかして、実話、なんですか?」
少しどもりながらそう問いかけると、語り手は、そのとき初めて顔を上げて、ニッと笑った。
「本当か嘘か、わからないから面白いんじゃないか」



 これはごく普通の公立高校に通う、ごく普通の女子高生のお話。
ちょっと普通と違うとするならば、なんとなく入った部活に、この「先輩」がいたことかも知れない。
 そんな私と先輩の、物語を話そうと思う。
  
 

 
後書き
こんにちは。
生きてます。 
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