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シークレットゲーム ~Not Realistic~

作者:じーくw
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出会い



 どこかで……、鳥がけたたましく鳴く声が聞こえてきた。

 そして、周囲の草木が風に煽られざわめいている。目を瞑っているがそれらの情報は瞬時に耳から脳へと伝達された。

「ん……」

 そして片方の目をゆっくりと開けた。

 その目の中に光は入ってこない。漆黒の闇が辺りを覆っていた。いや、頭上を見上げると薄っすらだが、光は見える。……月明かり、星の光だ。どうやら、今の時刻は夜中の様だ。

「……ふむ」

 男はゆっくりとした動きで身体を起こす。そして、自分自身の身体の状態を確認しつつ上着のポケットに手を伸ばす。

「……相変わらず金のかけ方だけは景気良いって事だな」

 出てきたのは手のひら大の電子機器。
《PDA》だ。

 だが、驚く様な事ではない。この男にとって見慣れたものだったから。

「まずは、場所の確認……だな」

 慣れた手つきで、PDAを素早く操作していく。
 数多の数あるゲーム会場の地形は大体は頭に入っている。その地図の形を見ればどの会場なのかがわかるのだ。

「む……」

 男の表情がこの時だけ僅かだが変わった。それは歓喜の表情だった。

「なるほど、僥倖……だな。だから、か」

 そう言うと、手を首に回す。
 その首の場所にもなれた感触の物があった。≪首輪≫……、プレイヤーを逃がさず繋ぎとめておく見えない鎖を持ったものだ。

「首の違和感もいつも通り……だな。鬱陶しいが まぁ、仕方ない」

 その首輪をさわり呟く。
 首と首輪はぴったりと嵌っており、隙間は僅か爪が嵌る程度のものしかない。その人間の為だけに作られたものだと言える程のサイズだ。

「さて、次は……さしずめ、No.と特殊機能……ん?」

 PDAをみた時、表情こそ変わらないが 首を少し傾げていた。画面を叩き、そのディスプレイに現れた数字を見ての事だ

「……NO.14? 今回はトランプを模している訳じゃないのか?」

 男の言うトランプに模していると言うのはこれまでのゲームからだった。
 このPDAは各プレイヤーに配布されている。
 今までのゲームではそのPDAはトランプに模しており、そしてその人数もトランプの数だけだった。

 即ち、AからKまで、更にジョーカーを含めて14人のメンバー。

 だが、今回は14と言う数字が記されている。いや……数字ではなくローマ数字の≪XIV≫。

「……ふむ。趣向を変えた……か。参加人数の把握が出来ないな。……まぁ、別に構わないか」

 そう呟くと、夜の闇へと歩を進めた。
 過去のゲームでは、トランプに模していた為、参加人数が用意に把握できたのだが、今回は14番目の数字があるから推測でしか解らなくなっているが特に問題視する事はしてなかった。



プレイヤーNo.XIV
クリア条件:
『PDAを5台以上所持する。自分自身のを含めても構わない。ただし 所持する際の元のPDA所持者に傷を与える等直接危害は加えてはならない。正当防衛は可』





「ふむ……、まぁ所詮は序盤。……このままじゃないだろうな」

 クリア条件を見ながら呟く。

 この条件は、難易度が遥かに高いものだ。
 PDAとは生命線と言って良い程このゲームでは最重要。それを多数所持すると言う事は、他のプレイヤーから 手に入れるしかない。後半になればなる程、重要性が判るから渡すなんて事、する筈も無い。故に、力ずくでという事になる可能性が考えられるだろう。
 ……が、それを難しくしているのが、直接危害は加えてはならないと言う一文。

 が、男はさして関係無いと言わんばかりに、歩を進めた。何であれ、自分にはすべき事がある。

 そして、参加人数がわからなくとも、すべき事。それは変わらないからだ。









 あたりを探索し視渡すこと一時間弱。
 夜もうっすらとだが、明るみを帯びていた。

 現在の時刻は≪4:43≫

 まだ、太陽が姿を見せるのには早い時間帯だが、どうやら、地平線の彼方から光は届く位置にまでは着ているようだ。

「……さて、と」

 男は脚を止め地面を軽く掘り始めた。そして、そこから麻袋に包まれた、何かが出てきた。

「……む」

 麻袋を開き中にはいっているモノを手に取る。
 出てきたのは普通、一般人ならばお目にかかることなど無いもの。

 黒光りし、大きさに比べて随分と重量感のある物体、それは 圧倒的な暴力の象徴だった。

「……ワルサーPPK。 随分年式が古い銃を配置したものだ」

 そう……拳銃が入っていたのだ

 それを手に取りながら呟く。
 それは1931年に発売開始されたドイツ製ワルサー社が開発した小型拳銃。自身の記憶では1980年代まで生産されていた……と記憶しているが。

「……まぁ 普通に販売はされているか。別に珍しい訳でもない」

 古いとは言え有名な銃だ。
 手に入れるのには問題ないし 銃からマガジンを引き抜き 弾薬を取り外してから軽くハンマーを上げ引き金に指を掛ける。それを引くと“かちんっ!”と言う小さな音だけが木霊する。……どうやら、手入れも問題なさそうだ。早期の弾詰まり(ジャム)の心配も無いだろう。

 そして 弾倉(マガジン)を再装填し、男は銃を懐に隠し……数歩歩き。



 ……そして、数歩先で脚を止めた。



「……さて。そろそろ、出てきたらどうだ?」

 振り返ると茂みに向かってそう言っていた。
 誰かがいる事を、もう確信しているようだ。

“ガサッ……”

 一瞬……その茂みが不自然に揺らいだと殆ど同時にだ。赤いロングヘアーの女がそこから出てきた。……見た所、歳は随分と若いようだ。
 何より女が着ている服も学生服だ。

 十中八九は高校生と言ったところだろう。

 だが、その年齢には相応しくない行動をしている。その手には同じように拳銃、武器が握られ、目を細くし構えていた。

「アンタ……、何時から私のこと気づいていたの?」

 女はそのまま視線を鋭くさせたまま……そう言っていた。








 赤毛の女こと、《藤堂悠奈》は……緊張を隠せなかった。

『自分はリピーターだ』

 そして、今回のゲーム……、誰にも死なせないし誰にも殺させない。
 そう決意し望んでいた。理不尽に抗い続ける為に。……前回、≪彼≫が自分にくれた命を誰かにあげる為に。形見である銀の弾丸を胸に参加したのだった。そして、夜の森を限りなく気配を殺しながら歩いていると……プレイヤーが見えてきた。

 距離は目算で50mほどか。

 まだ、薄暗いこの闇の中で見つける事が出来たのは幸運といえるだろう。背後を取る事が出来たのだから。そして、夜の闇に紛れたことで 後をつけるのも容易だ。

 だが、自分自身は抑止力以外では攻撃は行わない。つい先ほど手に入れたこの武器も……、

 その抑止力の為だけに使うと決めていたのだから。まずは、背後を取れた幸運を活かしどんなタイプの人物なのかを探ることにした。攻撃性の高い人間なのか、或いは慎重派なのか……、それともただの一般人なのか。男の性質を見極める為に。

 様々な事を思考しながらゆっくりと、足音を殺しながら近づく。
 この時、ある違和感を感じた。

 それは、『何故……自分は直ぐに声をかれなかったのか?』だった。

 経験があるというだけで、自分自身を無敵のヒーローなどとは言わない。だが、どんな相手でも武器を持たない相手には対処できる自信はあった。それは、不満だがリピーターと言うアドバンテージがあるから……とも言えるだろう。あの経験から戦い続ける為に、身体を酷使続けたのだから。

 そして、皆の生還を望むのなら他のプレイヤーとのコンタクトは絶対必須項目だ。ゲームも始まって数時間程度。

 コンタクトを取るのには適した時間帯だとも思った。自分は訳もわからずこんな場所につれてこられたと、理由も簡単につけれるのだ。そして自分の情報交換もネタにできるし、攻撃をしないようにと、くぎを刺すこともできる。
 なのに、彼女はなぜか行動に起こす事ができなかった。

 自分の心がわからないままに、そうこうしている内に、男はメモリーチップから武器を手に入れてしまった。

 この時、悠奈は漸く行くことを決意した。

 その武器を使わせないようにと。

 だが……、まるで自分の決意を、……それを見越したかのように、今から行動を起こす。それまで、待っていたかのように、男から話しかけてきたのだ。

「……割と直ぐに存在には気がついてはいた。……が、あえて言うなら誰かを尾行する時は、自分の位置、それに 風向きに気をつけるといい。僅かな痕跡でも悟られると言う事は少なくない」
「ッ……!」

 その言葉に更に戦慄する。
 当然、悠奈はそれくらいの知識はある。だからこそ、慎重に尾行していた筈だ。風は殆どなく、巻いてもいない。距離も気配を消せる最低限はとっていた筈なのに。それを嘲笑うように男は言っていた。

「……それで。何か様か?」

 男は軽い姿勢のままそう聞く。だが、隙は微塵も見えない。

「……アンタの武器を没収する為よ。」

 悠奈は視線を鋭くさ、銃を構えたままそう答える。

「誰かが武装すれば、他の誰かも武装し……、そして争い始める。私は全員のクリアを願ってるの。だから、アンタに武器を持たせるわけにはいかない。」

 じり……っと悠奈は地面の感触を足裏で確かめながらそう答える。どのタイミングでも素早く動かせる為に。

「……それは、言ってる事とやってる事が矛盾しているぞ。お前の言う全員のクリア目的と言うなら、争いを好まないと言うなら、何故、武器を構える? 何故、銃口を向ける? ……武器を構えて、そのままで 友好を深めよう。……なんて言わないよな?」
「これは抑止力の為だから。……それに、私は誰も殺す気は無いからいいのよ」

 悠奈は更に一歩を踏み出した。

「……今度は説得力がないな。今のお前の表情……そして、お前の持つ武器、銃にかかる不自然な力。それに、足場条件を脚の感触で、確認した周到性。……和平は感じないな。少なくとも、オレの目にはお前は争う気満々に見える。――殺す気満々にな。そんな表情では予見させる事は出来ないぞ…? それでは言葉どおりだとして、穏便に済ませる所か逆に相手を更に警戒させる」

 男の言葉の一つ一つでまるでナイフの様に突き刺さってくるかのように緊張感が高まって行く。そもそも、自分もこんな風に接触しようなんて当初は考えても無かった。だけれど……目の前の男を前にそんな信念など露と消えてしまったんだ。

 余計な力が入る。緊張が取れない。

 嫌な汗が……冷たい汗が頬から流れ落ちる。悠奈は武器を握る手に力を込めた。

「……おしゃべりは、もうおしまいよ。もう一度言うわ。その武器を捨てなさい」

 悠奈は、返答をせずに武器にかける力を上げた。



『……この男はヤバイ』



 自分の本能がそう告げている。
 全員を生き残らせる為にも早めに無力化をしておかなければならない相手だと直感した。実際に男は何もしていない。だが、行動の一つ一つに、言葉を出すその一つ一つに、一切の隙が無い。その仕草から たった一度経験をした程度の自分とは、まるで程遠い者。百戦錬磨の相手だと思えた……。だからこそ、直ぐにでも無力化して、彼のクリアについては PDAを見てそれをしてやればいいと判断したのだ。

「……やれやれ、交渉の余地は無し、という事か」

 何を言っても同じ事かと判断したのか、男はため息を1つしていた。
 悠奈は、その男がまるで小馬鹿にされたかの様な仕草だったが今回ばかりは腹は立たない。一秒でも早く武器を破棄させるのが最優先だと判断したからだ。男が懐に手を入れ……武器を出そうとしているのか?と思ったその矢先!

“ビチッ!!!”

 顔面に何かが当たったかのような感触に襲われた。
 それは一瞬の出来事、右目の直ぐ下辺りに辺り思わず目を閉じてしまった。

「ッ!!」

 幸いな事に眼球に直接あたったわけではない為、直ぐに目を空け視認仕様としたその時、前にいた男の姿が何処にも無かった。

「なっ……!!」

 驚き、一瞬パニックとなる。それが……この場面では致命的だった。視界の端の茂みが僅かだが動いた。それを確認した刹那、男の姿がそこにはあり、一足で接近をしてきた。目で追えたのが奇跡と思えるほどの速度。反射的に悠奈は、拳銃を男に向けようと左にスライドさせたが……、男に右手の甲で銃身を抑えられつつ、手首を取られた。

「あぐッ!!!」

 その瞬間、手に異様な痛みが生じた。
 痛いと感じた次の瞬間にはまるで、自分は体操の選手になったかのように跳躍、そして一回転し……。

“どしゃッ……。”

 そのまま茂みに背中から落ちた。
 地面は草木が生い茂っており、湿気で土も柔らかくなっている為か、背中に衝撃はさほど無い。だが、自分の手に武器は無く……、代わりに首元にまだ闇に近い明るさだと言うのに鈍く光るダガーナイフが添えられていた。

「……よく覚えておくといい。拳銃は確かに強力な武器だ。常人でもあっさりと他人の命を奪える強力な……な。だが……近接戦闘では銃よりナイフが有利な場合もある。銃を手にし、構えたところで努々油断しない事だ」

 当てられたナイフの感触。
 それは、悠奈は自分自身が弱肉強食の世界で食われる側だと悟らせる事に十分な威力だった。そして 強く感じるのは、自分が感じた本能は、決して間違いじゃなかったと言う事。
果てない力の差を感じたからこそ……声をかけられなかった。
 だからこそ、警戒されるとわかっていても武器を構えた。

 次には、悠奈はぎゅっと目を瞑った。

 男がほんの少し……、後ほんの少し力を込めれば自分の首は切られ、動脈を絶たれ……、その瞬間、鮮血が吹き出し、直ぐに自身の命は終るだろう。……何もできずにあっさりと。

 そして、最後に思うのは……嘗て自分のために命をくれた最愛の人の顔だった。

「(ごめん……、彰。あたし……、何も出来なかった)」

 それは、前回……、自分の代わりに命を差し出した愛しい人。
 今回は自分が、彼の代わりに理不尽と戦う為にここに来たというのに、自分の無力さがただただ腹立たしかった。

 走馬灯の様に、彼との思い出が頭の中を廻る。理不尽に抗い続けようと決めたあの瞬間も……。

 だけど……出来なかった。悠奈の目元に涙が溢れ出しそうになっていた。

 その時だった。自分の首筋から冷たい感触が離れていったのは……。

「……悪いが、これは渡せない。お前がそうであるように、オレにもすべき事があるからな」

 男はそう一言 言うとダガーナイフを鞘に収め 懐にしまい込んだ。そして、立ち上がると倒れこんでいる悠奈を引っ張り上げる。

「……じゃあな」

 そう一言言うと、離れていった。

「え………」

 悠奈は、あっけに取られた。
 自分は何をされても、文句は言えない。寧ろ殺されたって不思議じゃない状況だった。

 当然だ。

 いきなり銃を突きつけて 相手の武器まで奪おうとしたのだから。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 悠菜は、去っていく男を慌てて引き止めた。

「……ん? まだ 何か? この銃は何を言われても渡さないぞ」

 男は足を止め振り返る。

「何で……、何で何もしないの?」

 悠奈はそう聞いていた。
 悠菜のそれも当然の疑問だろう。自分は相手に銃を突きつけ、あまつさえは武器を奪おうとしたのだから。……何を言われても されたとしても文句は言えない。

「……何もしない?」
「そ、そうよっ! あたしは、アンタに銃を……、それに武器を奪おうとした。……殺されたって文句は言えない。なのに……」

 女は俯きがちにそう言う。
 ……随分と難儀な性格のようだ。いや、普通の人間であれば疑問に思うのは当然の事、だろう。こんな異常空間だと言えどもだ。

「ああ。成る程な。ふむ……オレにとっては、猫に牙を、爪を 向けられたようなもんだ。そんな事でいちいち怒るほど短気な性格じゃなくてな」

 男は軽く笑いながらそう言う。
 冗談は得意ではない筈なのだが……この時は自然と言えていた。冗談ではなく、実際に感じた事だから。

「なっ!! って ね、ねこっ??」

 まさかの発現に思わず声が裏返ってしまう悠奈。……と言うか、こんな風に話す印象は無かった、というのが正しい。

「ああ。……まぁ、猫ほど可愛げがあるとは思えんがな。猫は もっとクールだ。……が、お前はクールとは程遠い。短絡的だ。行動、言動全部とってな。難しい事をしようとするなら、もっとクールになる事だ」

 そして、真顔でそう返してくる。

「あ、あんたは………」

 さっきまでの葛藤はなんだったのか?
 今、この男を纏っている雰囲気はさっきのそれ(・・)とは、まるで違った。

「……何だか、毒気が抜かれた気分だわ」

 悠奈はため息をし、頭を、心を落ち着かせていた。
 勿論先ほどまでは 早く、強く脈打っていた心臓が直ぐに収まる筈も無いから……暫く深呼吸を続けていた。

 そして、悠奈は落ち着いた所で本題にはいった。

「悪い事したのは、私だけど。……アンタは私をどうこうするつもりは無いって事……。は間違いないのね?」

 それは内容から考えれば恐ろしい質問だ。
 だが、この男は明らかに見逃そうとしていた。今この場に留まっているのは自分で呼び止めたからだ。

「……ああ、オレの目的にお前の命は別に関係ない。お前以外の命もだ。今の所は(・・・・)、だが。あえて言うのなら、ゲームの勝利の為だな。負けて首が飛ぶのは流石にゴメンだ」

 そう返した。
 悠奈はこの時、さっきまでの自分の目は節穴か……、と思えてならなかった。なぜなら、先ほどまでは目の前の男はまるで化物・怪物……人外のモノの類を連想させていたのだ。
だが……頭を冷やし改めてこの男を見てみると初めの印象が何処へかと消え去っていた。歳は……自分よりは上だろう。だが、30まで行っているようには見えない。恐らくは20代後半だろうか。先ほどは目つきは鋭くつりあがっていたが今はそんな感じはしない。

 なぜか判らない。化物、とさえおもえていた筈なのに、今は全く別の印象……自分には兄はいないが、この男はまるで頼れる兄の様な表情だと思えたのだ。

「……それで? アンタ……っと」

 悠奈は、会話を一時止めると少し咳払いをして。

「私は悠奈。藤岡悠奈よ。アンタは?」

 まずは、自己紹介をしていた。
 自分から攻撃を仕掛けておいて、信頼も何も無いが……とりあえず自己紹介は大事な事だ。

「ん……」

 男は少し考えると……。
 悠奈の目を再び見た。鋭いその目は……一瞬背筋がゾクリとしたが、次の言葉を聞いて別の意味でゾクリとすることになる。

「オレは 《死神》だ」
「……は? しに……?」

 思わず悠奈は、声が裏返っていた。何を言ったのか、一瞬判らなかったが、冷静に思い返してみると……、はっきりとした。

「(……何? この男はイタイ男なの?)」

 悠奈は一瞬本気でそう思っていた。
 所謂中二病?って思えたのだ。真顔で自分のことを死神なんて呼ぶ男。短いが、自分の人生の中で会った事は無い。そもそも、その【中二病】と言う単語を知ったのだってネット上での事だ。

 様々な情報を得ようとした時、意味が解らなかったから検索をかけて知ったのだ。……無駄な知識が増えたとしか思えなかった。 

「まぁ……、冗談、だ」

 男はそう一言。
 冗談を言うときも、普通に話すときも表情が殆ど変わらないから察しが付きにくい。再び表情が引きつっていた自分に悠奈は気がついていた。男は、そんな自分にはおかまいなしに名を伝える。

「オレは日影。《日影刀真》だ」

 どうやら、今度は嘘じゃなさそうだ。

「じゃあ、えっと……。日影、さん……でいいかしら?」

 悠奈はそう聞く。
 姿を見れば自分より歳上だというのは解る。歳上に敬語も使えないほど、なってない事はないから。

「別に どうとでも呼んで構わない。……ああ、呼ぶのは勝手だが、後は指図は受けるつもりは無い」

 そう付け加えた。

「ああっ もう! そんな事言うつもりはないわよ! ……でも、指図じゃないけど、お願いはあるの。説得力無いって思われるけど他の人と争いをするな! とは言うつもり。後……」

 悠奈は後半は声が小さくなりながらそう答えた。

 今回始まったゲーム。
 今度こそ、誰一人として死なす事なく終えなければならない。それこそが、自分自身の生きている理由だった。だから、常にその状況で最適な行動をしなければならないんだ。だから……。

「……お願い!」

 悠奈は日影の正面に立つとすっと90度傾かせ頭を下げた。

「?」

 突然の事だった為か、刀真自身は何を言っているのか理解しきれなかったようだ。だが、その意味は直ぐに知る事になる。

「……私に協力して欲しいの。1人でも多くのプレイヤーを仲間にしたい。誰1人死なせない為にも」

 この時の悠奈の言葉を聞いて、その真摯に願うその姿勢から、彼女の心情を垣間見た気がした。普通ならば、このようなわけも解らない場所で目が覚めたら、パニックになるか疑心暗鬼になるだろう。だが、そうはならず 真っ先に自分の目的を果たす為に行動している。それは自分としても他人のことは言えないが、この悠奈の行動原理も気になっていた。

 これは、いままでになかった事だったから、ちょっとした好奇心が芽生えた影響なのかもしれない。

「お前は、なぜ頑なに全員の生存を夢見る? その感じから ……もう知ってるんだろう? これ(・・)がどう言うものなのかを」

 核心を突くようにそう言う刀真。
 これまでの言動から考えたらそれは容易に推測できるのだ。このゲームがどう言うものなのか知っている事に。

 つまりは……経験者。《リピーター》と言う事に。

 だが、それは他者には流せない情報だ。
 リピーターには、普通のメンバーとは別に、特別なルールがある。

 それは、《リピーターズ・コード》と呼ばれ、送られてきているのだ。

 それはありきたりだが、≪ゲームに関する重要な事は他のプレイヤーに話してはならない≫というもの。

 内情を知り、それを公言して回れば著しく臨場感も損なう可能性が高いし生温い展開になる恐れもある。聞いた話によれば、そのルールが追加される遥か以前……。

 リピーターがゲームのルール、影の部分を公言し全員で生き残るように模索した事もあったようなのだ。

 それも、偶然と幸運もあっただろう、全員の協力も得られゲーム始まって以来初めて3日目にしてファーストステージでクリアとなってしまった事もあったようなのだ。話は少し脱線をしてしまったから戻すが、ゲームについて、リピーターとしての情報は禁止されているが、匂わせるように言葉を濁す事で対話は可能だ。

 だから 刀真は、一言一言に意味深に言っていた。

「解ってるわよ……。でも私はその為に此処に来たんだから。理不尽に抗う為に。ここに放り込まれた以上は皆がその≪理不尽≫に晒されている」

 その瞳は赤く燃え上がっているようだった。
 少なくとも嘘は言っていない。こんな場面で嘘をいえるような器用な人間じゃ無いと言う事も理解していた。

「ふむ……」

 腕を組み考える。

 目的はゲームクリア以外にもある。
 果たして≪手を組む≫と言う行為は自分にとって有益なのか否か?
 過去、ゲームの全容をしり、そこから手を組み合った事は幾度もある。……だが、まだ本当の序盤でこんな風に入ってくるプレイヤーは初めての事だった。それも、リピーター……経験者がだ。幾度と参加したこのゲームにおいて、初めての出来事、初めての相手だった。

「――具体的には?」

 刀真は腕を組みつつ悠奈にそう聞いた。

「私と行動を共にしてもらって、片っ端から全プレイヤーと手を組む。それを手伝ってもらいたいの。……危険なプレイヤーも中にはいると思うから その場合は捕縛するしかないから」

 悠奈は淀みなくそう答えていた。
 確かに自分ひとりだけで行うのにはかなり難しいと思える。十人以上の見知らぬ人間。それも訳がわからない状況に追いやられて疑心暗鬼になっている筈なのにそれを1つに纏める?

 机上の空論 絵空事 だって解る。でも、それでも、信念は曲げるつもりはなかった。

「ふむ……。解った」

 刀真は、大きく頷くと一先ず提案を飲む事にした。

「そう上手くいく……とは 正直あまり思えないが お前……悠奈に協力しよう。どこまで出来るのか、オレも結末を見てみたくなったから、な」

 目的から、少し離れる事にはなったが、それでも刀真の好奇心が幾らか優った様だった。だから、提案を飲む事にしたのだ。

「ッ…… ありがとう! 日影さん!」

 悠奈は笑顔で再び頭を下げていた。












































~プレイヤー・ナンバー~



 No. 氏名  解除条件


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□ XIV 日陰刀真  PDAを5台以上所持する

 
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