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戦国異伝

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第二百四十二話 淡路からその四

「御主の好きな話でもな」
「確かに拙者そうした話は」
 柴田自身もこう言う。
「好きでござる」
「御主はいつも軍記ものを読んでおるからのう」
「ははは、その平家物語も好きで」
「他にもじゃな」
「保元、平治にです」
 保元物語に平治物語だ、どちらも軍記ものだ。
「太平記もです」
「まことに軍記ものが好きじゃな」
「どうも源氏はです」
 そちらはというのだ。
「それがしには合いませぬ」
「それでも和歌はわかるな」
「不得手ではありますが」
 それでもとだ、柴田は笑って主に応えた。
「少しなら」
「そうじゃな、しかしな」
「しかし?」
「考えてみれば御主が源氏物語を読む姿はな」
 そうした書をだ、柴田が読むのはというのだ。
「あまり想像出来ぬな」
「それがし自身そう思っています」
「武じゃからな、御主は」
 政もそれなりに出来るがだ、やはり柴田といえば気質としてこちらになる。それが信長が最もよくわかっていることだ。
「どうしてもな」
「そこはですな」
「合わぬわ。まあそれでよい」
 柴田はというのだ。
「ますらおでない御主はどうも想像出来ぬわ」
「ははは、ではこれからも」
「御主はそうではなくてはな」
「武のままでいきまする」
「その様にな、しかし」
 ここでだ、信長は平手も見てだ。彼にはこう言った。
「爺はもう楽隠居でよいわ」
「それは何故でしょうか」
「幾つになっても口うるさい」
 それ故にというのだ。
「だから御主はじゃ」
「隠居せよと」
「それでどうじゃ」
 笑って平手に言う。
「最早な」
「いえいえ、ぼけるか動けぬ様になるまでは」
 平手はその信長にしかとした声で答えた。
「それがしはです」
「これからもか」
「上様と天下の為に働きまする」
「やれやれ。ではわしはこれからも爺の小言を聞かねばならんか」
「そう言われますか」
「全く、これからもじゃな」
「それも上様と天下の為」
 こう言って引かない平手だった。
「そうさせてもらいます」
「左様か」
「はい、それがそれがしに務めなので」
「やれやれじゃな」
「まあしかし」
「しかし。何じゃ」
「上様が天下に泰平をもたらされるとは」
 ここでしみじみとしてだ、平手は言った。
「それが思いも寄りませんでした」
「昔はか」
「はい、尾張を統一され」
 そしてというのだ。
「そこからです」
「天下をじゃな」
「治められるとはです」
 到底、というのだ。
「考えもしていませんでした」
「そうであったか」
「それが幕府まで開かれて」
 将軍にもなってというのだ。
「それがし冥利に尽きます」
「確かに。兄上は大きくなられました」
 信行も言って来た。
「幼き頃から思いますと」
「御主もそう言うか」
「夢の様です」
 まさにというのだ。
「想像も出来ませぬ」
「あの頃の当家はな」
「尾張の四郡を治める位でした」
 信長達の父であった信秀の頃はだ。 
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