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真田十勇士

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巻ノ二十九 従か戦かその二

「殿に今ご正室がおられないので」
「そうじゃ、若しな」
「これ以上態度を煮え切らないものにさせていると」
「まずいな」
「羽柴殿に攻める理由を与えます」
「まだ三年前は戦えたが」
 家康は今の状況を見つつ言うのだった。
「茶筅殿はあちらにつき」
「戦をする大義がなく」 
 今度は石川が言う。彼が言っても周りは何も嫌悪を見せることがない。
「それにです」
「力の差が歴然としてきた」
「九州以外の西国が最早」
「羽柴家のものとなったからな」
「小牧長久手の時以上の兵を送ってきます」
「そうなってはな」
「とてもです」
 今の羽柴家が全力で徳川家に向かってきてはとだ、石川は真剣な面持ちで主に話した。
「敵いませぬ」
「潰される」
「あの時とは違い」
「そうじゃな」
「しかし今ならです」
 今の時点ならというのだ。
「誇りを持ち領地を保ったままです」
「天下にいられる」
「今我等は五国を抑えかなりの兵を持っています」
「まさに天下第一じゃな」
「ですから」
 それで、というのだ。
「今降るべきです」
「そうじゃな」
「はい、羽柴家に従いましょう」
「わかった、では羽柴家に従う」
 家康は確かな声でだ、石川に応えた。
「そうする」
「わかりました」
「それではです」
「我等も殿の仰るままに」
「殿と共に」
「そうしてくれるか、御主達の領地はそのままじゃ」
 家康は羽柴家に従うと決めながらも自分についてくると誓ってくれた家臣達にこう返した。この時も確かな声だった。
「例え石高を減らされてもな」
「いえ、領地よりもです」
「我等は代々松平ひいては徳川の家臣です」
「ならば殿に従うのは道理」
「そして何よりも殿ならば」
 家康自身だからこそというのだ。
「我等喜んで何処までもいきまする」
「殿の御前に」
「そうします」
「是非共」
「そう言ってくれるか、御主達の言葉は忘れぬ」
 家康は感銘も込めて言った。
「我等はこれからも主従ぞ」
「有り難きお言葉」
「我等も殿にそう言って頂き何よりです」
「では、です」
「これからですな」
「羽柴殿に文を送る」
 こう言うのだった、ここでは。
「奥方のこと楽しみにしておるとな」
「わかりました、では」
「その様に」
「そうする、しかしじゃ」
 ここでだ、家康は家臣達に手に刺さった刺を抜く様な顔で言った。
「その前にな」
「はい、信濃のことですな」
「甲斐は全て手中に収めました」
「そして後はです」
「あの国ですな」
「その信濃も殆ど手中に収めたが」
 しかしとだ、家康は難しい顔で語った。 
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