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真田十勇士

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巻ノ二十九 従か戦かその一

                 巻ノ二十九  従か戦か
 幸村が旅をして数年経つとだ、天下はかなり変わっていた。
 羽柴秀吉は柴田勝家を賤ヶ岳で倒し天下人の地位を確かにした。四国の長宗我部も服従させ西国の主となっていた。
 朝廷の覚えも目出度く主家であった織田家も織田信雄を戦いの後で丸め込んでしまい取り込んでいた。だが。
 その羽柴家にだ、徳川家康は向かい合っていた。
「殿、今もです」
「尾張と美濃には兵が多くおります」
「小牧長久手では勝ちましたが」
「しかし」
「うむ、戦には勝ったが」
 それでもとだ、家康は駿府城において家臣達に応えた。
「しかしな」
「我等は織田信雄殿をお助けして戦っていましたが」
「その信雄殿が丸め込められてです」
「今や羽柴家の家臣となっている有様」
「これではです」
「やられたわ」
 家康は苦い顔で言った。
「これはな」
「はい、大義名分を奪われるとは」
「まさかそうしてくるとは」
「羽柴秀吉、恐るべき男ですな」
「政が巧みです」
「全くじゃ」
 家康は苦い顔のまま言った。
「お陰で我等は手詰まりじゃ」
「これからどうするか」
「それがわからなくなりましたな」
「戦をするかどうか」
「若しくは」
「従うか、な」
 家康は自らこの言葉を出した。
「どちらかじゃな」
「従いますか」
「そうされますか」
「やはりここは」
「そうされますか」
「既に力は見せた」
 家康は言った。
「我等のな」
「その小牧長久手で勝ったことですな」
「そのことで、ですな」
「うむ、徳川家が侮れぬことは見せた」
 それはというのだ。
「あちらにも、そして天下にもな」
「では従ってもですな」
「低くは見られぬ」
「左様ですな」
「領地もこのままで従うことが出来よう」
 奪われることなくというのだ。
「このままな」
「ではやはり」
「従いますか」
「そうしますか」
「それしかないであろう」 
 これが家康の断だった。
「最早な」
「殿、それでなのですが」
 本多正信が家康に申し出た、他の家臣達はその彼を鋭い嫌悪を漂わせている目で見たが彼はそれを意に介していなかった。
「その羽柴殿からですが」
「また文が来ておるな」
「はい、お母上を人質に送るだけでなく」
「妹君もじゃな」
「夫君と別れさせてです」
「そうしてまでな」                 
「殿の奥方にと言われています」
 文にそう書いてあったというのだ。 
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