ソードアート・オンライン〜Another story〜
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キャリバー編
第219話 囚われの美女
前書き
~一言~
お、遅くなってしまいましたが、何とか投稿出来ました! お待たせしてすみません……
もーちょっと、もーちょっとで…… あの剣と対面です!! が、その前に髭の巨人をやっつけないと、ですね。
そして、その先は……遂に《彼女》と出会う話です。いろいろとネタは考えているのですが……、いかんせん、文章に表す。頭の中を文章に、彼女達の姿や行動を文章に……は、凄くすごーーーーく、難しいですよね……。このおはなしも、小説がなかったら、絶対完成してませんし……。
で、でも、見てくださってる方達がいてくれてますし、頑張ります!!
最後に、この二次小説を見てくださって、ありがとうございます。
もう少しでクライマックスです。今後も頑張ります。
じーくw
この怒濤の攻撃。無数の剣撃と矢による波状攻撃。まさに全てを根刮ぎもっていく暴風雨が如しだ。それまでの鬱憤。金と黒が揃っていた時のやりにくさの時に溜めに溜めていた鬱憤の全てを解放するかの様な大技の乱舞で 瞬く間に黒ミノタウロス邪神に引導を渡した。
「……ここまで やりにくい、って思ったのは久しぶりかもしれない、な」
「……ははは」
相手を倒し、剣を収めながら呟くリュウキの言葉を耳にしたキリトは、若干苦笑いをしていた。最期は怒涛の攻撃を受けて、あっという間に散らした黒牛のアバターだったのだが、リュウキの言葉は、最大級の相手への賛辞だと思えたからだ。
これまでの戦い。……勿論ゲームであり、遊びでもある世界において、リュウキの口から、そんな言葉を訊いた事があっただろうか? 異常なまでの強さを誇る人型邪神を単独撃破をしてしまった程の男が、『やりにくい』とまで言ったのだから。
――……一先ず、一山越えたかな。
時間はまだ十分……とまではいかないが大丈夫であり、キリトはホっとなで下ろしていた。だが、キリトがホッとしたのも束の間。
丁度、アイテムが次々に転がり込んでくると言うのにも関わらず、何やら興奮気味のクラインがぐるりと振り向くと叫んだのだ。
「おら、お前ら! いったい何だよさっきのは!?」
そのクラインの言葉が、先程の連携、自分の二刀流とリュウキの剣と拳を使ったスキルの連携をさしているという事は明らかだった。正直な所、別に話しても良い事なのだが、技の仕組みを一から説明するのは大変に面倒なのだ。 だが、今回は説明役として、申し分ない男がいるから、多少なり余裕を見せていたキリトだったが。
「―――……♪」
リュウキは 何やら、すまし顔+妙に小綺麗な音を奏でる口笛と共に、後ろへとフェードアウトしていく姿があった。
「ちょっ……!?」
まさかの戦線離脱に、キリトは多少なりとも抗議の声を出そうとしたのだが。
「二刀流なんて、スキル この世界にゃ、ねーんだぞ! いったい何なんだよ! 見たことねーぞ!?」
クラインの追撃が止まなかった。明らかに逃げの一手を踏んでいる彼……、リュウキがいるのに 完全に矛先は自分のほうに向いているのだ。
――あれ? オレ達2人で、あのシステム外スキル、したよね???
とキリトが先程の事を改めて訊きそうになるのを懸命に抑えていた。
「い、いやいや、リュウキ! なんで逃げるんだよっ!! ってか、クラインもなんでリュウキをスルーするんだ!」
あからさまに逃げていくリュウキを見て、そして 逃げていっているリュウキも目に入っている筈なのに、自分に来るクラインを見て抗議をするキリト。
「……まぁ、クラインは何時でも何処でも、良い意味でも悪い意味でも一直線だから、猪突猛進だ。……こう言う時、正直クラインを相手にするのは疲れる。何度か経験あるし」
リュウキ、随分と辛辣な一言である。流石のクラインもそこまで言われては黙ってはいられない
「って、一言多いンだよ! リュウの字!」
クラインもキリトやリュウキに、詰め掛け様としたが、リュウキの一言ですっかりと忘れてしまっている様だ。……いや、流石に忘れては無いだろうけど。
「あ……、そういや、そんな事もあったかな……」
キリトは、リュウキの『クラインは一直線』と言う言葉を訊いて、昔の事、あの世界SAOでの時の事を思い出していた。
そう、あの時……クラインは リュウキの情報があまりに少なすぎる。情報屋としての情報量はアインクラッドでも1,2を争う程の量であるアルゴですら、扱っている情報が少なすぎる。精々大まかな位置情報。追加報酬で、コンタクトを取れるかどうか……《検討》する程度だった。
疑問に思う事は、判らなくもないのだが……、あろう事か、その理由を本人に直接訊こうとしていたのだ。どうやら、その時の事をリュウキは思い返した様子だった。
「だからって、全部オレに厄介を押し付けるなよっ!!」
「ん? まぁ 慣れてるだろう? キリトの方が」
「コラァ!! 厄介と書いて、クライン様と呼ぶんじゃねぇっ!」
ぎゃいぎゃいと言い合う3人を見て、ため息を吐きつつ苦笑いを浮かべるのは外野の女性陣達だ。
「あ、あははは……、一瞬だけど、既視感があったんだけど、ちょっと違ったかな?」
「それ、判る。私も一瞬だけ、デジャブったもん……」
レイナとアスナは、3人のやり取りを見て、かつてキリトが二刀流を披露した場面を少なからず思い浮かべていた。リュウキはまず間違いなく覚えてそうだからこそ、そうそうに回避しようとしたんだろう。
「だぁぁぁ! だから、今のは何なんだよっ!? おーしーえーろーーっっ!!」
興奮してきたクライン。盛大にやかましいその叫び声だ、更にはずずいと詰め寄ってくる無精髭づら。このまま放置をしておくと更に暴走モードに突入しかねないだろう。
「……はぁ。キリト。……passだ」
「そこだけ妙に流暢な発音するなよ。……判った判った」
キリトも諦めた様にため息を吐くと、説明に入る。
1から詳しく説明をするのには時間がかかるし、クラインがさっさと理解するとも思えなかったから、一先ず《名称》として、つけている名を言った。
「システム外スキルだよ。《スキルコネクト》」
「すきるこねくと?」
当然、システム外であるが故に、クラインは勿論、他のメンバーも訊いたことの無い単語だった。
「この前のアップデートで、ALOにもソードスキルが導入されたけど、二刀流や神聖剣、リュウキの極長剣、双斬剣みたいなユニークスキルは実装されなかった」
キリトは、口早に説明を続けた。
そう、ここALOにおいては、ユニークスキルは存在しない。賢明なる新運営者たちは、膨大な数に及ぶソードスキルのその全てを人力で検証し、怪しげな条件がついたもの、調査も行って実際に使われた形跡が少しでも残っているもの、それら全てをスキルをシステムから削除したのだ。
キリトの二刀流も、再現そのもの自体は出来ていた。
《ダブルサーキュラー》や《スターバースト・ストリーム》と言った嘗て主力として使用してきたスキルも同様にだ。そして、対人・対モンスター戦にも、その攻撃数に応じてある程度有効なのは検証積み、なのだが……。
『あくまで、実装されたスキルじゃない。単純なデフォルト攻撃と何ら変わらないから、既存のスキルに比べたら、どうしても劣るだろう。物理防御特化型のMobだったら、数でも押しきれない』
と、一緒に検証をしてくれたリュウキもそう言っていた。
更に言えば、実装されたスキルじゃないイコール他のスキルには備え付けられた属性攻撃が無い、と言う事。
故に、この戦いでは全く意味はないのだ。
リュウキはリュウキで、まだ何やら隠し玉がありそうだが……、意味深に笑うだけで手の内の全てを晒している訳ではなさそうだった。 いづれは話す、と言っているが……今すぎにでも知りたいと思うキリトの気持ちも判らなくもないだろう。
だけど、膨大な検証や修練をそれなりに付き合い、且つ 色々と手伝ってくれたリュウキだから、これ以上甘えるのは、流石にキリトのプライドにも触る事だろう。
「でもよぉ、オメーさっき両手で、ってか、リュウキだって、何か無理矢理感がある二刀流してたじゃねェか」
「無理矢理感って……」
キリトはため息を吐き、リュウキも同じように苦笑いをしていた。
確かに、剣と拳のコラボレーションは中々聞くモノじゃない。何せ、リーチが違いすぎるし、威力も違いすぎるからだ。咄嗟の不意打ち、という意味では遺憾無く威力を発揮する 体術スキル、拳術スキル ではあるものの、威力を考えたら、やはり 体現しようとする者など、いないだろう。
「二刀流そのものは、あの世界でキリトが選ばれた。……云わば、専売特許だ。……真似るのは格好悪い」
クラインの言葉にリュウキは、そう答えていた。
確かに、二刀流使い、として名が轟いているのは《黒の剣士キリト》であり、《白銀の剣士リュウキ》ではない。《神眼》、と言えば 間違いなく彼なのだが……それは置いておこう。目立つのは正直苦手なのは相変わらずだから。
判らなくはない、と判断したクラインは、ふんふん、と唸ると 再びキリトの方を向いた。 どうやら、説明の続きを待っている様だ。
「はぁ……、あれは 片手剣スキルを交互に繋げたんだ。リュウキの場合は、両手剣スキル(……両手剣を片手で発動するのも、おかしな話だけど)と拳術スキルの交互。遅延時間無しでつなげられるのは、さっきのが最高記録だ。平均したら3~4回。……リュウキは無茶苦茶繋げられてるみたいだけど、な」
「……拳術スキルと、ソードスキルを一色単に考えるなよ。決まった型に収めとかないといけないから、正直難易度が違うだろ」
やや、悔しそうにしてるキリトを見て、リュウキはツッコミをいれた。
確かに、回数を考えたら後塵を拝している、と思えなくはない、が。結果よりも中身である。
「キリトは5回繋げた計16の攻撃回数。リュウキは9回繋げてたけど、攻撃回数は、19だったわね。確かに回数を考えたら、少しリュウキが劣るみたい」
外野の女性陣達も、感心した様子で見ていた時、シノンが先程の攻撃を思い返しながら呟いていた。
「シノンさん、数えてたんだ?」
「まぁ……そう言う所に目がよくいくから」
シノンはリーファの言葉をそう返した。スナイパーをしている、という事もあってか、些細な情報でも見逃さない様にしているのだ。何処か弱点なのか、どれほどの攻撃をしてくるのか、集中力が増したシノンの眼は、リュウキの様に鋭いのかもしれない。
さて、主にクラインが原因で大分話し込んでしまったが、当初の目的と時間制限を思い出しながら、キリトは一歩前に出た。
「さぁ、のんびりと話してる余裕はあまり無いと思うぜ。リーファ、残り時間はどれくらいだ?」
キリトは戦闘難易度を考えて、このメンバー最大火力で攻めても掛った時間を考えて、そう言っていた。もう少し早くてもおかしくないのだが、やはり 《ラグナロク》《エクスキャリバー》等と言った、メジャーな単語が絡んでくるクエストは、やはり超高難易度に分類されるのだろう。
「あ、うん」
リーファも、キリトとリュウキのスキルの事など、色々と思う所があったが、一先ず考えるのをやめて、首に下げたメダリオンを持ち上げて、状況を確認した。
先程の戦闘で掛った時間と、メダリオンが黒く染まっていく速度、そして ダンジョン内の移動で掛った時間も考慮して考えて……。
「……今のペースのままだと、1時間はあっても、2時間はなさそう……」
「ん。了解。――ユイ、このダンジョンは全4層構造だったよな?」
続いて、キリトはリュウキの頭の上にシフトチェンジしている小妖精ユイに訊くと、はきはきと応じた。
「はい。3層の面積は2層の7割程度、4層は殆どボス部屋だけです。――で、あってますよね? お兄さんっ」
「――……ユイが言うんだから、間違いないだろ? 訊くまでもないよ」
「お兄さんに、太鼓判をいただけて、うれしいですっ」
「……ははは」
大層喜んでくれているユイなのだが……、宣言しておくと、まず間違いなく、この世界の情報収集、いや 現実世界においてのネット内での収集の精度と速度は、幾らリュウキであっても、人間である以上、最早キリトとアスナの子供であり、リュウキやレイナの兄妹である事は間違いないが、実際の所は、ユイは人工知能。だから、幾らリュウキでも足元にも及んでいないのは、自明の理。周知の事実だ。
ここ一番の集中力と見通す眼力? という面を取れば、勝る点もあるだろうが、見た通り、眼の届く範囲に限定されてしまうから尚更だろう。
……だが、無邪気に笑うユイにそうツッコミを入れるのは、少なからず抵抗があるのは、周りの面子。
――……妹が兄に頼る。
という構図は大変微笑ましいモノである事も理解しているのだ。現妹であるリーファでさえ、そう強く思っているのだから。
「お兄ちゃん、頼むよー」
「おーおー、パパも頑張んないといけねェよなぁ? キリの字よ??」
ニヤニヤと耳打ちをしてくるクラインとリーファ。キリトは苦笑いで返した。
「頑張らないと、なぁ……。それにしても、出来すぎる子供を持って、オレは幸せだよ……」
「だね……」
アスナも、笑いながら頷く。キリトにとっては、自虐ネタとも言えるが、その言葉しか浮かんでこなかったのだった。
「まぁ、ユイちゃんに、リュウキだもんね。それもしょーがないって」
「あ、あははは。ですね。とても羨ましいとも思いますよ? うんっ 素敵ですっ」
リズとシリカも同意をする様に、うんうんと頷き、その最中に小さく、何処か寂しそうにピナが『きゅるる……』と啼くもんだから、シリカは 慌てて『ピナの事も大事だよっ!!』っと、言いながらもふもふさせるのだった。
「……呑気ね。時間だって 危ないかもしれないのに」
「あ、あははは。大丈夫だよっ。シノンさん! ……って、言わなくてもわかってるよね?」
「っ……、ま、まぁ 勿論、ね。…………」
レイナの屈託のない笑顔を向けられて、思わずシノンは 顔を反らせた。心の奥まで見られてしまいそうな気がしたから。
どんな状況だったとしても、どれだけ困難な道であっても、――乗り越えられる。間違いなく。だからこそ、シノンは自然に言葉が出てきて、そして レイナも笑顔を見せるのだった。
「さて、と。頑張ってくれるなら、頼むぞ? キリト。時間も時間だ」
ちゃっかりキリトの尻を叩く様に ユイとの会話を終えたリュウキがキリトの方を向いてそう言う。ユイも、リュウキの頭の位置、そこが定位置であるかの様に、ちょこんと座って笑顔を見せていた。キリトの頭上とリュウキの頭上、そして アスナとレイナの肩、そしてたまに、リーファのおっぱ……とと、口にチャックをしておきます。暴れると危ないので。ユイにとって何処でも居心地が良いのだ。……空を飛んでる時や、派手に動く時は リーファの場所は大変だから、あまり好まないらしいが……。
さて、そうこうしている内に自然と、キリトのほうに視線が集まっていった。
からかう様な視線もいくつか感じるが、半分以上は皆真剣だった。
だからこそ、キリトは 苦笑いをしつつも、今後のプランを頭の中で描いていく。ダメだしを、義息子に何度も喰らうのは、流石に情けなさすぎるから、ある程度必死にまとめていく。
恐らく、この《スリュムへイム》最下層の玉座に座して、プレイヤー達を待ち構えているのは、スリュムヘイムの王――《スリュム》当人だろう。
制限時間は、リーファが持っているメダリオンにあり、後1時間以上、2時間以下。最悪の状況を想定したとして、1時間しかない、と過程したとしたら、《スリュム》を倒すのに、30分程使い、更に30分で、その場所にまでたどり着くのが理想だ。3層、4層を30分で、走破――。考えれば考える程、無茶なコースだとは思うが、出来ない事はない。このメンバーであれば、なんだって出来ると信じてるから。
「まっ! むっずかしく考えないで、邪神の王様だかなんだか知らないけど、ここまで来たら、どーーんっ! と当たって《砕く》だけよ!!」
シリアス気味になっているのを嫌ったリズは、キリトの背中をどーんっ! と砕き……ではなく、叩き、叫んだ。
その一言が〆に相応しかった。皆が『おう!』と応じたのだから。
――このヒトタチの無軌道さは、どこから貰ってきたんだろうね?
と、思いながら視線をリュウキに向けると、軽く頷いていた。
その時、キリトは 頭の中にリュウキの声が響いてきた気がした。リュウキは、口にせず、言葉にしないままに、キリトに伝える事が出来たのだろうか。気持ちが通じ合っている、と言うのだろうか…… あまり 深く考えないでおこう。
兎も角、キリトはこう聞こえたのだ
『間違いなく、オレ達だ』と。
それは、以下同文。弁解の仕様もない事だった。
キリトは、リズに倒されて、仰向けで倒れていた身体をひょいと起こすと、皆を見渡して言う。
「――よしっ! 全員、HPMP全快したな。それじゃ、さくっと片づけようぜ? ばっちりフォローしてくれよ? リュウキ!!」
「……なんで名指しなんだよ」
『サブリーダーは、リュウキだから!』と何やら訊いて無い答えがその後に言われるのだが、その事に対して、この場の誰もが不満はなく、寧ろ当然だろ? と言う空気が流れたのは言うまでもない。以前のくじらに会いにいくクエストにおいての、前例もあるのだから。
クラインも、今も昔もギルド《風林火山》のトップをしていると言うのに、あっさりとしているものだろう。それ程までに、キリトとリュウキ、彼らが色んな意味で完璧だと思っているのだから。
そして、その後 ユイに新たに構造についての説明をして貰った。話によれば、3層以降のフロアは これまで通ってきた層と比べて、明らかに狭かったのだ。
逆さピラミッドの形をしているこの《スリュムヘイム》を下っているから、当然と言えば当然だが、その分通路は細く、更には入り組んでいる為、普通に攻略をしようと思ったら、道に迷い、更にはギミックに窓って右往左往してしまいそうな気がする。
そこは、最新型のインテリジェント・カーナビも裸足で逃げ出すであろうユイの完璧なる案内人。そして、それだけでなく、我らが白銀の剣士サマの超洞察力。
この2人がいらっしゃるから、トラップの類に引っかかる様な事は一切無い。時間が無いから、と言う理由、無理を言って(主にトンキーを助けたいリーファが)《眼》の事を頼んだのだ。……勿論、リュウキに負担が掛からない範囲内でだ。
つまり、殆ど最強のナビゲーターが2人いる状態でのダンジョン攻略。どれほど高難易度であったとしても、どれだけ複雑なトラップだったとしても、キリトを先頭に、思考時間ゼロで、がちゃこがちゃこ、と片付けていったのだ。
もしも、これを中継しているとして、ネット上にでもアップしようものなら、まず間違いなく、《スーパープレイ》として、瞬く間に広がっていくだろうことを想像するのは難しくない。……十中八九、いや 100% リュウキは大反対すると思うが。
そして、中ボスを2回程挟んで、更に進んで…… フロアボスの手前まで、即ち第3層迷宮を攻略に要した時間は驚きの12分だ。
『このダンジョンの構成を考えた神様に謝れ~~!』とか、訊こえそうな気がする程のものだが、生憎誰ひとりとして 聞えていなかった。この世界が滅んでしまう可能性をみすみす放置してくれやがった神様なんだから、仕様がない。
そして 第3層のフロアボスは、上層のサイクロプス、ミノタウロスの2倍近い体躯を誇る長い下半身の左右に百足よろしく10本もの足を生やした、女性陣が口を揃えて『気持ち悪い!!』と一蹴してしまう巨人だった。
が、上層のボスと違って、物理耐性がさほどではなかった。勿論、その分攻撃力と攻撃速度、高性能AIを搭載しているであろうアトランダムな攻撃の種類、とその性能は鬼畜も同然だった。
タゲを主にとり続けるのは、前衛のクライン、キリト、リュウキの3人だ。1発でも掠れば、瞬く間にHPがレッドゾーンへと誘われてしまう悪夢の攻撃力。嘗て、旧アインクラッドで戦った同じく百足に酷似したフロアボス《スカルリーパー》が可愛く見える程のモノだった。
だが、結晶アイテムが使用不能である事、回復アイテムは使用が出来るが、気が遠くなる程、時間がかかる事を考慮し、更にALOでは回復の魔法がある。その速度はアイテムとは比べ物にならない。……そして、何よりも、死んでも良いと言う事を考えたら――正直、ヌルいのは、事実だった。
怒濤のような攻撃数も、それこそ悪夢のような攻撃力もなんのその。時には受け流し、時には弾き返し、時には返り打ち。
実に的確な攻撃とその布陣だ。
そして、そんな男とコンビを長らく組んできている故に、キリトも負けてはいない。それは、リュウキの眼には及ばないにしても、システム外スキルの中にも似たようなモノはある。《見切り》だったり、《超感覚》だったりと、だ。ゲームのシステムでは、有り得ないモノ、己の力のみで、経験のみで 所謂《熟練値》を積み重ね、成長をさせる事が出来る。
それが、きっと、リュウキの持つ《力》の正体だと言う事はよく判る。永く、永く、研鑽を積んできたからこそ出来る代物だ。
白銀と漆黒の勇戦を目の当たりにして、自分も黙ってられない、とよりいっそう力が入るのは、クラインだ。負けず嫌いな所があるのは、ネットゲーマーであれば当然のものだあし、寧ろまったく無いのは、成長を妨げる事になるだろう。触発されたクラインも その嵐の様な攻撃を見切る所にまで至っていったのだ。
短い攻防の中で……。
そして、女性陣達も頑張ってくれた。
リーファやリズ、シリカ、シノンが巨大ボスの無数の足を削ぎ落としていき、男性陣が踏ん張ってくれているお陰で、ヒーラーとしての負担も大分なくなったアスナは、昔の血が騒ぐ、と言わんばかりに、魔法の杖をレイピアに持ち替えて、特攻。
レイナも、アスナに続き、最後の補助を掛けた後、『もう十分だね!』と同じように特攻。
金黒の牛達とは比べ物にならない程の速度で、屠ってしまったのだ。所要時間4分30秒。因みにユイが片手間に測ってくれていた。
「(うーむ、あのやりにくいボスが最初に来てくれたのが、今度は良い方向に進む切欠になった、って事だな)」
時間が無い事と、ALOの中でもかつてない程のレベルの高いボスである事、それらの条件が、自分達パーティーに力を与える切欠になった、当初よりも遥かに集中力が上がって、無駄な動きなく、最速にして、最短に攻撃を加えて、倒しきる事が出来た、と確信するキリトだった。
そして、第4層。
このフロアは、ユイの言う通り、ボス部屋のみの構成であり、その場所へと続く長い通路、多少入り組んでいるものの、最後のボス。と言う事もあり、小細工抜き、寧ろ『さっさと来い』と言わんばかりに、懐を広げて待ち構えているかの様だ。
ならば、王スリュムとやらをニブルへイムに叩き返してやろう。と気勢を上げながら更に奥へと突き進んでいた時、……判断に迷う、一つの光景が出現したのだった。
それは、細い氷柱で壁際に作られた牢だった。
地面と天井から、まるで鍾乳石のように鋭く伸びる氷の向こうに、一つの人影があった。巨人のサイズではなく、自分達となんら変わらない、と 目算ではあるが推察。こちら側で言えば、ウンディーネのアスナ、プーカのレイナと同じ位だと言う事がよくわかった。
肌は、このニブルへイム一面に降り注ぐ雪の様な白。いや、冷徹な氷雪ではなく、粉雪の様な印象だ。更に アスナの様に長く流れる髪の色は、金色。そして、更に言えば身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸部のボリュームは、政治的に正しくない言い方になってしまうのだが……、正直な感想を言えば、この場の女性陣全員を遥かに圧倒している。
――妙な事を考えていたら、睨まれてしまう為、キリトは考えない様に、他の状況に目を向けた。
そして、もう1つ見つけたのは、なよやかな両手両足に無骨な氷の枷が嵌っていた事だ。
囚われている、と言う第一印象。そして、それを肯定するかの様に、眼前の氷の牢獄に囚われた女性はか細い声で言った。
「お願い……、私を……ここから、出して………」
ふらり、と氷の牢獄にまるで引き寄せられそうになるのは、刀使いだ。
そういえば、一目見た瞬間から、妙な奇声を発していた様な気がしていた。
すかさず、キリトは尻尾の様なバンダナをがしっ! と掴む。リュウキも鞘に入れたままの長い剣で、行く手を阻む。
「罠だ」
「罠よ」
「罠、だね」
「罠ね」
後ろの二つは、シノン、リズ、そしてレイナのものだった。
ぴくり、と背中を伸ばして振り向いたクラインは振り向くと実に微妙な表情で、がりっと頭を掻いた。
「お、おう。……罠、だよな。……罠、かな?」
引き止めたまま、まだ声を発してないのはリュウキのみであり、クラインは往生際が悪い様に、リュウキに目を向けた。
いつもの様に、眼を集中させて 彼女を視る。
以前でも、ある程度説明をしたことがあるが、彼の眼はそこまで万能ではなく…… システムの細部。即ち、フラグが立って、初めて起こる後出しイベントを視抜いたり、までは出来ない。
「――……NPC、だな。だが、少しばかり通常のものとは違う……」
そう言うと同時に、リュウキは軽く頭を抑えた。片眼を閉じる様に抑えた姿を見て、ユイは、しゃらんっ! と音を立てながら リュウキの肩に止まる。
「私が、視ます。お兄さん。少し、休んでください」
「ん。頼むよ」
まだまだ、軽い……とは内心思ったのだが、背中に幾つかの視線を感じたところで、早々に手を上げた。まるで、背中にも眼があるかの様だ……、リュウキの感覚は間違っておらず、じっと、目の前のNPCではなくリュウキを見ている少女達がいた。
……あまり、心配をかけ過ぎてしまう訳にもいかないし、この先にはまだ大仕事が残っているのだから。
「ユイ、どうだ?」
キリトも大体を察し、リュウキの肩を掴みながら ユイに訊いた。
「お兄さんの言う通り、少し変わったNPCです。えと、ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。……ですが、ウルズさんと違うのは、このひとは、HPゲージがイネーブルです」
Enable、即ち《有効化されている》と言う事。
通常であれば、NPC達はHPゲージを無効化されている。が、希にこの眼前の女性の様に保有している者もいるのだ。その例外が《護衛クエスト》における護衛対象。そして、この場合最も注意しなければならないのが、このNPCが実は―――、と言う展開。
「罠だよ」
「罠ですね」
「罠だと思う」
残っていたアスナ、シリカ、リーファが続き、女性陣は万全一致。
それでも未練まがしく、クラインは今度はキリトを見た。キリトもため息混じりの早口で言う。
「勿論、罠じゃないかもしれないけど、今はトライ&エラーをしている余裕はないんだ。多少は時間短縮出来たけど、やっぱり最終ボスは未知数なところがあるんだし」
「ん………だな。それに ハニー・トラップの類は 別段珍しい事でもない」
キリトの回答が、恐らくは正しく模範解答だ。
そして、リュウキも今回は同意した。もう少し時間があれば、選んでみる、と言うのも一興だ。
システムの奥、細部に至るまで解析をする事が出来れば、面白さは半減してしまうかもしれないが、判明するかもしれない。だが、時間がない上に、只管に視続けて、綻びを探し、侵入し……、まるで 自分が金縛りにでも合っているかの様に、微動だにせずに視つづけなければならない。……そんな事、皆は許してくれないだろう。
「お、おう……、うむ、まあ、そうだよな、うん」
クラインは小刻みに頷くと、氷の檻から視線を外した。
そして、更に数秒後、奥に見える通路の曲がり角付近で、再び背後で声がした。
「……お願い、誰か…………」
正直な所、彼女を助けたいと言う気持ちがない訳ではない。
嘗て、旧アインクラッドにおいて。
血盟騎士団が先頭に立ち、フィールドボスを討伐する作戦会議が開かれた。そこで、当時の熱血と冷血を同時に持ち合わせていた副団長殿は『ボスがNPCを殺している間に、攻撃・殲滅します』と無情にもそう言っていたのだ。
確かに、NPCはシステムが自動生成するただのムービング・オブジェクト。だが、その世界で生きている住人、と言われれば間違いなく、当時の黒の剣士は真っ向から反対の声明を出し、傍らにいた白銀の剣士も、作戦を肯定はしたものの、『NPC達が消滅する瞬間は、プレイヤー達と何ら遜色のない事』と言い放っているのだ。
長らくこの世界に暮らしてきた者にとって、単なるオブジェクトなどとはもう言えない。当時の副団長殿は、まさに《鬼》になっている部分、正しくはなりかかっている部分が全面に前に出ていたから、であり 今では柔らかく 誰に対しても笑顔を見せる本来の姿に戻っているから、同じように感じてくれている筈だ。
その傍らで見守っていた副団長・補佐殿は言わずもがなである。
つまり、もっと時間に余裕、そしてゆとりがあれば、あの女性を助け、一緒に連れて行って、ストーリーの大詰めで後ろから『フハハハハハ! 愚か者めらが!』と言われ、大ピンチ、と言うのも良い。それこそが一興だと言える。
このメンバーであれば、そうなってしまっても、乗り越えられるだけの力はある、とは疑ってないが、最悪なのは『スタートに戻れ』と無情に言い放って、強制転移でもさせられた時だ。そうなってしまっては、強さとかは全く意味はない為、所謂《THE END》《GAME OVER》コース。そうなる可能性が捨てきれないから、踏み切れなかった。
それらを頭に浮かべているのは、キリト。そして リュウキも図らずしも。更にはレイナ。そして……以前 無情にも切り捨てようとしたアスナも 頭の片隅に渦巻いていた。
その時だ。
「罠、だよな……。罠だって、解ってる。―――でも、罠でもよ。罠だと解っていてもよ……」
がばっ! と、俯かせて走っていたクラインは立ち止まって顔を上げた。その目元には薄くにじむようなものがあったのは気のせいではあるまい。
「それでもオリャぁ……どうしても、ここであの人を置いていけねェんだよ! たとえ……たとえ、それでクエが失敗して……、アルンが崩壊しちまっても……、それでもここで助けるのが、オレの生き様―――武士道ってヤツなんだよォォォ!!」
と、叫び上げると 勢い良く振り向き、氷の檻にどたどた、とかけ戻っていく、クライン。
正直な所、演説を聞いてる間に『NPCに感情移入しちゃってる?』と思い。『クラインだからな……』とため息を吐く者もいたり……。シリカの頭上にいるピナに至っては、珍しく欠伸までしているときている。
以前にもNPCに感情移入をしっかりとさせて、自宅にお持ち帰りまでしようとした、と言う過去があったから判る事、だった。……見捨てられない、と言う感情は確かに良いモノだと思うのだが……、クラインの場合はある種《限定》されている所があるから、呆れてしまうのだ。
んで、キリトは『クラインさん、かっけぇーー!』と少なからず思ったのは間違いなく、認めている。自分には出来ない事を率先しておこなっているから。だが、それは一瞬であり、最後には勿論。
―――――アホや。
である。時間がアレば。の話であり、今の現状を考えたら、そうとしか思えない。
そして、それに同調したかの様に、ほとんど全員が、示し合わせたかの様にため息を吐いていた。
そんな事を思っているなどは考えていられなかったクラインは、『今助けてやっかんな!!』と勢いよく叫ぶと、刀使いの代名詞、とも呼べる居合系のスキル。《ツジカゼ》を炸裂させ、破壊可能オブジェクトである氷の牢獄を叩き切った。
氷の檻から救い出された女性には、当初捕らえられていた時の顔がみるみる内に明るくなっていくのが判る。
それは 紛れもなく美女である。
クラインではないが、後ろで見ていたキリトも『やっぱり、綺麗なひとだなぁ……』と思い、それをぼそり、とつぶやいてしまったのが不味かった。
ユイには むっ!! とされてしまい、アスナに至っては黒いオーラ。視線を向けられてしまったのだ。
慌てて、キリトは首をぶんぶんと振るが……後日にでも折檻されてしまうのは違いないな、と違う意味で肩を落としてしまっていた。
リュウキは、クラインの過去を知っているし、少なからず呆れた視線も向けていたのだが、それも一変して、助けられた美女に視線を向けていた。決して逸らせず、その向きから、一目瞭然である。当然ながら、キリトの様に 視線を向けられていた。その主は レイナであり……、更にシノンである。
だが、そこには勿論 キリトとは違う面は当然ながらあり、リュウキの表情を見て レイナは、杞憂だった事を悟り、あと少しで肘鉄、若しくは足先の踏み抜き、と言う実力行使に出かけていたシノンも なんとか引っ込める事が出来た。 明らかに邪な感情はその表情には出ていなかったから。
リュウキは、その手の感情。恥ずかしさ、などと言った感情が顔に出る時は普段のポーカーフェイスがあっという間に綻んでしまうのは周知の事実。そのギャップが 堪らない、と言って引き寄せてしまうのだから当然だ。
と、言うこともあって、キリトは更に肩身が狭くなってしまう事になる。一番訊いたのが、ユイも大体悟った所で、『お兄さんを見習ってください。ぱぱ』と言われてしまった所だった……。
そして、そうこうしている間に、クラインはしっかりと、いや もう 完全に《入り込んで》しまっていた。『ありがとう、妖精の剣士様』と言われ、紳士的に立ち振る舞うクライン。
VRMMOのクエストが進行中だから、ストーリーに没入するのは全く正しい態度だろう。キリトも揺らいでしまった事もあって、完全にクラインを引いてしまう様な態度は最早取れる様なものではない。でも――なんというか、あんな金髪美女を見ても普段と全く変わらないポーカーフェイスなリュウキの事が改めて凄い、と言うかユイの言う様に見習わなければ、と思ったり。
「出口まではちょっと遠いけど、1人で帰れるかい、姉さん」
「………」
その間も、どんどん進んでいく。入り込んでいく。
そして、金髪美女は クラインの言葉に目を伏せてしばしの沈黙をしていた。
《自動応答言語化モジュール・エンジン》とは、簡単に言えば、プレイヤーにAと言われたらBと答える、と言うパターンリスト。それが恐ろしく複雑だと言う事だ。擬似的で、とはいえ、後ほんのもう少しで、当たり前のように、人間に迫る勢いだ。
代表例が、ユイだろう。
だが生憎とあと少し、とは言っても まだ 自動応答のNPC達は ユイの域には遠く及んでいないから、即座に応答する事は出来ず、暫く考え込む。《正しい問い掛け》を模索しなければならないから。だが、その間も極めて人間を思わせる様な《表情》を浮かべる故に、違和感等は無いと言っていい。
そして、口をゆっくりと開いた。
「……私は、このまま城から逃げるわけにはいかないのです。巨人の王《スリュム》に盗まれた一族の宝物を取り戻すため、城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり、捉えられてしまいました。宝を取り戻さずして、戻ることはできません。どうか、私を一緒にスリュムの部屋に連れて行って頂けませんか」
「お……ぅ、むぅ……」
今度ばかりは、さしもの《武士道に生きる男》クラインは即答ができなかった様だ。苦しげに、唸るだけだった。
キリトの傍で、いろいろと追求していたアスナだったが、とりあえず こちら側に集中、彼女は所謂《戻ってきた》。そして、キリトに呟く。
「なんか、キナくさい展開、だね……」
「だなぁ……」
確かに、この手の話はキナくさい、と思ってしまうのも無理はない。
所謂、ラスボス相手に共に戦いましょう! と同行していたというのに……、いざ、対面するやいなや、あっという間に寝返り、ではない。元々が相手側だった。と言う展開。即ち『ふははは! 愚か者共めぇ!』と、刃を向けてくる。と言うパターンが王道……いや、麗しき美女だから、邪道? だったりする。
「お、おい……キリュウの字、よぉ……」
なんだか、クラインは何にも言えなくなってしまい、更には勝手に人の名前をひとまとめにする、と言う手段にまで躍り出た様子だ。
「はぁ、纏めるな。バカ」
「はいはい、判った判った。こうなりゃ、最後までこの分岐で行くしかないだろ。助けた時点では何も起こってないから、100%罠、って訳でもなさそうだ」
リュウキの苦言は兎も角、キリトの答えを訊いたクラインは、ニヤリ、と笑ったと同時に、待っていました! と言わんばかりに威勢良く美女に宣言をした。
「おっしゃぁ、引き受けたぜ、姉さん。袖すり合うも一蓮托生! 一緒にスリュムのヤローをブッちめようぜ!」
「ありがとうございます。剣士様!」
豊満な胸部をクラインの腕に絡め取るように押し付けられる。
男であれば、もう 約得であり、夢見るシチュエーションだったりするだろう。クラインも、だらしなく表情を緩めているのだから、たんと堪能している。と言える。
そして、ユイはといえば 以前にも何度かクラインが言っていた《ことわざ》に興味を示した様で、頭上で『旅は道連れ余は満足♪』とやや間違った内容をニコニコと笑いながら言っていた。人生の旅も人の情けや思いやり~などを意味することわざだが、クラインが造語したモノをユイなりに 理解していったのだ。
「……ユイにこれ以上妙なことわざ 聴かせるなよな」
ぶつくさと言いつつ、目の前に現れたNPCの加入を認めるかどうかのダイアログ窓を確認した。YESを押せば、晴れて彼女は一時的にパーティメンバーの一員になる。最大人数をオーバーしているが、NPCであれば問題ないだろう。
が、最後の躊躇をしたキリトは、リュウキに声を掛けた。
「大丈夫、だよな?」
「はぁ、啖呵を切ったのに、逆に大丈夫か?」
「い、いいだろ? サブリーダーの意見も大切だ。いや、マジで。すげー、頼りになってますんで」
何やら 腰が低くなってしまってるキリト。先程のアスナやユイとの件の影響がまだ残っているのだろう。
「大丈夫、だろ。と言うか ここまできて、拒否する事も心情的には出来ない。最後までこの分岐でいく、と決めたキリトに従うよ」
リュウキは、軽く手を振った。
その傍にいたレイナも。
「だね? 仲間が増えてくれたのは嬉しいし、もし……だったとしても、皆いれば大丈夫だよ!」
「そうね。……クラインは当てにならないし、キリトは……微妙。だけど、うん。レイナの言う通り 大丈夫でしょ」
すぐ後ろにいたシノンも一言。
妙な間だったから思わずキリトが反論。
「な、なんで オレが微妙??」
「あんた、ハニー・トラップに高確率で引っかかりそうだから、だけじゃ不満?」
「い、いえ……何でもない、です……」
口に出してしまった事が後悔であり、後に立たずである。
「ほら。情けない表情は、クラインだけで十分だ。……次は決戦だ。此処は景気付け、だろ? 気合を入れ直そう」
そこまで 一応 まだライバル視しているリュウキにいわれてしまったら、立ち上がらない訳にはいかないだろう。
キリトは、苦笑いをしつつ、YESのボタンを押した。
あの美女の名前は《Freyja》
フレイヤ、とよむのだろう。何処か訊いた事がある名前だった為、リーファやリュウキにでも訊こうか、と思っていたのだが……、リーファは シリカやリズと共に、未だに情けない顔を晒し続けている、最早顔芸をしている? と思えるクラインを見て、呆れ果てており、リュウキに関しては ボタンを押す為に背中を押してもらったも同然なのに、早速頼るのも、情けなさすぎるだろう。
だから、まずは景気づけ、をだ。
相当時間短縮出来たとはいえ、メダリオンの黒色化は続いているのだから。1時間を超える猶予はないだろう事は判る。
キリトは、大きく息を吸い込むと、口を開いた。
「ダンジョンの構成からして、もう妙なギミック無し、後は全力戦闘のみだと思う。……だから、この先はラスボスの部屋だけだ。今までのボスより更に強いだろうけど、もうここまで来たら、小細工抜きでぶつかってみるしかない。序盤は、攻撃パターンを掴めるまで防御主体、反撃のタイミングは前衛のオレ達が指示する。ボスのゲージが黄色になる時、赤くなる時、後はリュウキが気づけば変わってくるだろうから、注意してくれ」
その言葉を訊いて、皆は頷く。リュウキも、任せろ、と言わんばかりに 両腕を組んで静かに頷いた。
それを確認すると、キリトは更に語気を強めて叫んだ。
「――ラストバトルだ、全力全開でぶっ飛ばそうぜ!」
『おー!』
「ああ」
それは、クエスト開始以来、何度目かの景気づけ、気合入れだ。
新たに加わった金髪NPC美女フレイヤも参加し、一斉唱和に加わったのだった。
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