SAO-銀ノ月-
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第二十六話
前書き
未だテスト中。
しかし、評価ポイント700ポイント突破にいてもたってもいらずに投稿しました。
ありがとうございます!
おぼろげな意識の中、あたしは誰かに運ばれていた。
一般的におんぶと呼ばれるような運ばれ方で、もう十六歳になる身としてはとても恥ずかしい。
けれどあたしには、とても恥ずかしいにもかかわらず、その運ばれている状態を拒もうとは思えなかった。
何故なら……どこか、懐かしさを感じる暖かさがあるから。
まどろむ意識であたしが唯一感じられていたのは、その暖かさだけだったけれど、そのおかげか、それだけに全神経が集中している。
本当に、暖かい――
「……ん」
意識が覚醒する。
最初に視界に入ったのは、映画とかでは良くある『知らない天井』という奴だった。
そして、あたしが倒れていたのは、アインクラッドの宿屋にあるような、簡素なベッドだった。
――一体、何があったんだっけ……?
ベッドから身を起こし、何がどうなっているか思いだそうとした時、最初にあたしの頭の中に浮かび上がったのは、あたしの隣で気さくに笑う、背が高い黒衣の侍――!
「――ショウキ!」
「ん? なん――ぐぇッ!」
あたしが意識を失ったそもそもの原因や、その他もろもろをすべて思い出し、急いでベッドから飛び出した結果……ベッドの横で寝ている人物に気づかず、そのまま踏み抜いてしまったようだ。
あたしがサッと足を戻し、ベッドに腰掛けた状態になると、その人物はゆらりと立ち上がった。
「……命の恩人の腹をいきなり踏みつけるとは、良い度胸じゃないか……!」
「……ご、ごごごごごめん! ……じゃなくて、大丈夫なのショウキ!」
どう見ても怒っているオーラを発しているショウキに対し、そんなことより大事なことを質問する。
色々、まだ状況を理解できないでいた。
「話を……まあ良いか。じゃあこれから質問タイムってことで。何でもどんと来い……あ、無事かっていう質問にはイエスな」
近くにあった机からあまり丈夫そうじゃない椅子を引っ張り出して来て、ベッドの前に置いて座った。
ええと、質問ね……
「……まず、ここはどこ?」
「第五十層《アルゲート》の、裏通りにある宿屋。宿屋なんだけど受付に人はいなくてさ。受付に金を置くだけで良いから、人目に付きたくない時に超便利」
受付に人がいない宿屋……一瞬頭の中をよぎった、リアルにある同じシステムらしい建物を速攻で消して、次の質問に移る。
……違う違う。
絶対に違うわよ。
「あたし、ボスにやられて倒れてたと思うんだけど……ごめん」
後半は、ついて行ったにもかかわらず、やられてしまった情けなさから消え入ってしまっていった。
それと、頭を下げて本気で謝罪する。
すると、頭の上から溜め息混じりの声が聞こえてきた。
その主はもちろん、ショウキだった。
「別に良いよ。人を護りながら戦うのは慣れてるし、それに約束だったからな」
……約束?
そういえば、あの遺跡のダンジョンに入る前に、『あたしを死なせない』って約束をした。
まさか、そんな口約束だけであたしを護ったのだろうか。
……ボス相手に、死ぬかもしれないのにかかわらず。
「ああもうほら。早く顔上げて次の質問行こうぜ?」
顔を上げるのを忘れていたあたしに、ショウキはやたら催促をして来た。
ちょっと顔を赤らめてそっぽを向いているその姿を見ると……もしかして、照れているのだろうか。
「へぇ……ショウキ、あんたも照れることあるのねぇ……」
「……照れてない。さっさと次の質問にいかないと打ち切るぞ、質問タイム」
含み笑いを持たせた私の言葉に、ショウキは少しうろたえた。
ふふん、これで行くときにからかわれた借りは返したわ。
「次の質問ね……ショウキはさ、普段どんなことしてるの?」
「はあ? 何でいきなり俺への質問なんだよ?」
あたしの口から、つい出てきた言葉は、正直言ってただの好奇心……と言って良いのだろうか判断に迷う言葉だった。
目の前にいる彼のことを、もっと良く知りたい……その感情は、好奇心と言うよりも……
「ほら、何でも答えるって言ったじゃないの」
「……確かに言ったな……そう面白いもんじゃないぞ」
それからは、ショウキの傭兵仕事について聞くことになった。
ただの宿屋の一室で、ロマンも何も無いけれど……別に良かった。
「まあ、傭兵って言っても、そうたいしたことはやってない。中層から上層の人たちを、手助けしながら回ってるだけさ」
……いきなり、そうたいしたことを言われた。
中層から上層と言っても広いし、攻略組の中で、自身のレベリングを無視してでも人助けに邁進するようなプレイヤーは、まずいないだろう。
「じゃあさ、どうして傭兵の仕事をしてるの?」
「……ただの自己満足だよ。……昔の仲間たちともやってたことだし、な……」
ショウキはその質問に対して少し陰りを見せながら答えた。
後半部分は良く聞き取れず、どうやら地雷だったのかもしれない……
「で、でもそんなことを仕事にしてるプレイヤー、ショウキぐらいだし、みんな凄い助かってるんじゃない?」
「ああ、そうだな……そうだと良いな……っと、ちょっと暗くなっちゃったな。次だ次」
ばつの悪そうにショウキは頭をかき、次の質問を促した。
正直言って、聞いちゃいけないような質問をしたあたしが悪いのだから、ショウキが謝る必要は無いのだが……ああ、そういえば。
「そういえば、あのダンジョンからどうやってここに来たの?」
意識が朦朧としていたので、あんまり覚えていないのだけれど……
「別に手の込んだことはしてない。転移結晶で《アルゲート》まで跳んだあと、リズをおぶってここまで運んでだけだ」
「ちょっ……ええっ!?」
ショウキは何でも無いことのようにサラリと、とても重要なことを言った。
つまり、あたしがずっと感じていたあの心地よい温もりは、ショウキだった……!
「いやあ、最初は知り合いの店に行こうとしたんだが、流石に辛くてな……裏通りのこの宿屋に来たんだ」
「な、なるほど……じゃなくて!」
一瞬納得しそうになったけど、なんだかおかしい。
「その……他になんか運べる方法無かったの!?」
ショウキは手を顎の方に持っていき……俗に言う考える時のポーズだ……あたしを運ぶ方法を、指折り数え始めた。
「おんぶ以外となると……荷物運び、抱っこ、お姫様抱っこ……他に何かあるか?」
「……おんぶでありがとう」
……他に方法が無かったとはいえ、やっぱり想像すると恥ずかしい。
……知り合いに見られてなければ良いけど……
「ああ、そういや」
ショウキが思い出したような声をだし、メニューを操作し始めた。
そうしてショウキのアイテムストレージから出て来たのは、銀色に光り輝くダイアモンド――!
「あのゴーレムから出て来たインゴットなんだが、専門家からすると……」
「見せて!」
ショウキの言葉が終わるや否や、ショウキの手からインゴットを貰う。
傍目から見ても、上質そうに光り輝くダイアモンドは、手に持ってみるとその輝きが増した……鍛冶屋としては、テンションが上がらずにはいられない。
「固有名は、そのまんま《ダイアモンド・インゴット》……凄いわ! これならあんたのカタナ、強化出来ると思う!」
あたしの《観察》スキルで見たところ、うん、充分どころか期待以上なインゴットだったので、コレならばあの日本刀《銀ノ月》を強化出来るだろう。
ふと部屋に備え付けてあった時計を見ると、現在時刻は午後九時。
まだまだ時間はあるので、今日中に強化したいという気持ちが抑えられずにウズウズして来た。
「早速、あたしの店に戻って強化しましょ!」
「いや、それがその……出られないんだ」
そうと決まれば、とばかりに立ち上がるあたしに対し、ショウキはまたも、ばつの悪そうに頭を掻いた。
そして言ったのは……出られない?
「いや、さっきも言った通りにここは受付とかが無人なんだが、そのせいで少し融通が効かないんだ。……例えば、最初に頼んだ時間まで出られないとか」
ショウキが懇切丁寧に、この宿屋の事情とシステムを教えてくれる。
……何であんた、こんな怪しい宿屋を使いこなしてるのよ。
「規定時間は明日の6時。それまでは、転移結晶を使わないと出れないことになってるんだよ」
「うーん……いいんじゃない?」
言外に、「転移結晶を使うか?」とショウキは言ってきてくれてはいるが、ここにいるのは元々あたしがボスにやられたせいだし、値段が高い転移結晶を、ショウキは脱出の時にもう使ってくれてるんだから、これ以上は申し訳ない。
……むしろ、あたしが文句を言われても仕方ないのに……根っからのお人好しなのかしら。
「そうか……良いなら良いんだけど。それじゃ、飯いるか?」
飯と聞いた瞬間、あたしの贅沢な胃袋が反応する。……まったく。
「……うん」
頬を赤らめて頷くあたしに、ショウキは気さくに笑いながらサンドイッチ(のようなモノ)と、お茶をアイテムストレージから放り投げてくれる。
「料理スキルは微妙にしか上げてないから、味はイマイチだと思うけどな」
「……ううん、美味しい」
一口かじったサンドイッチは、別段特別な味はしなかったけれど、何でだろうか、とても心に来る味だった。
ふと思うと、もしかしたらいつしかあたしは、食事でさえただのデータと思うようになっていたのかもしれない。
だけど、このサンドイッチを食べる時にはそんなことは露ほども思わなかったから、その差なのかもしれない。
あたしの内心とか裏腹に、ただの軽食でしかないサンドイッチはすぐ食べ終わってしまう。
ちょっと残念だったけど、これは仕方ない。
「ご馳走でした、と……少し早くて悪いんだが、疲れたんで寝させてもらうな」
「確かに、あたしも慣れないことして疲れたわ……寝よう」
お互い同時に、あくびをしつつ身体を伸ばしてしまい、思わず笑い合う。
「更に悪いが、部屋をこの部屋しかとってない」
「へぇ……え!?」
ふ、二人で一部屋ってこと?
ついつい身構えてしまったが、何かあるんだったらもうとっくに何かあるわけで。
……なんだか、そう考えると、ちょっとプライドが傷つけられたような気がしないでも無いけど。
ショウキは、アイテムストレージから今度は毛布を取り出し……一体何が入ってるんだろう……灯りの方へ歩いていった。
「じゃ、灯り消すぞ」
「あ、うん」
ショウキの言葉と共に部屋の灯りが消え、それとほぼ同時に床に横たわったような音が響いた。
……あたしだけベッドで寝るなんて、なんだか悪い。
掛け布団だけ持って、ショウキに習って床に横たわった。
木製の床が、意外とひんやりとして気持ちいい。
「ベッドで寝ないのか?」
ちょっと横からショウキの声が聞こえてくる。
ショウキの服と毛布が真っ黒なせいで、イマイチ良く見えない。
「ふふん、私の勝手でしょ? ショウキこそ、ベッドで寝ないの?」
「……俺の勝手だからな」
ちょっと反撃したけど、サラリと避けられてしまった。
出会った当初はイライラしたものだが、今はこの何てことのない言い争いが楽しい。
今日だけで、本当に色んなことがあった。
いきなり店の売り物をダメ出しされたかと思えば、いきなりそいつと外に出かけることになるし。
初めて行った街で、そいつに甘いクレープを買ってもらったかと思えば、いきなりダンジョンに飛ばされるし。
いきなりダンジョンに飛ばされたと思ったら、そいつがあたしを護るようにして抱きしめられてたし。
そいつと一緒にダンジョン攻略してたら、ボスにやられちゃってそいつに助けられたし。
その後宿屋でそいつと他愛のない話をしたり、サンドイッチを食べさせてもらったり。
――本当に色んなことがあって、どれもこれもが現実じゃないみたいで、照れくさくって、楽しくて。
「……ね、ショウキ。手握って」
「ん? ……まあ、良いけど」
あたしのつい口から出て来てしまった頼みにも応えて、近くに『そいつ』の――ショウキの手が伸びてきたので、観念して手を握る。
――やっぱり、暖かい。
あたしが夢うつつで感じていた温もりと同じ、人間の温もりだ。
「――――……」
手を握っている片割れであるあたしは、こんなにドキドキしていると言うのに、ショウキはもう寝てしまっているようだ……デリカシーの無い奴め。
私は、今までこの世界の……アインクラッドの何もかもが偽物だと、たががデータのことだと思っていた。
でも、今感じているこの人間の温もりも、偽物だと、所詮は、データのことだて切り捨てて良いのだろうか?
確かに、これはデータで流れてきているただの情報かもしれないけど……これが人の温もりであることに違いは無い。
「……気づかせてくれて、ありがとう」
こんなお礼の言葉、面と向かっては絶対言えないけれど、今はこの状況に感謝しよう。
ショウキはもう寝静まり、あたしの言葉は聞こえていないようだし。
「……好き」
後書き
この二次……SAO−銀ノ月のヒロインは、リズです。
リスベットです。
大事なことなので以下略。
シリカ編を書いてる時には、つい作者の力量足らずでヒロインらしく書かれてしまいましたが、この二次のヒロインは、リズともう一人を予定しています。
本家主人公のフラグ立てにはまったく及ばず、なんだか突然な感じがするのですが……すいません、はい。
では、700ポイント突破の件とヒロインの件も含め、これからもよろしくお願いします!
……さて、テスト勉強せねば。
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