衛宮士郎の新たなる道
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第11話 嵐の前の静けさ
前書き
マジ恋A-2の清楚ルートの最初側にガクトやモロが大和と話していた事なんですけど、川神市は魍魎の宴と同じく、天国の様で地獄の様な所であり、この世とあの世の狭間なんだそうです。
まさか主役の口からその様に評するとは・・・。
翌日の早朝。
百代は金の為に、一切手を抜かずに掃除をしていた。
「よし、これで良いだろ!衛宮ーーー!掃除終わったぞーー!」
「大声で呼ぶなよ、川神。まだ朝なんだから近所迷惑も考えろ」
百代から自分を呼ぶ声に即座に反応した士郎は、瞬時に百代の前に来た。
朝食の調理自体は完成して後は準備だけだったので、丁度良く台所から離れることが出来たのだ。
「む、まぁ、それについては悪かった。けどそれより早く判定してくれよ!」
今日の査定額を知りたいのか、百代は士郎を急かす。
そんな百代に士郎は内心溜息をついてから、私心なく辺りを見回す。
「・・・・・・・・・・・・うん。五百円だな」
「何だと!?ちゃんと見たのか!私は昨日と違って手を抜かずに掃除したぞ!」
初日の早朝同様の査定額である事に、百代は憤慨する。
しかし士郎は、そんな百代の反応にまた溜息をついて口を開く。
「バイトの様なモノとは言え、手を抜かずに仕事するなんて当たり前の事だぞ?見返りに金を渡す側からすれば当然としか見られないな。それに、あそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこが不十分だろ?川神は掃除のプロでない事も差し引いた上で、昨日は本来一円たりとも渡す必要が無かった事も算引いてから、色を付けてのこの値段だ」
「ぐぬぬぬ!」
士郎に指摘された箇所は、確かにお世辞にも綺麗とは言えない部分だった。
ただ客観的に言わせれば、かなり細かく、老舗の旅館の女将でも指摘されてはじめて気づくレベルである。本当に掃除のプロでは無い事を差し引いてるのか、首を傾げたくなるほどの細かさだった。
しかしそうとは知らない百代は、ただ悔しそうに歯噛みするしかなかった。
「どちらにしても、もう朝食だから行くぞ川神」
恋人や親、兄のような親しい関係でも無きに拘らず、士郎は百代の頭を撫でながら居間へと促した。
「むぅ」
以前同様に同い年にも拘らず、まるで子ども扱いされることに不満を感じた百代ではあったが、撫でられたこと自体には不思議と不愉快には感じなかった。
-Interlude-
昼休み。
士郎と京極は読書をしていた。
京極は自分の力では手に入らなかった、とある本を手に入れた士郎から貸してもらい、士郎も経済学の新書を読んでいる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
学校の昼休みは平均的に1時間も無い。
その限られた時間の中で昼食をちゃんと取り、その上で読書をしている二人は、まだ昼休みの半分も消費していないにも拘らず、2人とも既に二冊目の後半である。
士郎は超人的な身体能力と慣れで、京極は言霊使いとしての言葉を把握する力と慣れで、速読がかなり得意の様だった。
そんな2人が本に向かって真剣――――というか、無表情で速読している光景を見ている教室内外の女子生徒達は、読書の邪魔はしない位にときめいて癒されていた。
「はぁ~、御2人ともあんなにカッコイイ表情で読書する姿も絵になるわ~」
「見てるだけで癒されるわね~」
そんな風に、周りの女子生徒達をメロメロにさせている張本人達の内の1人である士郎が、二冊目を読み終えて三冊目に突入しようかと手に掛けた時だった。
「ん?」
「如何した衛宮?」
中学生からの付き合いで親友と言ってもいい京極は、士郎の実力及び、気配察知による広範囲かつ高い感知能力がある事を知り得ていたので、親友が何かを感じ取ったと直に気付いた。
「いや・・・冬馬と直江が放課後に決闘するなどと言っているみたいだな」
「ほう・・・!――――相変わらず川神学園は退屈に困らないな」
まるで見て来たかのような士郎の言葉に、京極は何の疑いも無く信じてから口元に薄く笑みを作るのだった。
-Interlude-
放課後。
士郎は昼休みの件が気になったので屋上へ向かった――――なんてことは無く、部活に精を出す為に弓道部へ来ていた。
気にならないと言えば嘘になるが、弟分が誰かと一々決闘するからと言って気になって見に行ってしまうのは如何かと考えて、行かないと言う選択をしたのだ。
そうして弓道着に身を包んだ士郎が男子の着替え室から出ると、そこには新入生である一学年の階で何度か見かけた事のある少女が立っていた。
「初めまして、衛宮副部長!私は昨日から入部しました、武蔵小杉と言います。副部長の御高名と武勇伝は家や先輩の方々からかねがね」
初対面である先輩後輩の間の感覚としては、学生にしては固すぎるが仕方が無いモノだった。
先代は兎も角、現当主の舵取りにより武蔵家全体を湧き起こした上で地味に着々と規模を拡大させている武蔵家と、極道にも拘らず地域の顔役同様の評価と信頼を獲得している上に、日本の各地方の有力者や大地主達とも太いパイプを持っている藤村組は、今は上下関係こそあれど立場的にも似ているので、少なくとも表面的には仲良くしていた。
その理由から、その家の実子やほぼ身内同然の客分扱いの挨拶も、固くなるのは仕方がない事だった。下手な事をすれば、両者の上への関係にどんな影響を及ぼしてしまうのか、不透明だからだ。
閑話休題。
「こちらこそ、弓道部員で居られる時間はもう半年ぐらいしかないが、宜しく頼むよ」
されど経験豊富な士郎は幾つもの修羅場を経験し、様々な人間を見て来たので、それらを元にどの程度固く柔らかくが良いか判断出来るのだ。
そこからの判断で、自分と目の前の少女との相性的に、普段通りの自分で接した方が都合がいいと士郎は判断したのだ。
そして士郎らしいと言えば士郎らしいのだが、何とほぼ初対面同然の女の子の頭の上に掌を乗せて撫でたのだ。
「っ!」
この事に武蔵小杉は、反射的に気安く自分の頭を撫でる手を払いのけようとするが、その撫で方がまるで、昔から自分がどの様に撫でられると気持ちいいのか熟知されているかの様な感触で、寧ろこのまま撫で続けていて欲しいと思うほどだったので、為されるがままに動きを止めた。
「ふにゅ~」
「・・・・・・ん?――――って、悪い!つい癖で撫でたんだけど気安かったか?」
武蔵小杉としては気持ちよかったのだが、士郎はつい咄嗟の事に気付けずのそう窺った。
それに対して武蔵小杉は気持ちよかったのが正直な感想ではあるが、武蔵家の実子としてもプライドや世間体なども気にしていた。
その両方の狭間で揺れ動いている武蔵小杉は、一つの答えとして言う。
「そ、そこまで悪かった訳では無いです」
そう絞りだした。
そしてそれを見ていた殆どの女子部員たちが羨ましそうに見ており、部長である矢場弓子と男子生徒達は揃って思った。
(((((また、誑し込んだ)))))
そんなこんなで士郎はまたも、ほぼ初対面の女子生徒に何時も通りに初期フラグを建てるのだった。
-Interlude-
新人以外の風間ファミリーは、明日は祝日と言う事で廃ビルを利用した秘密基地に集まっていた。
そこではキャップに大和、京にモロの4人で超マニアックなボードゲーム『ゲーム制作会社群雄伝』をしていた。
ガクトに百代に一子が参加しない理由は、ゲーム制作会社の事などよく解らないからだ。
まぁ、それ以前に、一子は外の土手で鍛錬中でガクトは付添ってるので、今この場には居ない。
そんな風に楽しいのか否か、イマイチ判らない空気の中、百代が大和にヘッドロックを駆けて絡んで来る。
「――――お前、今日の決闘で負けたんだってな?」
「うぐ・・・・・・直にカリは返すさ」
「落ち込んでないなら、いいんだよ」
「・・・・・・落ち込んでたら、イジメるつもりだったんじゃないの?」
大和が確信的に聞くと、百代は素直に認める。
「バレたか。けどそれだけじゃないんだよな~」
「そ、それだけじゃない?ぐ、ぐるしぃ(小声)」
「このままじゃ、私が衛宮に負けたみたいになるんだよ!」
『?』
今もヘッドロックを掛けられている大和や、風間ファミリーの中では現時点で一番親交のある京を含めた百代以外の全員が、首を傾げる。
「お前たちは知らないだろうが、2-Sの葵冬馬とその仲良し2人の小雪と準の3人とって、私と大和と同じように舎弟化契約を結んだわけじゃないが、衛宮は頼れる兄的存在なんだよ」
「そ、それは初耳だな」
「私もそれは知らなかった。けどモモ先輩はよく知ってたね?」
「私が今まで衛宮にテスト前で助けてもらった時、何度か来てるの見たときあったからな。それで聞いたら、私たちのとこの金曜集会じゃないが、何時もかは知らんが週末になると衛宮の所に止まりに来てるんだとさ」
『泊まり?』
大和達は百代の説明した一部に反応する。
「――――ああ。京は衛宮の家に行った事あるだろうから知ってるだろうが、アイツの家は一階建てたがそれなりに広くてな。客室含めて部屋も結構在って、あの3人用の私室もあるらしい」
「それはすごいね」
「まぁ、川神院ほど広くは無いけどな」
「それは当たり前だと思うよ?大富豪クラスでないと、川神院クラスの寺の敷地面積には勝てないからね」
川神院をまるで自分のモノのように言う百代に対して、クッキーが現実的意見で答えた。
「けどモモ先輩。それにしては機嫌良いね?」
「まぁな♪――――明日の昼前に、元武道四天王である衛宮の姉的存在である藤村大河さんと真剣勝負では無いが、稽古名目で戦う約束してるんだ!」
『なるほど』
百代の機嫌の良さに納得する面々。
百代は、強者との戦闘欲を風間ファミリーのメンバーと遊ぶことである程度抑えられているが、やはり一番の解消方法は強者との戦いである。
そんな百代が此処まで上機嫌ななのは、事前にそう言う強者との戦う約束日が迫っている時に限られていた。あくまでも今のところはだが。
こうして最近では非常に珍しく、百代は上機嫌なまま夜を過ごした。
-Interlude-
士郎は一度帰って夕食を作り終えてから、スカサハの感知結界の報告にあった地点である親不孝通りの裏路地に来ていた。
本来であれば、原初のルーンを扱える大魔術師であるスカサハが張った感知結界故に感知した場合即座にスカサハ自信が感じるのだが、とある理由により反応がデカければ直に感知できるが、小さければ小さい程士郎への報告が遅れると言う事態になっているのだ。
なので今回の様に反応が小さければ、その日の内に調査が出来ないでいるのだった。
「・・・・・・・・・何もないな」
此処で感知結界に反応してから丸一日経過している事もあり、魔力痕がまるでなかった。
仕方がないとはいえ、士郎はため息をつく。
この間から後手に回っているこの最近の反応に、一刻も早く決着をつけなければと言う長年戦場に身を置いていた経験則による感が告げていたのだ。
そうしないと、この川神の地に悲劇が舞い降りるかもしれないと。
衛宮士郎は守るモノのために、今日も魔術使いとして奔走するのだった。
後書き
士郎の家の敷地や部屋の数などは、原作よりも広いし多いです。
運命の夜まで、あと三日。
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