ガンダムビルドファイターズトライ ~高みを目指す流星群~
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01 「ガンプラが繋ぐ出会い」
次の日、俺は遅刻することなく流星学園に登校した。家に帰ってから愛機のメンテナンスやこれから出会うであろうファイター達のことを考えて寝るのが遅くなってしまったのだが、さすがに高校生活初日となる入学式から悪い意味で注目を浴びるような真似はしない。
他校と大差がないであろう堅苦しい雰囲気の入学式は無事に終わり、生徒達は自分のクラスに戻った。俺が今年1年間所属することになったのは1年Aクラス。男女は基本的に均等になるように分けれているだろうが、うちのクラスは少し女子の方が多い。
簡潔な自己紹介や明日からの日程についての説明などが終わると、うちの担任はやり切ったオーラを出して教室から出て行った。自己紹介で俺達が初めての生徒だと言っていたので無理もない。
「さてと……」
放課後を迎えた今、家に真っすぐ帰るも良し、デパートやカフェなどに寄り道するも良し。どのように行動するかは各人の自由だ。まあ大抵の人間は同じクラスの気になった人物に話しかけたり、前から付き合いのある者と部活動を見て回る。
――俺は知り合いがいないから1人で行動するつもりではあるが。
クラスの人間と交流しても良いのだが、割かしこのクラスはすでにグループが形成されているように思える。もちろん俺のようにグループに所属していない人間もそれなりにいるが、友人というのは気が付けば出来ているものだ。下手に普段しない行動に出ると、かえって悪い未来が起こりかねない。
「ねぇ、ちょっといい?」
席を立とうとした矢先、不意に誰かに声を掛けられた。意識を向けてみると、真っ先に制服の上からでもわかるほど立派に育っている胸が目に入ってしまい、反射的に視線を逸らす。彼女がほしいと高らかに叫ぶほど異性に飢えているわけではないが、俺も年頃の男ではあるのだ。
瞬間的に感情を整えながら意識を戻すと、そこには長い金髪の女性が立っていた。顔立ちやスタイルを見る限り、このクラスはおろか学校でも上位に入るであろう美貌の持ち主である。
これは余談になるが、俺は昔は今どきの女子高生的と言えばいいだろうか……まあそういう感じの異性は苦手だった。だがヨーロッパに行った経験もあってか、今では抵抗はなくなっている。
「えっと……確かコウガミさんだっけ?」
人の名前を覚えたりするのは得意な方ではないが、この子のことは覚えている。確かフルネームはコウガミ・アリサだったはず。
美人だから覚えたのかと言われたら否定もしないが、誰だって登校して教室に入った時から男子陣が思わず声を漏らしていれば印象深くもなるだろう。
「ナグモくん、あたしの名前覚えてくれたんだ」
「まあ君はこのクラスの中でも目立つ人物だから……そっちはよく俺の名前なんか覚えたね。大して印象に残るような自己紹介してないのに」
自己紹介なんて名前と1年間よろしくお願いします的な発言していない。ヨーロッパに行っていたことを言っていたのなら名前を覚えられたことも納得するが、いったい彼女はどうして俺の名前を覚えたのだろうか……。
「だからこそ余計に気になったのよ。ナグモくんって長身でスタイルも良いし、目を付けた女子は結構居るでしょうね。ちなみにあたしも結構ナグモくんは好みよ」
「は、はぁ……」
嬉しいことを言われているのだろうが、初対面の相手から言われても正直反応に困る。別に異性と話すことは問題ないが、異性と付き合った経験はゼロ。その場の流れでカッコいいだとか言われたことはあれど、唐突に口説かれるような真似はされたことがない。
それに俺が没頭してきたのはガンプラに関するものばかり。いくら世界的に人気があるとはいえ、男女比率でいえば男性の方が多いのだ。この手のタイプの関わり方は経験的に不足している。
「それは……どうも」
「まあ、だからってそれが理由で話しかけたわけじゃないけど。別に男に飢えたりしてないし」
だったらさっさと本題に入ってくれないだろうか。いくら放課後で人が減っているとはいえ、教室にまだ男子達が残っている。全員というわけではないが、嫉妬めいた感情を抱いていそうな連中は居るようだし、可能ならさっさと解放されたいのだが。
「ならすぐにでも本題に入ってもらえる?」
「何か急に反応が冷たくなってない?」
「あいにく青春に関する経験値は不足してるんでね」
初対面相手に直球で言うのもあれなので遠回しに言ったが、コウガミの表情を見る限りこちらの言いたいことを理解したらしい。にも関わらず、その直後に俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「お、おい何してる!?」
「何って経験不足なんでしょ? ならちょうどいいじゃない、あたしとこうして学校を見て回りましょ」
いやいやいや、百歩譲って一緒に学校を回るのはまだ良い。だが腕を組んで歩く意味はないだろう。
そもそも、俺達が会ったのは今日が初めてだぞ。というか、ずっと腕に柔らかくも弾力のある大きなものを感じるのは不味い。男としてはプラスの経験でも今後の学校生活や理性的なことを考えるとマイナスでしかないのだから。
「何でそうなるんだ。男には飢えてないんだろ?」
「ええ、男には飢えてないわ。ただ……あなたの持っているガンプラに興味があるだけ」
なるほど……そういうことか。
俺は今日を迎える前からガンプラバトル――通称GB部に入ることを決めていた。そのため、今日はかばんの他に愛機を入れた専用のケースも持ってきている。
入学前から入る部活動を決めている人間はそれなりに居る。最初のうちは仮入部期間ではあるが、初日からそれぞれ部活動に必要なものを持ってくる人間は居るだろう。持ってくる方法としてはバッグやケースと多種に渡るだろうが。
にも関わらず、コウガミは俺のケースをガンプラ専用だと断言した。このように言えるのは、十中八九ガンプラに関わっている人間だけだろう。故に彼女は俺と同じガンプラバトルを行う人間ということだ。
「俺に話しかけてきた理由は分かった。……が、別にここでこんな真似をしなくても後で顔を合わせることになったと思うんだが?」
「それはそうだけど、ひとりとか女の子だけで居ると男子に絡まれそうじゃない」
「だから俺を盾にするってか?」
「そういうこと」
笑みを浮かべながらウインクはあざとくもあるが、可愛いとも思えてしまうから性質が悪い。
本音を言えば、解放してもらいたいところではあるが……腕を組まれた時点でもう遅いとも言える。人生において諦めも肝心だと聞くし、下手に拒絶すれば余計に面倒なことになるかもしれない。ここは大人しくしておこう。
「はぁ……分かった、そっちの言うことに従おう。ただし、腕を組むのはやめてくれ」
「恋人繋ぎの方が良かった?」
「そういう意味で言ってるんじゃない。分かってるのにふざけるのはやめろ」
少し強めに言うと、さすがに引き際は弁えているのかコウガミはあっさりと離れた。先ほどまで感じていた感触が消えて残念……と正直に言えば心の隅で思ったものの、自分から距離を取れと言ったのだから表に出すわけにはいかない。
荷物を持った俺はコウガミと一緒に教室を出る。嫉妬めいた視線を向けていた者や恋愛に興味津々な表情をしていたクラスメイトが居たことを考えると、ひとりになると質問攻めに遭うかもしれない。考え方によってはコウガミと行動を共にしている方が安全になりそうだ。
「コウガミさんも自分のガンプラ持ってきてるんだな」
「そりゃあね、やるなら自分の愛機でやるのが1番だし」
「愛機?」
「何よその反応は。もしかして、そのへんの男に作らせてるとか思ったんじゃないでしょうね?」
思っていないといえば嘘になるが、単純にどのような機体を使うのだろうという興味もあるのだが。
「言っとくけど、ガンプラを他人に作らせたこととかないから」
「はいはい」
「ちょっと、本当に分かってる?」
今日会ったばかりの相手のことなんか名前くらいしか分かっていない。過去を知らないのだから本当に分かることなど不可能だ。まあこのような発言をすると相手の機嫌が悪くなるのは目に見えているので口にはしない。
適当にコウガミの相手をして歩いている内に視界に映る生徒の数は目に見えて減っていく。
いくら世間的に認知されているとはいえ、この学校はガンプラバトルの強豪校ではない。実際に行うことも簡潔に言ってしまえば、ガンプラを作ったりしてバトルさせるだけ。部室が校舎の隅の方に置かれるのは仕方がないと言える。
「……ん?」
部室前に差し掛かった時、前方にひとつの影は飛び込んできた。手に持たれているのはかばんとガンプラが入っているであろうケース。立ち姿はとても綺麗で、それだけでも人の目を惹きつける何かがある。
あの子は……。
脳裏によぎった考えは距離が縮まるにつれて確信に変わる。
短めに綺麗に整えられた黒髪に感情があまり見えないが整った顔立ち、抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な印象を受けるがそれなりに発育の進んだ体。間違いなく昨日デパートでバトルを行っていたセラヴィーを使うファイターだ。
まさか同じ学校だったとはな……リボンの色を見る限り俺と同じ新入生のようだし。
「……あなた達もガンプラバトル部に入るつもりなのですか?」
「まあそうなるわね。そういうあなたも?」
「はい」
他愛もない会話ではあるのだが、何だろうかこの妙な気まずさは。
あれか……コウガミと目の前に居る女生徒が真逆とも言えそうな感じだから何とも言い難い空気が発生しているのか。まあ初対面だからというのも理由ではあるだろうが……。
「それにしても……ずいぶんと部室静かね。というか、何であなた中に入ってなかったの?」
「それは入りたくても入れないからです。ここのガンプラバトル部は去年の3年生が引退してからは休部になっていたそうです。なので部室には鍵が掛かっています。まあ先ほど職員室に行ったので、もうすぐ顧問の先生が鍵を開けに来てくれるでしょう」
ガンプラバトルの名門として知られているわけじゃないから部員はそう多くないと思っていたが、まさか休部になっていたとはな。まあ公式戦には3人居れば出場できる。当日に欠員が出たりすると不味いが、日頃から部員集めを行わなくていいのは救いだな。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私はヒョウドウ・トウカと言います」
「あたしはコウガミ・アリサ、よろしくね」
「俺はナグモ・キョウスケ、よろしく」
「ナグモ……?」
「ん、俺に何か?」
「いえ……何でもありません」
何でもなさそうには見えなかったが……まあ無理に聞く必要もないだろう。強引に問い詰めたところで自分の首を自分で絞めて今後の学校生活を送りづらくするだけだ。
そう思っているうちに沈黙が流れ始める。ガンプラという共通の話題があるというのに、誰もそれで話そうとはしない。先ほどまで俺に話しかけていたコウガミすら黙っている。ヒョウドウのようなタイプは苦手なのか、はたまたもうすぐ顧問が来ると聞いたので騒がないようにしているのか……。
「……来られたみたいですね」
ヒョウドウの言葉に導かれるように振り返ると、顧問と思われる中年の先生が歩いてきていた。ただ個人的にその背後に居る男子生徒が気になる。勘ではあるが……面倒な展開になりそうな気がしてならない。
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