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銀河抗争史 統一への道

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イゼルローンを撃て

「ようやくか……」
 ポツリと呟くコリアンの前に帝国領と同盟領とを繋ぐイゼルローン回廊が広がっている。
 回廊に悠然と佇むイゼルローン要塞は宇宙暦767年に完成した帝国軍一大根拠地で、これまでにも帝国軍と同盟軍が抗争を繰り返した因縁深い所だ。
(今度は此方の番だ)
 同盟軍は敵の前進拠点を潰すべく第1、第4、第5、第8艦隊の4個艦隊を投入し4度目になるイゼルローン要塞攻撃を始めようとしていた。
 祖国の平和と独立を守る為だ。コリアンにとってはエル・ファシルの報復でもある。
(4の倍数に4繋がり、縁起が良いと司令部は言っていたけど、古代の地球では4は死に繋がると言うから当てにはならんな)
 コリアンの仕える艦隊司令官のアップルトン中将は気さくな人物で、単座式戦闘艇を使った指揮では同盟軍でも随一と言われている。
 アップルトン中将は、本気になれば帝国に対して国力で劣る同盟は艦隊決戦を避けるべきで宇宙空母、すなわちスパルタニアン母艦の集中運用で敵戦力を削るべきだと提唱している。
(大昔、地球に人類が居た頃の空母か)
 コリアンが士官学校の戦史教官だった事から、アップルトン中将に目をかけられた。
 士官食堂で食堂を取っていると会話をする機会があった。
「ミンチ中佐、君はウィリアム・ハルゼー大将を知ってるかね」
「確か、地球時代の海軍提督だったと覚えています」
 あまりにも古すぎる時代で資料も殆ど残っていないが、コリアンは戦史教官時代の記憶の断片から思い出す。
「ハルゼー提督は空母部隊を指揮して負け続けの祖国が立ち直る時間を稼いだんだ。そして海戦は戦艦時代が終わり飛行機の時代になった」
 アップルトン中将が、数世紀以上前の歴史を調べていた事に驚きを覚える。
「次は単座式戦闘艇の時代、閣下の持論ですね」
「そうだ。帝国軍相手にまともに戦おうとするのは間違いなんだ。統合作戦本部のお偉方は目先の艦隊を揃える事にしか興味を持っていない。相手と同じ土俵に上がるなんて消耗戦でしかないのにな」
 しかしこの魚は美味いな。そう言ってアリゲーターガーの肉を頬張るとアップルトン中将は濁った空気を切り替えた。

◆◇◆◇◆◇◆

「旗艦から攻撃命令です」
 オペレーターの言葉にアップルトン中将は単座式戦闘艇の発艦を命じた。
「ヒューズ少尉、お気をつけて」
 ウォーレン・ヒューズ少尉にとって今回が初陣だった。整備員に固い笑みを返すとスパルタニアンは発艦して行った。
 今回の作戦は単座式戦闘艇の大量投入による飽和攻撃で、要塞の航宙優勢を確保し陸戦隊を送り込み占領すると言う計画だった。費用効果から考えれば、単座式戦闘艇の撃墜に要塞主砲を使えば、その間に同盟軍の艦隊を要塞に近付ける事となる。
(これで駐留艦隊が出てくるならば撃滅する好機で、それはそれで良いのか)
 コリアンは攻撃開始前に訓示を行った総司令官を思い出す。
『死に急ぐ事は無い。生き残る為に足掻け』
 第4次イゼルローン要塞攻略作戦の指揮は、そう発言したラザール・ロボス大将が実施している。
(ロボス大将は、元帥昇進と宇宙艦隊司令長官の椅子を狙っていると噂されていたな)
 参謀長としてグリーンヒルが補佐しており、失点は限りなく少ない。今回の作戦で成果を上げれば元帥昇進の加速は間違いない。
(下の気持ちが分かる人に出世して貰いたいが、そう言う人事ばかりでもないか)
 士官学校を私物化し自らの軍閥を拡大しようとしていたシトレを思い出して気分はげんなりとした。
 シトレの対抗馬となれる実力と実績を兼ね揃えた人物がロボスだ。
 国防委員会の指示で行われる今回の派兵だがロボスは最後まで反対していた。将兵を政治の駒とは捉えず生き残らせようとしての行動だった。
(ロボス提督には頑張って貰いたい)

◆◇◆◇◆◇◆

 投げたボールは空気の抵抗で失速するまで飛び続ける。宇宙空間ではどうか。
 惰性の法則に従うなら力が加えられない限り飛び続ける。
「──と言う事で、有効射程外から射っても弾は飛びます」
 ロボスにアンドリュー・フォークと言う若い少尉が制圧射撃を提案してきた。
(若いのに痩せすぎだな。ちゃんと食ってるのか)
 フォークの容姿と顔色の悪さにロボスは他人事ながら心配をしてしまう。
「なるほど、わざわざ艦隊を要塞主砲の射程距離に入れる必要は無いか。参謀長はどう考える?」
「悪くは無いと思います」
 過去3回の攻撃は失敗しており今回も力押しだ。少しでも味方の損害を抑えられる策があるなら、そちらを選択する。
 作戦変更で混乱を与える事も無い。攻撃準備の制圧射撃が射程外から行われた。
 青い矢が同盟軍の艦隊から放たれ要塞の外壁を濁流となって襲った。いかに要塞がコーティングされていても綻びは生じる。その綻びを広げるのがスパルタニアンの任務だ。
 帝国軍は、混戦にもつれ込んで敵を接近させては要塞の火力を発揮できないと認識していた。そのため機動戦力の予備隊である駐留艦隊は温存する姿勢を見せた。
 同盟軍の接近を手ぐすね引いて待っていたが、蓋を開けてみれば要塞主砲の射界の外から艦砲射撃を浴びせられる事になった。
 生き残った砲台から打ち上げられる砲火を避けながらスパルタニアンはイゼルローン要塞に接近する。
(いける、いけるぞ!)
 ヒューズ少尉は興奮を覚えた。出撃前のブリーフィングで要塞主砲の有効火制宙域を説明されていたが、実際は味方の艦砲射撃で穴が空いている。
 穴に向かってヒューズは突き進んだ。
(俺が死んでも無駄にはならない)
 血の教訓が活かされるとヒューズはそう信じた。 
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