暗殺者
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2部分:第二章
第二章
「そろそろ私の出番だと思い参上しましたが」
「出番だと」
「左様です」
何か自信に満ちた笑みを浮かべて王に述べるのだった。
「一連の怪死についてお話されていますね」
「そうだが」
王は彼に顔を顰めさせたまま述べた。
「気付いていたのか」
「また一人亡くなりましたね」
彼は王の問いにまずは答えずに自分から問うてきた。
「ローズ卿が」
「その通りだ。惜しい人物を失くした」
「失くしたのではないでしょう」
しかし彼はそれをこう訂正するのであった。何か思わせぶりな笑みと共に。
「この場合は」
「では何だというのだ?」
「その前に先の父上の問いにお答えしましょう」
王を父と呼びながら答える。
「わしの問いにか」
「はい、気付いていました」
ここでようやくこう答えてみせた。
「ここまで事件が続くと。それも当然です」
「そうか。それで太子はどう考えるか」
王はここで彼を太子と呼んだ。彼の名はリチャードといいこの国の太子である。王の長男であり常に黒い服で身体を覆っている。その服装と冷徹で冷笑を好む性格と鋭利な頭脳から黒太子と呼ばれている。
「暗殺ですね」
彼は真剣な顔を作ってそう王に述べた。
「暗殺か」
「はい、黒幕もおおよそわかっております」
彼はそう父王に告げた。
「黒幕もか」
「これはあくまで憶測ですが」
そう前置きしたうえでの言葉であった。
「これまでその暗殺された者達は皆父上の股肱の臣ばかり」
「その通りだ」
それを聞いた王の顔が忌々しげに歪む。だからこそ彼も困っているのだ。自らの信頼する腹心達が次々と消えていっているのだから。
「しかも聖職者への課税問題に賛成しております」
「そうだ。それはわかっているのだな」
「左様です。それならばこの場合黒幕として考えられるのは」
「あちら側しかおらぬな」
王は暗い顔で述べた。
「一つしか」
「そういうことです。そしてその中でも」
「一人しかおらぬな」
「そうですな」
王と公爵の顔に同じ暗さが宿った。彼等の脳裏にある男の顔が浮かんだのである。
「ルネンツ枢機卿か」
「そう、あの御仁です」
太子もまた彼の名前に対して頷いた。ルネンツ枢機卿とはバチカンがこの国に遣わした枢機卿である。枢機卿と言えば聞こえはいいが謀略と奸智を好む人物でありそれにより今の地位に登りつけた男である。荒淫で贅沢を好みそれを手に入れる為にも多くの者を陥れてきている。残念なことにこの時のバチカンに多いタイプの男であった。これが聖職者の実態でもあったのだ。
「あの御仁ならば」
「充分過ぎる程考えられるな」
王は太子の言葉にあらためて頷いた。
「では。毒殺か」
「そう考えられます」
太子は王に対して答えた。
「いずれも身体がドス黒くなり事切れておりますので」
「そうだな。そういえばあの枢機卿の周りでは」
「こうした不審な死が実に多いのもまた事実です」
太子はそこを指摘する。
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