衛宮士郎の新たなる道
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第10話 秘密の昼食
前書き
前回と同じ日です。
昼休み。
持参していない生徒たちは、チャイムが鳴ると同時に学食に駆けて行く。
そして百代も普段は学食組なのだが、今日は違った。
今日の――――いや、最低でも暫くの間は学食組から離脱して、士郎の作った弁当で空腹を満たす事に成るだろう。
「~~~♪」
そんな百代は鼻歌を歌いながら、士郎特製弁当を鞄から引き出した。
明日からも暫くそうだが早朝の掃除で憂鬱なモノの、美味しく調理された料理には罪は無い。
その上、一切手を抜かずに作られた士郎の料理は、元々の食材が近隣のスーパーなどで購入されたモノであっても高級料理に劣るどころか勝るので、これから昼食は楽しみの一つになりそうだと思っている様だった。
それを隣の席である弓子が、珍しそうに覗き見る。
「百代が持参とは、珍しいで候」
「ああ、暫くの間は弁当になるだろうな」
そうして蓋を開けると、色とりどりの中身が広がっていた。
「これほど色彩鮮やかとは、川神院の料理人も意外と中々で候」
「以外って・・・・ユミ、川神院に如何いうイメージを持ってるんだ?」
不愉快とは言うワケでは無い、純粋な疑問だった。
「サラダは兎も角、肉料理が一切ない精進料理で候」
「確かに昔の寺とかはそんな感じだが、全て知ってる訳じゃ無いが今じゃ肉料理を取り入れてる所があるって言うのも聞いた事あるし、特に川神院は武の総本山だ。ある程度のバランスにも気には欠けてるだろうが、肉が食事にでないなんて力でなくなるぞ?」
「なるほど、時代錯誤過ぎていたで候」
友人の疑問を解消させた百代は、おかずである唐揚げに一つを口の中に入れて頬張る。
「ん~♪」
自分の弁当に舌鼓を打っている百代の隣では、弓子がまだ疑問に思っていた事があった。
(おかずの配置や色合いのバランスとの黄金律とか、衛宮君の弁当と似ている気がするんだけど、如何いう事かしら?)
そんな友人の考え事にも気づかず、百代は士郎の弁当を堪能していた。
-Interlude-
九鬼財閥と藤村組は未だに冷戦状態である。
九鬼財閥としては勿論、この問題を早期に解決したいのだが、藤村組が頑なな態度を続けている。
その為、この問題が起きた時、当時既に士郎を兄のように見ていた冬馬達――――特に冬馬は、英雄との関係の距離に如何したらいいのかと悩んだが、士郎の言葉で今も親友と言う距離感に変化はない。
しかし冬馬の悩みはそれで晴れなかった。
冬馬と英雄の距離感の変化の無さと引き換えに、士郎と距離が離れて行ってしまったのだ。
自分に無頓着な士郎はその事に直には気付けなかったが、冬馬達の反応を見て気づいてからの行動は速かった。
その日はたまたま屋上で休憩していた英雄に直訴して、ある程度の関係修復に努めた。
しかし世間体もある為、表向きは未だに冷戦状態を装い、裏では人の目を気にしながらも食事などをしていた。
そしてそれは今日も――――。
「ほう?と言う事は今朝から武神、川神百代に掃除させているのか」
「ああ、何時までも川神のわがままを許すわけにはいかないからな。そろそろ自戒と我慢を覚えてもらわないと被害が増える一方だ」
場所は川神学園屋上。
そこには、九鬼英雄と専属従者の忍足あずみ、冬馬達3人と士郎の合計6人がシートを広げた上で、昼食を取りながら話していた。
最初の話題は、今日の早朝から暫くの間、百代に掃除させる件だった。
因みに、本来であれば専属従者が主と食事をするなど規律上許されざることだが、士郎のとある発言で、英雄は楽しそうに笑った後に許したのだ。
そしてその発言とは――――。
『雇い雇われ関係と言っても、そこまでいけば家族同然だろ?従者部隊の掟とかもあるんだろうが、人目を憚ってるこんな時ぐらい、一緒に食事取っても罰は当たらないんじゃないか?』
この発言に英雄は楽しそうに笑ってから許可――――と言うよりも、言っても聞かないからあずみにその様に命令をしたのだ。
この事にあずみとしては複雑な気持ちだった。
(英雄様の横で食事の同席が許されるなど至極の極みだが、家族扱いって言うのがな~)
今までは良き主従関係で、今では家族同然としての見方も加わった訳だが、何方も異性としての関係へ発展しにくいのがネックである。
絶対ではないが、あずみから見た英雄に対する監察結果としては、その予想が多分を占めていた。
それともう一つ因みに、専属従者は基本的に主と四六時中一緒だ。その為、主の行動を優先するので如何しても食事は簡易的なモノや即席なモノが多くなってくる。
そして九鬼英雄のスケジュールは父親ほどでは無いが過密だ。
その為、人目を憚る屋上での秘密の昼食は気分的かつ突発的に発生するので、英雄のは兎も角あずみ自身の弁当までは用意されていなかった。何時もの簡易的かつ歩き・立ち食い可能なモノしかない。
そこで士郎が考えたのが、予備の弁当を一つ用意する事だった。
秘密裏に屋上での昼食を取る時は、あずみにこの弁当を配給する事に成っている。
(相変わらず衛宮士郎の弁当美味ぇな~)
この様に美味しく頂いていた。
そう言う意味ではあずみも既に、士郎に餌付けされていると言えるかもしれなかった。
閑話休題。
「だけど士郎さん。モモ先輩が我儘すぎるのは同意するっすけど、あんまり押さえつけ過ぎるとどこかで爆発しちゃうんじゃないんすか?」
「それについても取りあえずは心配いらない。掃除の結果にもよるが、一般的な小学生の月額の小遣いを毎朝給付させるつもりだ。金を貰えると有れば川神も手を抜かなくなるだろうし、昼食も浮かせるために、弁当も用意した。そこについても、おかずの一品二品程度も選択肢を与えてな」
「流石は士郎さんですね」
「飴と鞭は基本だもんね~」
士郎の抜かりなさに、冬馬と小雪は何時もの様に褒める。
「・・・話は変わるが、九鬼財閥に物騒なやり方で訪ねて来た女について聞きたいのだがな」
「アルバさんか。一応話には聞いていたが悪かったな、結構気分やで好戦的な所もある人なんだ」
士郎は本当に申し訳なさそうに謝る。
普段は大人らしい立ち振る舞いだが、何か閃くと凛やイリヤの様に悪乗り全快で悪戯に全力を駆ける所がしばしばあるからだ。
「そうか。それにしても相当な腕前なのだろう?回避に専念されていたとはいえ、あのヒュームの攻撃をすべて躱しきられたと聞いているのでな」
「ヒューム卿の実力を目の前で見た事が無いから何とも言えないが、間違いなく世界で一二を争うだろうな。少なくとも俺は勿論、川神よりも強いだろうさ」
「何とそこまでとはな。だがそうであるなら、ヒュームの攻撃を躱せたことにも説明が付くと言うモノだ」
英雄は士郎の言葉を疑うことなく感心する。
士郎は嘘もついていないが、英雄もある程度の読心術を身に着けているのか、疑わなかったのだ。
まぁ、それ以上に士郎への信頼が高いのもあるだろう。
そこへ、ユキが自分の弁当のおかずを士郎の口元へと近づける。
「シロ兄ぃ、あ~~ん!」
「はいはい、あーん」
ご機嫌な小雪のあ~んを普通に受け止める士郎。
一見すれば恋人同士がやる様な行動なのだが、普段から唐突に小雪は士郎にこの様にするので慣れている。
そして周りもこれが初めてでは無いので、普通に受け入れる。
しかし今日は普段と違っていた。
「そうだ!」
「如何した?」
何時もの様に突然閃く小雪。
「そう言えばあずみ、何時も疲れてるから僕があ~んしてあげるよ♪」
「また唐突な・・・」
「何時もの事ですけどね?」
「・・・・・・・・・・・・」
小雪の言葉に冬馬と準は何時もの様に呆れ気味だったが、英雄は小雪の言葉を受けて、何かを考え始めた。
士郎がそれに気づく。
「如何した?英雄」
「ふむ。あずみよ」
「ハ、ハイ。何でありましょうか?」
「あずみの事については我も日頃から考えていた事だが、そこでだ。我自らあ~んしてやろう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(バタッ)」
『!?』
あずみは、突如として目の前に迫って来たあまりの幸福感に当てられて、意識を保っていられずに気絶した。しかも口元は幸福感に当てられた証拠として、だらしなくにやけていたと言う。
「あずみ、如何したのだあずみよっ!?」
「あずみが気絶したー!」
「あずみさん!?」
心配する周りのメンバーの気持ちをよそに、あずみは昼休み終了前のの予鈴のチャイムが鳴るまで気絶し続けていたと言う。
-Interlude-
夜。
親不孝通りのある裏路地に、全く人気の失せた場所があった――――いや、いかなる力が作用しているのか、無理矢理できていた。
そこに、魔術や高い霊感を持たぬ者には不可視なる具象奇体が発生していた。
『おのれ・・・おのれっ!我が・・・・・・の呼び水に我を使うなど、万死に値する!』
発生時から憤りを抑えられない“何か”だったが、次第に自分の意思とは関係なく操られ始める。
『グッ・・・・・・い、意識が・・・保て・・・ぬ・・・・・・』
しかも丁度いいところに――――と言うワケでは無いのだろう、それなりの野生と風格を纏った少年が現れた。
「クソッ、衛宮士郎の奴!俺が居ない隙を狙って食材を入れに来るとは・・・・・・。今度こそ押し倒してやろうと思ってたのによっ!!」
士郎が日曜日に行った板垣家で会わなかった長男、板垣竜兵である。
因みに、数年前に親不孝通りで遭遇した冬馬との出会いを機に、ホモに目覚めてしまったのだ。
その理由から、中世的な顔はしていないが、士郎を標的としてロックオンしている。
何でも普段は穏やかなのに、時折キリッとしたギャップに惹かれたのだとか。
会うたんびに、のされている訳だが。
閑話休題。
そこで1人愚痴っていた竜兵だが、やっと周囲の異変に気付いた。
「何だ此処?何時もは誰かしらいんのに、誰もいねえじゃねぇか・・・・・・ん?」
そして魔術や高い霊感は持たないが、野性的過ぎる本能が警告を出しているのか、自分の身に得体の知らない危険さが迫っているのを感じ取る。
「何かしらねぇが、やべぇな!」
しかしその野性的直観も、視えるモノからすれば手遅れだった。
竜兵本人は見えないモノの、四方の通路を幽鬼体――――つまりゴーストに囲まれていた。
そして―――。
「ぅぅおおおぁああぉおおああああ!!」
親不孝通りを束ねる不良の王の悲鳴が、虚空に響いた。
しかし、この声を聞いたものは誰も居なかった。
後書き
運命の夜まで、あと四日。
竜兵死んでませんよ?
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