RSリベリオン・セイヴァ―
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SIDESTORY「ラルフ・ヴィンセクト」&外伝の資料設定
前書き
↓ラルフ君
ええ……前回はうちのラルフがナタル姉さんに大変失礼なことを致しました。※後に修正しました
しかし、そんな彼も過去はとても悲運な過去を背負っている青年でもあります。
今回は、そんなラルフの過去と、シャルとの関係を書いたラルフSIDEの話をします。
それと、「あとがき」のへんに現在作成中の外伝のタイトルとストーリー設定、キャラクター図などを張ったりした資料もあります。
僕の名はラルフ・ヴィンセクト。後のRS装着者の「筆頭」と呼ばれる人間だ。
……しかし、この作品を読んでいくうちに僕が度の過ぎるほどISの女性に殺意と敵意を持ちすぎていると思うよね? 早い話、やり過ぎってところかな?
そんな僕だけど、どうしてこのような人間になったのか、その秘密を「彼女」との生活の中で語らせてあげよう……
*
降りしきる雨の中、路地には大勢のスーツ姿の男女が傘をさして行き交っている。こんな雨の日など、出歩く子供なんていやしないと思われがちだ。しかし、そんな雨の日でも、路地のあまり目立たない片隅に一人の子供がいたのだ。その子供からして性別は男の子……だと思う。
何故見ただけで疑問を持つのか、それは少年が男の子とは思えない姿、「ワンピース」の格好で路上の片隅に蹲っていたからである。
「……」
ただ黙って、雨の寒さに震える少年は、こうなった経緯を回想する。
『やだ……やめてよ!?』
『離してぇ……乱暴なことはやめて!!』
『女の子の服なんて嫌だよ……痛っ!』
女装をさせられて、断られば殴られる。そんな少年は、それ特有の趣味を持った女性客に抱かれることをさせられていたのだ。
いろんな女性客が居て、自分のことを「ママ」か「お姉ちゃん」などと意味も分からないまま呼ばなくてはならない。時には呼ばずにいると、暴行を受ける時もある。
女尊男卑という時代が到来してからというもの、働く女性が急増していき、それに伴い女性社会が拡大していくにつれて、女性も男性のように性欲を求めるようになった。
こうしたことから女性専用の風俗店が次第に多くなり、好みの美男子を抱きにキャリアウーマンらは次々に訪れに来た。
しかし、それでも中には児童ポルノを無視してショタコン思考を持つ女性も少なからず存在している。そんな彼女らをターゲットに、貧乏な家から出た幼い少年たちが性奴隷のように女性たちに抱かれる日々を送っていた。中には、連れてかれて強制的に女性客に犯される少年達も少なくはなかった。
そして今、この路地の隅に立つラルフという少年は、その後者である。彼の母親は水商売をしていた人間で、とある強引な男性客との間に出来てしまった子供であった。
だが、母親はそんなラルフに母性を持って接しようとはせず、逆に彼をゴミのように扱い、虐待した。それから、しばらくしてラルフは母親に闇市場で売られてしまう。10歳になったばかりの彼を買ったのは、ショタコン好きの女性客に抱かせて稼がせる売春業を営む女であった。
特に、女装をした少年を好む女性客が多く、ラルフは次々にワンピースやミニスカートを着せられては脱がされ、そして成すがままに体を汚されていった。
心身ともに病みつつある彼は、今日もスーツ姿で帰る女性を引っかけて抱いてもらわなくてはならない。
そうでもしなくては、怖い女店長に暴行を振るわれる。
「あら? どうしたの? お嬢……もしかして、坊や?」
すると、そこには中年の女性がこちらへ歩み寄ってきた。しかし、ラルフから発せられた言葉は、彼女に衝撃を与えた。
「おばさん……僕を、買って?」
「!?」
その一言が、彼女の心を突き動かしたのである。
「どうして、こんなところで女の子の格好をしているの?」
「お仕事だから……売春のお姉さんにお金を渡さないと叩かれるから……」
女性は、ラルフの返答から、この少年がどのような経緯でこのようなことになったのかを理解し、そして肩掛けを濡れる少年に覆いかぶすと、ラルフを優しく抱きしめた。
「まぁ……かわいそうに? おばちゃんのお家へいらっしゃい?」
「……」
ラルフは、言われるがままにこの女性、ジェーンの元へついて行った。どうせ、家で犯されるのだろうと思っていたが、そうではなかった。家では温かい部屋で暖かい食事と、温かい愛情をラルフへ与え続けたのである。
こうして、ラルフはヴィンセクト家の人間となった。しかし……どんなに彼へ愛情を注いでも、やはりジェーン以外の女性に対する憎しみは消えることはなかった。毎晩、女装をされては女性に犯される悪夢を見続けては苦しみだすこともあった。
ジェーンや、彼女の夫のアラン(ラルフの司令官)にから愛を育まれるなか、心の底ではずっと孤独に生き続けてきた。
やがて、16歳になった彼はRSの存在に気付き、世のISの女性たちに復讐できることに希望を持ち、彼は自らアランに装着者の志願を言った。
それからというもの、成人を向かえた彼はRSランスロットを駆り、多くのISの女性やターゲットを殺し続けた。その功績によって、いつしか彼は筆頭と呼ばれる分類に入り、そして世界を飛び回りながら暗躍を続けた。
後に、IS学園でデュノア社から来たシャルルというターゲットと出会う。だが、彼女はシャルロット・デュノアという少女だということにすぐ気づいた。当時、女装をしながら売春をしていた少年時代の影響から、彼の感は鋭く的中したったのだ。
そうして、彼女を強引に問い詰めて白状させることに成功し、ランスロットの刃をシャルロットへ向けようとした。
女が男装するということが、自分の過去と重なり、比較し、そして激しい怒りを感じた。自分は嘗ての幼い頃、女装されて女に抱かれつづけたという忌まわしい悲運を背負っているというのに、目の前で覚悟なしに男装したシャルロットに激しい憎悪を抱いたのである。
だが、そんなところで義父のアランが養子にすると言いだしたので、ラルフは二人を裏切ることはできずに、仕方なくシャルロットを迎えることになった。
しかし、自分の唯一心を許せる憩いの場へISの女性が踏みこんでくることにラルフはとてつもない怒りを覚えた。
いつしかこの家から追い出してやる! そんな野望を抱きながら、彼女と生活を共にすることになったのだ……
*
――どうやったら、あのビッチを追いだすことができる……?
あの福音事件も無事に解決し、夏休みに入ったシャルロットは、ラルフの自宅へ戻ってきた。この夏休みの間、新たな両親ともいえるアランとジェーンのために家事を手伝いにきたのだ。
台所でジェーンと共に鼻歌を口ずさみながらエプロン越しに料理を手伝っているシャルロットを食卓から振り向くラルフ。
「何だ? ラルフ、シャルロットのことが気になるのか?」
と、アランが尋ねる。
「別に……」
不機嫌に答えるラルフ。
――やれやれ、まだISの女性を憎んでいるのか?
アランは彼が装着者へ志願することを聞いたときから、ISと女性へ憎しみを持っていることを薄々感じていた。
「おじ様、ラルフさん、御朝食が出来上がりました!」
シャルロットが、ジェーンと共にニコニコと食事を運んでくる。
「おう! 良い匂いだ……しかし、いい加減私らのことは『お父さん』、『お母さん』と呼んでくれても構わんよ? むしろ、そう呼んでおくれ?」
「え、でも……」
二人の優しい老夫婦がここまで尽くしてくれるから、彼女も遠慮してしまう。
「今は無理に言わせないでもいいんじゃないか? 時期に彼女が自然に呼ぶようになるよ?」
と、適当な口調でラルフが言う。
「これ、ラルフ……気にせんでおくれ? 彼はいつもこうだから……」
「は、はい……」
しかし、シャルロットはそんなラルフが気にかかり、彼の表情をそっと覗いた。
「……!」
しかし、ラルフはフンとそっぷを向く。
――やっぱり私、嫌われてるのかな……?
苦笑いを浮かべる彼女は、ジェーンの隣に座って朝食を取った。
その後、ラルフはアランと共に司令部へ向かった。ちなみに、シャルロットが来た彼らの自宅もまた本部にある。これでも彼女はリベリオンズの人間として暮らしているのだ。
「珍しいじゃないか? ラルフ。 お前が、私と共に職場へ顔を出すなんて?」
本来、リベリオンズは任務が来なければ大抵自宅で待機している。
「それよりも指令、転属書類はどこにあります?」
「転属書類? 何だ、どうするつもりだね?」
「ちょっと気になった場所がありまして……」
「ほほう……?」
と、アランはラルフをニヤニヤしながら宥めた。
「な、何ですか……?」
「君の転属は私が決めることだ。よって、書類は全て私の手元にある」
と、アランは意地悪そうに彼に書類の束を見せた。
「あ……」
いかにもラルフは欲しそうな顔をしているが、それを彼には渡さずに……全てシュレッターへかけてしまった。
「あ、あぁ……!」
ラルフが駆け寄るも既に書類は紙くずになっていた。
「その書類で何をしようとしたかは大抵予想が付くよ。君が移転したいのか、それともシャルロットを移転させたいのか……大体後者だろうけど?」
「……」
「ラルフ……」
アランは、真顔になってラルフの両肩を掴んだ。
「どうして、あの子に辛く当たるんだ? 彼女が初めて私たちの家に来た時からお前は常にあの子を憎んでいただろ?」
ラルフの行動は全てアランにお見通しであった。
「彼女だけは、他の女性とは違う。お前と同じようにISや女尊男卑の社会によって人生を狂わされた被害者の一人なんだぞ?」
「……」
しかし、ラルフは黙った。自分の過去と比べればあんな奴の過去なんてどうということはないと。
「だから? 俺は、何を言われ様とも``アレ``だけは認めません……」
ラルフは不機嫌に彼に背を向けて出て行った。
――まったく……とんだ息子だ。ああ見えて、本当は良い子なんだがな?
アランは深いため息をつくはめになる。
「……?」
嫌な気分のまま、自宅へ戻ったラルフは、食卓から漂う美味そうな甘い香りが彼の鼻先をくすぐった。
「おお……」
食卓のテーブルには焼きたての丸いアップルパイが置かれていた。
「アップルパイだ……!」
彼は、こう見えてアップルパイが大好物である。三度の飯よりもパイ、それがラルフの趣味だ。
「……!」
キョロキョロと周りを見渡して、誰も見ていないことを確認すると、彼はパイの一つを切り取って齧りついた。
「お、これ美味いよ? いつもジェーン母さんが作るのよりも格段に味が濃いしジューシーだ!」
彼は、それをペロリと頬張ると、誘惑に負けてもう一つと、二つ目を手に取った……
「こら、お行儀悪いわよ?」
と、そこでジェーンとシャルロットが出てきた。
「げっ……」
「あら、ラルフ? もう帰ってきたの?」
ジェーンが首を傾げた。
「あ、ああ……ところでこのパイ、誰が作ったの?」
いつもジェーンのパイを食べなれている彼は、彼女のパイの味を良く知っていた。だから、ジェーンが作ったパイではないことぐらいわかっている。
「そのパイはね? シャルロットが焼いたのよ?」
「……っ!?」
とっさに、ラルフは口の中のパイを吐き出そうとした。しかし、
「残さず食べなさい? さもなければお昼ご飯抜きよ?」
「……」
ジェーンは、普段はとても優しい母性溢れる女性だが、一時キレるとラルフさえも震えあがる怖さを秘めている。しかし、この事実は愛妻家のアランだけには内緒にしている。
「……」
仕方なく、ラルフはジェーン怖さに手に持った二つ目のパイを残さずに食べた。しかし、悔しいがこのパイはとても美味かった。
「そうだ、今からお茶にするところなの! ラルフもシャルロットのパイをもっと食べたいでしょ? お茶にしない?」
「い、いや……僕はこれからまた出かけるから……!」
と、それだけ言い残すとラルフは急ぎ足で出て行った。
「……どうして、シャルロットが好きになれないのかしら?」
困るジェーンにシャルルットは苦笑いする。
「あの、私は別に気にしていませんから……?」
「そうはいかないわ? あの子には、シャルロットと仲良くしてもらわないと。家族なんだから?」
「おば様……」
「お母さんよ? 遠慮はいらないわ?」
ジェーンの温かいまなざしがシャルロットを見つめた。
「はい……お母様」
「くそ……! どうしてだよ?」
気分が乗らない。要塞の居住地にある公園のベンチに座る彼はシャルロットのことで頭を痛めていた。
――ああ……どうにかして、アレを追いだす手立てはないか?
ジェーンが彼女を守っているようだから、下手に手を出すことはできない。アランも彼女の味方につくだろう……
――何か良い案はないか……?
しかし、シャルロットはジェーンとアランに守られている。その時点から不可能に近い。いったいどうすれば……?
「……」
結局のところ今の彼には公園のベンチで途方句に暮れるしかなかった。
「はぁ……」
丁度昼時、腹もすいてきたころだし彼はため息をつきながら家への道を歩き始めるが、あのシャルロットと昼食をとると思うと嫌になる。しかし、昼を抜くと後からジェーンが心配してくる。彼女もラルフがISの女性を最も憎んでいることを知っているため、シャルロットに関してはやや神経質になっており、シャルロット絡みになるとキレてしまうかもしれない。
その後は、しぶしぶと家に帰ってシャルロットから目をそらしながら食事をとった。
「ラルフさん?」
「……?」
シャルロットが恐る恐る彼に声をかける。ラルフも、ジェーンを気にしながら無視せずに顔を向けた。
「なに……?」
「その……おかず、私が作ったんですけど、お口に合いましたか?」
「……うまいよ?」
「本当! ありがとうございます」
「……」
そのとき、ラルフは一瞬彼女の瞳を見た。その目が、ラルフに何かを思わせたのである。
――コイツ、昔の俺と同じ目をしている……?
認めたくはない。きっと気のせいだと思う。しかし、どうしても彼女の瞳が彼の頭から離れなかった。
人間というものは、口では誤魔化せても目つきだけは誤魔化せないのだ……
そして、そんな彼女もラルフの瞳をふと見つめていた。
*
翌日、今日のラルフはいつもの居住地の公園ではなく、地上のある公園のベンチに座っていた。昨日のように案を考えるのではなく、シャルロットと居る生活が嫌だから、出来るだけ遠いあ場所で一日を過ごそうと思っていた。
「ああ……早く時間が過ぎないかな~?」
頭上の空を及ぶ雲を宥めても時間だけはゆっくりと過ぎて行く。
ずっとこのこの場所にいたって何も始まらない。暇つぶしにゲーセンなり出向いてみるか?
「……あ、ラルフさん?」
「……?」
すると、彼の元へ元気よく駆け寄ってくるシャルロットの姿が見えた。
「何の用だよ?」
ラルフは、ぶっきら棒に言う。
「その……ラルフさんと、お話がしたくて」
「僕は君と話したくはない」
「でも! これから私もラルフさんのところでお世話になることですし、その……家族というか……」
「家族だぁ……?」
突然立ち上がったラルフ。シャルロットのその一言が、彼の堪忍袋の緒を破裂寸前にさせた。
「僕は、ISの女であるお前を家族として認めたやったつもりはない! それ以前に、平然と男装して学園に潜入し、それどころか、その薄汚い手で僕のランスロットを盗んだ。そんな女を家族と呼べるのか?」
「……じゃあ、どうして弥生さんには親切にするの?」
シャルロットは、気になる別の問を彼に投げた。
「……」
しかし、ラルフはそれに返す言葉が途端に浮かんでこなかった。
「ジェーンお母様にも優しいじゃないですか?」
「うるさい!」
と、ラルフはシャルルロットの胸倉をつかんだ。
「じゃあ聞くが、そういうお前も何で『代表候補生』にまで上り詰めたんだ? それは、お前の心のどこかにISによって生まれる地位と名誉を求める欲があったからだろ?」
「ちがうよ!? ISの適性が強いからって、無理やり……従わなかったら……」
「どちらにせよ、僕はお前を許すことはできない……」
そう言ってラルフは彼女から背を向けようとした……が。
「……?」
ふと、落ち込むシャルロットの背後から黒いスーツを着た謎の大男が歩み寄ってきた。そして、男はラルフの視線に気付くと、すぐさま懐からナイフを取り出してシャルロットの背を襲おうとした。
「……あぶね!?」
刹那。ラルフは反射的に彼女の背へ片腕を伸ばし、その腕が彼女を襲う男のナイフへ突き刺さって彼女の楯となった。
「っ!?」
ラルフは、思っても居なかったありえない行動に出てしまったとハッとする。
「チッ……!」
大男は、邪魔が入ったとすぐにその場から逃げ去った。
後から周囲から悲鳴が聞こえ、一時騒ぎになり、しばらくすると警察が駆けつけもくる。
「ラルフさん……その、大丈夫?」
「……」
しかし、ラルフはいつまでも指された腕を見つめながら、面倒になる前にとっととその場から立ち去った。
その夜、ラルフは包帯を巻いた片腕を見つめながら、ただジッとベッドに座り続けていた。
「……」
――何故、俺はあのときアレを……シャルロットを庇ったんだ? あんな奴、いつもの俺なら見殺しにすることぐらい平気でやれた。だが、何故か体が勝手に動いてしまった……
自分でも理解できなかった。しかし、唯一確かなのはシャルロットが嘗ての自分と重なってしまうという認めたくない推測である。
「認めてたまるかってんだ……!」
しかし、頑固にも彼はシャルロットを否定し続けた。
だが、そんな彼のいる自室のドアからノックが聞こえた。
「ラルフさん、入ってもいいですか?」
また、シャルロットの声が聞こえてきた。
「……入りな」
しかし、ラルフはそんなシャルロットを自室へ入れた。そのまま黙り続けて居留守をつかおうともしたが、やはり彼女の過去について少なからず気になった。
「お邪魔するね? ラルフさん……」
「何か用?」
「そ、その……先ほどジェーンお母様からラルフさんのことでお話したの」
「母さんにチクったのか?」
「ち、違うよ! そのね? ラルフさんの、小さい頃の過去を聞かせてもらったの……」
「……!?」
その瞬間、ラルフは完全に自我を失い、怒りしか見えなくなった。
彼は、つかさずシャルロットを平手打ちして床に倒した。
「テメェ……どうしてそれを聞いた!?」
「だって……ラルフさんのことを、もっと知りたかったから」
「余計なお節介だ! お前みたいなビッチは、二度と口がきけないようにしてやるよ!?」
怒りに身を任せたラルフは、へこたれる彼女の腕をつかみ上げて、ベッドへ突き倒した。
「好きでもない奴に無理やり抱かれる恐怖というものを、お前にも味合わせてやる!!」
ラルフは、両手で彼女の身に纏う衣類をビリビリと破り捨てていく。そして、ボロボロになったシャツと、下着だけの彼女の肌が露となる。
「や、やめて……!」
涙ぐんで顔を赤くする彼女は両肩を抱いて怯えだす。しかし、ラルフの興奮は止まらない。
「うるせぇ! とっとと後ろを向け!?」
嫌がる彼女を強引に掴んで、腰を向けさせた。すると……
「!?」
彼女の背には、ラルフさえも目を見開くほどの光景が飛び込んでくる。
それは、彼女の背には鞭で叩き付けられたような傷が何カ所も、その白い肌に刻みこまれている。
「いや……見ないで!?」
泣いてしまうシャルロットに、ラルフはそっと彼女から両手を放した。そして、問う。
「何だよ……何だよ! この傷は!?」
「……正妻から受けた傷だよ?」
「正妻? お前……」
「私は……父親の不倫相手との間に生まれた娘なの。でも、お母さんは病気で死んじゃって、そのあと、私にISの適正能力高く出たことから、ISの開発業者の社長を務める父親の元へ引き取られたの」
「……金儲けのために、今更父親気取りということか?」
「父親は、私に愛情なんてものは与えなかった。すべて売り上げのためだけに私を道具として扱った。そして、なによりひどかったのは……正妻による虐待だった。そりゃあ、不倫相手の子供と聞いたら、誰だって恨みたくなるよね? 私は、毎晩のように正妻に呼び出されては鞭で体を叩かれ続けた。ストレス解消のオモチャになってね?」
「その傷、臨海学校の時どうやって誤魔化していた?」
ふいにラルフが尋ねた。すると、彼女はブラの中から、指の腹に収まるほどの小さい円状の器具を取り出して、ラルフに見せた。
「これはね? マイクロ並みに薄いホログラム映像を出して体を誤魔化すことができるの」
そういうことか、いままで臨海学校で海水浴や温泉の時も肌のホログラムを身包ませて隠していたということか……
「……」
すると、ラルフはクローゼットからタオルケットを取り出して、それを彼女の頭上へ落とした。
「やる気が失せた。出てってくれ……」
「ラルフさん……」
ベッドへ座りこむ、ラルフは複雑な心境に苦しみだす。
「早く出てけ……!」
「……」
シャルロットは黙って頷き、そのまま彼の部屋を後にした。
「まぁ……シャルロット?」
ラルフの自室から出ると、そこにはジェーンが彼女のその姿を見て目を丸くさせる。
「どうしたの……!?」
「ごめんなさい、ジェーンお母様……私、やっぱりラルフさんにあの事を……」
「そう……いいえ、謝るのは私の方よ? 私があの子の話をしなければよかったのに……」
「お母様のせいではありません。私が、ラルフさんと仲良くできたらと思ってやったことですから」
「……」
ジェーンは、ラルフに対して激怒することはなかった。それは、自分が彼女にラルフの過去を話してしまったことに責任を持ったのである。
「大丈夫ですお母さん。ラルフさんは私に何もしませんでした。ただ……私の背中の傷だけは見られてしまいましたけど」
「きっと、ラルフもいつか必ずわかってくれると思うわ? 私も、協力するわね」
*
翌朝、昨日のことはまるでなかったかのようにラルフは食卓に居た。
「……」
シャルロットは、時折ラルフを見た。しかし、彼は食器の上の朝食しか見つめず、静かにフォークとナイフを動かし続けていた。しかし、いつもの彼とは違って何となく元気のない雰囲気であった。
無言のまま食事は終わり、シャルロットはジェーンと台所で片づけをし、アランは司令部へと向かった。
時期に、彼女も片づけを終えてテーブルに座るラルフを見た。
――ラルフさん……
そして、彼女は勇気を振り絞って彼の前に歩み寄る。
「ねぇ? ラルフさん」
「……?」
そんなシャルロットの声に、ラルフは顔を上げる。
「なに……?」
「ええっと……その、映画のチケット貰ったの! 今日、一緒に見に行かない?」
と、彼女はラルフの前にチケットを置いた。それを貰ってくれるのか、それとも手に取って目の前で破り捨てるのだろうか、どちらにせよ彼女の緊張は止まらない。
だが、以外にもラルフは手に取ると、それを大事そうに懐へしまい込んだ。
「……考えておく」
「あ、ありがとう! 上映時間は、今日の三時までだからね? 場所はパリのエリア7だよ?」
彼女は、ラルフが来てくれる前提で喜んでくれた。しかし、ラルフは相変わらず無表情である。
「私! 先に行って待ってるね?」
とまで言って、彼女は早々に家を出て転送ルームへ走って行った。
「……」
そんな彼女をラルフはため息で見送る。
「あら、さっきシャルロットが喜んで外へ飛び出していったけど、何かあったの?」
と、ジェーンがエプロンをはずして微笑んできた。
「さぁ……」
と、ラルフは返す。ちなみに、ジェーンがシャルロットに映画のチケットを渡したのは言うまでもない……
「でも……大丈夫かしら? 一人で行ったりして?」
「え?」
「だって……昨日、不審者が襲い掛かってきたんでしょ?」
「どうせ、もう警察に逮捕されてるさ? 指紋も検出されたって聞くし……」
「そう? でも、不安だわ?」
「まさか……」
ラルフは、席から立ちあがると、いつものように要塞居住地にある公園へ向かって行った。
数時間後、シャルロットは映画館の前でラルフを待ち続けた。しかし、一向に彼は現れない。やはり、彼は来てくれないのかと半ば諦めかけていた。
――ラルフさん、遅いなぁ~?
チケットを懐に入れてくれたが、しかし彼が「考えておく」とだけ言っただけで、完全に行くと言ったわけではなかった。
「……」
しかし、上映時間ギリギリになっても彼は来てくれなかった。そして、自分は改めて嫌われているのだと思い知らされたのである。
こうしていると、実に惨めに思い今にも泣きそうになった。しかし、そんな彼女の背後をある男が呼びかけてくる。
「シャルロット・ヴィンセクトさんでいらっしゃいますね?」
振り返ると、そこにはサングラスをした黒いスーツの男が一人立っていた。
「あ、はい……」
「リベリオンズの者です。実はラルフ筆頭から伝言を預かっておりまして、とりあえず御同行を願います……」
「ラルフさんから?」
「重要なお知らせがあるため、直ぐに会いたいと……」
「わ、わかりました!」
シャルロットは、すぐにも返答してこの使者と共に黒い車へ乗った。
「あ、あの……ラルフさんに重要な任務でも入ったんですか?」
車で移動する最中、彼女はその使者に尋ねた。
「詳しいことは聞かされておりませんが、何やら筆頭は重要な事を伝えたいと仰っておられました」
「……」
何だろうと、シャルロットはこのリベリオンズの使者と共にある場所へと向かった。
しかし、そこはある廃病院であった。こんなところでラルフと待ち合わせるなんていくらなんでも違和感を持った。
「あの……本当に、ここで何ですか?」
「ええ……そうですとも、ここがお前の死に場所だ!」
すると、黒スーツの男はサングラスを捨てて、己の姿を彼女に見せた。
「あ、あなたは……」
シャルロットは怯えが声で男を見た。
「父親の顔を忘れたのか? シャルロット……」
そう、その男こそシャルロットの実父であった。そして、彼の背後から数人のスーツ姿の男たちと、一人の女性も現れた。
「久しぶりね? 泥棒猫!」
その女性は、正妻であった。
「ど、どうして……?」
話によると、デュノア社はリベリオンズと闇政府に会社を買収されたと聞くが、実父と正妻の行方は知らず、蒸発したという噂もたった。
「あのあと、お前の仲間が私達の会社を奪い、そして我々はIS委員会の小間使いにされるはめになった。この屈辱は何ものにも言い表せないほどの恥だった。もし、あのときお前がしくじりさえしなければ、私達は何もかも上手くいっていた。今頃こうしてIS委員会の女共の下で下僕のように扱き使われるようなことはなかった。それなのに、キサマが……キサマがぁ……!」
と、実父は彼女へ拳銃を向けだした。
「……!?」
シャルロットは自分への殺意に震えだした。
「死ね……この厄病者め!」
しかし、引き金を引こうとした途端、銃声が響かない。
「!?」
銃にロックが掛っていたため、解除するのを忘れていたのだ。その隙にシャルロットは必死に逃げ出した。
「くぅ……追え! 追うんだ!?」
「何をやってるの! 早く捕まえなさい!?」
「……!!」
シャルロットは、必死で廃墟の病棟内を逃げ回った。息を切らせながら階段を駆け上り、そして気が付いたら屋上へと追い込まれてしまった。
「クックック……今度こそは逃がさんぞ?」
銃を向ける実父に、シャルロットは両目を瞑った。
――私、ここで死ぬんだ……なら、せめてラルフさんと……
「さぁ、死ねぇ!」
そして、実父の握る銃の引き金がゆっくりと引かれるのだが……
「ぐぅ……!?」
突如、背後に居た数人の部下たちが次々に倒れていった。
「な、何だ! 何が起きた!?」
実父と正妻は部下たちへ振り向くが、そこには全員横たわった部下たちの中に、一人青年がこちらを見ていた。
「ら、ラルフさん!?」
泣きじゃくっていた彼女の顔が一瞬で笑顔に変わる。
「ISの女共よりも、テメ―らのほうがよっぽどカスだぜ?」
「こ、この小僧……まさか!?」
実父はラルフの顔に見覚えがあった。当時、自分の会社を襲撃し、大勢のIS操縦者を大量殺害した悪魔のような若者を……
「これで終わりだ! デュノアのクソ社長!!」
ラルフは、思い拳で実父をぶん殴った。本当は殺してやりたいところだが、本当に殺してしまうと、あとあとうるさいらしい。
「た、助けて……!」
気絶した実父を前に腰を抜かして涙ぐむ正妻がいた。
「……!」
しかし、ラルフはそんな正妻が、かつて自分を傷つけたあの売春の女と面影が重なる。
「るせ……うるせぇ!!」
そして、実父同様に正妻の顔面を思い切り殴った。
「ラルフさん……!」
一安心したところで、シャルロットはつかさずラルフの胸へ飛び込んで泣き始めた。
「バカ、くっつくな……シャツが汚れんだろ?」
「だって……だってぇ……!」
一行に泣き止まないシャルロットに、ラルフはまたため息をついた。
「ぐ、うぅ……キサマァ!!」
しかし、気絶し方に思えた実父はゆっくりと目を覚ますと、手元に転がる銃を再び握りだして、ラルフの背へ銃口を向けたのだ!
「ら、ラルフさん!?」
そんなシャルロットは銃を向ける実父に気付いた。
「死ねぇ!?」
「危ないっ!!」
そして、一発の銃声が響いた。
「シャルロット……!?」
ラルフは、自分を庇って盾になったシャルロットを見た。
「!?」
つかさずラルフはランスロットの片方を実父へ投げ飛ばし、銃を握る彼の片腕を切り落とした。
実父は悲鳴を上げる。
「う、うぅ……」
銃弾を受け、唸りながら苦しむシャルロットを、ラルフはゆっくりと地面へ寝かせた。
「……何故、僕を庇った?」
ラルフが、まず最初に彼女へ発したのがその問いだった。
「はは……何でだろうね? 好き、だからかな?」
微笑みながら彼女は弱々しい声で答えた。
「俺はお前に辛くあったんだぞ? お前を憎んでいたんだぞ?」
「それでも……私、ラルフさんのことが、一番気になっていたの……最初は怖そうだった。けど、双剣で戦うあなたを見て……凄くカッコよくて……憧れて……」
「喋るな。傷に障る」
しかし、それでも彼女は喋り続けた。自分が思うことを、憧れの人物へ。
「私もいつか……ラルフさんみたいに……」
「もういい……!」
「こんな……カッコいい人と、友達に慣れたら……」
「もういい! 喋るな!!」
ラルフは両耳を押え、苦しむように叫んだ。
しかし、そんな彼の目からは細い涙が頬を伝っていた。
「私のために……泣いてくれるの?」
「そんな……! 俺は……」
今まで、彼はISの女性を憎むことを糧に生きてきた。しかし、今のシャルロットのために涙を流してしまえば、今まで生きてきた理由が無意味なりそうで怖く、しかし涙を止めようとしても止まらずに次々に頬を伝い続ける。そして複雑な心境に苦しみだした。
その後、デュノア達は警察によって連行され、殺人未遂で逮捕された。
また、銃弾を受けたシャルロットは急所が外れ、命に別条はなく無事に日常生活に復帰した。
*
数日後、シャルロットは今日もジェーンと共に朝食を作っていた。そして、食卓には新聞を読みながらこちらへ微笑むアランと、いつものように静かなラルフが座っている。
ヴィンセクト家の朝食は、ラルフ以外は会話を交わしながら食事がすすむ。食事を終えて、アランは司令部へ、そしてラルフはテーブルからテレビを見ていた。
時期にシャルロットも手伝いを終えてジェーンと共に洗濯を干しに行こうとしたが、そんな彼女をラルフが後ろから呼び止めた。
「シャルロット……」
「ラルフさん?」
「……これ、やる」
と、ラルフは彼女に一枚のチケットを渡した。それは、自分たちが見に行く予定だった映画のチケットである。
「こ、これ……!」
「今週の休み、付き合ってやってもいいぞ……」
「ラルフさん!」
シャルロットは、思いっきりラルフに抱き付いた。
「こら! 離れろ!?」
「やっぱり、ラルフさんは優しいね?」
「か、勘違いするなよ!? 僕は……この映画が見たかっただけだ!!」
「じゃあ? どうして私を誘ったのかな~?」
ニヤニヤと問う彼女を振り払ったラルフは、照れくさくなってすぐにソッポを向いた。
「う、うるさいぞ! シャル!!」
「え、シャル?」
「お前のあだ名だ。一々シャルロットじゃ面倒だからな……」
「シャルか……うん! いいよ? すっごくいいよ!?」
「……」
溜息をつくラルフは、そんな彼女に背を向けて、今日もあの居住地の公園へ向かおうとした……が、その足は止まった。
――今日だけは、一緒に居てやるか?
彼は、隣ではしゃぐシャルロットの方へ振り向いた。
ISの女は大嫌いだ。おそらく、その考えは今後も続くと思う。
……けど、彼女だけは……シャルだけは……
僕は、そんなシャルを見ながら溜息と共に……僅かな笑みを見せた。
後書き
タイトル公開その名も
「RSリベリオン・サーヴァー外伝SHADOW」
~あらすじ~
IS学園の生徒篠ノ之箒は、夏休みを利用してメガロポリスのショッピングエリアへ向かう途中で道に迷い、危険区域エリア14へ迷い込んでしまった。
IS操縦者と聞いて、野盗たちに襲われそうになったところを一人の男に助けられる。
男の名は、
八文字玄弖……
登場人物
八文儀玄弖
危険区域エリア14に住むジャンク屋の青年。
天然ボケが目立つおっちょこちょいな男で、欲望には正直。しかしあるときには正義感の強い行動をとったり、情に流されたりもする。エリア14の住人だが、意外な過去をもっている。
あるガラクタ置場に捨てられていた謎のRS「飛影」を手にしてしまう。
篠ノ
之箒
ショッピングエリアへ向かう途中、運悪くエリア14へ迷い込んでしまったIS学園の生徒。
ツンデレで、玄弖を困らせている。
五反田弾
嘗てはある食堂の息子だったが、女尊男卑の風習に嫌気がさして家出をし、エリア14で刺激ある生活を送っている。現在はジャンク屋の大剛とつるんで行動している。
克真大剛
玄弖のジャンク仲間の青年。鈍感で大食漢だが、気は優しく穏やかな面もある。常日頃、弾と共にガラクタ山へ出向いている。
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