少年少女
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第六話
重苦しい音をたてながら、古城の扉が開いた。
俺たちは警戒しながら中へと歩を進める。外から見た感じでは、この城は三階建てのようだ。広さも一般的な学校程度のようだ。やはり、城というより屋敷と言った方がしっくりくる。
「古い、埃っぽい感じの臭いだな。SAOはこういうところまでリアルに作られているよなぁ。」
キリトは顔をしかめる。この臭い、俺は不思議と懐かしい気持ちになるな。恐らく、実家が代々続く古めかしい剣術道場を開いているせいだろう。道場の方は汗やら何やらで丁度こんな感じの臭いがする。
「私はこの臭い、割りと嫌いじゃないわね。何て言うか、図書館みたい、ていうか・・・」
何故だろうか、シノンの言葉に少し嬉しさを感じる。
「図書館か、俺はあんまり行かなかったからなぁ。」
「俺も図書館には縁が無かったな。」
本は読むが、自宅に大量の本が有ったため、図書館には殆ど行っていなかった。
関係の無い会話で気を紛らわしながら進んでいく。
「む、死霊か?」
通路の道中、死霊とおぼしき人影を見つける。意味も無いように彷徨いている様から、恐らくは死霊だろう。
「あいつは・・・」
「知っているのか?キリト。」
「あぁ・・・ディアベル。第一層のボス攻略の指揮を取ったプレイヤーさ。残念ながら、ボスに・・・。」
あぁ、確か、初めての攻略会議の召集をしていたプレイヤーがそんな名前だった気がする。俺は一層のボス攻略には参加していないから、最期は分からないが・・・
「どうするの?」
倒すか避けるか、その判断はディアベルと面識のあったキリトに委ねる。
「できれば戦いたくないが、ここを通らないと先へは進めなさそうだし・・・」
迷っている様子だな。
「よし、キリトはここにいろ。俺とシノンで戦おう。」
俺はそう提案する。極力、知った顔とは戦わせたくない。
「いや、俺も戦うよ。このゲームをクリアする。皆を現実世界に帰す事をディアベルから託されているんだ。」
「そうか・・・なら、行くぞ!」
そう言うと、俺たちは一気に死霊に駆け寄る。
「がぁああぁあ!」
人から発せられるとは思えない音で鳴き、こちらに対して構える死霊。
だが、遅い。
「はぁっ!」
三連撃のソードスキル、『緋扇』を叩き込む。死霊はダメージを受けて仰け反った。
「ナイス。一気に決めるわ。」
隙だらけの死霊に弓のソードスキル、『ヘイルバレット』を打ち込むシノン。俺とシノンはここ二ヶ月、ずっとパーティーを組んで戦っていた為、いつものように連携で攻める。
「があ・・・あ・・・」
死霊は成す術なく倒れ、四散する。もう少し手こずるかと思ったが、意外と手応えがないな。これではただの嫌がらせにしか思えん。本当に悪趣味、というか非人道的過ぎる。
「案外、簡単だったわね。」
シノンも拍子抜けしたような表情だ。
「お前ら、息ピッタリだな。俺の出る幕が、全く無かったよ。」
少し遅れてキリトが来る。
「ここしばらく組んで戦っているからな。自然と連携も上手くなろうってもんだ。」
キリトの言葉に何故か照れ、それを隠す為に背を向けて応える。
「でも、正直助かったよ。偽物だと分かっていても、やっぱり少し戸惑ってしまった。」
頭では分かっていても・・・ってやつだな。覚悟はしていても、やはり辛いだろう。
「覚悟はしてきたつもりでも、実際に対峙したら・・・情けないな。」
俯き、低い声で言うキリト。
「情けないと思う事はない。人として、その反応は間違いじゃない。躊躇なく斬れる奴の方が異常なのだと俺は思うぞ。」
「私もそう思う。キリトもジンガも、知っている顔の死霊が出たら言って。私が倒すわ。」
頼もしいな。そろそろ一人立ちしてしまいそうだな・・・
「あぁ、ありがとう。頼らせてもらうよ。」
「助かる。その時は頼んだぞ。」
口々に礼を言う俺たち。まぁ、俺の知り合いは皆まだ生存しているはずだから、心配は無いが。
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