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肥えるもの

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第七章

「捏造が暴かれてだ」
「それで、ですね」
「攻撃されている」
「マスコミの嘘ってやつがばれる様になったってことですね」
「ばれてだ」
 そしてとだ、上司はさらに言った。
「そこから拡散される様になった」
「そこが違いますね」
「これまでは違ったな」
「はい、嘘がばれても」
「その声は小さかった」
 嘘を指摘するその声がだ、保守系言論人達による。
「幾ら総合誌や週刊誌で言ってもテレビには勝てなかった」
「テレビは圧倒的でしたからね」
「だから嘘も言えたしだ」
「好き勝手出来ましたね」
「視聴者を騙せた」
 それも彼等の思うままにだ。
「それが出来たがな」
「それでもですね」
「インターネットが生まれた」
 それで、というのだ。
「動画サイトもな」
「それで、ですね」
「もう嘘が検証されて拡散される」
「声が大きくなったってことですね」
「だからだ」
 それで、というのだった。
「俺達の番組も検証されてだ」
「攻撃されてですね」
 事実の指摘をだ、鳥越は忌々しげにこう言った。
「それで」
「こうなった」
「打ち切りですか」
「ああ、それで御前との仕事もな」
 上司は苦い声で鳥越に告げた。
「もうこれで終わりだ」
「それで、ですか」
「そうだ、この番組でだ」
「参りましたね、うちの事務呂も」
「他のタレントの仕事もか」
「野球関連で馬鹿言った奴がいるんですが」
 鳥越の事務所に所属しているタレントがだ。
「そいつも攻撃を受けていまして」
「仕事がないか」
「どのタレントもスケジュールが真っ白です」
 そうした状況に陥っているというのだ。
「もう」
「そうか、辛いな」
「もう引退ですか」
「引退どころで済むか」
 かなり真剣にだ、彼は鳥越に尋ねた。
「これからは」
「いや、そう言われると」
「御前もテレビ局も全部が吊るし上げ食らってるからな」
「それがずっと続きますか」
「そうなるぞ、これからはな」
「この前まで年五億貰って好きなもの飲んで食って」
 鳥越はここでも忌々しい口調で言った。
「それが、ですね」
「ああ、もうな」
「今は昔のことですね」
「マスコミだけが肥え太っていられた時代は終わった」
 上司は苦々しい顔だった、鳥越が忌々しい顔なのに対して。
「これからは俺達もだ」
「嘘が暴かれて拡散されて」
「その責任がとことんまで言われるぞ」
「そうなっていくんですね」
「まさにな」
 こう言うのだった、そして。
 番組は打ち切りになりだ、鳥越はテレビの前から姿を消した。しかし彼を糾弾する声は止まらず事務所は潰れて外出も出来なくなってだ。
 家の中でだ、一人酒を飲み言うのだった。
「昔はよかったな」
 安いアルコール度が強いだけの酒を飲みつつの言葉だ、最早その顔に傲慢さはなく身体も痩せていた。
 その痩せた身体で飲むだけだった、彼の他は誰もおらず荒れ果てた家の中で。


肥えるもの   完


                        2015・9・15 
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