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スーパー架神大戦ダンゲロス

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一、弩躙苦罵亞

 深夜の番長小屋に、番長グループのメンバーが揃っていた。
 といっても番長グループ所属の魔人が全ているわけではない。
 いるのはハルマゲドンに参戦する意を表明した者達だけだ。円陣を組んで、それぞれ胡座をかいたり行儀よく体育座りや正座をしていたりと様々だが、床に座っていた。
 先ずは大銀河超一郎。言わずと知れた希望崎学園の現番長である。
 その右隣に座るのは勿論副番の幼女魔人夜魔口悪夢。
 さらにその右隣は三毛(みけ)ランジェロ。美術部部長にして経験豊富な番長グループの古株の一人。手芸部五人相手を同時に相手して打ち倒したこともある実力者だ。
 その隣は黒鈴(くろすず)。小柄な美少女だがこれでもランジェロ同様最上級生の古株だ。
 その隣は永遠なる(エターナル)LOVE子。ピンク髪が特徴的な美少女だが、隣に座るカヲルや黒鈴に邪な視線を向けている。
 熊田カヲルは顔から一切の表情が消えている。理由はすぐにわかるだろう。
 カヲルの隣に座るのは李前途(りーぜんと)。名前と髪型が一致している珍しい男である。密かにリーゼントの妖精などと呼ばれているのは本人の知るところか否か。
 李前途の右隣に座っているのもまた異様な男だ。仮面ライダー禅僧という名の通り、仮面ライダーがコスチュームの上から禅僧の僧衣を着たようにしか見えない。
 そんな謎の禅僧の右隣、大銀河から見て左隣に座るのは一年生の一之瀬蒼也。一年生で能力も決して強いとは言えないが、ハルマゲドンへの意欲に燃えており、戦意は充分だ。もっとも、今はとある理由から顔に同様と冷や汗が浮かんでいる。
 そして、その円陣を離れた場所から見ているのは一人のパンクロッカー。
 そう、まなぶである。
 夜魔口が済ませてきた用事。それがまなぶを連れてくることだった、と大銀河には説明してある。
 ちなみに大銀河以外のメンバーはまなぶが転校生であることを知らされている。大銀河には彼の能力を弱体化させないためにあえて教えなかったのだ。
 まなぶも一応依頼と報酬は大切なのか、はたまた番長グループが生徒会(ヒップホップ)と敵対しているからなのか、暴れたりはしなかった。
 だが、そのまなぶからある要望を飲んでくれ、といわれたのだ。
 なんでもまなぶの能力を高めるために必要なことらしいが―――。

「おいまなぶ」
「どうしたクソッタレー!」
「ほんとにこんなものを呑まなければいけないのか?」
「当たり前だクソッタレー!」

 夜魔口がそう言うのも無理はない。
 まなぶの要望とは、ドリンクバーにより生成された暗黒飲料にまなぶの持つ安酒を加えた、もはや飲み物と認識することすら不可能な兵器を飲むことだったのだ。
 別に飲み干す必要はないが、ただ、吐くまで飲み続けてほしいとのことだ。
 簡単に言えば、ゲロを吐いてほしいのである。
 そんなことを言われたら男子小学生カヲルは顔面蒼白で死んだ目をするだろうし、経験の浅い一年生の一之瀬が動揺するのは当たり前だろう。
 二人ほどではないにしろ、他の面々も顔が引きつったり青くなったりしている。仮面ライダー禅僧は頭を覆う仮面のお陰で表情がわからないが、さっきから何も言えてないので内心は焦ってみるのだろう。
 唯一平気そうなのは永遠なるLOVE子だけだ。本人曰く、演劇部の女子高生達と股間にゲロを吐き合って愛し合ったことがあるらしい。
 あの大銀河ですら、手に握られたグラスの中のドリンクバー産の飲料型兵器を見て、すごく葛藤していた。
「なあパンクロッカー、本当にこれでお前の能力が十全に活かされて番長グループが何倍も優位になるんだな!?」
「そうだぜ!」
 珍しくクソッタレー!を言わない。恐らく彼なりに本当だと伝えたかったのだろう。
「‥‥‥わかった」
「「「夜魔口さん!?」」」
 本気で驚愕の表情を浮かべる面々に夜魔口は笑いかけた。
「番長グループの勝利のためだ―――」
 そしてグラスを煽る。
 直後、夜魔口の表情が大きく崩れ、そのまま顔を下に向けて体の中から競り上がってくる吐瀉物を思いっきりぶちまけた。
「おええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」
 その小さな体のどこに入っていたのかわからないほどのゲロを吐いて、吐いて、吐く。
 やがて最後の一滴を出しきった夜魔口はバタリと倒れ、大銀河がその体を受け止めた。
「夜魔口!? しっかりしろ夜魔口!」
「ち、ちょ‥‥‥い‥‥‥ち、ろ―――」
「気を確かに持て! 今すぐに水を―――」
「あとは、ま‥‥か、せ‥‥‥」
「夜魔口!? 夜魔口ーーーーー!」
 字面からは想像もつかない大惨事が引き起こされていた。いくら百戦錬磨の夜魔口といえど、流石に幼女には酷だったのだ。彼女は気を失ってしまっている。
 しかし、これを見た大銀河が決意を固めた。夜魔口がこんなになるまでやったのだ。ここで尻込みしていれば男が廃る。
「だ、大銀河さん!?」
 今まで死んだ目をして黙っているだけだったカヲルが叫ぶ。大銀河がグラスを手に取ったのだ。
「お前らは、無理するなよ―――」
 そして一気に飲み干した。
「オゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」
 夜魔口に劣らないほどの量のゲロを吐く大銀河。そして夜魔口と同じように倒れた!
「大銀河さーーん!」
「超一郎‥‥! なんてことを‥‥!」
「超一郎‥‥お前のことは忘れねえぜ‥‥!」
「‥‥せめて夜魔口さんと一緒に、安らかに休んでください。番長」
「芸術的な最期でしたよ、超一郎‥‥‥‥」
 一之瀬が、黒鈴が、李前途が、カヲルが、ランジェロが、それぞれ大銀河を追悼する。もちろん、別に大銀河は死んだわけではない。
 次にグラスに手をつけたのは意外にも仮面ライダー禅僧。仮面の口の辺りがパカッと開き、そこに悪魔の飲み物を注ぎ―――。
「うげええええええええええええええええええええええええええええ!」
 吐いてぶっ倒れた。
「禅僧!」
「禅僧さん!」
「なんてこった‥‥禅寺で五年も修行した禅僧がやられちまうなんて‥‥」
「日蓮宗‥‥惜しい人を亡くしました‥‥」
 再度緊張感に包まれる番長グループ。死んだわけでもないのに葬式ムードになる。ランジェロに至っては宗派を間違えている。
「お、俺もやります‥‥!」
「じ、じゃあわたしも‥‥」
 小さく呟いた一之瀬と黒鈴を残りのメンバーが驚嘆の目で見る。
「お、おい―――」
「やめ―――」
 二人が止めようとしたがもう遅かった。
 一之瀬と黒鈴は大量のゲロを口から吐き、そして気絶した。
「オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
「――――――――――――――――――――――――」
 一之瀬に至っては口にした瞬間気絶し、ゲロを垂れ流す装置と化していた。窒息の危険があるため、慌ててランジェロと李前途が背中を叩いたり喉を開かせたりしてゲロを全て吐き出させる。
「ふう、これで窒息の危険はない」
「ああ。一之瀬のやつ、無茶しやがって‥‥」
 一息つこうとした二人の耳に少年の吐き声が聞こえてきた。
「おえ、おええええええええええええ! うっぷ、おええええうええええええ!! ご、ぶええええ‥‥」
 物凄く辛そうだ。今までで一番悲惨な悲鳴をあげている。LOVE子に介抱されてはいるが、カヲルの意識は無いように思えた。
「か、カヲルまで‥‥」
「小学生なのに‥‥」
 残ったのは三人。
 次に地獄を見るのは永遠なるLOVE子か。それとも三毛ランジェロか。はたまた李前途か。
 誰もが次にゲロを吐くのは唯一余裕の表情をしていたLOVE子だと思うだろう。
 しかし―――。
「なあ、三毛」
「わかってますよ。李さん」
 ランジェロと李前途は覚悟を決めた。幼女の夜魔口やショタのカヲル、番長の大銀河、一年生の一之瀬、理知的な黒鈴、謎めいた禅僧が勇気を出して挑んだのだ。自分達だけがやらずに終わるなんてあってはならない。
「やりましょう。見ててくださいまなぶさ―――」
 三毛は振り向いて転校生パンクロッカーまなぶを見たが、彼はとっくにゲロを吐いてぶっ倒れていた。今も吐き続けている。一体どのタイミングで飲んだのかわからないが、空気だったのは確かだ。
「逝くぞ!」
「ええ、逝きましょう!」
 二人が同時にグラスを煽る。
 そして仲良く同じタイミングでゲロを吐いた。
「オゲエエエエエエエエエエエエエエエええええええええええええええええエエエエエエエエエエエエエエええええええええ!!!!!!」
「おろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろろ!!!!!」
 そしてバタリと絶妙なタイミングで同時に倒れた。
 残されたLOVE子は仲がいいわね、と思いつつグラスを傾ける。
「PTAスレイヤ=サンも帰ってきたらやってもらわないとね」
 思い出したように呟いて中身を飲む。
 そして、吐いたのだった。 
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